金沢学院東高等学校(石川) 「実践につながる ティーバッティングNo.1」 (全3回)

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「こんにちは! こちらの部屋へどうぞ!」JR金沢駅から車で約30分。金沢市の山あいに位置する金沢学院東高校の室内練習場を訪れると、ユニフォーム姿の金森 栄治監督が丁重に出迎えてくれた。現役時代は、勝負強い打撃を武器に西武、阪神、ヤクルトにて計15年間プレー。引退後はコーチとして打撃指導の手腕をいかんなく発揮し、和田 一浩(元中日ほか<2014年インタビュー>)、井口 資仁(現千葉ロッテ<2014年インタビュー>)、城島 健司(元阪神ほか)を始めとする、多くの選手を一流打者に育て上げた。

 14年春からは故郷・金沢市の金沢学院東高校の野球部監督に就任。昨夏は石川大会で8強入りを果たすなど、高校野球指導者としても着実な成果を見せている。「昨年からは保健体育の実技と授業を受け持っているんですよ。まさか還暦前にこんな人生が待っているとは予想もしてなかったけど、やりがいはありますね。教え子を通じ、ぼく自身もいろいろと勉強させてもらっています」

基本はいつの時代も不変

金沢学院東高校校舎

 約5年前、当時ロッテの一軍打撃コーチだった金森監督を取材で訪ねたことがあった。テーマはバッティング。「マリンガン打線」と称され、2010年の日本一の原動力となった強力打線を作り上げた名打撃コーチの打撃理論を学ぼう、という主旨のインタビューだった。「5年前にお話しした時と、私自身のバッティングに対する考え方はまったく一緒です。最重要ポイントは『腰で打つ』こと。これに尽きます」

「腰で打つ」。金森監督は5年前の取材の際にも、このフレーズを幾度も繰り返した。「腰で打つ。これがバッティングの基本です。数学の公式が永遠に変わらないように、基本はいつの時代も変わらない。不変だからこそ基本なんです。いろんな方向からバッティングというものを追求していっても、結局ここに行き着く。やっぱりバッティングは下半身。『下半身主導で、そして下半身始動で』というのがバッティングの大原則だと思っています」

 金森監督は椅子から立ち上がり、自ら実演しながら説明を続けた。「腰が回ればすべてが自動的に完了する、というシンプルな感覚が理想です。腰が回れば自動的に上体も回っていき、結果、上半身についている手も動いていく。バットを振らせるのはあくまでも手ではなく腰。腕を伸ばそう、手首を返そうといった意識が入ったりすると、せっかく下半身で作った回転力の邪魔をしてしまい、スイングスピードがかえって遅くなってしまいます。ヘッドも体から早い段階で離れやすくなってしまうので、インサイドアウトの正しいスイング軌道を作り出すことも困難になってしまう。バッティング面においては、手や腕への意識は極力ない方が望ましいというのが私の考えです」

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インパクトの瞬間は両腕が少し曲がった状態が理想と語る金森 栄治監督(金沢学院東高等学校)

 金森監督は「インパクトの瞬間は両腕を伸ばしきってしまうのではなく、両腕のヒジが少し曲がっている状態で迎えるのが理想」と話す。「腕相撲をとるときって腕を伸ばして戦いますか?少し曲げますよね?実際の相撲をとる際、手を伸ばした状態で相手のまわしをとりにいきますか?やっぱり少し曲げますよね?つまり、人間はヒジを少し曲げた状態が1番力が出るということなんです。それは野球も例外ではない。

 私はよく卓球の福原 愛選手の幼少期のフォームを例に出すのですが、当時の映像を見ると、脇を締め、腕を軽く曲げたフォームでボールをひたすら打ち返している。それが一番、ロスなく力を出せることを本能的に愛ちゃんはわかっていたわけです。バッティングにおいても、力のない子どもほど、自分の力をロスしない、効率のいい打ち方が無意識のレベルでできていることが多く、それはまさに私の理想とするスイングだったりする。金森理論などと言われますが、別に自分が新しい理論を編み出したわけじゃない。正しく、シンプルにバッティングを考えることで、本来その人が持っている力をロスなく、発揮できるようにしようという話です。そのために大事になってくるのが『腰で打つ』こと。ここに話は戻ってくるわけです」

腕の意識をなくすために

「高校に入部してきた時点では、意識を腕に置いたバッティングフォームの持ち主の選手が大半」と語った金森監督。「ヘッドを返そう、腕を伸ばして打とうとする選手がものすごく多い。小、中学生時代の指導者に手や上半身に意識を置くような指導をたくさん受けてきたんだろうな、と思ってしまいます」

 金森監督は「プロ選手の打撃フォームの連続写真の影響もあるのかもしれない」と推測する。「インパクトのシーンを写した一コマを無理やり真似たかのような打ち方をする選手が多いんです。たしかにプロの連続写真のインパクトのシーンだけを切り取って見ると、腕を伸ばして打ってるように見えます。でもそれはあくまでもスイングの結果であって、当の選手は腕を伸ばそうなんて思っていないものなんです。腕を意識して使おうとせず、下半身主導でスイングしたことによって、『腕が結果的に伸びた』『ヘッドが結果的に返った』という表現の方が現実に即していると思います」

腕と上体にゴムチューブを装着しての打撃練習(金沢学院東高等学校)

 金沢学院東では、腕を使う意識を取り除くためのメソッドとして、ゴムチューブを活用している。「ゴムチューブで上体と両腕を一体化させることで、腕を伸ばせない状態を作り、打撃練習を行わせるんです。この状態でスイングを続けることで、『腰を回せば上体と手は勝手についてくる感覚』『腕を曲げた状態でインパクトを迎える感覚』が養われていく。腕を伸ばせないので、体の近くまでボールを呼び込む感覚も必然的に身についていきます」

 プロのコーチ時代も腕への意識が強い選手に対しては、ゴムチューブを使用した打撃練習を導入していた金森監督。効果は絶大だったという。

[page_break:芯で打つことにこだわらない]芯で打つことにこだわらない

スタンドティーメニューの見本を見せる金森 栄治監督(金沢学院東高等学校)

「日頃から選手たちには『バットの芯で打つことにこだわるな!』と言い続けています」と金森監督。その言葉の真意はいったいどこにあるのだろうか。

「高校野球の指導者になってから強く感じたことなのですが、『バットの芯で打たなきゃいけない!』と思いすぎている選手がものすごく多いんですよ。芯で打つことはもちろんいいことなのですが、芯に当てようとしすぎることが、腰の入っていない、手で合わせにいくようなバッティングを誘発してしまっているケースが多かった。『みんな芯に当てようとしすぎ。そんな腰の入っていないスイングじゃ仮に芯に当たったところでなかなかいい結果はでないぞ?』という話を選手たちにするところからスタートしました」

 金森監督は「優先すべきはバットの芯に当てることではなく、腰の入った自分のベストスイングをきちんとやりきること」と説いた。「マーリンズのイチロー選手は常々『バットの先から根元までのすべてを使って打たないといい結果はでない』と言っています。あのイチローがそのような考え方でバッティングと向き合っているのだから、高校球児だってバットのどこに当たってもいいくらいの気持ちで臨めばいいんです。そのかわり、腰のきいた力強いスイングを打席できちんとやりきる。仮に内角の厳しいボールが来たとしたら、無理に芯で打とうとして、ヒジを抜いたり、体を反らせて距離を作ろうとするのではなく、バットの根っこで打ち返すつもりで力強く振り切る姿勢を徹底する。その方が、必ずバッティングはいい方向へ向かう。そしてトータルでいい結果が残るものです」 

 第2回は金沢学院東流のティーバッティングを動画と解説を交えて紹介をしていきます。

(取材・文/服部 健太郎)

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