連続殺人鬼、醜い日本人、有害図書…手塚治虫はやっぱりヤバい

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手塚治虫『火の山』が日替わりセールで99円。
漫画サンデー、サンデー毎日、女性自身、ビッグゴールドに掲載された大人向け短編を5編集めた一冊。


「ペーター・キュルテンの記録」
20世紀初頭、ドイツの連続強姦殺人犯ペーター・キュルテンを描いた実録漫画。
少女を殺し死体に暴行を加える連続殺人鬼の正体は……。
「これは事実にもとづいた物語である ペータ・キュルテンは一九三一年七月二日朝六時に処刑された このテキストは鶴見俊輔氏の著書によるものである」と最後に記されている。
実録として淡々と出来事を積み重ねるように描く手塚治虫には珍しいタイプの短編。

「もの憂げな夜」
札束を使いまくって、発展途上国の「ずっと歳をとることのない女」を抱こうとする醜い日本人男を描く。
「この野郎! おれはそのときの日本兵と関係ねえ!!」
ギョッとするラストから謎解きへと畳み掛ける。

「火の山」
郵便局長でありながら、昭和新山を観測しつづけた三松正夫の半生を描いた伝記マンガ。
周囲から「火山にとりつかれた」「誰だって正気だと思わんわい」と言われるが、山を守るために火山を買い取り、信念を貫き観測を続ける。
盗っ人で暴れん坊の粗野な男が相棒となる。といっても、ついでに盗みをしてやろうっていう動機で協力しはじめるので、イヤイヤ巻き込まれていくのだ。定点観測バディモノとしても楽しめる。
「あんたがこの山をどうしても欲しかった気持ちがわかるような気がしますよ 極楽と地獄を一か所に集めたみたい!」
「見なさい 恐怖もここまでくるとかえって美しい……」
「天然記念物とか何とかいっとるけんど ぜーんぶ三松さんの生命なんだ!!」
といった強烈なセリフが説得力を持つのは、手塚治虫が現地で取材し、資料を集め、定点観測の様子や、火山、異変のありよう、植物相をていねいに描いているからだろう。

他に「最上殿始末」「ライン館にて」を収録。

ちなみに9月の月間セールになっている手塚治虫作品は『アポロの歌』『ザ・クレーター』『ジャングル大帝』の3冊。

『アポロの歌』
1970年に神奈川県で有害図書に指定された。
いきなり見開き2ページに同じ顔の全裸の男がうじゃうじゃいて、「諸君! われわれ五億の仲間はたったひとりの女王をめざして これから命をかけた競技をはじめる!」と宣言する序章からはじまる。「そなたは何度もある女性を愛するであろう だが……その愛が結ばれる前に女性かそなたかどちらかが死なねばならぬ!」とあまりにも無体な宣告を女神からされる精神病院にいる少年が主人公である。

『ザ・クレーター』
「鈴が鳴った」「溶けた男」「雪野郎」「紫のベムたち」「生けにえ」「双頭の蛇」のツイストの効いた短編6編を収録。

『ジャングル大帝』
ディズニーの「ライオンキング」にも影響を与えた(というかそっくり)な手塚治虫の代表作。

全部読むといいよ!
(米光一成)