病気の子どもの夢は「大人になること」
子どもの不登校問題は度々話題になるが、病気がきっかけで不登校になったと自覚している子どもが15%もいることをご存知だろうか。大人でもショックな入院。子どもならさらに挫折を感じてしまうという。

そのような、入院して学校に通えない子ども達を教える「院内学級」で、子ども達を笑いで癒しているのが副島賢和先生だ。かつて大泉洋さんが主演したTVドラマ『赤鼻のセンセイ』のモデルにもなった。

今回、昭和大学病院の「さいかち学級」の副島先生に、「子育て世代の生命保険料を半額にして、安心して子育てをしてほしい」と願うライフネット生命が、「不安を感じている子どもへの寄り添い方」についてお話をお伺いしました。

――そもそも、先生が院内学級を希望したきっかけは何だったのですか?

私は大学を卒業してからずっと、東京都の小学校教員でした。昔から身体が弱く、教員になってからも何度か入院しました。その時に出会ったのが、ずっと入院していて病院からなかなか出られない男の子です。当時、私は早く退院したくて、「病院の中=不幸、病院の外=幸せ」と考えていたんですね。

でも、ある時ふと思ったんです。「待てよ、外に出られなかったら、あの子は幸せになれないのか!」と。「もし病院が子ども達に楽しい場所だったら…」そうぼんやり考えていた時、高校生になっていた教え子が病気で亡くなりました。

そして「病気で学校に行けない子どもたちのために、何かできることがあるのではないか」と思った私は、東京学芸大学の大学院に行き、小林正幸先生のもとで児童心理学を学び、教員10年目ごろから院内学級へ異動を希望するようになりました。

――それから先生はすでに8年間、病気の子どもに寄り添い続けていますが、大変な事も多いと思います。ここまで続けてこられた理由などはありますか?

さいかち学級で出会った宮崎涼くんという子がいましてね。ある時、退院が決まった涼くんが、ニコニコしながら「僕、幸せなんだ」と言ったんです。そこで「どんな時が幸せ?」と聞いたら「空がキレイな時とか、家族といる時」
当たり前のことですよね?でも彼は続けてこう言いました。「先生、僕ね、他の人が幸せと思わないことも幸せに思えるんだ」。その時に彼が書いた詩がこれです。

宮崎涼くん(12歳)の詩
「ぼくは幸せ」


お家にいられれば幸せ
ごはんが食べられれば幸せ
空がきれいだと幸せ

みんなが幸せと思わないことも
幸せに思えるから

ぼくのまわりには
幸せがいっぱいあるんだよ


その1ヵ月後、彼は亡くなりました。
その涼くんが6年生の時、スピーチ大会で話したのが「心を病んだ子どもが安心して過ごせる場所を作りたい」ということ。その時「一緒に作ろう」と約束した事が、今まで続けられた理由の一つかもしれません。

※さいかち学級からの眺め。曇り空だが、いつもはキレイな雲が見える。

「私がもし大人になったら、詩人になりたい」と言った女の子もいました。その子は大人になることさえ約束されていない。涼くんがなんでもない事に幸せを感じたように、自分達が大人であること自体、夢のような事なのかもしれません。

――大人でも病気になると不安を抱きますよね。感受性の豊かな子どもなら、なおさらだと思います。そうした子どもたちとコミュニケーションを取る時、どんなことに気をつけていますか?

入院している子どもは、不安を強く感じています。ですから、まずはここが安心できる場だと感じてもらうこと。特に心がけているのが「比べないこと」です。初めてここに来た子の多くは、他の子と自分を比べて、自分のポジションを見つけようとするんです。不安だからマウンティングしようとするんですね。

例えば、「そんなこともできないの?」と言ったり。だから、そんな時はこう言います。「先生はあの子とキミを比べないよ。比べるなら、昨日のキミと今日のキミだよ」。すると、子どもの表情がすごく柔らかくなるんです。

その次は、子どもに感情を表に出させることを考えます。特に大切なのは、不快な感情を言語化させてあげること。子どもは自分の感情を上手に表現できません。ですから、「何で薬を飲まなきゃいけないの」「どうして入院しているのに勉強をするの」と言ったりします。

本当は、本人もわかっている。それでも「やらない」と言う時は、「なにか感情が引っかかっていてできない」状態なんです。そこを大人がちゃんと理解し、隣でゆったり構えてあげなくちゃいけません。

子どもから怒りや悲しみをぶつけられるのは、大人も辛いですよ。でも、小林先生に「怒りは願いの裏返し」「悲しみは訴え」と教わりました。それ以来、怒りは子どもの願いだと思って聞いてみると、受け止められるようになりました。

小さい子どもは特に、感情を言葉にできません。すると、感情があふれてしまい、友達を叩いてしまったり、身体の症状として出ることがあります。そこで、大人が「イライラするんだね」とか「傷ついたんだね」と言ってあげるんです。

すると、すぐにはできなくても、その子ども自身がだんだん感情を言葉に表現できるようになる。その時、大人は「子どもの感情は受容して、怒りによる暴力行為は許容しないこと」が大切です。
と言っても、大人でも自分の感情を言葉に表現できない人は多いですけどね。そして、その感情を受け止めてくれる人がいない時もあります。

――今、お話をお聞きしながらすごく反省しています。私には娘と息子がいるのですが、子どもに対しても妻に対しても、もっとしっかり感情を受け止めなければいけない、と思いました。

わかります。私も今お話ししたことを学んだあと、自分の子どもに謝りました。実は私、子どもに泣かれるのが苦手でして。我が子が泣くと「泣くな!」と怒鳴ってフリーズさせていたんです。自分自身が泣き虫で、泣くのを我慢してきたからこそ、人が泣くと怒りが湧いてきていたんですね。

でも、今は子どもの前でも泣きますし、どんどん感情を出します。感情に良い悪いはないんです。不快な感情、ネガティブな感情を押さえることは、「半分の状態」で生きていること。不快な感情もネガティブな感情も大事なんです。

だから私は感情も子どもに出して見せます。怒りたかったら怒るし、泣きたかったら泣くし、笑いたかったら笑います。怒りたい時は、「そんなことを言われたら傷つくよ」とか、「そんなことをされたら、殴りたくなるほど頭に来ます」と言葉で伝えます。大切なのは、「その子どもがイヤ」なのではなくて、「その言葉や行動がイヤ」と伝えることですね。

それから、「大人が失敗した時にどうするか」も重要ですね。例えば書き順の間違いを子どもに指摘されたとしたら、「間違えちゃったよ」と素直に認めて、辞書を引けばいい。そこで「自分だって間違えるだろ!」と怒ったり、ごまかすと、子どもは信用してくれません。

子どもは、「失敗した時どうすればいいか」を大人から学びたいんです。だって、人生は失敗の方が多いんですから。大人は子どものモデルであることを常に意識していなければと思います。



――さいかち学級は、眺めのいい場所にあるんですね。教室の中も、手作りのモビールや児童図書がたくさんあって、ここが病院であることを忘れてしまいそうです。

ありがとうございます。まさに、そこが狙いなんですよ。ここは、生徒たちに患者であることを忘れ、一人の子どもに戻ってもらうための場所。だから、学校と家の中間のような、そんな雰囲気を作るようにしています。

本来、子どもは能動的な存在なんです。遊びたいだろうし、やりたいこともあるでしょう。ですが、病気になるとエネルギーはなくなるし、治療を受けるには受動的にならざるを得ません。ですから、ここに来て、少しでも能動的に戻ってもらえたらと思っています。

――入院中は、いろいろなことを考えてしまうでしょうから、先生が心の支えになっている子も多いでしょうね。

そうだといいですね。高校生や大学生になって会いに来てくれると、すごく嬉しいんですよ。日本のホスピタルクラウンのKこと大棟耕介さんから教わったことの一つに、「子どもの下にもぐり込んで持ち上げる」があります。これは、「子どもを主役にして、成功体験をさせる」ことで、「肯定的な自己認知」とも言います。

例えばわざと失敗して、「先生はどうしようもないな、しょうがないから助けてあげるよ」と、自発的に動いてもらうキッカケを作る時もあります。

入院中の子どもは自分に対し否定的になりがち。だからこそ、テストでも間違ったところに×はつけず、□で囲うようにします。子どもがやり直してできたら、二重丸をつけます。そうすればどこを間違ったかもわかるし、それをクリアしたこともわかりますから。

――大人になると、失敗するのも、失敗を見られるのも怖くなりますよね。

はい、教員になりたての頃は、私もカッコイイところを子どもに見せたいと思っていました。大きく変わったのは、ホスピタルクラウンを最初に始めたアメリカの医師、パッチ・アダムスと一緒に病院を回った時です。

ちょうど中秋の名月だったので、パッチ・アダムスが「最終日に、お月様のようにmooning(お尻を出すこと)をしよう」と提案したんです。内心では「えー!」ですよ(笑)。でも、「キミはDoer(行動する人)か? それともWatcher(傍観する人)か?」と聞かれたら、「…Doer!」と言うしかない(笑)。

それ以来、子どもの頃からタコと呼ばれるほどだった赤面症もなくなりました。
そして、行動すべき時や誰かに注意すべき時、毎回ではないけど「そうだ、僕はDoerだ」と思うようになりました。まあ、Watcherになってしまう時も、多分にあるんですけどね(笑)。

――実は恥ずかしながら、私もお尻の手術のために今週入院するんです。看護師の方にお尻を見られるのが嫌だなあと思っていたのですが勇気がでました(笑)

ハハハハ。それは良かったですね。さいかち学級に来る子は、病気になったことや入院したことを「失敗」と思いがち。でも、決してそうじゃないと、いつか気付いて欲しいんです。大学院時代、不登校の子どもとキャンプに行った時、小林先生が「せっかく不登校になったんだから、今しかできないことをしようよ」と子どもたちにおっしゃっていたんです。

だから私も、さいかち学級の子どもに「せっかく入院したんだから、今しかできないことをしようよ」と言うようにしています。ただ、近年、子どもの入院期間は短くなっていて、平均10日です。そのうち、さいかち学級にこられるのは5日ほど。その短い期間でいかに子どもの心に種を植えるかが勝負だと思っています。

――それでは最後に、子育て世代のみなさんにメッセージをお願いできますか?

一番お伝えしたいのは、「Doingの前にBeing」ですね。「自分の子どもは何ができるか、何がわかるか」の前に、子どもが存在していることを大切にしてください。そして、それを子どもに伝えて下さい。

世の中には、うまくいった子育ての例がいっぱいありますが、子育てはそんなに簡単なことではありません。悔しいこと、理不尽なこともたくさんありますよね。でも、それを子どもにぶつけるのではなく、子どもが存在していることが大切だと、改めて思って欲しい。当たり前に存在していて、当たり前に大人になる。そうじゃない子ども達もいっぱいいるんです。

そして、親御さん自身も、「自分は何ができるか」の前に、自分が存在していることを大切にしてほしい。子どもたちの感情を大切にするためには、まず大人自身が自分の感情を大切にしてくれる、仲間と時間と空間を持って欲しいと思います。


聞き手:猪瀬祐一(ライフネット生命 マーケティング部)
3歳の女の子と10ヶ月の男の子のパパで、育児に奮闘中。

今回のような育児インタビューは、新米パパママのための特集『育児はいつも、波乱万丈( ̄▽ ̄)』というコーナーで連載中です。次回もお楽しみに!

■記事協力:ライフネット生命
http://www.lifenet-seimei.co.jp/

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※取材・文章:吉田渓 編集:谷口マサト