Q.同性の社員がしていて許せない行動は?

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「媚び」とは、自分を正しく見て実力を評価してもらうという対等なコミュニケーションではなく、力のある相手への従属の表明です。

きちんとした人間関係を築く煩わしさをすっ飛ばして、楽をしようという狡さがあるから、他人が見ると嫌な気分になるわけです。

日本がまだ景気がよく、男女雇用機会均等法の導入など、女性の社会進出にも熱心だった時代、女に嫌われる女の代表が「媚びを売る女」でした。女性誌などでも「媚びを売る女」バッシングの記事をよく見かけましたね。仕事のリング上で「媚び」は反則と女性間で牽制しあっていたのでしょう。

オトコは女性が好意的に接してくれたら、それだけで鼻の下が伸びる。「すぐダマされるダメな人」と言われても、情けない習性はいつまでも変わりません。

しかし、時代は大きく変わりました。不安定な雇用、派遣社員の増加、悪化する労働条件……。現在のオフィス環境は極めてシビアです。

それにともない、反則だったはずの「媚び」の意味も変わってきました。特に「コミュニケーション能力がなければ、人にあらず」という昨今の風潮。「媚び」も広くとらえれば、相手を気持ちよくさせて、自分の都合のいいように動かそうとする戦略です。

ただ、会社がどうなるか、上司もいつリストラされるかわからない時代ですから、ちゃんと仕事を続けようという女性にとって、特定の人に「媚び」を売ることによって得られるメリットよりも、リスクのほうがはるかに大きい。慎重にならざるをえません。

■コミュニケーション能力と「媚び」と「女子力」

そこで「媚び」は、円滑なコミュニケーションツールとして、より巧妙に、かつ、さりげなく売られているのではないでしょうか。

最近、雑誌などで「女子力」という言葉が盛んに使われています。あの人は「女子力」が高い、低いとか。本来「女子力」は女性ならではの感性を生かして、仕事に力を発揮するという意味だったはずなのですが、今では、「いかにオトコの気を引くか」「どうやったら分不相応な恩恵に与ることができるか」が「女子力」の目指すところになっている気がします。

そういう意味では、「上手に媚びを売ることができる」は明らかに「女子力」のひとつです。

ひところ多かった、いかにも仕事ができるぞというキャリアウーマン然とした人は、今では同性からも「楽しそうじゃないな」「あんなに無理しなくてもいいのに」と見られていますよね。

今、女性が憧れているのは、仕事もできて、女としてもかわいくて素敵な人。となると、てきぱき仕事をしながら、家でも母や妻としてもきちんとしなきゃいけない。こりゃ女性は大変です。

そういう意味で、高度なテクニックとして「媚び」を上手に使える女性が一目置かれるといったことはありそうです。

そもそも「媚び」とか「ゴマすり」という言葉が否定的に使われていた時代は、日本人全体がコミュニケーション下手だったと思うんです。

「黙っていても真意は伝わる」という家族主義的な職場の人間関係のなかでは、人を褒めるほうが楽しそうだなとは思っても、なかなかみんな恥ずかしくて口に出せない。「課長、今日のネクタイ素敵ですね」とさらりと言えたり、そういうことに長けた人はやっかみを買い、「あの女、課長に媚びている!」と糾弾されていた面はあったと思います。

コミュニケーション能力が求められる今から見れば、時代を先取りしていたんですけどね。

もちろん今でも「露骨な媚び」は同性から反感を買いますから、「媚び」は巧妙かつ複雑化して、もはやオトコは「媚び」を売られていることすら気づかないかもしれません。

というわけで、ブラウスの胸元を大きく開け、甘えた声を出すといった昭和な感じで媚びを売る女性は、むしろ天然で、素朴な人柄といえるでしょう。

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コラムニスト 
石原壮一郎
1963年、三重県生まれ。近著に『職場の理不尽−めげないヒント45』(岸良裕司と共著 新潮新書)。2012年「伊勢うどん友の会」を結成し、応援活動中。

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(コラムニスト 石原壮一郎 構成=プレジデント編集部)