プチコンのイメージキャラクター、ハカセも取材に駆けつけた

写真拡大 (全12枚)


高校卒業後の人生の方が圧倒的に長い


10 CLS
20 PRINT ”バカ”;
30 GOTO 20

このプログラムを入力して実行(=RUN)させると、はたして何がおきるのか!? わかった人はBASIC世代ですよね。画面中が「バカ」という文字で埋め尽くされて、強制終了するまで永遠に続く。たぶん誰もが一回は書いたことのある有名なプログラムでしょう。ここからFOR NEXT文で文字色を次々に変えたり、INPUT文で入力した単語を画面に表示させたり、いろいろ派生形を作りましたよね? 僕だけ? またまた〜謙遜しちゃって!

実際、1980年代のホビーパソコンには、BASIC(=Beginner's All-purpose Symbolic Instruction Code)という入門用のプログラミング言語が標準で搭載されていました。誰もがパソコン雑誌を片手にゲームプログラムを打ち込んでいたものです。そこから残機数を増やしたり、マップを書き替えたりと、自分なりに改造しながら、自然にプログラムを覚えていきました。筆者もその一人で、初めて買ったのが「日本のアップル2」と呼ばれたPC-6001。もう30年以上も前の話です。いやー、なつかしいなあ。

大阪の高校でBASICの授業導入が実現



なんと、このBASICがニンテンドー3DS向けに「プチコン3号 SmileBASIC」として絶賛販売中なんですよ。メーカーはヘンテコなゲームづくりで定評のある北海道のスマイルブーム。しかも、このソフトを授業で導入する高校があるという! その名も大阪府立泉尾高等学校(大阪市大正区)。この時代を逆行する施策に魂をうばわれ、さっそくお邪魔して、話を伺ってきました。


キーマンとなったのは情報の授業を担当する大見真一先生。もともと泉尾高校ではニンテンドーDSを用いた授業支援システム「ニンテンドーDS教室」を導入していました。しかしDSから3DSに市場が切り替わる中、本システムの活用頻度も少なくなり、終了気味になっていきます。一方でスマイルブームも任天堂経由で泉尾高校の存在を知ることに。さっそく学校を訪問し、意気投合した結果、この2学期から新たに授業で導入する運びとなりました。


プチコン3号が導入されるのは3年生の選択科目「パソコン演習」で、1回の授業における生徒数は約20人。これが2クラス実施されます。スマイルブームからはNew ニンテンドー3DS LLとプチコン3号、そして公式ガイドブック「ニンテンドー3DSでプログラミング!プチコン3号 ーSMILE BASICー 公式ガイドブック」が30セットずつ無償貸与されるほか、さまざまなサポートも行われる予定です。

高校卒業後の人生の方が圧倒的に長い


それにしても、なぜ今、BASICなのでしょうか。大見は「生徒にプログラムを身近に感じてもらって、人生の可能性を広げてほしかった」と導入意図を語りました。学区制が廃止された結果、いわゆる進学校と底辺校の格差が拡大している大阪の公立教育事情。泉尾高校も卒業生の半数が就職し、残る半数が大学と専門学校に進学。理系の大学に進学するのは1割程度で、お世辞にも「頭のいい子供たちが集まる学校」ではないと語ります。

しかし高校卒業後の人生の方が圧倒的に長いのは明らか。そんな中で3DSを用いた授業が、子供たちにとって何かのきっかけになれば、それだけで意義があるというわけです。「別にBASICでなくても良かったんです。実際にSCRATCH(スクラッチ、ブラウザ上で使える無料のビジュアルプログラミング言語)でプログラムの授業をしたこともあります。でもニンテンドー3DSだとゲームという目的が明確なので、食いつきが違います」(大見)




サンプルプログラムが充実しているので、まずはいろいろ触ってみて、パラメータを変えるところから始めたい。大見は授業の見通しについて、このように語りました。まさに、こうした改造が簡単にできるのがBASICの醍醐味です。「数学の先生が、生徒が平方根の概念を学ぶためのプログラムを作りはじめるなど、校内で広がりが出てきた」とも言います。これもまたBASICの敷居の低さゆえでしょう。

3年以内に生徒が作ったゲームを販売


一方スマイルブームの小林貴樹社長は「BASICを作って配布するのが昔からの夢だった。商売ベースでは厳しいので、週末に社員と2人でコードを書いた」と振り返りました。第1弾は2011年にニンテンドーDS向けにリリースされ、業界をあっと言わせたほど。2014年には3DSの機能を活かした「プチコン3号」をリリース。なんとBASICで立体視の映像表示までできるという、唯一無二のプログラミング言語となっています。


1982年にカシオから発売されたFP-1100でBASICのプログラミングを始めたという小林。あまりの処理速度の遅さに、さまざまな高速化テクニックが自然と磨かれ、そこから機械語やC言語へと進んで、ゲームプログラマーになっていたと言います。「高性能で無償のゲームエンジンもあるが、プログラムの力をつけるには、写経のように打ち込んでいくのが一番。そのためにはBASICが一番適している」と語りました。

また同社取締役の徳留和人は「ゲーム専門学校で学生作品を見ても、みな外見は綺麗だけど、似たようなゲームばかりでつまらない」と指摘しました。それよりも高校生がBASICで組んだゲームの中から、尖った作品が出てくることに期待したいといいます。同社ではユーザーが作ったゲームの中から優秀作を選び、ニンテンドー3DSで有償配信する取り組みも実施中。「3年以内に生徒が作ったゲームを販売するのが目標」とあかしました。

「やったらええやん」で即決


もっとも、どれだけ現場に思い入れがあっても、決定権を持つのは学校長です。公立校だけに行政をはじめ、さまざまな壁もあります。実際、泉尾高校では今春から校長が替わることが内示されており、すべてがひっくり返るリスクもありました。新校長の着任二日後におそるおそる「こんな話が進行中なんですが……」と切り出した大見。ところが中村泰孝校長は、「やったらええやん」と即答。大見はほっとしたと言います。


「これまで学校は教員の力だけでいろんな問題を解決しようとしてきましたが、それだと限界なんです。今はいろんな子どもがいて、いろんな教育の形があるけど、学校の先生はみなワンパターン。今回の件だけでなく、どんどん外の人の力を借りていかないと。その結果、ちょっとでも子供たちのためになるなら、どんどんやったらいい。それで問題が起きたら、自分が責任を取れば良いんです」(中村)

大正区役所で8月8日に開催された「大正ものづくりフェスタ2015」では、プチコン3号を用いた体験授業も実施されました。地域の未就学児童から中学1年生まで、さまざまな年齢層の参加者が、画面にキャラクターを表示させるプログラムに挑戦。先生方に加えて、お父さん・お母さん方も夢中になって、子供たちをサポートしていました。みんなゲーム世代ということなのでしょう。「初めてプログラムしましたが、おもしろかったです」などの声も聞かれました。



こんなふうに、まさか21世紀になってBASICが高校の授業に取り入れられるとは、夢にも思わなかった次第。しかもこのプチコン3号、昔と比べて圧倒的に実行速度が速いんですよ。IF文を何行も羅列するような、「汚い」書き方をしてもダイジョーブなんです。高校生の柔軟な発想力で、これからどんなゲームが生まれてくるのか期待大。とりあえず「BASICでゲーム作りが学べる高校は全国でも泉尾高校だけ!」とまとめたいと思います。
(小野憲史)