もし2012年シーズンからJ2とJFLのあいだの昇降格が始まり、J2下位とJFL上位にとっていままでよりも困難な日々が訪れるのであれば、今オフにもヴィジョンを明確にしておかなければならないだろう。移行期間に当たるシーズンなしに、いきなり厳しい現実をつきつけられるのではたまったものではない。なんらかのクッションが必要なのではないか。

■町田の最終節には7268人が詰めかけた

こうした混沌が漂うなか、12月10日と11日にはJFL最終節、前期第1節順延分がおこなわれた。東京では10日に江東区夢の島競技場にて横河武蔵野FCとツエーゲン金沢が、11日に町田市立陸上競技場にて町田ゼルビアとカマタマーレ讃岐が対戦した。
置かれた状況からすると「往く人」と「残る人」の対照的な組み合わせではあった。
野津田にいたのは、資金、施設、自治体の協力、観客動員といった課題をクリアしてJ2加盟を控えた町田ゼルビアと、来季のJ2挑戦に必要な準加盟資格を有するカマタマーレ讃岐。
いっぽう、新木場にいたのはJ加盟を標榜しながら準加盟資格を持たず、来季も準加盟の見込みが立っていないツエーゲン金沢と、そもそもJをめざす体制ではないアマチュアの横河武蔵野FC。
ニ会場の温度差は、まさにJと社会人のそれだった。

町田市陸は、前節でJ2加盟を確実にしていた町田ゼルビアの最後のホームゲームとあり、セレモニーを控えて完全なお祭りムード。アウエー側のゴール裏だけが埋まっていない7,268人の観衆が詰めかけ、ほぼ満員盛況だった。
アウエーの讃岐はいいところを見せながらの惜敗で町田を引き立てつつ、その町田に次ぐ実力があると示し、来季への望みがある終わり方。なにより準加盟資格を有していることで、成績次第で行ける、という確信があるのは大きい。過去、ロアッソ熊本などで攻撃的なサッカーを実践してきた北野誠監督も、会見では留任を匂わせた。

では夢の島はどうだったのか。719人という観衆は町田市陸に比べると少ないが、社会人の試合としては悲観する数字ではない。昔のJFLなら発表が100人単位でも50人以下しかいないのではと思える試合もザラだったから、むしろ賑わっているほうだ。実際、手狭な夢の島のメインスタンドはそれだけでいっぱいになる。
ただ、J2加盟に必要な基準をクリアする動員数ではない。町田は一試合平均3,000人がノルマだった。その1/4以下の動員力。これがJ2加盟に関係しないJFLの実態だ、とも言える。

■往く人と残る人、東京二景

来季以降のJFLが何をめざし、どういった姿になるのかまだわからない。そうした状況で、今後もしばらくはJFLを主戦場とするだろう武蔵野と金沢は懸命に戦った。
過去ニシーズン、フットサルFリーグ名古屋オーシャンズでプレーしていた金沢のフォワード平林輝良寛は、チーム得点王となる今季10点めを挙げた。立ち上がり、武蔵野のディフェンスがやや緩かったこともあるが、個人技でそろそろとバイタルに進入し、右足を振り抜いてのゴール。開始後わずか5分の先制点だった。
Fリーグに行く前の2008年にはFC刈谷で12点を挙げている。平林にとっては、サッカーでは、JFLでは、二季連続のふた桁得点ということになる。

話題性がある久保竜彦はハーフタイムで下がり、今季6得点。順当に行けば、平林には来季も金沢のエースストライカーであってほしい──となりそうだが、来季の金沢がJ2に直結していない以上、プロ志向の選手たちを引き止めることは簡単ではないだろう。試合後の平林は「チャンスがあればそういった(Jかそれに準ずる)ところに挑戦したい」と答えるにとどまった。

平林は、この日先制し、かつ前半と後半最初の16分間のペースを握りながら、3-3の乱打戦に持ち込まれ、引き分けてしまった(最後は逆転されたところを追いついた)チームを「若さ故のムラがある」と評した。冷静に観察してそう言えるだけの経験を、名古屋グランパスエイトに始まる過去のキャリアに於いて積んできている。