楽天Edy社長 山田善久(やまだ・よしひさ)
1964年、京都府生まれ。東京大学法学部卒業、日本興業銀行入行。ハーバード大学大学院にてMBA取得。ゴールドマン・サックス証券を経て、楽天常務、楽天トラベル社長を歴任。2007年、楽天関連の役職を辞任するが、10年、楽天へ復帰。ビットワレット(現楽天Edy)社長となり、現在、楽天取締役、楽天トラベル副会長も兼任する。

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■iPhoneへの対応も検討中

――今年6月、電子マネー「Edy」を「楽天Edy」に変更しました。狙いはどこにあるのでしょうか。

楽天ユーザーにもっとEdyを使ってもらいたい。それだけのシンプルな目的です。Edyというブランドは、電子マネーを利用するユーザーの間では、かなり知られるようになりました。ただ、それが楽天のサービスだということまで一般に浸透していたかというと、残念ながらそうではなかった。楽天ブランドは、プロ野球の楽天イーグルスなどで相当な知名度を持つようになりました。ならば、これを活用しない手はないでしょう。

実際、ここまでのユーザーの反応は非常にいい。楽天ユーザーのうち、新規にEdyのユーザーになった人が、6月はそれまでの3倍、7月以降も1.5倍くらいのペースで増え続けています。

――楽天Edyがほかの電子マネーと違うのはどういった部分ですか。

ユーザーにとってもっとも重要なポイントは、どれだけ多くの場面で使えるかだと思います。その点で楽天Edyは現在30万カ所で利用できます。主要なコンビニはどこでも使えるし、一般の飲食店や家電量販店など、利用シーンも広がっています。

さらにおサイフケータイの楽天Edyで買い物をすると、楽天スーパーポイントをはじめANAマイルやPonta、Tポイントなど、提携先14社の中からポイントを選び、貯めることもできます。また、残高が一定額以下になったら自動的に電子マネーがチャージされる「オートチャージ機能」もあります。スマートフォン(Android)から楽天Edyアプリをダウンロードすると、アプリ上から簡単にオートチャージの設定が可能です。

――日本の電子マネーにはFeliCaという技術が使われています。しかし、国際的にはいま「NFC」という技術が普及しつつある。こうした変化にはどう対応するのでしょうか。

NFCへの国際的な流れのなか、日本企業も対応しなければ、携帯電話同様、電子マネーもガラパゴス化するのではないかという議論もあります。

しかし、電子マネーが使われるようになって約10年、ようやく一般化してきたところです。首都圏では交通系の電子マネーが改札を通るインフラとして定着しているため、通信速度の速いFeliCaの技術は不可欠。コンビニでも当たり前に電子マネーが利用されるようになりましたが、ここまでのインフラ整備には、大変な時間と費用がかかっています。それをすぐにNFCへ乗り換えるのでは、リスクや損失が大きすぎる。

おそらく、当面はFeliCaが使われながら、少しずつNFCも利用されるようになり、じきに併用できるようになるのではないでしょうか。そもそもユーザーからすれば、FeliCaだろうがNFCだろうが関係ない。当社としては状況をみながら、ユーザー目線でその流れに対応していきたいと考えています。

――次期iPhoneにNFCが搭載されるという噂もあります。

現在、iPhone上ではどの電子マネーも使えません。しかし、iPhoneユーザーはますます増えていくでしょう。すぐに対応することは難しいですが、楽天Edyを使える仕組みをユーザーに提供できないか、いろいろと検討しているところです。

――今後の取り組みを教えてください。

少額決済が中心の電子マネーは、もともと利幅の大きなビジネスではありませんが、当社は今年の初めから黒字化になり軌道に乗り始めました。

いま電子マネーはユーザーが加速度的に増えるフェーズに入り、市場はまだまだ拡大すると考えています。楽天Edyの利用拡大のためには楽天グループのシナジーを活かすことが不可欠であり、楽天カードや楽天銀行などのサービスと連携を進めているところです。

※すべて雑誌掲載当時

(田中裕康=文 花村謙太朗=撮影)