全国制覇三度の東海大仰星ラグビー部から「体作り」の方法を学ぼう!【前編】

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「他競技のスペシャリストから学ぼう」の連載企画で今回は、過去に3度の全国制覇の実績を誇り、明日12月27日から開幕する第95回全国高校ラグビーフットボール大会に出場する関西の名門・東海大仰星高校ラグビー部を直撃すべく、大阪府枚方市に位置する同校を訪問。いったいどんな話が聞けるだろうか。

40秒間動き続けるトレーニングの目的とは?

インターバルトレーニングの様子(東海大仰星高等学校ラグビー部)

「こんにちは!今日の練習は定期考査前ということもあって1時間で終わりなんですよ」出迎えてくれたのは今年で34歳を迎えた湯浅 大智監督だ。同校ラグビー部出身で現役時代は主将として第79回全国高校ラグビー選手権大会初優勝に大きく貢献。東海大学卒業後、10年のコーチ生活を経て、2013年、監督に就任した。

「部員は100名いますが、今日はテスト前なので練習参加者は80名ほど。今日はこの校舎の5階フロアの廊下をフルに使って、80名全員でトレーニングをします」湯浅監督はこの日のトレーニングメニューが書かれた1枚の用紙を取り出し、説明を続けた。「部員を5つのグループに分け、フロアに5か所作ったトレーニングスペースに割り振り、同時進行でトレーニングを行っていきます。各箇所によって鍛える部位やテーマが異なります」

 各箇所のトレーニングテーマは次の通りだ。

(1)腕(2)脚(3)腹(4)体幹(5)全身(バランス、スピード)

 そして、各箇所にはそれぞれ7種のメニューが組まれている。メニューのノルマの基準は回数ではなく時間。(3)の「腹」を例にとると、用紙に記されている7つの種目名は次の通りだ。

1.シットアップ:40秒2.ツイスト:40秒3.キック:40秒4.トゥーアップ:40秒5.ペアクランチ(二人一組):40秒6.ペアクランチ(二人一組):40秒7.?字:40秒

 種目間のインターバルは20秒。1〜7のメニューを7分かけて消化すると、全員がローテーションで次の場所へ移動。3分のインターバルの後、再び7種のメニューをこなす、という流れだ。5か所すべてを約45分かけ、回り終えると、この日の練習は終了となる。

「高校ラグビーの試合時間は30分ハーフ×2の60分なのですが、実際にプレーで動いている平均時間は60分中40分程度というのが時間設定の根拠です。『60分中40分動く』ことをトレーニング一種目あたり『60秒中40秒動く』ことに置き換え、『その40秒間はなにがなんでも全力で動き続ける!』ということを選手たちの心と体に植え付ける意味合いが大きいです」

[page_break:苦悶の表情を浮かべる選手たち]苦悶の表情を浮かべる選手たち

インターバルトレーニングの様子(東海大仰星高等学校ラグビー部)

 廊下に「スタート!」の号令が響き渡ると、各箇所に置かれた時計が同時に時を刻み始め、選手たちは一斉にメニューをこなし始める。

「腕」のグループの場合、腕立て伏せがメニューのベースだが、種目によって手の間隔や角度も違えば、片足を上げたり、手で跳んだりするものもあり、さまざまな角度から「腕」に刺激を入れていく。疲れによって、まともな腕立て伏せができなくなったとしても、40秒間が経過するまでは、選手たちは何度も体勢を立て直し、メニューに書かれた腕立て伏せに挑み続ける。フロア全体から聞こえてくる選手たちのうめくような声。そこへ自らと仲間を鼓舞するかのような声が入り混じる。

「もうあかん!」「あと10秒や!」「みんな頑張れ!」「自分頑張れ!」「終わったー!」

 申し訳ないと思いつつ、インターバル中の選手たちにトレーニングの感想をうかがったところ、「これは本当にきついです…!」「やばいっす!」「20秒のインターバルがあっという間に過ぎ去ってしまうんです!」といった声が続々と返ってきた。

(5)の全身(バランス・スピード)メニューは教室の中で行われていた。水の入った「コアマックス」と呼ばれる器具を用い、40秒間の間、求められた動作をスピーディーに反復する選手たち。「トレーニングで培った筋肉を実際のラグビーの動きにつなげていくためのトレーニングです。ラグビーのゲームの中で必要な、寝た状態から起きる、体を捻る、上で人を支えるといった要素がすべて含まれています」と湯浅監督。

 苦悶の表情を浮かべる選手たちに視線を送りながら、続けた。「選手たちにはとにかく動き続けなさいと伝えています。各種目のスピードはできるだけ速い方がいい。その中で限界に挑んでいく。逃げ出したくなるほどにしんどいと思いますが、そのしんどさから逃げずにどれだけ踏ん張れるか。ラグビーは審判のホイッスルが鳴らない限り、プレーは動き続けます。

 一瞬でも『しんどい! もう止まろう』と思ってしまったら、それが隙となってしまう。体力がなければ頑張りたくても頑張れない。日々の苦しいトレーニングと正面からきちんと向き合えている者だけが本当の意味で頑張れる選手だと思っています」

[page_break:大きくなった体は使いこなせてナンボ]大きくなった体は使いこなせてナンボ

インターバルトレーニングの様子(東海大仰星高等学校ラグビー部)

「今日行ったトレーニングメニューは『体を使いこなせるようにする』ことがテーマで、週に一回は集中的にやっておきたいトレーニング。野球選手にとっても有効なトレーニングではないかと思います」

 約一時間の練習が終わり、家路につく選手たちの様子を気にかけながら、湯浅監督はそう言った。「全国大会が一か月後に迫っているので、今は総仕上げの時期。試合に向け『今の肉体をいかに最大限使いこなせるか』という最終段階に入っているので、今日のような自分自身の体重を利用するようなトレーニングを多くしていきます」

――重いウエイトを用いたウエイトトレーニングは大舞台を控えた最終段階では行わないということですか?

「全くやらないわけではなく、定期的に刺激は入れます。でも全国大会を一か月後に控えた最終段階で体を大きくしてしまってはダメ。ここで体重を増やしてしまうとこれまでできていたプレーができなくなってしまうんです」

 東海大仰星高では体づくりにおけるトレーニングの内容を1年の中で変化させていくのだという。「大まかにいうと、ガンガンウエイトトレーニングをやることで筋肉を肥大させ、体重をどんどん重くしていく増量期を経てから、その重くなった体を使いこなせるようにするトレーニングへ変化させていきます」

 湯浅監督は、その考えに基づいたウエイトトレーニングの具体的なやり方を教えてくれた。

◇第一段階:1セット当たり3回〜5回しか持ち上げられないような高重量ウエイトを使って筋繊維を太くしていく。車に例えるとエンジンを大きくし、排気量を上げていく段階。筋量が増えることで体重もどんどん増加していく。

◇第二段階:1セットあたり8〜10回しか持ち上げられないような重さに変えていくことで、持ち上げられる最大重量がどんどん上がっていく段階。一瞬で出せるパワーの最高出力を上げていく時期だ。

◇第三段階:筋量が増え、パワーが増して大きくなった体をこの日に行ったような自重中心のトレーニングによって、スピーディーに、かつ自分の思うように動かせるようにしていく。試合本番に向け、最終仕上げのこの段階で重いウエイトで筋量をさらに増やしてしまうと、試合本番で自分の体を思うように操れないことにつながってしまうので要注意。

「ラグビーはスピードとパワーと持久力が必要な競技なので、ただ体重が増え、体が大きくなっただけではだめ。重くなった体をきちんと扱えるようになってこそ、試合で発揮できる体といえます」と湯浅監督。

――野球もスピードとパワーの両立が必要な競技。参考にできる部分は多そうです。

「基本的な考え方はそのまま応用しても構わないと思います。とくに高校野球は12月から3月頭まで試合が行えないんですよね?それだったらその期間にがんがん体を大きくしておいて、夏の大会で最高のパフォーマンスが発揮できるよう、大きくなった体を使いこなせるようにしていく、という考え方をベースに置けばいいんじゃないかと思います」

――ちなみに東海大仰星高校のラグビー部員は3年間でどの程度体重が増えるのですか?

「平均すると3年間で15キロくらい。1番増えた例では25キロ増えた子がいます。増え方としては2年生の夏を過ぎたあたりからぐっと体重が増えるケースが多いですね。トレーニングや食に対する日々の意識が高まり、正しい取り組み方が身につく時期だからではないかと思っています」

 いかがだっただろうか。限られた時間の中で身体を大きくする方法論。フィジカルの強さが問われる競技だけに、その理論は思わず納得させられるものだった。後編では休養の重要性について湯浅監督に語ってもらった。

(取材/写真・服部 健太郎)

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