「世界陸上」いよいよ開幕「なにこれ!? 合成じゃないの?」織田裕二も驚愕アスリートの躍動

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2年に一度の陸上の祭典「世界陸上」がいよいよ明後日22日に開幕。9日間に渡って、北京を舞台に熱戦が繰り広げられる。今大会もメインキャスターを織田裕二と中井美穂が務め、TBS系列で計64時間放送予定だ。そこで大会の見どころ、注目選手、織田裕二キャスターの陸上愛について、実況を担当するTBS初田啓介アナウンサー、土井敏之アナウンサーに聞いた。


前半戦は男子マラソン、競歩の長距離種目に注目!


─── いよいよ、「世界陸上北京」が始まります。

土井 今回、「徒歩10分の物件をたった3分で歩く」という20km競歩・鈴木雄介選手にフォーカスした世界陸上CMがあるんですが、あれを見た織田裕二さんが「なにこれ!? 合成じゃないの? すごいねー!」と一番興奮していたそうです。俄然、競歩が注目種目になったと。織田さんに刺さる鈴木雄介選手!

初田 そこそこの市民ランナーだって、走っても追いつけない。走ってる人よりも速く歩くんだから。

土井 「サブスリー」という、市民ランナーにとっては“夢の3時間切り”を指す言葉があります。でも、競歩の選手は50kmを3時間ちょっとで歩いてしまうわけですから、これは織田さんじゃなくても驚くと思いますよ。

─── その競歩も含め、注目種目、注目選手といえば?

初田 もうね、いっぱいありすぎて困るんですよ。

土井 ですよねー。

初田 誰か一人、と言われるともう、とても難しい! じゃあ、誰か三人、と言われても難しい(笑)。というわけで、土井さんからどうぞ。

土井 いやー、私も「誰か一人」と言われても、これは大変困りますね。その中で、私の実況担当は初日一発目の男子マラソン。次の日は男子20km競歩と長距離種目で始まり、最終日(8月30日)の女子やり投げ決勝まで。女子やり投げの「エビちゃん」こと海老原有希選手が決勝に残ってくれると、最初から最後まで、日本人の活躍を網羅できるかなーと。そこは楽しみにしています。


─── その中でも、やはり織田さんに刺さる鈴木雄介?

土井 そうですね。実は2年前の世界陸上の前にも、「鈴木雄介選手に注目を!」という話をこのインタビューでさせていただきました。その時は結果が伴わなかったんですが、今回は3月に世界記録を作り、世界ランキング1位として臨む世界陸上ですので、面白い中継になると思っています。鈴木選手以外にも、高橋英輝選手と藤澤勇選手の2人も、今シーズンの世界ランクが8位以内。ライバルは地元中国勢ですが、日本が優勝・メダル・入賞の全部を揃える可能性も多いにあります。

─── 日本の競歩が強くなった理由というのは?

土井 地道な下地づくりがここにきてようやく花開いた、と言えると思います。振り返れば、2007年の世界陸上大阪、50km競歩で山崎勇喜選手がメダル候補と期待され、実際に素晴らしいレースを見せたのに、誘導ミスで失格になってしまった。あの時から、競歩陣の中でメダル獲得が悲願になった。そんな中、伸びてきたのが鈴木雄介選手なんです。普段なかなか注目されない競歩ですが、世界陸上でメダルを取れば、一気にオリンピックでもメダルを期待される存在になる。それだけに、日本競歩陣にとって、五輪・世界陸上通じて初めてのメダルに対する期待値は大きいですね。

─── 具体的に、鈴木選手の凄さはどういった点でしょうか?

土井 歩型がキレイなんですよ。競歩の場合、タイム以外にも失格、警告との戦いというのがあるんですが、鈴木雄介選手はこれまでの競技人生で一度も失格になったことがない。それくらい、歩型フォームがキレイなんです。膝が曲がらない、足も浮かないという基本がキッチリできる選手で、誰が見てもフォームの美しさがわかると思います。あとは、少し専門的になりますが、振り出す足のスピードが他の選手より速く、その速さが推進力にもなっています。

初田 ほぉ。

土井 ちなみに今回、20km競歩では500mを往復する一周1kmのコースを20周することになっています。でも、通常のレースはその倍、一周2kmのコースで、折り返し地点に審判員をそれぞれ配置するのが一般的なんですね。

初田 つまり、今回は通常よりも半分の間隔をぐるぐる回るわけだ。

土井 一周の距離は半分なのに、審判の数は同じ。その結果どうなるかというと、審判員の担当範囲が狭くなり、より目が行き届くわけです。つまり、歩型違反が目につきやすくなる。ということは、歩型の一番キレイな鈴木にとっては、他の人が失格になるかもしれないという可能性も含めて、とてもメリットが高い。

初田 へー。なんでそういう楽しい話が今まで出てこないんだろうね。

─── その競歩の前に、初日がいきなり男子マラソンです。

土井 今回のマラソンは男子も女子も、8位以内の入賞で日本人トップになれば、来年のリオ五輪の切符が手に入る。ここ最近の世界陸上の注目ポイントは、女子はメダルなるか、男子は日本マラソン復活なるか、という視点が中心でした。今回はそこに「リオ五輪が決まるか!?」という要素も加わるのが大きいポイントですね。

初田 長距離でいえば、大会8日目(8月29日)、5000mの大迫傑選手はどうですか? 土井さん。

土井 大迫選手はなかなか面白いですよね。アメリカのナイキ・オレゴンプロジェクトというチームに入った効果か、先月の5000mで13分8秒40の日本新記録を出して、参加標準記録を突破しました。

初田 今年の世界ランキングで11位の記録でした。年始のニューイヤー駅伝の後に日清食品を退社して、退路を断ってナイキ・オレゴンプロジェクトに参加。あのモハメド・ファラー選手(イギリス)と同じチームで練習してるんですから。将来的には2020年の東京オリンピックで、マラソンを走ってメダルを取りたいと言っていました。今回はまず5000m。旭化成の村山紘太選手も出場します。同じく、旭化成の村山謙太選手、鎧坂哲哉選手、HONDAの設楽悠太選手は大会初日(8月22日)の10000m。苦戦続きの日本長距離トラック陣ですが、この新しい世代がもり立ててくれるんじゃないかと期待しています。

─── 数年前まで箱根を沸かせたメンバーですね。

土井 もはや「箱根組は走らない」なんていう定説はなくなりましたね。みんな意識高いですよ。箱根で終わらない選手が続々と出てきています。

初田 大迫が言ってましたけども、もう「箱根」と言われるのがすごく嫌だと。世界の大きな舞台で活躍してイメージを変えたいと。そういう意味では、「箱根の大迫」から「世界の大迫」になる大会となってくれたらいいですよね。

男子100mは4強の争い。女子100mはクン夫人以来なるか!?



─── では、初田アナの注目選手を。

初田 私は初日(8月22日)に予選、翌日決勝となる男子100m、ウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)に注目しております。今年のボルトは、7月頭のグランプリレース「ダイヤモンドリーグ」を2試合欠場したんですね。「大丈夫か?」という心配の声が飛ぶなか、7月24日、25日と、ロンドンでダイヤモンドリーグの試合がありまして、私、現地に見に行ってきました。


初田 そこでボルト選手はあいにくの雨のなか、最後は軽ーく流して9秒87。前回のモスクワ大会のときも、雨の中9秒77というタイムで金メダルを取りましたから、もう全く心配いりません。世界陸上本番でも、遅くても9秒7台では来てくれるんじゃないかと期待しております。

─── 遅くても9秒7ってとんでもない世界ですよね。

初田 やっぱり世界陸上ですから9秒7台では来て欲しい! そのくらい突き抜けた存在であるわけですが、今年に関してはジャスティン・ガトリン選手(アメリカ)が絶好調! とてつもなく好調なんですね。5月のダイヤモンドリーグ第一戦でいきなり9秒74。その後も9秒75というタイムを出しています。今年33歳。ドーピング違反で4年間出場できなかった選手が、30歳を過ぎて好成績を残すという復活劇。この二人に加えて、全米選手権を勝ったタイソン・ゲイ選手(アメリカ)、意外にもまだ世界陸上での金メダル経験がないアサファ・パウエル選手(ジャマイカ)を加えた4強が決勝に揃ってくれると、かなり面白いことになると思います。

─── ボルトの独走ではなく、競った展開が見れそうだ、と。

初田 そして100mは男子だけじゃなく、女子も面白い! 注目はオランダのダフネ・シパーズ選手、23歳。去年の200m世界ランキングが2位で、前回の世界陸上では女子七種競技に出場して銅メダルを取っている選手です。ところが今年は200mでも七種でもなく、100mに専念すると宣言して、ロンドンのダイヤモンドリーグでは自己ベストを更新する10秒92。あのブレッシング・オカグバレ選手(ナイジェリア)にも勝ちました。

─── オランダ勢でスプリントに強い、というのは珍しいですね。

初田 そうなんですよ。ここ最近、女子のスプリントといえばアメリカ勢とジャマイカ勢の独壇場でした。もし今回、シパーズ選手が金メダルを取ると、1948年のロンドン五輪でオランダのクン夫人が4冠を取って以来の快挙です。

土井 クン夫人! またオールドファンにはたまらない名前が出てきました(笑)

初田 女子100m、女子200m、女子80mハードル、女子4×100mリレーで4冠を取った偉大なスプリンターです。クン夫人以来なるか!? に注目です。

願わくば、工場を止めていただきたい。そして願わくば、雨を!



─── 今回、北京での開催ですが、北京ならではの傾向、注目点は何でしょうか?

初田 やっぱり天候ですね。北京は暑いと思います。

土井 暑いでしょうねぇ。

初田 私、7年前の北京五輪で現地から中継しましたけれども、もうとにかく暑かった。そして、空気が悪い! 開幕何日か前に北京入りして、今回の世界陸上の舞台でもある「鳥の巣」を見にいったんですが、すぐそこですよ、と説明を受けてもぼんやりとしか見えないんですよ。かなり近づかない全景が確認できない。

土井 そのくらい空気が悪い、と。

初田 ところが、開幕前日に急に雨がバーッと降ったんです。そして翌日、朝になったら、キレーイな青空! 1964年の東京オリンピックで、「世界中の青空を全部東京に持ってきてしまったような、素晴らしい秋日和でございます」という開会式の中継がありましたけれども、北京の開会式も本当にキレイな青空だったことを憶えています。ただ、暑いことは間違いない!

土井 空気に関しては曜日と風向き次第みたいですね。男子マラソン陣が4月末にコースの下見に行ってるんですけども、そのときは月・火は意外と空気が澄んでいて、いざ水曜日に走ろうとしたら、とたんに空気が悪かったそうです。なぜかといえば、土日に工場が止まっていて、そのおかげで月・火はキレイな空気が残っている。でも、水曜日までは持たない。急激に悪くなったというから、やっぱり工場が動いているかどうかが大きいみたいです。

初田 北京五輪のときは、期間中操業を停止させたりしてましたからね。あとは車のナンバーを偶数と奇数に分けて、何曜日は偶数ナンバーしか走れない、みたいなこともしていました。今回はどこまでの措置をしてくれるのか? 願わくば、工場を止めていただきたい。そして願わくば、雨を降らせて欲しい!

土井 いずれにせよ、マラソンでは給水が重要になるでしょうね。あと、マラソンの調整方法って、瀬古さんの時代は、暑いところで走るんなら暑いところで練習だ! といって疲弊しすぎて失敗することが多かった。そこから、本番は暑くても涼しいところで練習するのが常識になりました。それがここ最近は、涼しいところで練習した後、一度暑い場所でのワンポイント練習を入れるのがトレンドみたいです。そうすると、本番が涼しくても、急に暑くなっても、どちらでも対応しやすくなるのがデータなどからわかってきたみたいです。

初田 じゃあ、日本の猛暑がアドバンテージになりうる?

土井 そうなんですよ。今回のマラソンメンバーも、この調整法で本番に臨むようです。これで結果が出てくれば、この方法がよりスタンダードになっていくのかもしれません。
後編に続く
(オグマナオト)


「世界陸上」
2015年8月22日(土)〜30日(日)TBS系列独占放送

〜主な競技スケジュール〜
■DAY1[8月22日(土)]:
あさ: 男子マラソン
ごご: 男子100m予選/女子砲丸投決勝/男子棒高跳予選
■DAY2[8月23日(日)]:
あさ: 男子20km競歩/女子100m予選
ごご: 男子100m決勝/男子ハンマー投決勝
■DAY3[8月24日(月)]:
男子棒高跳決勝/男子やり投予選/女子100m決勝/女子10000m決勝
■DAY4[8月25日(火)]:
男子400mH決勝/男子800m決勝/男子走幅跳決勝/男子200m予選
■DAY5[8月26日(水)]:
女子棒高跳決勝/男子やり投決勝/女子200m予選/男子400m決勝/男子200m準決勝
■DAY6[8月27日(木)]:
男子200m決勝/女子200m準決勝/女子400m決勝/男子三段跳決勝
■DAY7[8月28日(金)]:
女子20km競歩/男子十種競技/女子走幅跳決勝/女子200m決勝/男子110mH決勝/女子100mH決勝/男子走高跳予選
■DAY8[8月29日(土)]:
あさ: 男子50km競歩/男子十種競技/男子4×100mリレー予選/女子4×100mリレー予選
ごご: 女子走高跳決勝/男子5000m決勝/男子4×100mリレー決勝/女子4×100mリレー決勝
■DAY9[8月30日(日)]:
あさ: 女子マラソン
ごご:男子走高跳決勝/女子やり投決勝/男子4×100mリレー決勝/女子4×400mリレー決勝