Shinichi EKKO

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5月、そして6月。この季節を迎えるとカーエンスージアストの血が騒ぐ。世界中で魅力的な自動車ミーティングや歴史的なイベントがこれでもかと開催されるからだ。もし皆様がこの時期にヨーロッパを訪れようと計画しているなら、筆者からひとつのご提案を差し上げたい。

【画像】筆者がベタ褒めするイタリアの自動車イベント「モーターヴァレーフェスト」の様子(写真18点)

多くの方は、6月中旬に開催される伝説の公道レース、ミッレミリアに真っ先に目を奪われるだろう。確かに、あの”走る美術館”が目の前を通り過ぎる瞬間は、それだけでイタリアへ飛ぶ価値がある。しかし、スーパーカーの聖地をまとめて楽しむことのできる特別な旅をそれに付け加えることができる。つまり5月の最終週には現地へ滑り込んでおくべきなのだ。なぜなら、その時期のエミリア・ロマーニャ州モデナには、相当に濃いスーパーカーの祭典が開催されるのだから…

そのイベントの名前は、「モーターヴァレーフェスト(Motor Valley Fest)」。今年で第8回目を迎えたこの自動車の祭典は、2026年5月28日からの4日間で、昨年と同じく7万人以上もの車好きをモデナの中心部へと引き寄せ、大盛況であったのだ。

興味深いのは、このイベントがここ数年、あえて派手な走りを見せない静的(スタティック)な展示スタイルを貫いていることだ。サーキットや特設アリーナでタイヤを鳴らすパフォーマンスをすっぱりと諦め、まるで街全体を”極上の博物館”のように仕立て上げている。一見、静かで物足りないと思われるかもしれないが、これが大正解なのだ。このスタイルだからこそ、私たちは歴史ある街の美学と、名車たちが放つ知的なオーラを、急かされることなくじっくりと肌で感じることができるのである。

スーパーカーの未来が語られる…

このイベントが単なるお気楽な”クルマ祭り”で終わらないのは、その骨格にとても濃密なビジネスや学術の対話が組み込まれているからだ。木曜日と金曜日の2日間、ストルキ劇場やサン・カルロ・カレッジ劇場は、未来のモビリティを真剣に占うシンポジウムの熱気で満席になっていた。

今年のテーマは「グローバルな動向、新たなフロンティア、内容と人間の責任」。なんだか少し硬いタイトルに見えるが、中身はエキサイティングそのものだった。マッキンゼーによるスーパーカー市場のリアルな分析や、アマゾン傘下のZoox(ズークス)が開発する自動運転ロボタクシーと地元モデナの名門CPC社との製造協力の話など、最先端のニュースが次々と飛び出してきた。

そして何より私たちをワクワクさせたのは、ダラーラ、ドゥカティ、フェラーリ、ランボルギーニ、マセラティ、パガーニという、世界を代表する6つのブランドのトップたちがズラリと揃った円卓会議だ。ダラーラ・グループのCEOでありモーターヴァレー協会の会長でもあるアンドレア・ポントレモリ氏をはじめとする首脳陣は、単にライバルとして競い合うだけでなく、人材育成や共同研究、そして地域社会の結びつきを大切にする。折しも、発表されたばかりのフェラーリ・ルーチェに関しての話題で盛り上がったことは言うまでもない。

「ベスト・オブ・モーターヴァレー」

劇場での知的なセッションが一区切りを迎えると、いよいよ祝祭の楽しい本番が幕を開ける。金曜日の午後、モデナ陸軍士官学校におけるテープカットを合図に、特別な展示会ベスト・オブ・モーターヴァレーが一般に向けて公開された。

最新のフェラーリ・アマルフィ・スパイダー、ダラーラ・ストラダーレ、ランボルギーニのウルスSE ”Tetto Nero”カプセル、そしてパガーニ・ウトピア・ロードスターが普段は入場が許されない士官学校内に並び、ここに当地現代スーパーカーのショーケースを満喫させてくれる。また、ドゥカティ・スーパーレッジェーラや、マセラティMCプーラ チェロが放つオーラも格別であった。

さらに、この地域が誇る4つの名門サーキット(ヴァラーノ、イモラ、モデナ、ミサノ)との展示も心憎い演出であった。イモラからやってきたダラーラEAV24や、モデナ・サーキットのフェラーリ296チャレンジといった本物のレーシングマシンが、モータースポーツの濃い血統を静かに主張していた。そして忘れてはならないのが、フェルッチオ・ランボルギーニ博物館から運ばれたフェルッチオ自身が愛用したミウラSVだ。発表から60周年という素晴らしいアニバーサリー・イヤーがここでも祝われる。

世界遺産の街が境界線のない巨大なオープンエア・ミュージアムへ

ピアッツァ・グランデに設置されたレノボ協力の「シムレーシングアリーナ」では、最新のシミュレーターに乗り込んだ若い世代のドライバーたちが、バーチャルなスピードの世界に熱狂していた。デジタルやゲームが、現代の自動車文化において、新しいファンとブランドを繋ぐ大切な架け橋になっていることを実感させてくれる、とても現代的な光景だ。

けれど、そこから少し歩けば、今度は時が止まったかのようなエレガンスの世界へと引き戻される。歴史地区のレッドカーペットをクラシックカーたちがゆっくりと進む「第26回コンクール・デレガンス・トロフェオ・サルヴァローラ・テルメ」のパレードだ。

今年のコンクールは、ヒストリックカー好きにとっては、相当にレアなラインナップであった。あのカロッツェリア・トゥーリングが手がけた、世界にたった2台しか存在しないアストンマーティンDBSプロトタイプをはじめ、カロッツェリア・トゥーリングのハイレベルな個体が集結した。さらに特別展示として、エンツォ・フェラーリが自身の名で最初に作った記念すべき車、1940年のオート・アヴィオ・コストルツィオーニ815や、1952年アルファロメオ・トゥーリング・ディスコ・ヴォランテまでが並んでいた。そして注目のベスト・オブ・ショーはコラード・ロプレスト氏の1939年アルファ ロメオ6C 2500 S ベルリネッタ・トゥーリングが獲得したのだった。ドゥカーレ宮殿を背景にしたピアッツァ・ローマに、これらの歴史的傑作とデトマソ・リローデッド・ミーティングへ参加した”獰猛な”車たちが一緒に集う様子は、一見の価値ありであった。

さらにこのモーターヴァレーフェストでは、自動車映画祭も開催される。今回は、カンポガリアーノのブガッティ、ボディレストアラー、そして筆者もプロデューサーとして参画しているデ・トマソのドキュメンタリー映画が地元劇場を貸し切って開催された。デ・トマソのスクリーニングにおいては、海外からのゲストやデ・トマソやマセラティの元従業員などが、世界中から集まり、400名ほどの会場が満員となった。もちろん、デ・トマソ家を代表して、現当主のサンティアゴ・デ・トマソも参加だ。

最高の料理、最高の車達

そして、モデナを訪れてこれを語らないわけにはいかないのが、食という名のもう一つの素晴らしい芸術だ。このエリアは、食通たちが世界中から聖地巡礼にやってくる、最高峰の美食の街でもある。

このフェストの期間中、街のあちこちで顔を出しては、誰よりもイベントを楽しんでいた一人の男がいる。世界でいちばん予約が取れないと言われるレストラン「オステリア・フランチェスカーナ」のオーナーシェフであり、自他ともに認める熱狂的な車好き、マッシモ・ボットゥーラ氏だ。

ボットゥーラ氏は、ゲストに最高のひと皿を振る舞うだけじゃ満足しなかった。なんと、自分の好みを100%反映させて作り上げたデトマソ・パンテーラ・グループ4仕様のレストモッドのステアリングを自ら握って、爆音とともに大聴衆の前に現れたのである。エンジンを止め、コクピットから満面の笑みで降りてきた彼の姿は、まさにこのイベントが大切にしている「大人の遊び心」と「純粋な情熱」を、何よりも雄弁に物語っていた。

世界中を見渡せば、コンクール・デ・レガンスやタイムラリーなど、素晴らしい自動車イベントはたくさんある。けれど、その多くはどこか専門的で、クローズドな世界になりがちだ。しかし、このモーターヴァレーフェストは違う。高度な未来のビジョン、若い才能の育成、最先端のデジタルシミュレーション、歴史的なクラシックカーのエレガンス、最新のハイパースポーツの美学……それらすべての要素が、モデナというひとつの美しい街の中に、溶け合うように同居している。

普段通りの生活がある市街地で、誰にでも開かれた場所で、これほど上質でバラエティに富んだプログラムが展開される。だからこそ、マニアックな車好きはもちろん、小さな子どもを連れたファミリーも、ふらりとやってきた観光客も、みんなが等しく笑顔で同じ時間を共有できるのである。

「おいおい、随分とこのイベントをベタ褒めするじゃないか」と思われるかもしれない。
その通り。異論はまったく認めない(笑)。筆者は、このモーターヴァレーフェストが産声を上げた最初の頃から、その唯一無二の魅力にすっかりハートを射抜かれてしまった人間であり、モーターヴァレーフェストのアンバサダーとして、この素晴らしさを日本へ、そして世界へ伝えるために喜んであちこちを走り回っているのだから。

文・写真:越湖信一 Words and Photography: Shinichi EKKO