岡山理科大学附属高等学校(岡山)【後編】

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 前編で紹介したアップから多彩、かつトレーニング要素がふんだんにつまった岡山理大附・井上 和明コーチの仕掛けるトレーニング。いざ本番に入ると、その「厳しさ」は一気にメーターを上げていく。

地味に、かつキツイ「和コーチ」トレーニングの数々

投球時の歩幅に合わせたランジスクワット(岡山理科大学附属高等学校)

 取材日は投手陣がトレーニングにあたる日。最初のメニューは冬トレーニングの王道メニューであるポール間「ダッシュ」を応用した1往復・1分30秒をかけてのジョグ5往復。しかし地味なメニューにもかかわらず、選手たちの表情はだんだん歪んでいく。それもそのはず。ダッシュでないので休む時間は皆無。選手たちは延々とポール間をジョグし続けるのだ。

 「おーい!だんだん内側を走っているぞぉ!」

 その間も井上 和明コーチの優しいお叱りが飛ぶ。「うわぁ〜」。戻ってきた選手たちからは声にもならないうめきが漏れた。

「今年は、NPBのキャンプ風に『1週間ごとにこれをやる』とは言ってありますし、(取材日の)11月は選手たちの様子を観察しています」(和コーチ)。これもアップ同様、選手たちに飽きを与えないための仕掛けである。

 続いては太い縄を使った「縄飛び」。前とび、後ろとび、ステップとび。これも地味。ただこれも、縄を回すことでなかば強制的に腕を鍛えられる。

 レフトからホームまでの往復30秒リミットのインターバル走を挟み、縄跳びメニューはポール間を使ってのリレーで締め。「走る」というよりも「縄に走らされる」選手たち。「シンプルに継続的にできるメニューが僕は好きなんで」。ときおり、冗談を言って選手たちを和ませる和コーチの笑顔も、もはや選手たちの視野には入っていない。

 ただ、投球時の踏み出し幅を使ったランジスクワッド20回3セット。タイヤ押しを見立てた低姿勢でのすり足20m5本、角度を変えながら延々と続いた腕回し。そして動的を中心にしたストレッチを通じ、変化も生じてきた。

「えぐい!」「やべえ!」「ふぉー!」「あー!」「うぉー!」「上げろ!」「まだだよ!」「がんばれ!」

 声にならない声を伴った苦しみを超えた中で、励ましと笑顔が自然と輪の中で起こる。単なる体力向上だけでなく心の鍛錬も備わった和コーチのトレーニングを通じ、投手陣には目標を突破していこうとする一体感が芽生えていた。

 では、現役選手たちが和コーチを通じ学んでいることとは?次はセンバツでも途中出場で聖地のグラウンドに立ち、現在は主将を務める宗光 康作(2年)に話を聴いてみよう。

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呼吸にも気を遣いながらアップに取り組む(岡山理科大学附属高等学校)

「和コーチが就任されて2シーズン目ですが、入学当初は空き時間ができてもティーとかで偏った練習になっていたのが、今ではヨガとかを使うことでバリエーションもできているし、瞬発系の動きも強くなってきている。チーム全体の意識は変わってきていますね」

 全体練習後、筋力トレーニングでもヨガの姿勢や呼吸法をふんだんに使うチームメイトを見やりながら、宗光は「ずっとやっていたらきついけど、道具を使ったりゲーム形式にしたりして取り組みやすくしてくれている」と和コーチトレーニングのチーム成果を話す。

 宗光はさらに遊撃手を務める自身の能力アップについても言及する。「アップでもジャンプするときの捕球とかつなげられる部分が多いですね。今までは技術から入っている部分がありましたけど、身体から技術に入る考え方や土壌が整ってきました。

 また、岡山理大附の野球部は全寮制なのでなかなか1人になる時間がないのですが、瞑想とかがあるヨガを入れることにより、バッターボックスで1人になった時の集中力を付けられるようになってきました。『集中しろ』と言っても集中の仕方を知らないと集中はできない。そこを教えてもらっています」

 確かにうなずける。それだけにベスト16からスタートする県大会1回戦で倉敷商に0対10で大敗した秋の悔しさを活かしたい想いは主将の中でひときわ強い。「全国で勝つことを目標にした前チームでさえセンバツは一瞬で終わり、夏に甲子園出場できなかった(岡山大会準々決勝で倉敷商に延長10回3対4サヨナラ負け)。だから、自分たちはもっともっとやらなくてはいけないし、野球だけではなく、ヨガとかも含めて生活の部分も見直し、積極的に全員で1つのことをするようにしていくようにしています」

 これも和コーチの効果あってこそ。秋の結果に悲観だけで終わらず「内面を見つめる」からはじまり、生活面からの鍛錬へ及んだのはヨガを学んでいたからこそ至った思考といってよいだろう。

「これからどう変化していくのか楽しみです」。練習を終えた後、早川 宜広監督が和コーチのこれからについて聴いたとき、最後に話してくれた言葉。それは同時に「取り組み方が日本一」を掲げる選手68人に託した期待でもある。

 屈辱を超え、再び聖地の土を踏みしめ、2004年夏1回戦・桐生第一(群馬)戦以来遠ざかる「半田の山に 光る青葉若葉」ではじまる校歌を響かせるために。和コーチの仕掛ける「ヨガと鍛錬の融合」は、これからが本番である。

(取材・写真:寺下 友徳)

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