Photo by Kentaro IEMOTO via flickr

写真拡大

 やまもといちろうです。人間ドックに行ったら「ちゃんと寝ましょう。お酒を控えましょう」と指導され、人生の4分の3を奪われた気分です。

 ところで、スカイマークエアラインが、案の定民事再生法へと移行してしまいました。「民再ってなあに?」と思われた方はレッツ検索。

 で、常識的に考えれば民事再生法の適用がなされたとしても、スポンサーが現れる可能性は極めて微妙な案件で、そのバックグラウンドにはエアバスとの取引債務の扱いが極めて困難な情勢にあるのが原因といえます。

『東洋経済』では「前代未聞」というような冠がついていますが、実際には南米の航空会社などで未払いが発生していまして、別に前例がないわけでもないです。ただ、スカイマークのように「民事再生を狙って一部減免まで狙っていくスタイル」はあまり見ないというだけです。普通は、エアバスやボーイングなどから機体の導入ができて、そのローンが終わらないうちに業績不振でチャプター11(倒産処理手続)というのはあるんですが。

 当然、そういう曰くつき物件をスポンサードする会社があるのという話になるわけですが、スカイマークを確保して“いいねいいね”となるのは羽田の離着陸枠をスカイマークが持っていることで、これに関しては国土交通省のLCCも含めた航空行政が「日本航空と全日空の寡占では価格競争やサービス面での不安が否めない」ということで競争環境を作ろうと第三の航空会社の参入を積極的に認めてきた経緯があります。そういえば日本エアシステムとかいう会社があったような気がしますが、気のせいです。スカイマークだけでなく、スターフライヤーやエアドゥなどの地域密着型の航空会社もありますが、なかなかそれ単体で採算をあわせるのは厳しく、なんだかんだで日本航空や全日空その他とコードシェアを行い、空席率を減らすなどの経営努力を行わないと利益が確保できず存続できない実情はあります。

 スカイマークにおいては、少し優遇された羽田枠と、国内線でのドル箱である福岡、札幌便の運用で利ざやを稼ぎながら、僻地の低価格路線を頑張って拡張してきました。ところが、日本航空が経営的に復活し、また全日空もそれ相応以上の経営努力を続けていくなかで、スカイマークの強みであった低価格の主要路線で利益を確保する戦略はあっさりと破綻。その生き残りを、エアバスなどからの機体調達で羽田─ニューヨーク便の就航などで一発逆転することで頑張ろうとしたわけですけれども、経営計画を吟味してみるとあまりきちんとした採算管理、それに基づいた売り上げ計画というものは無かったようです。

 結果として、間に結構優秀なコンサルタントの人たちが入っていたにもかかわらず、アジア系のファンドからの資金調達に失敗。また経営の独自性に拘るあまり、従来からの株主で親和性のあったHISの澤田さんや、国内旅行では大きなシェアを持っている楽天の三木谷さんからの資本提携の話も断ってしまいます。さらには、それなりに筋のよい話と見られた全日空からの経営支援話や、日本航空との資本提携もご破算になり、自主的な資金調達のめどがなかなか立たないまま、今回の民事再生法適用申請という「自爆テロ」気味の迷走になった形です。

スカイマークはどこへいく……

 エアバスとの関係がこじれた理由の最たるものは、スカイマークからのリークで「エアバスとの機体調達キャンセルの860億円あまりの違約金交渉が、220億円前後で妥結する見込み」とかいうガセネタをメディアに流したことが背景にあるようです。これには、さすがのエアバスも修羅の形相でイギリスでの訴訟を早期に提起する構えになってしまい、平たく言うと勝ち目はありません。発注して、できちゃって、スカイマークのロゴまでプリントした機体を引き渡そうというところでキャンセルですんで。

 なもので、うっかり民事再生法ですよといったところで、いままでの調達で主なラインと目されていた160億円から200億円前後の調達ではまったく目処が立たなくなりました。どうするつもりなのかはよく分かりません。また、一連の機体調達においては報道でもあるとおり「簿外」であって、それ以外にどのくらいの債務をスカイマークが保証しているのか、実は良く知られていないというのが実情です。通常、M&Aを行うにあたっては、すべての契約や業務状況を法的に精査するデューデリジェンス(DD)という工程を組むのですが、スカイマークの場合はなかなかそのDDを実施するための条件が整わないというのもネックになっていたようです。

 で、スカイマークは大丈夫なのでしょうか。

 正直なところ、スカイマークはこのままいくと経営を是正できるだけの、十分な資金を提供できるスポンサーが現れないだろうと見られています。現状で、佐山展生さん率いる“インテグラル”が支援表明しており、それとのバーターで、いままでスカイマークを率いてきた西久保社長が、代表取締役を降りる話が公表されております。この話がまとまったから民再だ、という流れかとは思うんですけど、まじめに再建していくためには結構な難題があるようには思います。

 西久保慎一社長が無能かと言われると決してそんなことは無いのでしょうが、現状のスカイマークの経営状況を良く見てみると、いろんなことを試そうと様々なチャレンジを遂行した結果、本来は「安いからいいよね」ということで確保していた競争力はどっかにいってしまい、ちょっと変わった第三極航空会社みたいな状態になってしまった、というのが実情だと思うのです。

 さすがにこれ以上は西久保社長が経営して浮上する目はないだろうとすると、一度破綻してからと言う話になるのでしょうが、スカイマークで一番価値のある資産というのは、実際には安価な航空会社を運行できるオペレーションの能力よりも、単なる羽田発着枠を持っているという点に集約されてしまいます。なぜHISや、楽天トラベルを傘下に持つ楽天がスカイマークに興味を持ったのかというと、自前の旅行代理業務を売るにあたって、航空会社が自社にあることで様々なサービスオプションをつけることができるからです。

 ぶっちゃけ、スカイマークが経営難に陥った理由の9割は「あまり安くも無くなって、搭乗率が下がってしまい、利益率が低下した」ことにあります。しかしながら、HISや楽天がスカイマークを買うと、自社のトラベルサービスの利用者を優先的にスカイマークの航空機に搭乗してもらうことであっという間に満席にすることは可能になり、経営の建て直しだけでなく自社事業に大きなシナジーがあるからであります。

 また、国内旅行をそれなりの頻度で行い航空機でウロウロする人たちというのは、可処分所得の多い人たちですので、そういう人たちのリストがあることで自社や自社グループの販売促進に役立つのは間違いないところで、正直なところ、スカイマーク買収はしたかったんだろうなあと、外野からは感じるところなんですよね。

 おそらくは、そういう航空会社に客を流してくれるサービスとの等距離外交を維持しながらビジネスを再建していく方向を選んだのでしょうが、その先どうするつもりなのかはまだ良く見通せていません。

 では、スカイマークの現場の人たちが駄目だったのかというとむしろ逆で、経営陣が結構アレな感じなのに、それなりに運行スケジュールや足りないパイロットをやりくりし、客離れを大きく起こさない程度にサービスレベルを維持して頑張ってきたわけで、現状のスカイマークにしては現場に対する評価は低くないというのが実情です。あんなに微妙な環境だし、経営状態もあんな感じなのに、飛行機を愛し、サービスに献身的な態度を取ってくれる従業員がスカイマークには実は多かったというのは、皮肉と言うかもったいないところだよなあ……。と外部から見て強く感じるのであります。

 西久保社長や経営陣がやろうとした独自路線も分かりますし、日本のエアラインが国内の蛸壺競争から脱皮して、世界の航空会社と競争できる組織にするという希望も賛同できます。それは確かに立派な考え方だし、ナイストライだと思うんですけど、残念なことに環境や材料が整わなかったんじゃしょうがないよね、博打は外れることもあるしさあ、という風に割り切って考えてしまうのは、私たちのような投資家の悪い癖なのでしょうか。

著者プロフィール

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/