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こんにちは、Togetterオリジナル編集部のToge松です。色々と漫画の記事を書いてます。

突然だが、みなさんは高校時代にどんな青春を過ごしただろうか。私はというと帰宅部で、放課後は仲間とぶらぶら過ごす3年間だった。

そんな怠惰な学校生活だったせいか、漫画などで部活動に勤しむ青春の1ページみたいな光景を見ると、あまりの眩しさで目がムスカ大佐になってしまう。

最近もそんな青春全開の漫画を読み、眩しすぎて消し炭になったばかりだ。その名も『ずっと青春ぽいですよ』という。

矢寺圭太(@yaterakeita)さんがコミックDAYS(講談社)で連載中の作品で、現在2巻まで出ている。

私と似たような境遇の中年オタクが読むと、きっと「ありもしない青春時代」を幻視して泣いてしまうだろう。そのくらい最高なんだ…。

※本記事は、作品に関するネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。
出典:Togetterオリジナル

 

 

ドルオタ高校生が「男の娘アイドル」をプロデュース

とにもかくにも、まずは第1話だ。これを読んでほしい。

物語はアイドル研究部の部長・山田が、同級生のギャルに「アイドルとしてプロデュースさせてくれ」と懇願するシーンから始まる。

1ページ目からさっそく、山田の熱量に青春の匂いを感じ取ってしまう。

山田の言葉に熱がこもっているのは理由がある。3年になるまで山田1人だけだったアイドル研究部に、杉森と河野という2人の新入生が入ってくれたからだ。

山田は何としても高校生活の最後の1年を充実したものにしたかった。

しかし、冒頭で声をかけたギャル2人は「マジ無理!」と即答。「ギャルはオタクに優しいんじゃなかったのか」とうなだれる山田だが、アイドルプロデュースに向けてふと起死回生の案を思いつく。

実は新入生の杉森は、前髪が隠れているおかげで目立ってはいないが相当な美少年。河野が密かにつけている「河野ノート※1」によると、「UR(※2)級」の逸材なのだ。

※1。河野が全校生徒の見た目をランク付けした手帳 ※2。作中ではウルトラレアの意。SSRより上

こうして杉森は、山田の強い頼みでアイドル衣装に身を包んだ「男の娘」になる羽目に…。彼らの青春が怒涛の勢いで始まるのだった。

「ありもしない青春を幻視」してしまう理由

冒頭でも書いたが、『ずっと青春ぽいですよ』を読んでいると、私はなぜか「ありもしない青春時代」を幻視してしまう。その理由を考えてみたい。

まず、本作は大きく2つの視点で描かれている。1つはアイドル研究部の視点。部長の山田を中心とした、「何かが始まりそうな青春」を謳歌するグループだ。

そしてもう1つは渡辺日香(わたなべ・にこ)、通称「にゃこ」の視点。にゃこは冒頭で山田からプロデュースさせてくれと懇願されたギャルの一人で、作中では一歩引いた視点で山田たちを見ている。

そして私は「自分がにゃこの視点で物語を読み、青春を幻視している」ことに気づいた。

にゃこは親友の鯖戸クロエと共に3年生で、スクールカースト的には上位の一人。いわゆる「オタクに優しいギャル」であり、作中におけるヒロイン的なポジションでもある。

彼女は冒頭で山田からのプロデュースの誘いを断るものの、その後もアイドル研究部たちと交流を深めていく。この彼女の視点が非常にエモいのだ。

たとえば第1話のラスト。学校から帰宅しようとするにゃこは、アイドル研究部の3人が楽しそうに自転車を漕いでいる様子を目撃し、「陰キャって今が楽しそうでいいよなー…」とつぶやく。

にゃこの発言は決して彼らをdisってるのではない。眩しく見えるのだ。

上記のコマを見れば直感的に察することができると思う。アイドル研究部の3人には強い光が射して陰影ができ、にゃこの顔には影がさすようにトーンが貼られている。両者の対比が鮮明に描かれているシーンだ。

限られた時間を謳歌する青春の眩しさ

にゃこも山田も受験を控えた3年生だが、部活を謳歌する山田に対し、彼女は何も始められないモラトリアム状態にある。

下校時にクロエを誘うも予備校に行くからと断られ、「将来の事とか考えるのダルすぎ…」と思っていたところ、山田たちの楽しそうな姿を見て発せられたのが、さっきの台詞なのだ。

こういうにゃこの視点が、彼女と同じくモラトリアムな高校生活を過ごした自分とシンクロしてしまう。人は大人になると「あのときもっといろんなことをやっていれば…」と振り返りがちだが、この漫画を読んでいると、不意にその感覚が降りて「ゔゔっ」と中年オタクのハートにとどめを刺してくる。どんだけ青春に未練タラタラなんだ。

だが、大人になってから味わう身悶えするようなこの感覚は、むしろ気持ちの良いものだ。在りし日の自分を思い浮かべて、「最高の青春だなあ…」とニヤニヤしながらページをめくってしまう。

『ずっと青春ぽいですよ』という漫画のタイトルもまた、そんな自分の心情を見透かすようだ。高校生活という限られた時間を思いっきり過ごそうとする彼・彼女たちの青春を心から応援したい。