違反が蔓延、監視のゆるみ、抜け穴も…「藤田菜七子」も掛かった“スマホの罠” 「競馬界は甘すぎる」と他の公営ギャンブル団体関係者は指摘
競馬界に大激震が走った。アイドル的人気を誇った女性騎手・藤田菜七子が引退届を提出。スマホの不適切利用が判明し、JRAから騎乗停止処分が科されることを受けてである。競馬界でのスマホ管理の実態はどうなっているのか。
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競馬騎手はレースの前夜、午後9時までには専用の宿泊施設に入る規則となっている。八百長行為を防ぐため、JRAはそこでのスマホの使用を禁止している。しかし藤田は、昨年の4月頃までに複数回、スマホを使用し、外部と連絡を取った。それを9日、「文春オンライン」が報じ、本人も聞き取りに事実を認めた。いずれも知人との連絡のためのもので、レースに関する不正が疑われるようなやり取りはなかったと見られているものの、JRAは騎乗停止処分にすることを発表。すると11日、藤田は突如、引退届を提出したのだ。
抜け穴もある
競馬ライターは言う。
「宿泊施設は通称、『調整ルーム』と言われています。各競馬場や美浦トレセン(茨城県)、栗東トレセン(滋賀県)に併設されているワンルームマンションのような施設で、中には浴室や、体重を絞る目的のサウナ室もある。レース前日の午後9時までに騎手はここに入ります。その際、騎手は、職員の立ち合いの下、入り口にあるセーフティーボックスにスマホを預けなければならない決まりです。セーフティーボックスはコインロッカーのように鍵がかかる仕組みになっており、その鍵を職員に預ける。レース後、騎手は調整ルームに戻り、スマホを返してもらうこととなります」
外部と連絡を取り、馬の調子などを教える不正行為を防止するためだ。厳格な仕組みのように見えるが、抜け穴もある。
「調整ルーム滞在中でも、“翌日以降のレースの予習”として、騎手がレース映像を見たいと言った場合は、職員に申告すればセーフティーボックスからスマホを持ち出すことが出来ます。“〇時から〇時までスマホにダウンロードしたレース映像を見ます”などと申告して部屋まで持ち込めるのです。スマホが1台あれば何でも出来ますから、“性善説”に則り、騎手の善意に任せた対応です。この措置がゆるすぎるのではという声は以前からありました」
控室でも
選手はレース当日、調整ルームから競馬場入りすると、ジョッキールームと呼ばれる控室に入る。
「ここで食事をしたり、休息をしたりします。もちろん場内に係員はいますが、室内で監視まではしない。時折見回りに入るようですが、特に女性騎手の控室では、着替えも行われるため、おいそれとは入れないのです。それを良いことに、昨年にはここで若い騎手がスマホを使用していた例もありました。VTRを見ることを目的に調整ルームでスマホを返してもらい、そのまま戻さずに競馬場にまで持ち込んだと見られています。調整ルームの職員も返却チェックを怠ったということですね。JRAの職員は“想像も及ばなかったことだ”と弁明していましたが……」
この事件を受け、昨年からは映像視聴のための自室内への持ち込みは禁止されたが、その網の目をくぐり抜けるように、今年に入ってからは、セキュリティーボックスにスマホケースのみを預けたり、スマホを2台持ち込んで1台のみ預けたりといった手法で職員の目を欺くという、悪質な偽装工作も行われている。
他の公営ギャンブルでは
なぜ公営ギャンブルの世界では、スマホの厳しい管理が求められるのか。
「公正性の確保のためですから、使用についてのルールはいくら厳しくても厳し過ぎることはない」
とは、公営ギャンブルに詳しいさるジャーナリストだ。
「他の公営ギャンブルではより厳格なところもあります。例えば競輪では、競輪場の施設に入る前に電源を切った上で、係員に預ける必要があります。使用や持ち込むことだけではなく、車に置き忘れたり、預け忘れたりするだけでも処分の対象になります。6年前、競輪場に来る際、スマホを駐車場の車に置き忘れた選手がいて、それだけで2カ月間の出場停止でした。昨年、競馬界のスマホに関する不祥事が表に出た際、競輪団体の関係者は“大らか過ぎる”“外部と通信が出来る状態にあったというのは考えられない”と言っていました」
競艇でも同様、通信機器を預け忘れて、半年間の出場停止となった例がある。
相次ぐ不適切使用
「対して競馬界ではスマホの不適切使用が相次いでいます。今年7月に1名、今月7日には2名の騎手が騎乗停止処分となっています。昨年5月には今村聖奈など6名の騎手がやはり不適切利用で騎乗停止処分を下されています。しかし、その期間が1カ月間と短かったため、甘過ぎるとの批判が相次ぎました」(前出・競馬ライター)
実はこの6名のうち、5名が女性騎手だった。当時JRAに所属していた女性騎手は6名。藤田だけが不適切使用と無関係だった。そのため、
「当時、藤田には称賛の声が上がりましたが、一方で、彼女たちにきちんと指導するのは、先輩で同じ女性騎手である藤田の役割ではなかったのかとの声も上がりました。今村たちがスマホを不適切使用していたのは、調整ルームではなく、競馬場内の控室ですが、男女別に部屋が分かれているため、男性は入ることは出来ません。一方で、藤田はその日、同じ競馬場にいて、ジョッキールームに入れる状況にありました。薄々気が付いていたのに指導しなかったのではないか、との指摘です。しかし、蓋を開けてみれば、実は彼女もその頃に不適切使用をしていたわけですから、注意できなかったとしても当然ですよね」
競馬界の人気向上に大きく貢献してきた藤田だが、最悪の展開でキャリアを終えることとなってしまった。
デイリー新潮編集部