「残業が少ないほどいい会社」は本当か?

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残業時間の長さと企業の業績にはどのような関係があるのだろうか。残業時間の長短別に、株価上昇率の大きい企業上位20社の顔ぶれを見る。

■残業と株価上昇率には高い相関があった!

安倍晋三首相を議長とする「働き方改革実現会議」で長時間労働是正についての検討が始まるなど、長時間労働や残業に関する社会的な関心が高まっている。長時間労働の是正方法について具体的に議論が進み、問題が解消されることが望まれる一方で、「一部には長時間労働に満足している人もいるのではないか」という素朴な疑問も生まれる。そんな中、ある調査結果が発表された。

就職・転職のための企業リサーチサイト「Vorkers」は、残業時間と株価上昇率の相関についての調査を実施した。それによると「残業時間の長さと株価上昇率は相関性が高い」という結果が出たという。そうした企業では、社員が長時間残業を主体的に行っている現状も明らかになった。

Vorkersは、就職・転職の参考情報として、職場環境に対する社員や元社員の評価点やレポートを共有している。今回の調査は、数値で取得している口コミの項目を集計し、株価上昇率との相関を検証したものだ。Vokersは残業時間のほか、「有給休暇消化率」「待遇面の満足度」「社員の士気」「風通しの良さ」「人事評価の適正感」「法令遵守意識」「人材の長期育成」「20代成長環境」といった視点でデータを採っている。今回、「株価上昇率と、当社が取得している各データの相関について検証しました。その結果、高い相関を示したのは残業時間でした」(ヴォーカーズ広報の恵川理加氏)。調査対象は20件以上の口コミがある企業に限ったという。

■長時間残業で株価を上げた企業ランキング

平均月間残業時間が60時間以上あった企業における、2007年末から16年6月末までの株価上昇率上位20社のランキングが表1だ。1位は株価上昇率603.05%の日本M&Aセンター、2位は同601.14%のサイバーエージェント、3位は466.00%の安藤・間という結果になった。

特徴的な点の一つとして恵川氏は「日本M&Aセンターやキーエンスといった、高いインセンティブが有名な企業が上位に来ています」。実際に1位の日本M&Aセンターには「数字を上げれば上げるだけ相応の評価と報酬が得られる」「成功報酬がべらぼうに高い」、12位のキーエンスには「数字を絶対的な指標として評価されます。自身の成果が上がれば間違いなく評価として返ってきます」といった口コミがあった。この2社は口コミの数値データから算出する総合評価の値も高く、どちらも業界内で5位以内にランクインしている。待遇や社内環境への満足度が高いため、残業時間の長さが苦になっていないようだ。

もう一つの特徴的な傾向として恵川氏は「建築や不動産業界の企業が多くランクインしています」と話す。Vorkersの「建築・土木・設備工事業界」セグメントの安藤・間と大成建設が、「不動産関連・住宅業界」セグメントの日本ハウスホールディングス、共立メンテナンス、大東建託がランクに入っている。ただし企業ごとに社員の感じ方は異なるようだ。例えば3位の安藤・間は「ものづくりの醍醐味がある」「建物が完成したとき充実感が味わえる」という書き込みが多かった一方で、「相対評価なので結果が全てではない」「私の所属部門では、各人の給料に差が出ないように調整をしていた」といった口コミがあった。それに対し8位の日本ハウスホールディングスは「営業は優秀ならばどんどん出世していける明確なシステムがあり、やりがいがある」「数字が少しでも達成できなかったらかなり怒られる」といった口コミがあった。

■短時間残業で株価を上げた企業ランキング

調査では、平均月間残業時間が30時間以下でありながら高い株価上昇率を達成している企業についてもランクを付けている(表2)。

1位は07年末から16年6月末までの株価上昇率が450.00%の日本調剤、2位は同293.12%のオリエンタルランド、3位は同268.59%の良品計画となった。日本調剤についての口コミでは「正社員も育児休暇取得後は時間短縮をして勤務でき、残業の無い準社員という働き方もある。また週3日の午前中勤務などパート社員としての働き方もある。それぞれ柔軟に行き来できる」、オリエンタルランドについては「基本的に事前に申告すれば休暇は容易に取得でき、社員の間で非常に印象の良い風土として評価されていた。残業もこちらが無理と言えば発生しない」、良品計画については「業務の無駄があれば意見を出してすぐに改善しようという風土がある」といった口コミがあった。口コミからもこれらの企業がワークライフバランスに配慮していることが分かる結果になった。

社員が高いインセンティブに満足したり、仕事に強いやりがいを感じたりしている企業では、長時間の残業が株価の上昇に繋がっている現状が明らかになった一方で、ワークライフバランスに配慮しながらも高い株価上昇率を達成している企業もある。残業の長短に関わらず、会社が目指している方向と、社員が労働環境に求めていることが一致している場合に、それが業績や株価といった成果につながりやすいという傾向があるようだ。

(プレジデントオンライン編集部=構成)