最高の演奏を最高の環境で楽しめるハイレゾヘッドホンコンサートを体験
東京・青山6丁目のライブスポット「Future SEVEN」にて、日本で初めての開催となる観客がハイレゾヘッドホンを装着して楽しむライブコンサートが開催されました。観客がヘッドホンを使用するライブコンサートとしては、大滝詠一さんが1981年に開催したものなどが有名ですが、当時はミックス音源をFMの電波で飛ばして受信機にヘッドホンをつなげて聴くというスタイルでした。今回は、各席にTASCAMのハイレゾ対応ヘッドホンアンプが用意され、観客それぞれが愛用するヘッドホン、イヤホンを持参して体験するという企画です。

「Astell&Kern presents 石川綾子ハイレゾヘッドフォンコンサート powered by TASCAM 協力:FitEar」と銘打つこのコンサートは、ヴァイオリニスト石川綾子さん自身が2017年11月に行なった「ジャンルレスTHE BESTコンサートツアー」のハイレゾライブ音源(192khz/24bit)をもとに、ヴァイオリンのトラックを生演奏に置き換え、ヘッドホンを通じて楽しむという形式。

ミキシングはマイケル・ジャクソン や Boyz II Menなどのアーティストの楽曲にも携わったサウンドエンジニア、ニラジ・カジャンチ氏が担当されました。



生演奏の音を集音するマイクにはハイレゾ収音に対応する「Sony C100」、ステレオリボンマイク「Royer SF24」、真空管コンデンサーマイク「Neumann M269」を使用し、それぞれの集音特性や楽曲に適したソース選択、ミックスが行われました。



リスニング環境は、TASCAMのハイレゾ対応ヘッドホンアンプ「MH-8」に持参したカスタムイヤーモニターを考えていたものの、当日、春のヘッドホン祭2018では公開延期になっていた静電型ツイーター&フルレンジBAによるハイブリッド機「FitEar ESTユニバーサル」をお借りできたので、こちらで体験することにしました。



今回のコンサートは、石川綾子さんの「ジャンルレス THE BEST コンサートツアー」ブルーレイ/DVD発売記念ということで、この作品の収録曲から6曲が演奏されました。ミキシングされた音源をイヤホンで個々が体験するということは、一人一人が最適な音響環境でライブコンサートを楽しめるということになります。つまり、参加している誰もがベストポジションで聴いているのと同じことなのです。



ニラジ氏からは、「本日は30〜40人ほどが収容できるライブ会場ですが、コンサートホールで聴いているようなサウンドに仕上げました」と説明がありました。イヤホンを外すとヴァイオリンの生音しか聴こえないのですが、イヤホンをとおして聴くと伴奏音源とリアルの演奏が自然に融合し、コンサートホールで聴いているかのような感覚にとらわれます。

192khz/24bitのハイレゾ音源は、市販されている96kHz/24bitなどの音源とはまた違った印象。メリハリがあるとか高音質という印象よりはあまりに自然な聴こえに感じました。おそらく192khz/24bitのハイレゾ音源+「FitEar ESTユニバーサル」による印象なので他のイヤホン、ヘッドホンを使用していた人はまた異なる感想かと思います。同社のカスタムイヤーモニターは、楽器やボーカルなどそれぞれを明瞭に聞き分けたり、アタック、ヒットのレスポンスがよく聞こえる感じでモニター用途として極めて有用でしたが、「FitEar ESTユニバーサル」ではリスニングとして最適化されているように感じました。インピーダンスは高めなのでアンプのボリュームを大きめにして聴いたほうが本来の性能を発揮できたように思います。



コンサートを終えて思ったのは、ヘッドホンコンサートは、ライブコンサートにおける新しい形だということでした。一般的なコンサートのように会場が一体となって飛び跳ねたり自分も声をあげて演奏者と一緒に作り上げて行くのもとても良いコンサートだと思いますが、演奏をじっくり聞きたい、楽しみたいという人にとっては今回のようなコンサートはとても良い体験になります。

クラシックのコンサートでもパンフレットをいじる紙の音や咳払いなどで違和感を覚えることもありますが、イヤホン、ヘッドホンを使用するコンサートであれば座席位置や他人のノイズを気にすることなく演奏そのものに集中できるのではないでしょうか。演奏者のスタイルなどによってすべてのアーティストがヘッドホンコンサートを行うのがふさわしいとは思いませんが、時にはこのような演奏そのものに没頭できるコンサートがもっと気軽に体験できるようになると良いなと思った体験でした。