報道陣の質問に答える喜三翼音さんの父親の鷹也さん(1日午後、石川県輪島市で)=米山要撮影

写真拡大 (全2枚)

 1日朝、福井海上保安署から、翼音さんの家族のもとに電話があった。

 同保安署などによると、9月30日午後4時15分頃、福井県坂井市の沖合40キロ付近で女性の遺体が見つかり、はいていたズボンのタグに手書きで「喜三」と入っていた。身長1メートル50ほどで、黒っぽいジャージーにトレーナー姿だったという。石川県警などは翼音さんの可能性が高いとみて身元の確認を進めている。

 大雨が降った9月21日、父の鷹也さん(42)はビデオ通話で、寒さを防ぐために長袖、長ズボンに着替えるよう翼音さんへ伝えた。海保からの連絡を受けた祖父の誠志(さとし)さん(63)は流された自宅付近で「言われたことを守り、助けを待っていたんじゃないかな。早く会って暖かい布団でゆっくり休ませてあげたい」と孫娘を思いやった。

 幼い頃から絵を描くのが大好きで、中学の美術部で部長を務めた翼音さん。5年ほど前、祖母の悦子さん(64)は似顔絵をプレゼントされた。鉛筆とクレヨンで描かれた笑顔の悦子さんを色とりどりのバラが囲む。「バラが大好きなのを知っていて、よく描いてくれた。どんどん上手になっていた」。今も悦子さんの部屋に大切に飾られている。

 翼音さんは今年に入り、輪島塗の蒔絵(まきえ)師の誠志さんが絵付けする姿をのぞき込むことが多くなった。「私もやってみたい」。そう言って目を輝かせる翼音さんに、「高校生になったら一緒にやってみようか」と約束していた。

 能登半島地震で、誠志さんが店を出していた朝市通りは焼失し、代わりに県内外で「出張輪島朝市」が開かれると、翼音さんは「大学卒業まではじいちゃんとばあちゃんのお手伝い、ずっとするからね」と店番をしてくれた。誠志さんは「命よりも大事な孫。もう一度一緒に店に立ちたい」と強く願う。

 鷹也さんが輪島署で確認した女性の着衣の写真は、1年ほど前、翼音さんへ譲ったトレーナーによく似ていた。女性が見つかった場所は自宅から150キロ以上離れている。鷹也さんは「会うまでは涙を流さない」と気丈に前を向いた。

(金沢支局 高野珠生、秋野誠)

     ◇

 石川県は所在が分からず連絡が取れない安否不明者として、翼音さんと輪島市の中山美紀さん(31)の2人の氏名を公表している。