どうすれば人気ネット記事が書けるのか
2010年7月28日にスタートした『エキレビ!』。
今年でめでたく5周年。子どもなら保育園年長組。そろそろ親に的確な口ごたえをし始める頃。
その成長を記念して、7月29日に「米光一成×島影真奈美『どうすれば人気レビュー記事が書けるのか』」と題したトークイベントが開催されました。登壇者は『エキレビ!』発足時からのメンバーである米光一成と島影真奈美。編集長のアライユキコも加わって、5年の歳月を振り返ります。
会場は満員御礼。ライターや編集者の方の姿も多く見られました。エキレビ!ライターも10名ほど参加しています。人気レビュー、書きたいんですよ!
まずは1周年のときに人気だった記事を振り返る。「水嶋ヒロの『KAGEROU』のレビュー記事はめっちゃ伸びたのに、本は(リンクから)売れなかった」(アライ)などの裏話も交えつつ、1年目のエキレビ!年間ランキングから傾向をまとめたのがこちら(元記事:この1年で習得! ネットでアクセスを伸ばす5つの極意〜エキレビ!年間ランキング(2010〜11))
1)発売当日、もしくは近日に作品レビューがある重要性
2)エロ関係はやはり強い
3)ガジェット系、便利なランキング系
4)ツイッターで広まる
5)評判がいいけど公的な場所でレビューがまったくない→検索すると上位にくる
映画の封切り初日に書かれたレビュー(女の子を誘って見に行こう。媚薬いらずの官能映画「ブラック・スワン」)や、ファミレス・文具など身近なもののランキング、エロ的なワードでひっぱりながら正統派レビューで読ませたなぜ彼女はAV女優になったのか?『裸心』で明かされたそれぞれの理由も強い。拡散力や検索上位が重要なのも頷ける。
これを踏まえて5周年のいま。大きく変わったのはスマホからのアクセス。5年前といえばiPhone4が発売されたころ。PCに比べスマホは時と場所を選ばない。エキレビ!には土日祝盆正月関係なしにスマホからのアクセスがあり、数ではPCを上回っている。「スマートニュース」などのキュレーションサービスの影響も無視できない。
Twitterを始めとしたSNSの拡散力も5年前より大きくなった。だが、視聴率が高くてツイート数も多いドラマだからといってアクセスが伸びるわけでもない。エロについては「飲み会で下ネタに頼るタイプに面白い人いないじゃないですか」(島影)というわけで、面白い記事にするのは難しいジャンル。”これを書けば絶対伸びる”という方程式は無く、毎日試行錯誤中。
じゃぁ人気が出るレビューってどんなの?というと、「これを書く」に加えて「どう書く」かがポイントなのだ。
イベントの後半は、エキレビ!ライターに「いちばんよかった記事(自薦・他薦)」を聞いたアンケートの発表から。ライターが挙げた記事を見ながら「いいレビュー」について考える。挙げられた記事はバラバラなのだけど、その傾向は「切り口」と「コスト」にあると思う。
例えば、枡野浩一の映画『マッド・マックス〜怒りのデスロード』のレビュー(「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の魅力が理解できない私が、なんとか面白がろうとしてみた)。薦められたけど面白さがわからなかった枡野さん、知り合いに聞き取り調査をして、レビュー記事をいくつも読んで、もう1回観て……と、「わからない」と向き合い続けた記録。米光は「ある意味『ブログに書け』(笑)」とツッコみつつ、「ここにエキレビの未来がある気がする」と言う
「モヤモヤを書くのが上手」(島影)と評された、多根清史の細田守作品レビュー(今夜金曜ロードSHOW「おおかみこどもの雨と雪」夫の遺体が清掃車に回収された衝撃を吹っ切る妻の力 )も「切り口」で成功した例。映画を観てモヤモヤと納得行かない部分を”監督はわかってやってるに違いない”という立ち位置で書く。テレビ放映日とも重なって、マニアからライト層まで多くのアクセスを集めている。
もう1つのキーワード「コスト」は、記事を書くのにどれだけ手間がかかったかを表す。エキレビ!でコストがかかった記事を書くライターの代表といえば近藤正高。同じ原作なのにここまで違うか「天皇の料理番」35年前の旧シリーズと見比べてみたでは、映像ソフト化されていない35年前の『天皇の料理番』を比較対象に取り上げる。旧シリーズは横浜の放送ライブラリーで第1話のみ視聴できるため、名古屋在住の近藤が上京の「ついでに」出向いて書き上げたもの。他にもオリンピックや鉄道などをとことん調べて検証するレビューが多く、まだ30代半ばなのに「エキレビのじいや」(島影)と呼ばれているのだった。
コストがかかっている記事といえば、木俣冬の「まれ」レビューも(まれのあらすじ・レビューまとめ - エキレビ!)。NHKの朝ドラ「まれ」のレビューを月〜土の毎日書いています。現在100話を越え、前人未到の朝ドラ全話レビューを目指して進行中。
「自分が興味がありつつ、こういうやり口でやれるといい、みたいな鉱脈を見つけるとか書きやすくなる」(島影)。
「文章をこうしろとか、そこじゃないと思う。なにを伝えたいかとかこれが面白いんだとか、伝えたいメッセージがあって、その上でいい文章かどうかだから。(エキレビ!では)いろんなライターがいろんなことにこだわって書いてるみたいなのは、そこが起点なんだと思う」(米光)
イベントの最後には、”アライ編集長が大っ嫌いなフレーズ”が公開された。「こういう原稿が来たらキレるので送ってこないでください」という、その中身はこちら。
・読者への呼びかけ(「みなさんはいかがですか?」)
・なんか言ったふうな結び(「果たしていかがだろうか」)
・安易なですます調
・泥棒=単純な引きうつし
・覚悟と論拠のない批判記事
・あからさまなクリシェ(紋切り方の言葉)
・「〜と会場の笑いを誘った」など心ない説明でつないだだけのイベントレポ。
「安易ですます調」がNGなのは、「ですます」だと不安な内容でも書きやすいから。「ですます」は書き手が優位になる感じがあり、だれでもなんとなく先生になりすませる。「だ」「である」と言い切るほうが勇気と論拠が必要であり、「語尾と戦ってこそライターだと思うんですよ」(アライ)
イベントレポは「自分で観察したことをきちんと書くと上手になる」(アライ)、「心のあるなしって、書いてる側が思っているよりも読み手にはバレる」(島影)とのこと。僕もいまドキドキしながら書いていますけども……。
伸びそうだからといって引き写したりDis目的の記事は載せたくない。「薦めたくないものをなぜわざわざレビューしないといけないのか」(アライ)という編集長方針のもと、「そういうところと戦いながらでもアクセス数を伸ばさなければいけないという、ある種困難な使命を受けてこの地に降り立った天使」(米光)ことエキレビ!。
6年目のエキレビ!もどうぞよろしく。5周年特別企画、キングオブコメディ高橋健一が「コロコロコミック編集部」に潜入!(全3回予定)もぜひご覧ください。
(井上マサキ)
今年でめでたく5周年。子どもなら保育園年長組。そろそろ親に的確な口ごたえをし始める頃。
その成長を記念して、7月29日に「米光一成×島影真奈美『どうすれば人気レビュー記事が書けるのか』」と題したトークイベントが開催されました。登壇者は『エキレビ!』発足時からのメンバーである米光一成と島影真奈美。編集長のアライユキコも加わって、5年の歳月を振り返ります。
1年目と5年目の変化
まずは1周年のときに人気だった記事を振り返る。「水嶋ヒロの『KAGEROU』のレビュー記事はめっちゃ伸びたのに、本は(リンクから)売れなかった」(アライ)などの裏話も交えつつ、1年目のエキレビ!年間ランキングから傾向をまとめたのがこちら(元記事:この1年で習得! ネットでアクセスを伸ばす5つの極意〜エキレビ!年間ランキング(2010〜11))
1)発売当日、もしくは近日に作品レビューがある重要性
2)エロ関係はやはり強い
3)ガジェット系、便利なランキング系
4)ツイッターで広まる
5)評判がいいけど公的な場所でレビューがまったくない→検索すると上位にくる
映画の封切り初日に書かれたレビュー(女の子を誘って見に行こう。媚薬いらずの官能映画「ブラック・スワン」)や、ファミレス・文具など身近なもののランキング、エロ的なワードでひっぱりながら正統派レビューで読ませたなぜ彼女はAV女優になったのか?『裸心』で明かされたそれぞれの理由も強い。拡散力や検索上位が重要なのも頷ける。
これを踏まえて5周年のいま。大きく変わったのはスマホからのアクセス。5年前といえばiPhone4が発売されたころ。PCに比べスマホは時と場所を選ばない。エキレビ!には土日祝盆正月関係なしにスマホからのアクセスがあり、数ではPCを上回っている。「スマートニュース」などのキュレーションサービスの影響も無視できない。
Twitterを始めとしたSNSの拡散力も5年前より大きくなった。だが、視聴率が高くてツイート数も多いドラマだからといってアクセスが伸びるわけでもない。エロについては「飲み会で下ネタに頼るタイプに面白い人いないじゃないですか」(島影)というわけで、面白い記事にするのは難しいジャンル。”これを書けば絶対伸びる”という方程式は無く、毎日試行錯誤中。
じゃぁ人気が出るレビューってどんなの?というと、「これを書く」に加えて「どう書く」かがポイントなのだ。
「切り口」と「コスト」
イベントの後半は、エキレビ!ライターに「いちばんよかった記事(自薦・他薦)」を聞いたアンケートの発表から。ライターが挙げた記事を見ながら「いいレビュー」について考える。挙げられた記事はバラバラなのだけど、その傾向は「切り口」と「コスト」にあると思う。
例えば、枡野浩一の映画『マッド・マックス〜怒りのデスロード』のレビュー(「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の魅力が理解できない私が、なんとか面白がろうとしてみた)。薦められたけど面白さがわからなかった枡野さん、知り合いに聞き取り調査をして、レビュー記事をいくつも読んで、もう1回観て……と、「わからない」と向き合い続けた記録。米光は「ある意味『ブログに書け』(笑)」とツッコみつつ、「ここにエキレビの未来がある気がする」と言う
「モヤモヤを書くのが上手」(島影)と評された、多根清史の細田守作品レビュー(今夜金曜ロードSHOW「おおかみこどもの雨と雪」夫の遺体が清掃車に回収された衝撃を吹っ切る妻の力 )も「切り口」で成功した例。映画を観てモヤモヤと納得行かない部分を”監督はわかってやってるに違いない”という立ち位置で書く。テレビ放映日とも重なって、マニアからライト層まで多くのアクセスを集めている。
もう1つのキーワード「コスト」は、記事を書くのにどれだけ手間がかかったかを表す。エキレビ!でコストがかかった記事を書くライターの代表といえば近藤正高。同じ原作なのにここまで違うか「天皇の料理番」35年前の旧シリーズと見比べてみたでは、映像ソフト化されていない35年前の『天皇の料理番』を比較対象に取り上げる。旧シリーズは横浜の放送ライブラリーで第1話のみ視聴できるため、名古屋在住の近藤が上京の「ついでに」出向いて書き上げたもの。他にもオリンピックや鉄道などをとことん調べて検証するレビューが多く、まだ30代半ばなのに「エキレビのじいや」(島影)と呼ばれているのだった。
コストがかかっている記事といえば、木俣冬の「まれ」レビューも(まれのあらすじ・レビューまとめ - エキレビ!)。NHKの朝ドラ「まれ」のレビューを月〜土の毎日書いています。現在100話を越え、前人未到の朝ドラ全話レビューを目指して進行中。
「自分が興味がありつつ、こういうやり口でやれるといい、みたいな鉱脈を見つけるとか書きやすくなる」(島影)。
「文章をこうしろとか、そこじゃないと思う。なにを伝えたいかとかこれが面白いんだとか、伝えたいメッセージがあって、その上でいい文章かどうかだから。(エキレビ!では)いろんなライターがいろんなことにこだわって書いてるみたいなのは、そこが起点なんだと思う」(米光)
「語尾と戦ってこそライター」
イベントの最後には、”アライ編集長が大っ嫌いなフレーズ”が公開された。「こういう原稿が来たらキレるので送ってこないでください」という、その中身はこちら。
・読者への呼びかけ(「みなさんはいかがですか?」)
・なんか言ったふうな結び(「果たしていかがだろうか」)
・安易なですます調
・泥棒=単純な引きうつし
・覚悟と論拠のない批判記事
・あからさまなクリシェ(紋切り方の言葉)
・「〜と会場の笑いを誘った」など心ない説明でつないだだけのイベントレポ。
「安易ですます調」がNGなのは、「ですます」だと不安な内容でも書きやすいから。「ですます」は書き手が優位になる感じがあり、だれでもなんとなく先生になりすませる。「だ」「である」と言い切るほうが勇気と論拠が必要であり、「語尾と戦ってこそライターだと思うんですよ」(アライ)
イベントレポは「自分で観察したことをきちんと書くと上手になる」(アライ)、「心のあるなしって、書いてる側が思っているよりも読み手にはバレる」(島影)とのこと。僕もいまドキドキしながら書いていますけども……。
伸びそうだからといって引き写したりDis目的の記事は載せたくない。「薦めたくないものをなぜわざわざレビューしないといけないのか」(アライ)という編集長方針のもと、「そういうところと戦いながらでもアクセス数を伸ばさなければいけないという、ある種困難な使命を受けてこの地に降り立った天使」(米光)ことエキレビ!。
6年目のエキレビ!もどうぞよろしく。5周年特別企画、キングオブコメディ高橋健一が「コロコロコミック編集部」に潜入!(全3回予定)もぜひご覧ください。
(井上マサキ)