決定「この野球マンガが現在進行形ですごい!」2017

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いつの時代も人気を誇る野球マンガにおいて、現在進行形で面白い作品は何なのか? 2016年度版に続いて2回目の開催。前回同様、野球マンガ評論家のツクイヨシヒサ、そして私、エキレビ・野球担当のオグマナオトで、今読むべき「この野球マンガがすごい2017」を選定していく。


『Dreams』はなぜ炎上したのか〜この1年の野球マンガ事情(1)


オグマ:連載中の作品の話をする前に、昨年1年間の野球マンガ事情を振り返りたいと思います。2016年、野球マンガにまつわる話題でもっともネットが荒れたのが、『Dreams』にまつわる話題でした。掲載誌である「マガジンSPECIAL」の休刊が決まったことで作品をぶん投げる展開に……ということでプチ炎上しました。

ツクイ:ツイートなんかを見ていて思うのは、おそらく騒いでいる人の多くは昔からの読者じゃないんだろうなぁ、と。あの試合展開がヒドイっていうんなら、今までの内容だってたいがいヒドイですから(笑)。

オグマ:僕もそう感じました。『Dreams』って本来そういう何でもアリな野球マンガでしょ、と。そもそも、問題が起きた麗峰大九龍高校との試合にしても、始まったときから「高校野球100年になかった試合・野球」というテーマで進んでいて、その流れに沿っているといえば沿っている。だから、雑誌の休刊が決まって作者のやる気がなくなってぶん投げた、というのは違うんじゃないかと。今までなかったト書きが連発されているのは不自然といえば不自然で、予定が早まった、というのはあるでしょうけど。


ツクイ:甲子園の決勝じゃなくて、準決勝だったところも、余計な憶測を加速させちゃいましたよね。真面目な話をすると、『Dreams』は主人公・久里武志を「高校野球の破壊者」として描いてきた作品なわけだから、最後に高野連とぶつかって存在を抹消される、というのはある意味、起こるべくして起こった帰結。それを「ふざけてる!」と批難するのは、たとえば『なんと孫六』で孫六が暴力ふるうのを「けしからん!」と怒っているようなもので、だって最初からそういうキャラだから、っていう。高野連と読者が騒げば騒ぐほど、じつは久里と作者の手のひらの上なんですよ。

オグマ:まあ、衝撃的な展開だったのは間違いないです。ちょうど、1月20日発売の「マガジンSPECIAL2月号」で『Dreams』も最終話。問題になった号以降、読んでない人も多いと思うので、“終わり方”まで含めて見納めておきたい作品です。なんだかんだいって、20年続いたわけですから。

2016年に終わってしまった作品たち〜この1年の野球マンガ事情(2)


オグマ:『Dreams』は年をまたいだわけですが、それ以外で、2016年に完結した作品というと、『錻力のアーチスト』(全14巻)、『BADBROS』(全3巻)、あと、コミックスはまだですが『野球部に花束を』(最終9巻が2月6日発売)も連載終了となりました。


ツクイ:1巻で終わってしまった「ジャンプ」の『バディストライク』も、忘れないであげてください(笑)。

オグマ:個人的には『野球部に花束を』の終了が本当に残念。これは僕のわがままな意見なんですけど、“野球部あるある”を、頂点から描く『バトルスタディーズ』。ボトムアップというか、普通の公立高校野球部の視点で描く『野球部に花束を』。このふたつの作品は、野球文化史的に同時代で並列してもっと続いて欲しかったなぁと。


ツクイ:“野球部あるある”自体は尽きないわけですから、長くユルく続けるという選択肢もあったと思うんですけどね。確かに、2年生になってからストーリー展開の限界みたいなものも漂わせていましたけど。

オグマ:もったいないといえば、『錻力のアーチスト』も、甲子園出場を決めてこれから、というところで。

ツクイ:キャラクターも出揃い、当初の敵も倒して、いよいよ作品としての魅力を増してきたところだったのに……本当に残念です。個人的には、定番野球マンガの一翼を担う作品として、長期連載して欲しかった。あとは『BADBROS』ですか。地下野球を題材にした作品でしたけど、僕がいいたことはたったひとつ! なぜ最終3巻だけが「電子書籍のみの発売」なのか、ということ。

オグマ:大手の秋田書店、しかも『週刊少年チャンピオン』で連載していた作品としては、異例ですよね。その一方で、頑に電子書籍化しない『ドカベン』もあって、それはそれでいかがなものかと思ったりもしますが。

ツクイ:これね、仮に1巻からすべて電子書籍のみの販売だったのなら、まだわかるんですよ。でも、1〜2巻は紙のコミックスを出しているのに、3巻だけ出さないっていうのが、ね。“少年誌”で連載されていたわけですから、なけなしのお小遣いを貯めて、紙のコミックスを1巻、2巻と揃えていた少年もいたはずでしょうに……。この「バッドブロス3巻どうなの!?」問題は、2016年でもっとも気になったことでした。

オグマ:こうして見ると、「チャンピオン」銘柄が次々と終わってますね。それだけ見切りが速いというか。『ドカベン』という終わらない作品で野球マンガ枠がひとつ埋まっている分、ほかは実験的になってしまうのかも。次から次に野球マンガを始めてくれるのは嬉しいことですが、難しい問題です。あとは、『ロクダイ』が休載中に、掲載誌(マガジンSPECIAL)の休刊が決まってしまって、このまま終わってしまうのかどうか!? これまた悩ましい。

ツクイ:東京六大学野球って、ものすごくいい狙い目だったと思うんですけどね。これは『Dreams』の問題とも通じますけど、近年のマンガ界は、長編すぎる作品と短命すぎる作品の差が極端すぎる。野球マンガは、特にその差が顕著な気がします。

左利き捕手に女子野球、そして神様〜この1年の野球マンガ事情(3)


オグマ:2016年のトレンドでいうと、左利き捕手がメインキャストという珍しい作品が、『MAJOR 2nd』、『群青にサイレン』と同時に2作品も登場しました。


ツクイ:推察するに、『バツ&テリー』の一文字輝に対するオマージュが作品の背景に…………ないですか。そうですか。

オグマ:ちなみに、『群青にサイレン』に関しては、サウスポーであることがちゃんとストーリーの軸のひとつになっていましたが、『MAJOR 2nd』の場合、ここまでまったくといっていいほどスルーされているのが気になります。


ツクイ:まあ、満田先生だけに、これから何かひとネタ噛ませてくれそうではありますよね。

オグマ:あとは、女子野球をテーマにした作品が一気に増えた印象です。『セーラーエース』、『球詠』、日本女子プロ野球リーグが公式サイトで連載している『花鈴のマウンド』。ただ、正直、面白いかというと……。


ツクイ:本格野球マンガとして描かれているものが、意外と少ないんですよね。であるならば、女子野球ならではのテーマにもっとスポットを当ててもいいような気も。“結婚と野球”とか、“出産と野球”とか。女性が野球と向き合う上で直面する問題って、あると思うんですよ。

オグマ:女性の本格野球マンガって、『鉄腕ガール』以降、出てないですよね。

ツクイ:薙刀の世界を描いた『あさひなぐ』みたいに、女性たちが競い合う本格スポーツマンガというのは、間違いなく成り立つはず。女子野球マンガのヒット作が増えれば、競技の普及にもつながるわけですから、今後さらに盛り上がっていって欲しいですね。

オグマ:ほかのトレンドとしては「野球の神様」でしょうか。ずばりテーマの『ヤキュガミ』に、『バトルスタディーズ』でも正岡子規を野球の神様のように描いて、抜群に可笑しかったです。


ツクイ:『バトルスタディーズ』の正岡子規に関しては、なきぼくろ先生の発想力がスゴすぎますよね。バッターボックスで「正岡さん!!」って(笑)。

オグマ:それと、リアル球界のトレンドといえば2016年は「広島」だったわけですが、野球マンガ界はその波に乗り切れなかったというか。『赤ファンのつぶやき』くらいでしょうか。カープがやっと優勝したのに、カープ女子を牽引してきた『球場ラヴァーズ』シリーズはすれ違うように終わっていたという。

ツクイ:歴代ヒロインが総出演する特別読み切り『球場ラヴァーズ 〜セ界制覇〜』が、「月刊ヤングキングアワーズGH12月号」に掲載されたものの、連載期間がズレてしまったのは残念でした。さらに『ドカベン』も、カープ戦が1年ズレていたという(笑)。

オグマ:ただまあ、石田先生が現在連載中の『野球+プラス!』もカープがテーマのひとつにはなっているわけで、その意味では、カープブームの牽引役でもあった石田敦子先生の執念が実った、ともいえます。

ツクイ:あとは「今年もドカベン終わらなかったよ」問題が残って……。

オグマ:終わりませんよ! それ、去年も話題に出してましたが、去年は「あと3年は終わりません」と答えたので、じゃああと2年。でも、集大成と銘打った「ドリームトーナメント編」も、いよいよ決勝戦を残すのみです。5年前の連載開始当初の予想通り、山田・岩鬼・里中・殿馬擁する「東京スーパースターズ」vs. 微笑&中西球道&真田一球のいる「京都ウォーリアーズ」という組み合わせ。まあ、決勝戦が最後、とは限らないんですけどね。

ツクイ:限らないんだ……。

決定「この野球マンガが現在進行形ですごい!」2017


オグマ:というわけで、2016年を振り返ったうえで、現在連載中の作品から「2017年の今、読むべき野球マンガ」を選定したいと思います。

◎1位『バトルスタディーズ』(なきぼくろ/講談社「モーニング」連載、既刊8巻)※ツクイ 2位(8pt)、オグマ 2位(8pt)=計16pt

【寸評】元PL球児という作者による、野球リテラシーの高さがあってこそ成り立つ野球描写の緻密さ(ツクイ)/従来の野球マンガにはなかったアングルからの描写が満載。PL野球部の遺伝子はここで継承される(オグマ)

◎2位『MAJOR 2nd』(満田拓也/小学館「週刊少年サンデー」連載、既刊7巻)※ツクイ 3位(5pt)、オグマ 1位(10pt)=計15pt

【寸評】『MAJOR』らしいカタルシスを残しつつ、世代はきっちり交代させていくマンガづくりの巧さ(ツクイ)/旧作ファンも喜ぶ仕掛けがあり、新たに読み始めた読者も楽しめる野球描写(オグマ)

◎3位『ヤキュガミ』(原作:クロマツテツロウ、画:次恒一/講談社「ヤングマガジン」連載、既刊2巻)※ツクイ 1位(10pt)、オグマ 圏外(0pt)=計10pt

【寸評】「野球の神様」というファンタジーに、「都立の強豪校」というリアルを融合。神様が思いきり理不尽で、エコ贔屓するところにグッとくる(ツクイ)

◎4位『ハートボール』(原秀則、脚本:風巻龍平/小学館「ビックコミック増刊号」連載、既刊1巻)※ツクイ 4位(3pt)、オグマ 4位(3pt)=計6pt


【寸評】スーツを着た若者と、ユニフォームを着た若者。両方をバランスよく描ききれる作家は、原先生しかいない(ツクイ)/今、出るべくして出たプロ野球ビジネス、球団経営について描いた作品(オグマ)

◎5位『群青にサイレン』(桃栗みかん/集英社「月刊YOU」連載、既刊3巻)※ツクイ 圏外(0pt)、オグマ 3位(5pt)=計5pt

【寸評】ここまで野球にこだわった作品を女性マンガ誌で描いているという驚き(オグマ)

◎次点『WILD PITCH!!!』(中原裕、原案協力:加藤潔/小学館「ビッグコミックスピリッツ」連載、既刊3巻)/『江川と西本』(作:森高夕次、画:星野泰視/小学館「ビッグコミックスペリオール」隔号連載、既刊5巻)


オグマ:1年前のランキングに比べて、『バトルスタディーズ』が大きくランクアップしました。逆に、去年1位だった『BUNGO』は圏外です。いや、『BUNGO』も面白いんですが、上積みがなかったというか。

ツクイ:スタートのインパクトが強かっただけに、期待値が高くなりすぎてしまったのかもしれませんね。主人公・ブンゴの持つ狂気的な面が、成長とともに薄れてきた感も否めません。

オグマ:ほかにも、『ダイヤのA act2』も『MIX』も安定して面白いですし、逆に安定しすぎていて選から漏れた印象。あと、個人的には『フォーシーム』は引き続いてアツいです。さらに、コミックス化されてないので挙げていませんが、『ワイルドリーガー』を描いた渡辺保裕の『球場三食』、東京ヤクルトスワローズ公認のギャグマンガ『天に向かってつば九郎』など、2017年に新刊が出る作品でも楽しみな作品はまだまだ多いです。

ツクイ:「週刊少年マガジン」でも、帰国子女が甲子園を目指す『8月アウトロー』が年末からスタート。それこそ「週刊少年ジャンプ」という例外を除けば、野球マンガが複数載っているほうがむしろ普通、という状況になりました。……え? サンデー? 『MAJOR 2nd』だけじゃないですよ、『湯神くんには友達がいない』もありますよっ! 『湯神くん〜』もたぶんまだ、ギリギリで野球マンガのカテゴリーに入ってますよっ!

オグマ:たぶん、みんなもう入れてないんじゃないですかね。

※選定理由、作品の魅力についてはスマホマガジン『週刊野球太郎』の配信記事で詳しく掲載しています。そちらもよろしくどうぞ。
(オグマナオト)