「マッドマックス」最新作の魅力が理解できないと言ったら、過去作観たのかと怒られたので全作観てみた

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先日『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のレビューを書いたら、たくさんの人を怒らせてしまいました。そのあと塚本晋也監督の『野火』と『マッドマックス怒りのデス・ロード』を比較して語ったら、「くらべるな」とか、「マクガフィンという言葉のつかいかたがまちがっている」とか叱られてしまいました(マクガフィンという言葉はジョージ・ミラー監督が公式パンフレットp.24で説明しています、ちゃんと調べてから叱ってくださいね)。
そして、全然関係ない二つの映画を比較しているひまがあるなら、マッドマックスの過去の全作を観るべきだと言われたので、素直に観てみることにしました。TSUTAYAで借りて。


シリーズ作は厳密にはつながっていない


その前に一応弁明させてください。私は「過去作品を観ていなくても楽しめる独立した一編」と言われたから最新作だけ観たんですよ。ジョージ・ミラー監督もインタビューで以下のように語っています。

《『サンダードーム』だけでなく、他の『マッドマックス』とも繋げては考えていなかった。『マッドマックス』シリーズはそういう(時系列的な)論理で繋がっているシリーズではなく、どれを撮ったときも「前の作品の続きにしよう」とは考えていなかった。しかし本作を作るにあたって、バックグラウンド・ストーリーはちゃんと考えた。『怒りのデス・ロード』の1年前、マックスが何をしていたかとかね。》

故・淀川長治さんも1997年8月17日 「日曜洋画劇場」の解説で、
「きょうは『マッドマックス2』です。べつに1と関係ありません。3とも関係ありません」
と、キッパリおっしゃっているようです(証拠動画は検索で探してみてください)。

ですから皆さんもシリーズ過去作を観てなくても胸をはって『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を観ていいんですよ。だいたい前作から最新作まで三十年たっているんです。当時うまれてない人だって多いですから。2Dでいいので映画館で観たほうがいい映画です。うわさの立川シネマシティでは好評につき上映期間を延期し、9/10までは上映確定したそうです。ぜひ『野火』(8/28まで)とハシゴして「これなら比較したくなる」と実感してくださいね。実際、大勢のかたが比較して語っています。

さて、そんなこんなでマッドマックス最新作を気にいった「にわかファン」の皆さんは、過去のシリーズ作を観るべきなのでしょうか。私の場合、生まれて初めて観たアクション映画がマッドマックス最新作『怒りのデス・ロード』(4作目にあたります)。せっかくのご縁なのであえて時間の流れを逆にして、3作目→2作目→1作目の順に観てみることにしました。
1作目から3作目までのマックスを演じるのは、この映画の主演をつとめたことで一躍有名になったというメル・ギブソンさんです。

3作目は4作目の前戯のような作品だった


1985年公開の『マッドマックス サンダードーム』(3作目)を観ながら私が書いたメモは以下のとおりです(小さなネタバレありですが、核心部分は避けて書きます)。


▼マックスは4作目で何度も言っていた「俺の車だ!」というセリフを3作目でも言うがその前に「俺のラクダだ!」とも言う
▼車が出てきて楽器が出てきて4作目を連想
▼4作目で名前を最初伏せていたマックスは3作目では「名を持たぬこの男」と紹介される
▼片足の男が出てきて4作目を連想
▼顔が白塗りで目のところが黒いパンダみたいな男が出てきて4作目ウォーボーイズを連想
▼必然性なく胸のある女性の写真が出てくる
▼マックスに献身的な猿が出てくる
▼小人が出てきて4作目を連想
▼頭脳担当の男と肉体担当の男の肩車コンビが出てきて4作目を連想
▼車の前に人が装着されていて4作目を連想
▼金属を切るシーンが出てきて4作目を連想
▼ラストシーンで敵だったはずの女性が「あんたもなかなかやるじゃないの」と笑顔で言ってマックスを解放してくれるのが意味不明
▼前半と後半が別々の映画のようだった
▼マックスは長めの髪で登場して途中から髪が短くなる(4作目で前半は顔がよく見えなくて途中から顔が見えるようになる変化を連想)
▼「あこがれていたものが現実には存在しない」という構造が4作目と同じだった
▼豚の糞から発生させたメタンガスをエネルギーにしている近未来という設定だがヒトの糞をつかえば済むことなのではないのか?

以上。ネタバレを含む詳しい内容紹介はネット検索すると色々出てくるので書きませんが、まあ一行で乱暴にまとめると「4作目みたいなことをやりたかったけれど徹底度が足りなかった3作目」みたいな印象を受けました。でもメタンガスや女性の写真のところで「もう全体の設定は観客を笑わせたくてふざけてるんだな」ということにやっと気づくことができました。

2作目は想像してたより印象が薄かった


1981年公開の『マッドマックス2』(2作目)を観ながら書いたメモは以下のとおりです。


▼核戦争後うんぬんという最初の説明が長い
▼マックスに献身的な犬が出てくる
▼マックスの食べるドックフードが美味そう
▼4作目にも出てくるオルゴールが出てくる
▼必然性なく胸のある女性の写真が出てくる
▼女性が乱暴されるシーンがある(4作目にそういうシーンがなかったことを逆に意識した)
▼セックスする男女も出てくる(4作目にそういうシーンがなかったことを逆に意識した)
▼車の前に人が装着されていて4作目を連想
▼マクガフィンはガソリン
▼マックスは自分本意

以上。一行で乱暴にまとめると「面白いキャラが色々出てきたけど印象が薄かった」です。マックスは正義漢ではなく自分本意なのに、ついつい巻き込まれて結果的に人の役に立ってしまう、という構造は4作目と同じでした。

1作目は想像してたよりホラー映画だった


1979年公開の『マッドマックス』(1作目)を観ながら書いたメモは以下のとおりです。


▼車が出てきて楽器が出てくる
▼マックスの裸が出てくる(2作目から4作目までは乳首が露出するシーンが全然ないと発見)
▼V8エンジンに若いマックスが欲情する
▼ニワトリが出てきて監督の動物好きを痛感
▼マックスの名前より「ナイトライダー」の名前のほうが映画の中で大切にされている
▼犬も出てくる
▼素敵なカップルの車がボコボコにされる
▼バターとハチミツが出てくる
▼小鳥も出てくる
▼螺旋階段のシーンはボーイズラブのよう
▼森のシーンはホラー映画そのもの
▼棒高跳びみたいなのが出てきて4作目を連想
▼車の上で作業するシーンがあり4作目を連想
▼金属を切るイメージが出てきて4作目と3作目を連想

以上。一言で乱暴にまとめると「後味の悪さが物凄くてカタルシスは全然ない」です。
どうしても1作目でマックスが妻や子をなくすというネタバレ情報は目に入ってしまっていたのですが、それでも想像できない展開でホラーとして本当に怖かったです。映画マニアの正反対である私が観た数少ない映画の中から似た後味の作品をあえて挙げるとしたら、デヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』でしょうか。自分が離婚してから意識するようになりましたが妻と子を失う映画、多すぎ。

マッドマックス関連本も読んでみました


観賞後に『マッドマックス・マニアックス』(英和出版社)を読んでいたら、1作目の段階ではまだ妻は生きているという指摘が書いてあり、たしかに厳密にはそのように描かれていました。2作目が1作目の続きであると考えるのなら2作目の時点でマックスは妻も失っています。


この『マッドマックス・マニアックス』はマニアックな本で、過去作(1作目から3作目まで)の私が気にならなかったような細かな疑問点もあれこれと考察してくれています。私のこの一文を読んで腹が立ったというようなかたは、ぜひ同書を入手してみてください。
とりわけ興味深かったのは1作目から3作目までの「死者の数」を数えるくだりです。3作目の人気がないのは死者の数が少ないからではないかというような考察までされてます。

売り切れ店続出の『メイキング・オブ・マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、私が本稿を書いている時点でAmazonレビューが21件あり、全部が星5つであるというマッドさ。
私は高円寺の店「biglietto(ビリエット)」に置いてあるのを読ませていただきました。店主がマッドマックス・ファンなので、マックス話をしたい近所のかたは寄ってみてはいかがでしょうか。


メル・ギブソンさんが主演をつとめる3部作を特集した「映画秘宝」2015年7月号(洋泉社)も読みました。p.5に《『怒りのデス・ロード』前日譚のゲーム版は、マックスが死体の肉を喰らう!》(文:ジャンクハンター吉田)という衝撃的な記事がありました。じゃあ『野火』と『マッドマックス』はやっぱり比較されていい映画なんじゃないかと、改めて思いました。


高校の同級生とマックスを語ってみました


さてマッドマックス童貞を失ったばかりの私は今年の9月で47歳になります。高校時代の同級生が古くからのマッドマックス・ファンであると聞いたので、彼と話してみました。
場所は阿佐ヶ谷にある昭和な喫茶店「よるのひるね」。

機材の不調で音がとても小さくてすみません。イヤホンで聞くと比較的はっきり聞き取れます。単なる雑談で、がんばって聞くほどの内容でもないのですが、世の40代男性がどのようにマッドマックスを愛してきたかを知る手助けに少しでもなったら幸いに存じます。

結局、最新作を何度も観るのが一番かも


私のツイッター・タイムラインでは相変わらずマッドマックス熱が増すばかりです。

最初にマッドマックスについて書いたとき、印象に残ったマッドマックスのレビューをいくつか紹介しましたが、それ以降にも面白いレビューをいくつか知ったので最後に紹介しておきます
(私のタイムラインにいて、これらの記事を間接的におしえてくださった、おかざき真里さん、橋本麻里さんに感謝します)。

▼《「マッドマックス 怒りのデスロード」には中年のオバチャンが出てこない /田房永子》
 この記事は、私がこの映画を観て感じた疑問点を、別の角度から埋めてくれています。

▼《元バイク屋の俺が全力で「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の魔改造バイクを特定しようと試みた結果》

この記事には、男性性の欠落した私が一度も味わったことのない「バイクに魅了されるマッドな男心」が淡々と表現されています。

▼《ケアと癒やしの壮絶ノンストップアクション〜『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(ネタバレあり)》
《シェイクスピアとバーレスク好き。》という書き手。フェミニスト的視点に言及しつつ、作中の「男性」に着目したレビューです。

▼《水耕栽培農家の視点から見る「マッドマックス 怒りのデス・ロード」》
まさかそのような専門家の視点で語られることがあるとは!

こうやって多くの人の感想を読みながら、ああでもないこうでもないとマックスのことばかり考えていた夏がそろそろ終わろうとしています。そういえばマッドマックス関連映画として、『ベルフラワー』をすすめてくれる方がいたので近々観てみようと思っています。

マッドマックス最新作に魅了されたら、マッドマックス過去作も観るべきか?
ということを考えながらこの一文を書いてきましたが、私の結論は「最新作のヒロイン像に魅了されているかたは過去作品は観なくてもいいかも」です。私自身は観てみて面白かったですが。

なおマッドマックス評が炎上したことで知られる二村ヒトシ監督と私で、9/24(木)21時からニコニコ生放送をやることになりました。当然マッドマックスの話からスタートします。ぜひご覧ください。
(枡野浩一)