「べっぴんさん」95話。自分の人生の舵とりは自分でせなね

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連続テレビ小説「べっぴんさん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第17週「明日への旅」第95回 1月26日(木)放送より。 
脚本:渡辺千穂 演出:安達もじり


95話はこんな話


さくら(井頭愛海)は、すず(江波杏子)に「お母さんのこと、こういうひとやと決めつけへんほうがええで」「なんとなく生きてたら流されるだけやで」「自分の人生の舵とりは自分でせなね」などと助言される。

道に迷う若者たち


「自分の人生の舵とりは自分でせなね」というすず、さすがヨーソローのママ。ヨーソローとは操舵用語、「このまま直進せよ」の意味。さくらの進路も「ヨーソロー」と言われるようになるといいなと思う。
とりわけ印象的なのは、ひとのことを決めつけて、勝手にコミュニケーションを諦めないほうがいいという言葉。要は、自分が本当にやりたいことがあれば、どんな相手だって説得してみせる気概がもてるはずってこと。ひとのせいにせず、すべて“自分”で道を開くのだ。江波杏子に朝から喝を入れられた。

流されるように生きているといえば、西城(永瀬匡)。“思い描いていた道と違って、たんぼ道を歩いてる”(営業のため)ことがいやで、あっさり会社を辞めてしまう。
昭一(平岡祐太)が、自分たちの世代は、戦争を経験し、命がけの毎日で、食べ物、飲み物、着るもがあって、毎日風呂に入れる現代になんの不足があるのかというようなこと言う。だが西城にとってそんなの知ったこっちゃない。戦争経験者と未経験者の断絶である。

平岡裕太は、25日のよる「東京タラレバ娘」(日本テレビ)でかなりチャラいバンド系男子(当然、戦争を知らない世代)を演じていたため、26日のこの戦争体験者トークはギャップあり過ぎた。

明日は明日の風が吹く


86話でフランク永井の「有楽町で逢いましょう」を歌っていた武ちゃん(中島広稀)の歌が第二形態に進化した。今度は「歌:足立武」とテロップ付きで、石原裕次郎の「明日は明日の風が吹く」を歌った。うまいんだよなー。顔の似ている二朗(林遣都)と組んで歌手デビューしたらいいのでは。
たぶん、ふたりは、この時代、一世を風靡している石原裕次郎が好きに違いない。「太陽にほえろ」「西部警察」など大人気刑事ドラマに出演していた石原裕次郎。死後小樽に建った記念館が今年惜しまれつつ閉館するが、いまだに愛されている大スターだ。石原慎太郎の弟で伸晃、良純の叔父である彼は政治とは関係なく、1956(昭和31年)映画デビュー、1957(昭和32年)、「嵐を呼ぶ男」が大ヒット、翌年、「明日は明日の風が吹く」(武ちゃんが歌ったのがこの主題歌)が上映された。裕次郎は、神戸(須磨区)生まれで、お父さんのなまえは「潔」である。「べっぴんさん」スタッフは裕次郎をかなり意識しているに違いない。

笑い部分がシュール


武ちゃんの歌をフィーチャーが唐突過ぎたが、もうひとつ戸惑ったのは、男会がらみで、まだ辞める前の西城をうっかり飯に誘ってしまい、しまった、酒癖悪かったんだっけ、という顔になる勝二(田中要次)に、わおーん と犬の声がかぶるところ。
折につけ笑いが入るわけではなく、思い出したようにふと入ってくる「べっぴんさん」特有のペースは、くじ引きで当たりが出たみたいでだんだん楽しみになってきた。

今日の紀夫くん


西城が辞めて、タノシカナイがタノシカナになったとひとしきり盛り上がる男たち。紀夫くん(永山絢斗)が「楽しかな〜楽しかな〜」とはしゃいだあと、ものすごい苦い顔をする。よっぽど西城のことががっかりだったのか。そのとき、するめか何かをかじっていて、顔に力がますます入っているのが可笑しい。

主役のすみれは


中西(森優作)の絵に、そのひとの内面を見抜いたすみれ(芳根京子)は次に、さくらが漫画好きなことを発見する。すずの「こういうひとやと決めつけへんほうがええで」のように、すみれはここのところ、一見しただけじゃわからないいろいろな「女の一生」を噛み締めているところだ。

すみれは何かしている最中、ふと涙を流し、手でぬぐって顔がべしょべしょになってしまう。ザッツ泣きのシーンでないところではらはら泣いてしまうという描写はとてもいい。冒頭、栄輔と会ったときの、妙にぎこちない感じも。本来、栄輔を傷つけたのはすみれなのに、なぜか、小動物のようにものすごく警戒して見える。突然いなくなって10年以上音信不通だった栄輔が、キアリスやオライオンのライバルのようにして現れたのだから、真意がわからず不安なのも無理はないか。危ないナイトクラブに出入りしていることもいい印象がないのだろう。

それにしたって、さくらとの問題に関して「家族で乗り越えなね」と「家族」を強調するのは栄輔に対して配慮がなさすぎると思うのだが、気まずいとつい自分を守りたくなってしまうものなのかも。こういった一筋縄ではいかない複雑な人間の心を描いているところが見応えある。栄輔が、パンツのポケットに手を入れて話すのも、単にかっこつけてるだけじゃなく、本心を隠したいからのように見えてならない。
「べっぴんさん」、いまがメインディッシュな感じ。しばらくこれを味わって、〆とデザートに突入であろう。
(木俣冬)