家計の病気119番【年収500万円世帯】

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Bさんの悩み

中小企業の事務職に就いているBさんは一波早く不況の洗礼を受けて、すでに給料やボーナスをギリギリまで削減されている。そのため金融危機後の不況でも収入に大きな変動はない。とはいえ不安定な時代だからこそ「貯蓄をもっと増やしたい」と思っている。家計のムダを見つけたいのだが、専業主婦の妻がしっかりつくった家計簿は理想に近く、削る部分が見あたらない。

藤川太のアドバイス

一般に高収入家庭ほど家計管理が甘くなり、赤字補てんをボーナスに頼るケースが目立つ。そのためボーナス削減が家計破たんの引き金になることが多いのだが、“幸い”なことにBさんの会社は年間2カ月分と最小限しか出さない(出せない)ために、ボーナスに頼らない家計ができている。

例えば住宅ローンの返済プランの設計。マイホームは買ったばかりでまだ2000万円の住宅ローンが残っているが、返済方法は「月々の返済」のみで「ボーナス併用払い」を選択しなかった。おかげでボーナスは預貯金や帰省の費用に充てることができた。住宅そのものも体力に見合った3000万円弱の新築マンションを、充分に頭金を入れて購入したために、年間返済額(90万円)が額面年収(500万円)の18%にとどまっている。住宅ローンは、年間返済額が額面年収の30%を超えるとかなり苦しい。そこで多くの人は金融機関などのアドバイスにより当初は30%以内に納まるプランをつくる。ところが減収という予想外の事態によって30%を超えてしまう家庭も少なくない。そうなると家計破たんまっしぐらだ。

Bさんが、かなり余裕のある18%に抑えたのは「意識的ではなく感覚的なもの」だという。家計簿がしっかりつくってあるから、「この費目を増やすとバランスが崩れる」ということが自然にわかるのだろう。

維持費がかかる車は持たず、必要なときはレンタカーで済ますという割り切りもいい。子どもが2人いて被服費もかかるが、妻が不要な服を友達と交換して着回しして節約している。自分たちが着る服はユニクロやしまむらで充分。

家族で過ごす時間もたっぷりとっているが、テーマパークのようなお金のかかる場所には滅多に行かない。まだ子どもが小さいし、Bさんの目的が子どもたちと遊ぶことなので、自転車に乗って河原にピクニックにでも行けば、充分楽しめるからだ。

完璧に見える家計の問題点は保険にある。現在は夫は死亡保障4000万円の生命保険と、健康に不安があるという理由で10年更新タイプの医療保険に、妻は同じ医療保険に加入している。現在の保障内容では妻に万が一のことがあった場合に困る。というのも妻が家計管理の才能を存分に発揮しているから家計が成り立っているのであって、妻の死後夫が働きながら家計管理をするようになると、家計が崩れてくるだろう。

そのときの備えとしてある程度の保障は欲しい。また医療保険は更新のない終身型のほうが現時点の保険料は少し高くなるが10年ごとに上がることがないので長い目で見れば得だし家計管理もしやすくなる。

保険料を節約したいあまりに、必要な保障を失っては元も子もない。不安な場合はファイナンシャルプランナーに相談するのも手だ。とはいえ街角にある無料の保険ショップは保険の販売が目的なのでベストな保険を薦めてくれるとは限らない。有料でも中立的な立場のプロに相談したほうが最終的には得になる。

Bさんはもっと貯蓄をしたいと考えている。だが、ほとんど利息を生まない普通預金に預けているだけなので、手元に200万〜300万円だけ残し、余剰分は住宅ローンの繰り上げ返済に回したほうが、利子を大幅に減らせるので得だ。そして上の子どもが大学に入学する12年後までに払い終えることができるプランを立てれば、学資保険に入る必要もない。住宅ローン返済分の7万5000円(年間90万円)を学費に充てられるからだ。預貯金の積立分と合わせれば12万3000円(年間約150万円)になるので、私立大学に行かせることもできる。もし短期間で返済できる見通しが立つなら、金利の低い変動金利を組み合わせたプランに借り換えることも検討しよう。

年収400万円から500万円のそれほど収入が多くない世帯は、一般に生活が厳しいだけに夫も家計に関心を持ちやり繰りに協力的。夫婦の会話も多くなり、幸せな家庭を築いているケースが目立つ。Bさんの家庭も家族の仲がよく、夫婦の価値観が一致しているため、不況に強い家計ができているのだ。

年収500万円世帯が
陥りやすい家計の病気

慢性先送り病

症状:面倒くさがりの人がかかりやすい病気。大事なことと思っていても「面倒」「難しそう」とつい先送りしてしまう。

原因:「時間」の大切さに気がついていない。

治療法:1000万円貯めるにしても、貯める期間が20年あれば年50万円貯めれば達成できる。でも先送りして残り5年になってしまうと年200万円も貯めなくてはならなくなる。日本政府のように大事なことを先送りすることが慢性化してしまうと、見直しがどんどん難しくなってしまうので注意したい。

家計の病気も体の病気と同じで早期発見・早期治療が重要だ。もし先送りしているものがあるなら、今すぐ行動に移そう。どうしても面倒で腰が重いなら、アドバイザーを見つけて相談するのも効果的だ。

心配しすぎで症

症状:気が小さく、心配性の人がかかりやすい病気で、貧乏性を併発しやすい。時にあまり根拠のない不安が心を支配し、1円でも安いトイレットペーパーを買うために、遠くの店まで出かけることも。さして効果のない節約方法に時間と労力を費やし、いつもキリキリしている。

原因:前向きな発想ができなくなっている。

治療法:実は貯蓄や収入の多寡はあまり関係なく、1億円の貯蓄を持っていてもかかる人もいる。将来起こるかもしれないいいことよりも、「悪いことが起きたらどうしよう」としか考えない傾向がある。治療法としては、「悪いことが起きたときには、どう対処するのか」を想定することだ。漠然とした不安はただ巨大化していくだけだが、具体的に対処法を思考することで等身大の不安にすることができる。それだけで多くは改善が見られる。

※すべて雑誌掲載当時