2人のデザイナーは「インフォグラフィック」で大切な毎日を伝え合った

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ブルックリンに住むジョージア・ルピとロンドンのステファニー・ポサヴェックは、1年間にわたって毎週ポストカードを送り合い、日々の生活を綴った。だが、彼女たちが使うのは色鮮やかなインフォグラフィックのみ。プロジェクトを通して2人が知った「データ」の力とは。

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2/92014年から、インフォメーションデザイナーのジョージア・ルピとステファニー・ポサヴェックはポストカードを送り始めた。
IMAGE COURTESY OF PRINCETON ARCHITECTURAL PRESS/PARTICULAR BOOKS

3/9彼女たちはあるテーマに沿って1週間データを集めた。例えばこのポストカードでは、ルピが1週間で見た都会のなかの動物の情報が記されている。
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4/9データは翻訳され、イラストに変えられる。
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5/9それぞれのポストカードの裏には、データをどう読めばいいのか解説が添えられている。
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6/9ルピが1週間のうちに「迷った回数」。
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7/9その解説。
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8/9ポサヴェックの1週間の「嫉妬した回数」。
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9/9その解説。
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52週間にわたって毎週日曜日、ジョージア・ルピとステファニー・ポサヴェックはそれぞれポストまで歩いて行きハガキを投函した。ハガキはいつも同じ場所からだ。ルピはブルックリンから、ポサヴェックはロンドンからである。彼女たちがどれほど細部にわたり日常生活を説明したとしても、交換するハガキにほとんど文字は含まれていなかった。

最初のほうの手紙で、ルピは音楽のイラストを描いて送った。音符の一つひとつは、彼女が不満に思うことがあった回数を表している。ポサヴェックの返信には、溢れんばかりのカラフルな線が描かれていた。線はルピの音符と同じことを意味していた。

それぞれの住む街の地図を送ることもあった。ルピは角ばったグリッド上のものを選び、ポサヴェックは色鮮やかな丸で自身の住む土地を表現した。「わたしたちは英語もイタリア語(ルピの母国語)も話しません」とルピは言う。「データでコミュニケーションを取るのです」

それは独特な方法だったが、理にかなっている。ルピとポサヴェックは“インフォメーションデザイナー”で、彼女たちが好むのは事実と数字なのだ。「データは、塗料や紙、粘土や大理石と同様に、『材料』なのです」とポサヴェックは言う。「メッセージを伝え合うとき、人々はどのようなものでも使用できるのです」

2014年にデザインカンファレンスで知り合った2人は、データのみでお互いを知ることができるのか試してみたくなった。彼女たちは、1週間かけて集めたデータの「解釈」をイラストにし、ハガキを送り合い始めた。その内容とは例えば、いくつ苦情を述べたのか、どんな動物を見たのか、どんな音を聞いたのか、といったことだ。このプロジェクトは「Dear Data」(日本語版記事)と呼ばれた。

いま、彼女たちはそれらのポストカードをプロジェクトと同名の本にまとめあげた。個人的なデータを通して語られる、2人のデザイナーの生活を詳細に綴ったものだ。

書籍化された『Dear Data』より。

本そのものはとても魅力的だ。手書きのハガキが掲載され、年間を通して顕微鏡のように自身の生活を見つめるとどのような気持ちがするのかが、全ページにわたって洞察されている。

本には2人が送ったすべてのハガキが掲載されており、その本を読むのもまるでハガキを受け取るような体験である。ハガキには詳細な解説が書かれており、インフォグラフィックをどのように読んでほしいのかもきちんと説明されている。

デザイナーたちは1年を通じて、抱えた嫉妬、通り抜けた扉、心に浮かんだポジティヴな考えといったさまざまなかたちのデータを文章化し、そしてイラストにしてきた。その膨大な情報量にもかかわらず、「Dear Data」は量では計ることのできないプロジェクトのように思える。

ルピとポサヴェックはカロリー、歩数、心拍数などには興味をもっていない。プロジェクトは、生活のなかのいまにも抜け落ちてしまいそうな細かいところに光を当てているのだ。「Dead Data」は人間中心のデータであり、そこには彼女たちが選んだ事柄に対する洞察がみられる。「何かを数えることは、それを気にしているということなのです」とルピは言う。

いまではルピとポサヴェックは、「Dear Data」を(とても公になった)日記のようなものだと考えている。彼女たちにとってデータというのは、人生に意味を見出すための「道具」なのだ。

「データは、言葉ではできないかたちで現実をフィルタリングするひとつの方法です」とルピは言う。往々にして見落とされがちな日常のありふれた習慣を吟味することは、時として美しい洞察に繋がるのである。

※ 下記は、プロジェクト28週目までの様子を記した過去記事より。2人の往復書簡のストーリーは、雑誌『WIRED』日本版VOL.19にも掲載している。

SLIDE SHOW

1/32ポサヴェックの愚痴を描いたインフォグラフィック。愚痴の対象が誰かによって、色分けされている。

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3/32ルピは、楽譜のように愚痴をヴィジュアライズした。愚痴の対象は音符で表現。

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5/32ポサヴェックの、1週間分の携帯電話の使用状況を記録したインフォグラフィック。それぞれの色が、どんな目的で使ったかを示している。

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7/32ルピは、円を使って携帯電話の使用状況を描いた。それぞれの円がどこで使ったかを示し、目的は色で表されている。

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9/32ルピが、1週間の鏡を見た回数を記録したインフォグラフィック。それぞれの色は、どこの鏡を見たかを示す。

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11/32ポサヴェックの鏡を見た記録。縦軸が日付、横軸が時間を示している。

12/32赤色の斜線は、覚えていないところを示している。

13/32ルピが口にした「ありがとう」の回数を記録したもの。それぞれの枝が、誰に言ったかを示している。

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15/32ポサヴェックは、平行線と三角形で「ありがとう」の回数を表現。

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17/32ルピが時計を見た回数を記録したインフォグラフィック。日付と時間別でグループ分けされている。

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19/32ポサヴェックが時計を見た回数を記録したもの。それぞれの線が時間を、マークはどの時計を見たかを示す。

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21/32ルピが、体の接触をヴィジュアライゼーションしたもの。色は誰が、記号はどこを触ったのかを示している。

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23/32ポサヴェックが体の接触を描いたもの。真ん中の大きな円は、彼女の夫だ。

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25/32ルピによる、移動を記録したインフォグラフィック。記号はどんな移動手段を使ったかを表す。

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27/32ポサヴェックはよりシンプルに移動を表現。それぞれの円が、場所を表している。

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29/32ルピが1週間に買った物。それぞれの枝が、買ったアイテムの種類を示している。

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31/32ポサヴェックは、日付と時間別で買った物をヴィジュアライゼーションしている。

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INFORMATION

『WIRED』VOL.19「ことばの未来」

「ことば」の未来を考えることで、ぼくらはどんな未来を得ることができるのだろう? 「絶滅した言語」や2人のデザイナーが交わした「インフォグラフィック文通」、カズオ・イシグロら4人の作家に訊いた「文学のイノヴェイション」、予防医学の俊英・石川善樹による自然言語処理界の天才たちへのインタヴューなど。そのほか、OPNとのニューヨーク彷徨にベン・ホロウィッツのビジネス訓、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の舞台裏エピソードを掲載!

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