これぞ「あるある本」元祖『野球部あるある3』蔦監督が二日酔いのまま朝練に来るのは日常茶飯事
ひと頃、出版界はあるある本がブームだった。
ジャニーズに工業高校、将棋に麻雀、都道府県ネタに自衛隊、果ては創価学会まで。
ただ、「それは“あるある”じゃなくて単なる雑学だろ」という内容の本が多かったのも事実。他のあるある本のフォーマットを真似ただけの安易な本も多かった。
そんな中、“本物のあるある本”がようやく帰ってきた。
『野球部あるある3』(菊地選手 著・クロマツテツロウ 漫画/集英社)だ。
ちょうど4年前、2011年9月に登場した『野球部あるある』こそ、ブームを牽引したあるある本の元祖。他のあるある本の多くが真似をした、1ページにイラスト&あるある見出し&解説文、というフォーマットもここから生まれた。
元高校球児であり、野球雑誌編集者である菊地選手(菊地高弘)が、学校に必ず生息する不思議な生き物・野球部員をクローズアップ。笑いと切なさが同居する「あるある」は、翌2012年の『野球部あるある2』 とあわせ、累計10万部を超える人気シリーズとなった。
ちなみに、イラスト担当の漫画家・クロマツテツロウは現在、野球部漫画『野球部に花束を』を月刊チャンピオンで連載中(既刊6巻)。こちらもまた、野球部に一家言を持つ存在になった。4年という月日のなんと長いことか。
◎監督を前にすると、日本語が不自由になる。
◎「練習は嘘をつかない」という嘘。
◎練習中に時計を何度も見る日ほど、針がなかなか進んでくれない。
…etc.
今作『野球部あるある3』も、これまで以上に味わい深い“あるある”が満載だ。現役野球部員はもちろんのこと、かつて野球部だった人であれば「なんだ、俺たちの頃と何も変わっちゃいないな」と思い出し笑いができるはず。
そして、野球部出身者以外でも楽しめるのが本シリーズ、そして野球というコンテンツの持つ強みでもある。
たとえばこの夏、「高校野球100年」のフレーズとともに例年以上に注目を集めた甲子園大会。彼の地で活躍した球児や監督らを思い出しながら読んでみると、あの球児もこんな悩みが? とか、あの監督も普段はこんな不条理なこと言ってるんだろうなぁ、といった楽しみ方ができる。
また、「監督」を「上司」に、「練習」を「仕事」に置き換えると、不思議と野球部でもなんでもない自分も納得できるものが多い。野球部は不変であり普遍なのだ。
過去のシリーズ同様、野球部のおかしな生態を記録した『野球部あるある3』だが、従来とは大きく変わった点もある。それが本作の肝、「名門校あるある」シリーズだ。
池田高校(徳島)/帝京高校(東京)/広島商業(広島)/沖縄水産(沖縄)/慶応義塾(神奈川)/明徳義塾(高知)/龍谷大平安(京都)/横浜(神奈川)/大阪桐蔭(大阪)
高校球界を支えてきた名門校・強豪校がここまで並ぶと壮観だ。
前作『野球部あるある2』でも「PL学園あるある」は扱っていた。だが、今作はさらにパワーアップ。名門野球部ならではの「あるある」ネタを次々に掘り起こしていく。
これまで、『野球部あるある』で取り上げてきた“あるあるネタ”は、全国4000校に生息する“普通の高校球児”の姿を描いたものが基本だった。だからこそ共感を得ることができた。
だが、本作で取り上げた「名門校あるある」は、そんな「共感」とは全く別軸でのおかしみだ。「あるある」ではなく、「いや、ねーよ、そんな練習。なんだよ、乳首から血が出るまで走るって!」といった、極端な笑いを作り出すことに成功している。いくつか紹介してみよう。
◎蔦監督が二日酔いのまま朝練に来るのは日常茶飯事(池田)
◎白球も十分怖いが、それよりも白米が怖い(帝京)
◎「夜逃げ」より「昼逃げ」が多い/たとえ脱走しても行き場がない(明徳義塾)
◎胴上げの際、西谷監督が宙に浮くか不安になる(大阪桐蔭)
……etc.
やはり強豪校ほど練習が普通じゃなく、そして監督の存在感が異常なのだ。
そして、監督の存在が偉大であればあるほど、「野球部あるある」シリーズならではの「悲哀」や「切なさ」もまた浮き彫りになっていく。
「帝京あるある」ではこんな一節が登場する。
《いまだに高校時代のトラウマが残り、前田監督への恐れが抜けない「呪縛」。それは多くの帝京野球部OBが抱えているのかもしれない》
甲子園で結果を残してきた監督ほど、野球部員の人生に大きな爪跡を残している。その言動や指導論には、ときに眉をひそめる人もいるかもしれない。それでも、野球と野球部を愛する著者はそのありのままを記していく。
《今、野球部を取り巻く環境は特に、「善か悪か」「勝者か敗者か」というような「0か100か」の二元論が渦巻いている。いいチームか悪いチームか、名将か凡将かという議論がなされるが、そもそも完璧な野球部、完璧な指導者などいないと思う。完璧な人間など一人もいないのと同じように。
この前田監督のエピソードを「ひどい」と否定的に捉える人もいるだろうし、「勝負に徹した監督らしい」と肯定する人もいるだろう。ただ、こうした一面だけで前田監督を「0か100か」で見ないでほしい、ということを強くお願いしておきたい》
「この前田監督のエピソード」が一体なんなのか? それは、ぜひ本書を手に取って確かめていただきたい。
『野球部あるある3』(菊地選手 著・クロマツテツロウ 漫画/集英社)
※『野球部あるある』『野球部あるある2』も新装版として発売中
(オグマナオト)
ジャニーズに工業高校、将棋に麻雀、都道府県ネタに自衛隊、果ては創価学会まで。
ただ、「それは“あるある”じゃなくて単なる雑学だろ」という内容の本が多かったのも事実。他のあるある本のフォーマットを真似ただけの安易な本も多かった。
そんな中、“本物のあるある本”がようやく帰ってきた。
『野球部あるある3』(菊地選手 著・クロマツテツロウ 漫画/集英社)だ。
ちょうど4年前、2011年9月に登場した『野球部あるある』こそ、ブームを牽引したあるある本の元祖。他のあるある本の多くが真似をした、1ページにイラスト&あるある見出し&解説文、というフォーマットもここから生まれた。
元高校球児であり、野球雑誌編集者である菊地選手(菊地高弘)が、学校に必ず生息する不思議な生き物・野球部員をクローズアップ。笑いと切なさが同居する「あるある」は、翌2012年の『野球部あるある2』 とあわせ、累計10万部を超える人気シリーズとなった。
ちなみに、イラスト担当の漫画家・クロマツテツロウは現在、野球部漫画『野球部に花束を』を月刊チャンピオンで連載中(既刊6巻)。こちらもまた、野球部に一家言を持つ存在になった。4年という月日のなんと長いことか。
野球部は不変であり普遍
◎監督を前にすると、日本語が不自由になる。
◎「練習は嘘をつかない」という嘘。
◎練習中に時計を何度も見る日ほど、針がなかなか進んでくれない。
…etc.
今作『野球部あるある3』も、これまで以上に味わい深い“あるある”が満載だ。現役野球部員はもちろんのこと、かつて野球部だった人であれば「なんだ、俺たちの頃と何も変わっちゃいないな」と思い出し笑いができるはず。
そして、野球部出身者以外でも楽しめるのが本シリーズ、そして野球というコンテンツの持つ強みでもある。
たとえばこの夏、「高校野球100年」のフレーズとともに例年以上に注目を集めた甲子園大会。彼の地で活躍した球児や監督らを思い出しながら読んでみると、あの球児もこんな悩みが? とか、あの監督も普段はこんな不条理なこと言ってるんだろうなぁ、といった楽しみ方ができる。
また、「監督」を「上司」に、「練習」を「仕事」に置き換えると、不思議と野球部でもなんでもない自分も納得できるものが多い。野球部は不変であり普遍なのだ。
強豪校ほど練習が普通じゃなく、監督の存在感が異常
過去のシリーズ同様、野球部のおかしな生態を記録した『野球部あるある3』だが、従来とは大きく変わった点もある。それが本作の肝、「名門校あるある」シリーズだ。
池田高校(徳島)/帝京高校(東京)/広島商業(広島)/沖縄水産(沖縄)/慶応義塾(神奈川)/明徳義塾(高知)/龍谷大平安(京都)/横浜(神奈川)/大阪桐蔭(大阪)
高校球界を支えてきた名門校・強豪校がここまで並ぶと壮観だ。
前作『野球部あるある2』でも「PL学園あるある」は扱っていた。だが、今作はさらにパワーアップ。名門野球部ならではの「あるある」ネタを次々に掘り起こしていく。
これまで、『野球部あるある』で取り上げてきた“あるあるネタ”は、全国4000校に生息する“普通の高校球児”の姿を描いたものが基本だった。だからこそ共感を得ることができた。
だが、本作で取り上げた「名門校あるある」は、そんな「共感」とは全く別軸でのおかしみだ。「あるある」ではなく、「いや、ねーよ、そんな練習。なんだよ、乳首から血が出るまで走るって!」といった、極端な笑いを作り出すことに成功している。いくつか紹介してみよう。
◎蔦監督が二日酔いのまま朝練に来るのは日常茶飯事(池田)
◎白球も十分怖いが、それよりも白米が怖い(帝京)
◎「夜逃げ」より「昼逃げ」が多い/たとえ脱走しても行き場がない(明徳義塾)
◎胴上げの際、西谷監督が宙に浮くか不安になる(大阪桐蔭)
……etc.
やはり強豪校ほど練習が普通じゃなく、そして監督の存在感が異常なのだ。
そして、監督の存在が偉大であればあるほど、「野球部あるある」シリーズならではの「悲哀」や「切なさ」もまた浮き彫りになっていく。
「帝京あるある」ではこんな一節が登場する。
《いまだに高校時代のトラウマが残り、前田監督への恐れが抜けない「呪縛」。それは多くの帝京野球部OBが抱えているのかもしれない》
甲子園で結果を残してきた監督ほど、野球部員の人生に大きな爪跡を残している。その言動や指導論には、ときに眉をひそめる人もいるかもしれない。それでも、野球と野球部を愛する著者はそのありのままを記していく。
《今、野球部を取り巻く環境は特に、「善か悪か」「勝者か敗者か」というような「0か100か」の二元論が渦巻いている。いいチームか悪いチームか、名将か凡将かという議論がなされるが、そもそも完璧な野球部、完璧な指導者などいないと思う。完璧な人間など一人もいないのと同じように。
この前田監督のエピソードを「ひどい」と否定的に捉える人もいるだろうし、「勝負に徹した監督らしい」と肯定する人もいるだろう。ただ、こうした一面だけで前田監督を「0か100か」で見ないでほしい、ということを強くお願いしておきたい》
「この前田監督のエピソード」が一体なんなのか? それは、ぜひ本書を手に取って確かめていただきたい。
『野球部あるある3』(菊地選手 著・クロマツテツロウ 漫画/集英社)
※『野球部あるある』『野球部あるある2』も新装版として発売中
(オグマナオト)