「連続テレビ小説 まれ Part2 」NHK出版 

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朝ドラ「まれ」((NHK 月〜土 朝8時〜)8月1日(土)放送。第18週「親心ロールケーキ」第108話より。脚本:篠崎絵里子(崎の大は立) 演出:村橋直樹

紺谷博之(板尾創路)が陶胎漆器のプロジェクトを辞めると言いだし、圭太(山崎賢人/崎の大は立)は奮起。必死で漆器組合の人々を説得、無事、陶胎漆器が完成しました。すべて博之の作戦でしたが、悪役でいようとする彼の気持ちを、希(土屋太鳳)は尊重します。

いつもなんでもしゃべってしまう「まれ」の人々の性分を逆手にとって、博之の真実だけは絶対口にしないとがんばる希の姿が描かれた108話。
悪者になってまで息子・圭太を男にするなんて、本来、かなり感動的なエピソードですが、圭太がへたくそな蒔絵のデザインを描いただけで、みんなが笑ってひとつになる流れが軽すぎて、博之のかっこよさが生きなくて、残念。

決して切り捨てない


「まれ」のスタッフは、ひたすら駄目なひとを駄目なまま描き続けます。どうやら、周囲が駄目なひとたちをあたたかい目で受け容れることのほうこそ大事にしているように思えます。
その視点はすばらしい。世の中、ガッツのあるひとばかりじゃないし、頑張ればなんでもすばらしくできるわけでもない。むしろ、頑張れないひとや、頑張ってもうまくできないひとのほうが多いでしょう。そういう人たちを「まれ」は決して切り捨てないのです。ブラボー。

脚本家の篠崎絵里子は、「悲劇的なことはなるべく明るく描きたい。悲劇を悲劇のまま描くと、大事なことが抜け落ちてしまう気がします。」と公式サイトのインタビューで語っています。
そのわりには、申し訳ないですが、「まれ」の登場人物に、悲劇を笑い飛ばすほどの底抜けな明るさを感じません。その明るさは、ほどほど。なぜなら、明るさで吹き飛ばしたい出来事がほどほどでしかないからでしょう。
「まれ」の住人たちには限界を超えるほどの熱さやがんばり感がない。カッとなるものの、葛藤ないまますぐに冷めて、にこにことめでたしめでたしになってしまう。
それに比べると、この数年の朝ドラは、自分の置かれた負の状況を乗り越えようとがんばり、その熱が簡単に引かないひとたちが多かったです。それだけ困難が手強かったんですね。ざっと思い出してみますとーー。

14年「マッサン」、スコットランドから日本に嫁に来たエリー、よくがんばってました。
「花子とアン」、花子もがんばってましたが、蓮子さまの沸騰点の高さはかなりのものでした。
13年「ごちそうさん」、め以子と小姑・和枝とのバトルは相当熱かったです。
「あまちゃん」、サブタイトルに「おらたち、熱いよね!」とあるくらいです。
12年「純と愛」襲ってくる重い出来事と必死で闘っていました。
「梅ちゃん先生」、戦争で焦土になった場所からはじまっただけあって、みんながんばってました。
11年「カーネーション」恋にも仕事にもがんばってました。
「おひさま」ヒロインの名は太陽の陽からとった陽子、エネルギッシュでした。

ここにあげた作品はどれも、登場人物が戦争か震災を体験しているんです。
「おひさま」「カーネーション」「梅ちゃん先生」「ごちそうさん」「マッサン」第二次世界大戦、
「純と愛」阪神淡路大震災(子供のときに経験している設定)、
「あまちゃん」東日本大震災、
「花子とアン」関東大震災と第二次世界大戦のダブル。

さらに遡ると、10年の「ゲゲゲの女房」はヒロインの夫が戦争で腕を失った漫画家(不自由なカラダで漫画を描いている向井理の凄まじい表情、忘れられません)で、「てっぱん」は「まれ」同様、戦争も災害も描かれていません。

喪失に頼るのもどうなんだろうか


朝ドラには必ず戦争や災害が描かれるわけではないものの、戦争や災害、家族の死など大きな喪失体験が描かれることは多いです。
とくにこの数年は、上記のように戦争があった時代を描いたものが続きました。ところが、戦後から70年、阪神淡路大震災から20年にあたる今年、「まれ」には戦争も震災も描かれていません(いまのところ)。
「まれ」は2000年代のおはなしなので、戦争は今後も描かれないでしょうし、震災に関しても、阪神淡路と東日本のちょうど間の物語なのでどちらも描かれないのではないかと推測します。
「まれ」を見ていると、大きな喪失を体験しないと人間は熱さや頑張りをもつことができないのだろうか、と考えてしまうのです。いや、本来、徹の破産などは相当大きいと思うのですが・・・ということはさておき、熱い感動や共感を得る物語をつくるために大きな喪失に頼るのもどうなんだろうか、と「まれ」に問われているような気さえしてきて・・・。
戦後70年、阪神淡路大震災から20年の今年、その悲劇を伝えるたくさんのドラマや番組が放送されているなかで、「まれ」だけ無関係なところを歩んでいるのは、なんらかの意図があるのでしょうか。
2007年3月に能登半島地震がありましたが、セリフででも回想することはあるのでしょうか。

そんなことを思いながら、現実では、もうすぐ終戦の日がやってきます。
(木俣冬)

エキレビ!にて月〜土まで好評連載中! 木俣冬の日刊「まれ」ビュー全話分はこちらから

いまひとつ視聴率が伸びないが、奮闘は讃えたい。NHK朝ドラ「まれ」おさらい(54話までを総括))