中谷美紀主演ドラマ『ゴーストライター』で描かれる出版界の裏側
中谷美紀が13年ぶりに連ドラ主演を果たし話題となっているドラマ『ゴーストライター』(フジテレビ/毎週火曜21時〜21時54分)。初回は10.5%、第2回は9.2%と視聴率こそ今一歩の感があるが、重厚で本格的なつくりにドラマファンの評価は高い。
ストーリーは、昨年騒動となった佐村河内守氏と新垣隆氏の一件を思い起こさせる内容だ。ドラマでは、自分の生み出す作品に行き詰まりを感じた天才小説家(中谷美紀)が、自分の作品をアシスタント(水川あさみ)に代筆させる。過去にも、出版業界における「ゴーストライター」が世間の話題にのぼることはたびたびあったが、その実態は一般にはほとんど知られていない。
流行語大賞にもノミネートされた「ゴーストライター」について、ある大手出版社の編集者が解説する。
「出版業界でゴーストライターといえば、文章を書いたことのない有名人やタレントに話を聞いて代筆する、というもので、いまや、そうした事情は多くの読者もお見通しです。私たち編集者は、話題性のあるタレントや文化人にオファーして出版の約束を取り付けますが、本人の口述をプロのライターが文章にする「語りおこし」の方法で本にするケースがほとんど。最初の打ち合わせの段階で、少なくとも3回前後、時間にして最低5〜6時間くらい割いてもらうことを約束して原稿を作ります。その際に“ゴーストライター”を立てるわけです。著者(となる人)に興味のある人、テーマとなるジャンルに精通している人、著者と相性の良さそうな人に依頼します」
出版社とゴーストライターの契約内容はケースバイケース。印税契約の出版物の場合、本の本体価格×印刷部数の10%を著者印税とする場合が多く、ゴーストライターが入る場合、著者との印税比率は7対3(著者70%、ゴースト30%)や8対2となるが、たとえばゴーストライター自身が企画を立ち上げた場合、6対4や5対5になることもあるという。また、著者との契約は印税ながら、ゴーストライターには印税を割り当てず「原稿買い取り」の契約で出版するケースもあり、その際の相場は30万円前後からとなっているようだ。
某タレントが自分の本を「まだ読んでないんです」その昔、某女性タレントが、生放送で自著の内容を聞かれて「まだ読んでないんです〜」と正直に答えてしまったということもあったが、タレントがゲラ(出版前に内容や誤字脱字などをチェックするための見本刷り)を読まず、チェックをマネージャー任せにしていると、こうしたアクシデントも起こってしまう。
「ある有名野球選手に出版のオファーをした際、『(取材に)1時間しか取れない』というので、野球に詳しい有名作家に破格の値段でゴーストを頼んだことがあります。その作家が選手のファンだったので上手くいきましたが、このように“実は名の知れた作家やライターが書いている”なんてケースもあります。そんなときは奥付(巻末)のクレジットに『編集協力』あるいは『SPECIAL THANKS』として名前を記したりします」と前出の編集者は語る。
そんなゴーストライターには、絶対にやってはいけないことがある。ある、経験豊富なゴーストライターが続ける。
「慣れないゴーストライターのありがちな失敗は、筆が乗ってしまうと、つい主観的になり自分の意見を入れてしまうことです。あるいは取材時間が短くて書くことがなくなると、ページを埋めるために著者が喋っていないことを書いたりします。その記述に著者が共感をもてばいいのですが、反感を買うとゲラは赤字だらけになり、著者はもちろん、出版社にも迷惑をかけてしまいます。作品は、あくまでも著者として表紙に名前を出す人のもの。当たり前ですが、“自分の意見”は封印しないとダメですね」
自己主張の強いタイプは「ゴースト」に不向きまた、自己主張の強いタイプも不向きだ。多くのケースで、ゴーストライターは著者への取材時にインタビュアーの役割も兼ねる。著者に気分よく喋ってもらうことが第一であり、前出の編集者は「コミュニケーションがうまく人間関係を上手に作れる人や、相手を怒らせない人に依頼します」という。
十人十色と言われる通り、著者にも様々なタイプがいる。
「大筋だけを喋って肉付けは任せるというタイプもいれば、細かな表現にまで徹底してこだわる人など、本当に様々です。なかにはおごり酒(こうしたケースは出版社が取材経費を用立てることがほとんど)にあずかりながら喋り、上がってきたものをマネージャーに読ませて一丁上がり、なんてこともあります。なかなかいませんが『良きにはからえ』とばかり、細かいことを言わない人は理想的です」(前出・ゴーストライター)
ゴーストの筆力により重版(売れ行きが良い場合に追加で印刷・製本をすること)が決定すれば「第二弾もいきましょう」という話になりやすく、“ゴーストライティング”にも力が入るという。
なお、ゴーストライターが活躍するのは、おもに、本業に忙しいタレントやスポーツ選手、文化人などの名で出される出版物。文章を書くことが“本業”である小説家やエッセイストがゴーストライターを立てるケースはまずない。
「2回目の放送を見る限り、水川あさみさん演じるアシスタントはプロット(内容の骨子)を書き始めました。ここまではギリギリセーフ、という気もしますが、執筆まで手がければ“名のある作家が他人に小説を書かせている”こととなり、もしバレたら、佐村河内氏のように信頼は失墜するでしょう。もっとも、私の知る限り、そうした小説家は実在しません」(前出・大手版元編集者)
今後どのような展開になるか、見もののドラマである。
(取材・文/小川隆行)