ケガから復帰するとき
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。
野球の練習や試合のときにケガをしてしまい、しばらく練習を休んだり、全体練習からはずれて別メニューを行ったりという経験のある選手も少なくないと思います。予測できるケガはなるべくしないように予防したいところですが、スポーツをする以上どうしてもケガをするリスクは高くなります。今回はケガをした後、全体練習に復帰するときにチェックしたいことなどについてお話をしたいと思います。
ケガをしてしまうと全体練習に参加できなくなってしまう
強い外力によって、ある部位の組織を痛めることを私たちは「ケガ」と呼んでいます。痛めた組織が骨であれば骨折、筋肉であれば肉離れや筋挫傷、靱帯であれば靱帯損傷、腱であれば腱の炎症(腱炎)といった具合に部位とその損傷程度をあわせて診断名としてつけられることが多く、スポーツ現場などでケガの場面に遭遇したときにはまずRICE処置を行うようにします。
RICE処置は患部を安静に保ち、冷却して挙上、圧迫することで「これ以上ケガの状態が悪化しないように」するものですが、これだけを行っていればケガがよくなるというものではありません。適切なタイミングをはかりつつ、痛みが軽減したところからプレーに復帰出来るようにリコンディショニングを始める必要があります。リコンディショニングとはケガで機能不全になった部位を「元の状態に戻す」という意味で使われます。
安静状態がもたらす変化患部をしばらく動かさないでいると、痛めた部位の炎症症状(腫れや触ったら熱いと感じる熱感、痛みなど)はおさまってくることが多く、身体の中で細胞が新しい組織を再生していることがうかがえます。一方で患部を安静にし、血流をなるべく多くしないように冷やすことは、周辺部位にある組織(たとえば筋肉や腱など)の柔軟性を低下させてしまうことも知られています。
いわゆる「動きが悪い」状態です。たとえば足首の捻挫をしたとき、RICE処置でしばらく安静にしていると、痛みそのものは軽減されてきたものの、今度は何となく「動きが悪い」「足首が硬い」と感じるようになるといった具合です。また柔軟性の低下のみならず、動かさないことによる筋力の低下も考えられます。
こうした状態を「以前の状態に戻す」ためには、適切なリコンディショニングが必要となってくるわけです。
[page_break:リコンディショニングの実際]リコンディショニングの実際ケガをしたときは病院を受診し、その後は病院でのリハビリテーションを受診することが一般的ですが、医師から指示を受けて自分自身でリコンディショニングに取り組まなければならない場合もあると思います。このようなときはまず最初に患部の痛みをチェックし、「どういう動作が痛いのか」「どの動作は痛くないのか」ということを把握した上で、痛みが軽くなった時点でリコンディショニングを始めるようにします。
しばらく患部を動かしていないのでまずはしっかりと関節を動かし、組織の柔軟性を高めて関節可動域(関節の動く範囲)を以前の状態にまで回復させます。このときケガをしていない反対側の部位と左右差を比べてみるとわかりやすいでしょう。この時点で痛みを伴う場合は、リコンディショニング後にRICE処置を行い、患部への刺激をコントロールするようにします。
左右の動きに差があまり見られなくなってきたところで、今度は筋力を強化していきます。これもケガをしていない反対側の部位と比較することで、筋力の違いが実感できると思いますので、同程度にまでコツコツとトレーニングを続けるようにしましょう。トレーニングの負荷は重さであったり、回数を変えたりすることで変化させることが出来ます。トレーニングを再開した段階ではおそらく患部側の筋力が落ちていると思いますので、軽い負荷から始めるようにして、回数を多く行い、慣れてきた段階で負荷を上げていくようにします。
筋力が元のレベルにまで回復してから練習復帰しよう
関節の可動域、筋力レベルが左右同じ程度にまで回復してきたら、実際のプレーに近く強度の低いものから段階的に行うようにします。肩を痛めた場合であればキャッチボールを短い距離から長い距離へ、下肢のケガであればジョギングのレベルからランニングの強度を徐々に上げていくといったように段階的に動きの強度を上げていきます。最終的には以前と同じプレーをしても不安を感じないレベルまで出来るようになると、晴れて全体練習に復帰ということになるでしょう。
しかし実際にはこうした段階を踏まず、筋力レベルの差がありながらも競技復帰するケースが多く見られます。「痛みがなくなったから練習に復帰します」という状態では、同じプレーを行うとケガを再発する可能性が高いといえるでしょう。
ケガをしてしまうと「早く復帰したい」というあせりがあると思います。しかし同じケガを繰り返さないためには段階的にリコンディショニングに取り組むことが大切です。階段を一段飛ばしで駆け上がるのではなく、一歩一歩着実に出来ることを増やし、復帰後に再度同じようなケガをすることのないようにしたいものですね。
今回が2015年最後のコラムとなりました。今年一年「セルフコンディショニングのススメ」をお読みいただきありがとうございました。2016年もどうぞよろしくお願いいたします。よいお年をお迎えください!
【ケガから復帰するとき】●リコンディショニングとはケガで機能不全になった部位を「元の状態に戻す」●患部の安静状態は周辺部位の柔軟性や筋力の低下をもたらす●リコンディショニングの最初は柔軟性を高めて関節可動域を回復させる●患部側の筋力低下をトレーニングによって回復させる●ケガをしている部位と反対側の部位との左右差を確認するとわかりやすい●段階的にリコンディショニングに取り組むこと。再発予防のためあせらず着実に
(文=西村 典子)
次回コラム公開は1月15日を予定しております。
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