「アウトレット大好き家族」が陥る落とし穴
マンションより一戸建て。軽自動車よりSUV。洋服を買うならファストファッションよりデパートで……。高年収世帯が冒しがちなムダ遣い、見栄消費を総点検。本当に満足度の高いお金の使い方、教えます。
家計の中でも衣服費は、家庭ごとに差が生じやすい項目だ。西松屋、しまむらに代表される格安衣料チェーンの洋服で身を固めれば切り詰められる一方、デパートなどで高級ブランド服を欲望に任せて購入すればまさに青天井である。
では、衣服費はどのくらいが妥当なのか。
2013年の総務省「家計調査」を見ると、2人以上の勤労者世帯では毎月の定期収入の平均が34万9081円の場合、衣服費の平均は1万2025円。月収平均が52万3308円の場合、衣服費は2万3166円となっている。つまり、衣服費は月収のおよそ4%が標準と言えるわけだ。
「ただ、年収1000万円を超えるような家庭なら、衣服費が多少増えても家計への影響は少ない。5%ぐらいまで問題ないでしょう」
と、山口京子さん。この割合を目安に、わが家は高いのか安いのかをまずは考えてみるといいだろう。
山口さんによれば、こうした洋服や靴、カバンなどへのお金のかけ方は、家庭の金銭感覚とリンクしているという。
「たとえば、飛行機代は2歳まで無料ですよね。洋服を深く考えずにバンバン買う人は、飛行機代がタダのうちに海外旅行しようと考える。逆に、堅実な洋服の買い方をする人は、海外旅行は子どもが記憶に残る年齢になってから、と控える傾向があるんです」
もっとも、高い洋服は避けてなんでも安い洋服ばかりに走るのは考えものだ。特に影響するのはビジネスシーンだろう。
「しかるべきブランドの高級スーツは素材や縫製などが優れていることが多い。格安のヨレヨレしたスーツを着ている営業マンと、見るからに仕立てのよいスーツを着こなしている営業マンでは、どちらの印象がよいかは言うまでもないでしょう」
と言うのは、パーソナルスタイリストの政近準子さんだ。
子どもの価値観を育てるという観点でも、やはり格安のファストファッションやアウトレットばかりを買い与えるのはよい影響がない、と政近さんは言う。
「食べ物で言えば、ファストフードばかり食べている子は味覚が育たず、食にも無頓着になりやすい。対して、きちんと手作りされた家庭料理を食べて育てば、旬のおいしさを感じたり、体によいものを選ぶことができるようになります。洋服も同じ。生地や仕立てのよい服は、見た目はもとより、着心地も違います。そのよさを知っているかどうかは、将来、子どもの物を選ぶ目にも大きな影響を与えます。それに、安いものは雑に扱いがち。よい洋服ならほかの洗濯物と分けて洗ったり、クリーニングに出したりと大切に扱いますよね。それが、子どもの物を大切にする気持ちを育むことにもつながるのです」
もちろん、だからといっていつも高級な服を着せる必要はなく、遊び着ならむしろ格安衣料チェーンの洋服やお下がりなどを着せたほうが、子どもも汚れを気にせずにのびのび遊べるはずだ。大切なのは上手にメリハリをつけること。賢い洋服選びの極意である。
■隣の出費診断!
[A家]デパート vs [B家]激安専門店 vs [C家]ショッピングモール
[A家]年間衣服費80万。子どもにはブランド服を着せる
……夫42歳/妻41歳/長男6歳/次男3歳/年収約700万円(妻400万円)
夫はスーツを年に2着、デパートで仕立て、1万円程度のシャツを頻繁に買う。都心の企業に勤める妻も「いい物を買えば、気を使わなくてもおしゃれに見える」という理由からデパートオンリー。ただし正規価格で買うのは気がとがめるため、年間予算30万円でセールに通う。子ども服も、デパートで気に入った物を見つけたら迷わずに購入。
「長男にファミリアを着せたらものすごくかわいく見えた。見かけは着るもので変わる」。次男はお下がりもあるが、似合うものを着せてあげたいと買い足す。家計簿はつけていないので「ざっくり見積もって」年間衣服費80万円を計上。
[B家]ユニクロ、西松屋&アプリのフリマ利用で節約
……夫35歳/妻32歳/長女4歳/次女1歳4カ月/年収約750万円(妻500万円)
4人合わせて年間の衣服費約15万円! 自由業の夫は洋服に無頓着。穴が開いた服でも平気で着る。年間で買うのは、ユニクロのポロシャツ6枚、3足1000円の靴下を3セット程度のみだという。妻は「将来の教育費を蓄えたい」と、フリーマーケット感覚で不要品を売買するアプリ「メルカリ」を愛用。狙いは中古のブランド服。「ブラウスなら1枚1000円前後。お買い得です」。仕事用のジャケットや靴はデパートで。子ども服もやはり「メルカリ」で、人気ブランドを500円前後で購入。妻の実家から西松屋の服が大量に届くので保育園着に、お出かけ着は夫の母からの頂きもの。
[C家]欲しいものをアウトレットで堅実買い
……夫44歳/妻32歳/長男4歳/次男2歳/年収約1300万円(妻450万円)
「洋服を買うのが好き」という妻のご用達はショッピングモール。ただし、高めの洋服は、冷静に判断をするため一度家に帰ってそれでも欲しかったら通販で買う。靴はお気に入りのコールハーンをアウトレットで購入。3万円以内、年2足までと決めている。夫はユニクロを普段着にしているが、仕事着はポールスミス。ジャケットを年に2着買う。夫の方針で子ども服はキャラクターや無意味な英語が書いていないもの限定。少し高めになるが、Tシャツは3000円以内と決めている。子ども靴はアシックスかニューバランスのみ。長男、次男合わせて年6足購入。年間の衣服費は約43万円だ。
■FP山口京子さんの結論●ポリシーのない「いいもの」買いは危険です
年収1000万円を超える家庭なら、洋服にもそれなりにお金をかけて構いません。ただし、Aさんのようにデパートでズルズル買う人は要注意。食費やレジャー費も同じようにザル経理が行われている可能性が高い。今はいいですが、問題はこの先。子どもの年齢から言って、教育費は今後、膨らむ一方です。同じようなお金の使い方をしていては、破綻するのは火を見るより明らかです。
ほかの2人はおしゃれを楽しみつつ、家計管理もしっかりしている。Cさんのように、予算を決めて好きなブランドを買うというのは、とてもいいと思います。
Bさんのようにフリマアプリを活用するのも賢い方法です。知り合いからもらうのとは違い、お礼などの気遣いが必要ないのもいいところです。ただ、一つ気になるのは、こういうタイプはお金を使うことに臆病になって、食費やレジャー費も必要以上に切り詰めてしまいやすい。無駄と思える出費でも楽しみにつながるならよしとする、そんな気持ちを忘れずに。
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名古屋市生まれ。フリーアナウンサーから上京を機にFPに転身。テレビ、ラジオ、雑誌などで活躍。著書に『5ステップで貯まらん人を脱出 FP山口京子式 家計簿いらずの貯まるお財布メソッド』『「そろそろお金のこと真剣に考えなきゃ」と思ったら読む本』など。
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(上島寿子=文・構成 向井 渉=撮影)