鳥貴族が韓国進出「大好き!」韓国人が連日大行列で4時間待ちも…韓流「甘いハイボール」どうする?成功の裏の戦略

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ようやく暑さが和らいだ9月28日、韓国の首都ソウルで若者が集まる街、弘大(ホンデ)の一角に多くの人が集まっていた。「芸能人でもいるのかと思った…」。

通り過ぎる人も思わず足を止めたその人だかりの先にあったのは日本でお馴染みの大手焼き鳥チェーン「鳥貴族」の韓国1号店だ。

オープンしてすぐに閉店まで予約で満席になる人気ぶりを見せた。

全品均一価格「トリキスタイル」で展開する海外進出

鳥貴族は食べ物や酒類など全品370円均一(税込み)というコスパの良さを武器に店舗数で国内トップの居酒屋チェーンに成長した。

さらに9月20日には台湾に海外初の店舗をオープンさせたのに続き、年内には香港でも出店を予定するなどアジア市場への進出を加速させている。

鳥貴族を運営するエターナルホスピタリティグループの大倉忠治社長は、「10年くらい前から海外進出を目指して市場を調査してきたが、今後成長するためには海外進出は避けては通れない。海外進出なくしては鳥貴族の将来はない」と語る。

大手居酒屋チェーン撤退の過去 急増する「イザカヤ」…進出が難しい「韓国市場

ただ韓国にはこれまでも日本の居酒屋チェーンが進出したものの、コスパや味付けの好みの違いなど様々な要因で相次いで撤退を余儀なくされた過去がある。

さらに日韓関係の関係改善に伴い、日本を意識した“日本風”の店が急増している。日本式の居酒屋は韓国語でも「イザカヤ」として一般的になっている。

日本式居酒屋の利用する韓国人客は、「日本式居酒屋は韓国の居酒屋より雰囲気が良いから」「ハイボールが好きで居酒屋によく来ます」「韓国にはない、日本ならではの感覚がすごく特別で良いと思う」と話す。

鳥貴族韓国1号店の周辺でも日本式居酒屋は多く、ライバル店に囲まれている。

ただ焼き鳥韓国でも一般的になっているものの、高価格帯の店が多いことが韓国に進出する決め手になったという。

鳥貴族コリアの筒井信人社長は、「韓国でリーズナブルに、手軽に入れる焼き鳥店のポジションは空いていることがわかりました。まさに鳥貴族が目指しているポジションが今、空いているので韓国進出の絶好のタイミングだと実感しました。そして韓国プロジェクトが始まりました」と話した。

ローカライズする「トリキスタイル」 韓国ではハイボールが甘い!?

価格以外でも韓国人の舌に合わせる試行錯誤も重ねた。

オープンまで10日ほどに迫った9月中旬、鳥貴族本社の幹部がソウルの店舗を訪れ、料理や酒の味を確認した。基本的に食材は韓国で調達する中、日本の味が再現できているか厳しくチェックしていった。

鳥貴族の江野澤暢男代表取締役社長は、「つくねが少しあっさりしていた。胸肉の割合が多い気がした。モモ肉の割合が少ないのか」と肉の割合について注文し、「タマネギを細かくみじん切りしているので、タマネギの食感が感じられなかった」と野菜についても指摘した。

さらに議論になったのは「ハイボール」。

ある幹部が韓国ハイボールを飲んでみると…「甘っっ!?」

鳥貴族コリアの筒井信人社長は別の幹部に、「これが韓国のスタンダードのハイボールなんですよ」「これを知っていて、あれ(日本のハイボール)を韓国人が飲むと『何で?』って逆のリアクションになるんですよ」と説明。

日本と違い、韓国ハイボールは甘いトニックウォーターで割るのが一般的なのだ。

議論の結果、日本の味を伝えるとともに、韓国の人になじみのものと双方の味を提供することになった。

全品4900ウォン均一で迎えたオープン 連日行列が

注目の価格は4900ウォンに設定された。日本円で約530円。

日本での370円均一よりは若干高めの設定だが、鳥貴族の創業者である大倉社長は、「韓国焼き鳥店よりも少しリーズナブル、安い。その辺りをきっちりおさえた価格だと思う」と話し、韓国で受け入れられると胸を張った。

街で価格について聞くと、若者を中心に「日本より高い」という声が上がったが、実際に店舗で鳥貴族の味を確かめた客の反応は上々だ。

利用客に話を聞くと、「コストパフォーマンスでは絶対に(韓国の店は)かなわないと思います」「韓国にはあまりない雰囲気ですから(韓国人も)好きなんじゃないかと思います」「今、とても両国間の仲が良くて。韓国人も日本旅行によく行くし、日本料理が大好きですから」と大好評だ。

かつてソウルに進出した日本の外食チェーンの幹部として現地店舗を運営した経験をもつ筒井さんは、韓国から撤退した経緯を振り返りながら、鳥貴族の今後の展開を思い描いている。

鳥貴族コリア 筒井信人社長:
「撤退の背景に不買問題やコロナもあるが、そこが原因ではないと思う。5年、6年、7年と店をやって韓国人のファンをしっかり掴んでおけば外部要因で何があろうと乗り越えられたと思う。ただ(当時は)お客さんの心を掴み切れていなかったと思うので、鳥貴族ではしっかりお客さんの心を掴んでファンを作ることを徹底したい」

韓国で300店舗 鳥貴族の5年後ビジョン

オープン後も連日、鳥貴族の前には行列ができている。長い時は4時間待ちになることも―。

鳥貴族はすでに年内にソウル市内に2号店、3号店をオープンする予定で、2029年までに韓国内で300店舗をオープンさせたいとしている。

鳥貴族を運営するエターナルホスピタリティグループの大倉忠治社長は、「今、日韓のお互いの国のZ世代日韓関係が特に良いと思っている、K―POPもそうだし。そこを信じて頑張っていきたい」と語る。

長男でSUPER EIGHT(旧・関ジャニ∞)の大倉忠義さんから、韓国進出について「すごいな」と言葉をかけられたという大倉社長。

ソウルの青空の下で「応援してくれればいいな」と優しく笑った。

(FNNソウル支局長 一之瀬登)