吉田豪インタビュー企画:爆笑問題・太田光「ネットは罪、ホントになくなったほうがいい」(1)
日本最強のプロインタビュアー吉田豪が注目の人物にガチンコ取材を挑むロングインタビュー企画。今回のゲストは、爆笑問題の太田光さん。芸人として様々なジャンルで活躍する太田さんは、時に、その発言が世間を大きく騒がせて、“炎上”状態を呼んでしまうことも。その過激な発言に秘められた真意を聞いた!
触れちゃいけない「話題」に触れすぎた──先日(15年4月12日)、いつものように『爆笑問題の日曜サンデー』(TBSラジオ日曜13時〜)を聴いていたんですけど、温水洋一さんのイジり方を完全に間違えていたのがおもしろかったです(笑)。
太田 うそっ! 間違えてた?
──温水さんに大人計画の話ばっかり聞き続けてましたけど、あれはやっちゃいけないことみたいなんですよ。
太田 あ、そうなの? なんで?
──どうやらデリケートな感じで大人計画を辞めているっぽくて、でも世間的にはなぜ辞めたか一切伝わってないぐらいの感じなんですよ。だから、みんなそこはイジらないようにイジらないようにしていて。
太田 え! 全然知らなかった!
──しかも、大人計画と松尾スズキさんの話をさんざん聞いた後も、次はグループ魂がどうとか宮藤官九郎さんがどうとか聞き続けて。グループ魂なんて温水さんとはなんの接点もないはずですよ(笑)。
太田 そうなんだ! それ先に言っといてもらわないと(笑)。
──完全な事故だと思って、すごいおもしろかったんですよ。あれを無邪気にできるのがすごいし、普通だったら太田さんがそうやっていじってたら田中(裕二)さんが止めるじゃないですか。
太田 あれは田中もたぶん知らなかったと思う。
──ふたりで無邪気にいじってましたからね。ボクもハラハラしながらTwitterで実況してたんですよ、「たいへんなことになってる!」って。
太田 知ってたんだったら教えてよ!
──普通はトラブルがあったことぐらい知ってると思いますよ!
太田 そっか、トラブルで辞めてるんだ。スタッフも誰もなんにも疑問を感じてなかったから。そこしか取っ掛かりがないからさ、大人計画ってことしか。
──しかも「え、温水さん大人計画を辞めてたの?」って素で驚いてましたもんね(笑)。温水さんが大人計画を辞めたのは20年以上前ですよ!
太田 ホントにそのへんアバウトにしかわかってないから。大人計画って、俺らとほぼ同期なんだけど。
──『冗談画報』とかに出ていた時期が大体一緒なんですよね。
太田 そうそう。だけど、あの頃は俺「なんだよ小劇団あがりが!」って思ってたクチだから。
──日大芸術学部で三谷幸喜さんと一緒だった関係で、小劇団への複雑な感情が相当ありますからね(笑)。
太田 いや、自分もあの頃小劇団やってて、嫌んなっちゃった部分があるんだ。だから内部事情とか全然知らないんだよね。……そうだったのか、悪いことしたな。
──ゲストコーナーにそれくらいの知識で挑んでいるっていう事実がすごいじゃないですか。
太田 すごいことしようと思ってやってるんじゃないから(笑)。完全に無意識。じゃあ温水さん、松尾さんとかも共演してないんだ。
──大人計画を辞めた後はまったく接点ないはずですよ。ボクも松尾さんとは交流ありますけど、温水さんが抜けた理由については聞いたことないですもん。「あれって実際どうだったんですか?」っていうのは。
太田 ヤバいなあ……。
──自覚ないからできることって多いんですかね。
太田 そうだろうね、きっと。でも、自覚あったら逆につっつきたくなる可能性もあるんだけど。大人計画あたりは、べつにタブーでもそんな大ごとにはならないだろうっていう……そこが悪いとこなんだろうね(笑)。知ってたら知ってたでイタズラ心が働いて、うまくイジッちゃおうかなっていうこともあるし。やっぱ知ってたほうがいいね。知らずに言うのが一番危ないよね。
──それと『日曜サンデー』ではアンバランス山本(栄治)さんの離婚の原因トップ3も最高におもしろかったです。
太田 あれ、おもしろかったよね!
──奇跡的でした。「第3位、初めての嘘」「第2位、ずっと待ってたのに」とか、それまで伏せていた離婚の原因をネタにするという。ああやって奥さんに浮気されたりのデリケートな話をイジれるのがラジオのよさですよね。
太田 かわいそうだよなー(笑)。ただ、山本の場合はもっと根の深いところはイジれないんだけどね。あいつは究極のタブーを持ってるから。それは言えないんだけど。言ったら吉田さんはすぐ書くから。
──ボクはすぐラジオとかで言っちゃいますからね(笑)。今回、太田さんをインタビューするってことで1回ちゃんと聞いておきたいことがあって。……太田さんは最初、ボクのこと絶対に嫌ってましたよね?
太田 え! 嫌ってないよ、べつに。
──たぶん、インタビューで聞いた話をラジオとかですぐ言っちゃう奴っていう悪いイメージがあったと思うんですけど……。
太田 ああ、ダウンタウンの松本さんのことかな?
──そうです。最初に取材したとき、その話題に踏み込んだら空気が固まって、原稿チェックで(太田さんの奥様の太田光代社長に)カットされたっていう話をラジオでしちゃったので。
太田 でもね、それこそ知らずに……知らずにっていうのもなんかあったみたいで嫌だけど(笑)。そういう人はたまにいるから、そこを聞きたいんだなとは思ったけどね。
──そこをわざとぶつけてきたなっていうのをまず感じて。
太田 うん、それは思ったけど全然嫌ってないですよ。
──そのことをずっと気にしていたんですよ。
太田 だってもう吉田さん巨匠だからね。
──いやいや、ただのファンで、ラジオリスナーですから!
太田 そうか。しかし、温水さんそうだったんだ。それ結構、有名な話なの?
──有名だと思いますよ。
太田クドカンとかもダメなのか……。
──ただ、誰も聞かない部分に踏み込みまくったから、その新鮮な反応が聴けておもしろかったんですよ。
太田 そうなんだ。でも、しょうがないもんね。俺がそういうふうに「ダウンタウンの松本さんどうですか?」って聞かれることも、知らない人を責められないしね。それはこっちが「その質問、聞こえませーん」みたいなことをやるわけにもいかないし。同じ業界だからね。特にここ最近はあんまりタブーみたいなことも崩壊しつつあるような空気があるじゃないですか。
──ただ、ラジオを聴いている限り、太田さんのタブーのなさは異常だと思いますよ。
太田 それは知らない可能性が多いから。
──知っててやってるのもあるじゃないですか。最近だと『週刊文春』のメリー喜多川さんのインタビューをラジオでネタにしてるって太田さんぐらいですよ。
太田 あ、そう?
──「飯島呼んできて、飯島!」って連呼して(笑)。
太田 これはホントにオフレコなんだけど……(以下、太田さんらしいとしかいえないエピソードが続くが、もちろん自粛)。
──ホントそういうとこはすごいですよね……。
太田 言わずにはいられない、ついうれしくなっちゃって(笑)。
──ラジオで真似するだけでもアウトだと思うんですよ。
太田 アウトなのかなぁ? これも書けないんだけど……(以下、再び太田さんらしいとしかいえないエピソードが続くが、もちろん自粛)。だから俺のなかではわりとジャニー社長はシャレの通じる人なんだろうなっていう認識はある。器がデカいんじゃないかな。トシちゃん(田原俊彦)なんかとも最近よく話すんだけど、ジャニー社長はホントに舞台のことしか考えてないいいおじいさんだって言ってるから。
──トシちゃんの本を読んだら、トシちゃんが唯一ジャニーさんを怒らせた話っていうのがひどかったんですよ。ふたりで移動してるときに車の中でトシちゃんがオナラしたのをジャニーさんのせいにしたら、「ユー、ひどすぎるよ!」みたいに激怒されたっていう死ぬほどくだらない話で。
太田 ハハハハ! くだらない(笑)。……でも、あの頃は俺ホントひどかったから。そういうことすらわかってなかった。……まあ、わかってないわけないんだけど。
──そりゃあ干されるわって感じですよね。
太田 そりゃあ干されるよ、いま考えると。だって、ウチの社長(奥様の太田光代さん)にもさっきの話してないから。
──そうなんですか!
太田 怖いから。どんだけ怒られるかわかんないもん!
──ダハハハハ! つまり、こっちがヤバいと思うようなことも、意外とそんなにヤバくないことって多いんですかね。
太田 よく思うのは、たとえばバーニングにしろジャニーズにしろ、みんな勝手に想像して怖がりすぎてるんじゃなかな。ホントの怖さは知らないですよ、俺も。ついこないだもNHKで俺らの漫才ネタがダメだったっていう話が広まっちゃったんだけど、あれはラジオの裏話で言ったことがニュースになっちゃって。まだネットだけならいいけど、毎日新聞の社説までその話題を取り上げるみたいなことになっちゃって。そんな、籾井会長がわざわざネタチェックしてるはずないじゃんっていう。で、籾井会長も俺と似て、わりとひと言多いタイプだからさ(笑)。
──迂闊なんですよね(笑)。
太田 そうそう。俺、あの人の前でもさんざん言ったこともあるんだけど。
──本人の前で直接いじったらしいですね。
太田 うん。だけど、そのへんの漫才師を「けしからん!」とはさすがに言わないですよ。そこまで子供じゃい。洒落はわかりますよ。それはあまりにも深読みしすぎというか、陰謀論を世の中は好きすぎちゃって。そういう話は楽しいんだろうけど、そこまでキチッと陰謀できる世の中じゃない。
──つまり、直接的な圧力をかけられたことはないわけですね。
太田 うん。だって籾井会長が1個の番組全部、しかも漫才のネタまでチェックするなんてことをやれるほど器用じゃないですよ。
──そこまで暇でもないだろうし。
太田 暇でもないし。だから本当の圧力っていうのがあるのかどうかわからないけど、世間が思ってるような、そこまでのことには気が回ってる世界ではないと思うけどね。安倍(晋三)さんがどうのこうのって言われたりもするけど、国家がそんなことまで管理できないでしょ。だから、俺は『報ステ』の……。
──古賀(茂明)さんの降板騒動ですね。
太田 あの人は逆にちょっと考えすぎだなって思うほうだから。もっと事情は別にあるんじゃないかなって。テレビ局のお家の事情とか、スポンサーの事情とか、そういうことはたぶんキャスティングにも関わってくるだろうけど、国が直接どうこうしてキャスティングに介入するっていうところまでのものはやれないと思うけどね。
──だからこそ太田さんは、テレ朝の入社式でものびのびと古賀さんネタをイジることができたわけですよね。
太田 あれはみんなちょっと頭抱えてたけど(笑)。あのときは旬だったんだよね。で、テレ朝の上層部がみんないたもんだから、ちょっとそこに触れないのもなんかアレだから、場を和ませようとしたっていうところなんだけど。
──デビュー当時ほどの無茶はしなくなったけど、だからといって無茶をしないわけじゃないってことですよね。
太田 あれなんかも、テレビっていうのは中立なことを言ってほしいメディアだから、テレ朝的には、あんまり偏ったこと言う人はちょっとっていうことなんだろうし、よくよく考えてみたら『報ステ』なんてどっちかっていうと政府批判のほうが多いしね。むしろ、みんなが思ってる以上にヤバいことはほかにあるよとは思う。それはやっぱりスポンサーだよね。国じゃない。なおかつ、もっと言うと視聴者。俺が一番怖いのは、たとえば籾井会長にしろ安倍さんにしろ、本人たちは全然怖くないけども、それを取り巻くシンパの反応のほうだよね。
──そっちのシンパの数が多数になる時代になったら怖いってことですよね。
太田 そうそう。権力者はなんにも言ってこないけど、国民のほうが黙らせようとしてくるっていう。たとえば街宣車が来るとか、そういうことのほうが俺たちにとっては一番圧力に感じるし、逆に言うとコントロールしやすい国だろうなと思うけどね。権力者にとっては。自分が言う前に国民が国民を黙らせてくれちゃうわけだから。
──「お前は非国民だ!」って勝手に怒ってくれて。
太田 そうそうそう。それこそネットの炎上だとか、なんかそういう正義感っていうのは勝手に盛り上がっちゃうじゃない。今度は左側の連中も、俺なんかにしてみればそんなじゃないのに、「NHKに言論の自由がない!」「国家の陰謀だ!」みたいなことを国民の側がやるから、なんかちょっとややこしくなっちゃうんだよね。
──要は太田さん、安倍首相が大好きな人にも大嫌いな人にも引っかかってるってことですよね。
太田 うん。だからネットは罪だよね。ネットはホントになくしたほうがいいと思う。
──ホントに太田さんはネット嫌いですよね。ただ、これネット用のインタビューなんですよ(笑)。
太田 あ、これネットか! それこそ安倍さんなんかもネットさえなければなんでもないんだけど、何日かあとにマネージャーに聞いて、「あれヤバいことになってますよ」って。
──あ、つまり『日曜サンデー』で「安倍っていうバカ野郎」と言って大炎上していたことにも全然無自覚だったんですか?
太田 そう。
──まあ、いつものことですからね(笑)。
太田 いつものことだから、「なんてことないんじゃない?」って言ったら、でも社長に怒られるから、ちょっと反省してるようにしとこう、みたいな。そもそも、お笑いの構造っていうのを取り違えてるようなところはちょっと感じるんだよね。たとえば俺が田中の頭を叩く。「それはイジメだ!」ってなるけど、一方では叩いてる俺がバカだなっていう、「なぜいま叩いた? あいつ頭おかしいだろ?」っていうことで笑ってる人が大半なのに、逆に叩かれてる田中を笑ってるっていう意識が多いことに驚いちゃう。安倍さんのことについても、こっちがバカなんですよっていう、そこまでのツッコミじゃない。
──「総理大臣でもバカはバカ」とか言ったら、「そう言うおまえのほうがバカなんだよ!」ってツッコミがほしいわけですね。
太田 そうそう。お前が言うな!っていう、それで俺が世間に嗤われる。そこまでで、セットじゃない。
──ツッコミを超える感じで怒られると「あれ?」っていう。
太田 うん。俺は村上春樹を批判するときも「クソつまんない、あんなもん!」って言うのは、「おまえが言うなよ、全然売れてねえくせに!」ってことじゃん。でもなんか、それもいちいち説明したくないんだけどさ。真正直にそう受け取っちゃったら、そりゃそうだけどさ、みたいなところがあるじゃない。わかっててそうしてるのかもしれないけど。
──作家の人と絡むときの太田さんの過剰なジェラシーの出し方が大好きなんですけど、あれを本気で受け止められても困るわけですよね。
太田 そうそう。お笑いって必ず「言ってるヤツがバカだ」っていうところで落ち着いてるつもりなんだけど、なんかうまくいかないよね。
──最近も執拗にピースの又吉(直樹)さんに絡みまくったじゃないですか。
太田 そうそう、だから又吉に「おまえわかってんな。自分の本の話をするときは俺の本のことまず言えよ」って言うのは、半ば本気もあるけど、あれを「後輩に向かって圧力をかけた!」って言われちゃうと……。まあ、そのとおりなんですけどってなるけど、そこを笑ってよっていうところはあるよね……笑えないのかな?
──放送で聴いていればそういう空気込みで伝わる部分が、ネットニュースとかで文字になると伝わりづらくなるじゃないですか。
太田 ああ、それはありますね。
──ネットニュースの弊害ってそこだと思うんですよ。空気をそのまま伝える能力がないし、注目を集めるためにタイトルが過激になって、事実とかけ離れていきがちっていうか。
太田 たしかにね。でも、そういうことって増えてるかもしれないね。パワハラだなんだ、なんでもハラスメントにするっていうのは、ふたりの関係性とかそういうの全部抜きにして、やられた事実だけを問題にするってことでしょ。ひどいことやってるほうが笑われてるんだっていう前提を全部抜いて事実だけ羅列すれば、「こんなひどいこと言いました」になっちゃうから、難しいっちゃ難しい。いま、人と人とのあいだにネットが入っちゃってるから。近い人でもそうだから、それは悲しいですよ。
──ケーシー高峰に「セクハラだ!」って怒るようなもんですよね。
太田 ネタ成立しないもんね。そんなの、あの人に生きていくなってことでしょ。
──ちなみにボクはネットがかなり好きなんですけど、そんなボクでも最近は面倒くさいと思うことがあって。ラジオの音声をそのままフルで動画サイトに上げるパターンは前からあったんですけど、最近は5分ぐらいだけ抜粋して、刺激的なタイトルをつけてアップされるようになって。そしたら、そこで名前を出されている本人が検索して見つけて「あれ違うよ!」って電話で怒られて、「いや、あれは10年前の時点でボクがラジオで話したことで……」みたいな説明をする羽目になったりで。
太田 そういうのがあるの?
──で、じつはそれで太田光代社長からも電話が掛かってきたんですよ。光代社長のこともラジオで話してるから自分で検索して発見したみたいで、「あれ、たぶん誰かが勝手にやってることでしょ? 私が抗議して消してあげようか?」みたいな話もあって。
太田 えーっ!! そういうの、どうなんだろうね? でもここんとこ、ふかわ(りょう)に殺人予告した人が捕まったりとかいろいろあるよね。……ふかわなんか殺しちゃえばいいじゃん。って言ったらまた問題になるだろ?(笑)
──ダハハハハ! で、そういう発言がそのままネットに流れると大問題になるんですよ(笑)。
プロフィール爆笑問題
太田光
太田光(おおたひかり):1965年、埼玉県出身。1988年に大学の同級生の田中裕二と爆笑問題を結成し、時事問題も取り込んだ漫才で人気を獲得。テレビ、ラジオなどで活躍する他、著書も多数。爆笑問題としての著書だけでなく、太田個人で『マボロシの鳥』などの小説も発表している。近著は爆笑問題と映画評論家・町山智浩との共著『自由にものが言える時代、言えない時代』。6月3日には毎年恒例の時事ネタ漫才ライブのDVD『2015年度版 漫才 爆笑問題のツーショット』をリリース。
プロフィールプロインタビュアー
吉田豪
吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(?)新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。
(取材・文/吉田豪)