いつもの「説教くさい活動家ムーブ」はどこへ…「進次郎フィーバー」に腹をくくった「立民代表選」が何かおかしい
■どうにもパッとしない立憲民主党代表選
裏金問題からの派閥解消で、突然9人も立候補して騒ぎになっている自由民主党の総裁選。その裏では、ほぼ同日程で野党第一党から政権奪取を目指す立憲民主党の代表選がしめやかにとり行われています。
事実上の日本のリーダーとなる総理大臣決定戦に位置付けられる自民党総裁選に比べれば、どうしても注目度も低くなりがちな立憲民主党。それでもさすがに代表選だけあって、政策論の面では割ときちんとした論戦が繰り広げられているのは良かったです。
今回は、ほとんど挙党一致で担ぐような雰囲気にまでなった元総理・野田佳彦さんが立憲サポーターや各議員から盤石な支持を集める中、当初は一騎討ちのような感じで元官房長官を務めた枝野幸男さんが立候補。どっかで見た二人が争ってる形になると、女性あり40代若手あり政策通ベテランありでバラエティに富む自民党総裁選に比べればどうにもパッとしないよな、というのはあったんじゃないかと思います。
■泉代表に対する「辛口の評価」が大勢を占めているが…
特に、この3年間かなり頑張って立憲民主党の代表としてやってきた泉健太さんに対する党内の声望が低く、また立憲支持層も「泉健太さんは特に立憲民主党を発展させることができなかった」とかなり辛口の評価が大勢を占めています。
ただ、あくまで筆者の受け止め方からすれば、泉健太さんは可哀想な役回りだったと思うのです。ややもすれば独立独歩の議員を多数抱え、小池百合子さんの希望の党問題以降も何かあるとバラバラになってしまいかねない立憲民主党という「もろい器」だったと言えます。そんなデリケートな組織を、曲がりなりにも任期満了まで破綻させることも分裂することもなく最後まで引っ張って来られたのは、紛れもなく敵を作らず丁寧な対応で腐心してきた泉健太さん以下執行部の手腕によるものであることは間違いありません。
総括として、立憲に関わる人たちは皆「良くも悪くもなかった」と評するのは、確かに党や組織が崩壊するような乱暴な運営はなかった。一方で、幾度も立憲民主党の飛躍のチャンスがあったにもかかわらず自公政権を追い詰めることができず、党勢を増すこともできなかった失望感が、立憲内部にあったのは間違いありません。
代表選立候補には国会議員の推薦人20人が必要という、いまの立憲の勢力からすれば非常にハードルの高い状況でも何とか出馬にこぎ着けた泉健太さんと並んで、野田陣営から推薦人を実質的に借りる形で出てきたのは東京8区当選1回の吉田晴美さんです。一般的には「誰この人」という感じで、各種調査でも吉田さんへの支持率は6%から8%程度に沈んでいますが、華やかな自民党総裁選に比べれば女性の立候補者がいないのにジェンダー問題を主たる争点にしたがる「立憲しぐさ」もあって、なんとしても女性を立てなければならなかったのでしょう。
■「YOUはどうして吉田晴美の推薦人に」状態
実際、一部媒体では吉田晴美さん立候補にあたっては、野田佳彦さんの命を受けた側近で立憲民主党東京都連の代表でもある手塚仁雄さんの調整があったと報じています。野田さんと極めて近しい元外相の玄葉光一郎さんや、室長の奥野総一郎さん、小西洋之さん、谷田川元さんら「YOUはどうして吉田晴美の推薦人に」状態で、どっちかというと野党応援団であるはずの時事通信にまで立憲代表選は茶番ではないか、という批判(※)が出てしまっています。
※:「吉田氏推薦人、野田氏に投票? 立民代表選、『茶番』批判も」時事ドットコム、2024年9月11日
プロフィールとしては公開していないものの、吉田さんには日本国籍を持たない裕福なインド系イギリス人との入籍期間があったと見られ、その間、ご息女をもうけておられます。
東京8区で当選するまでの間、党務と大学教員を併任していたと公式に書かれていますが、11年千葉県議選、13年参院選(岩手県選挙区)、17年衆院選(東京8区)と落選しており、21年衆院選で初当選を果たした遅咲きの政治家なのですが……YOUのその政治資金はどこから?
吉田晴美さんには質問状を送りましたが「以前の夫(英国籍)とは、離婚をし、今はそれぞれの道を歩んで」いるとのことでした。大丈夫なのでしょうか。
■泉氏、吉田氏は形だけの出馬、最有力候補は野田氏
立憲本部的にも「他にいなかったのか」という話も出るぐらい、本来ならど真ん中にいるはずの泉健太さんや女性候補は形だけの出馬となり、やはり野田佳彦さんが党代表になることは動かなさそうです。
代表選での演説・質疑や討論でも、現在の自公政権に対する批判にかなりの時間が割かれている一方で、やはり政策論争の主眼は家計の手取りやエネルギー、教育・少子化、農政(第一次産業)などがメインになっています。この辺は、日本が現在抱える固有の内政問題ですから、自民党総裁選と争点のメニューはそう変わりません。
他方で、従前から社会保障費の増大から、財源として重要な消費税の減税には後ろ向きの姿勢を示すようになった立憲民主党では、泉さんが食料品に限り軽減税率を増やして減税するとともに、新聞の軽減税率廃止を主張しました。よくやった泉健太。ただ、財源問題や安全保障の観点での政策論は、客観的に見ても野田佳彦さんの圧勝とも言える議論の緻密さと雄弁さが目立ち、横綱相撲にも見える野田さんのすごさが光る形です。
■枝野氏は「リベラル保守」「保守本流」を自称
エネルギー政策でも、世界的に脱炭素の流れが止まり始め、再生エネルギー一辺倒のエネルギー計画は計画ですらないと何となく理解してきたからか、いまごろになって原子力発電所の稼働はある程度認めるべきである的なことを立憲各候補も言い始めました。これらの政策は、いままで立憲支持のなかでも目立つ左派の意見を尊重してなかなか強くは主張できなかったことでした。
今回対抗で出てきた枝野幸男さんも、おそらくはこのような形で表舞台に立つことを最後と思って、それなりに意気込んで出馬しているようにすら思います。そもそもが、旧立憲民主党の流れを作って野党崩壊を防いだ立役者その人であり、思い返せば国民にとっては不幸な無能を晒した菅直人政権時代の官房長官として最低限以上の仕事をした人物だと考えれば、もうすでに日本政治において十分すぎるほどの役割を果たしてきた政治家とも言えます。
野田佳彦さんも枝野幸男さんも、本来は代表の座をめぐって相争うべき立場ですらなく、今回の代表選は「どのようにして立憲の目指す政治をより中道的なものに寄せていくか」という、大きな意味での軌道修正を図るための一戦であるとも言えます。枝野さんも、発言をよく見ていくと「リベラル保守」や「保守本流」を自称するなど、本当はかなりわかっていながら現実的に仕方なくいろんなものに取り組んでいる側面さえも感じさせます。
■「野党共闘」といっても、一筋縄ではいかない組み先ばかり
そして、立憲民主党も党是として、また野党第一党としてどうしても「政権交代」を叫ばなければなりません。ですが、泉体制でも(衆議院の)150議席を目指すとしていた目標では政権交代には届きません。これは、従来の立憲支持層だけでは到底政権交代まで議席を伸ばすことができないと気づき、国民の大多数を占める中間層や政治無関心層にも現実的な生活者目線での政策立案にシフトしたことの表れとも言えます。
そう考えれば、もちろん自民党総裁選に対抗して無理矢理女性候補を捻り出すよりは、まだ若い泉健太さんの代表を継続して野田佳彦、枝野幸男両ベテランが支える挙党体制を築く選択肢もあったんじゃないかなあ、と思ってしまいます。頑張ったのに人気のない泉健太さんが不憫で。
立憲単独での政権奪取にまだまだ時間がかかるぞという話になると、反自民党・反自公政権の軸で野党が結集することもひとつの焦点になるはずなのですが……もともとは同じハコであった国民民主党はともかく、野党共闘でも状況を打開できなかった日本共産党との野党共闘路線はどうなるのでしょうか。また、喉から手が出るほど欲しい若い人からの支持はまあまあありながらも山本太郎私党のような感じで話が通じず扱いがむつかしい、れいわ新選組、さらに党組織はガタつきながらも反自民の票を一定以上喰ってしまうことが確実な日本維新の会など、一筋縄ではいかない組み先ばかりが残ってしまっています。野党にはどうしてこういう話のわからない人たちばかりが集まってしまうのでしょうか……。
■「政治業界・界隈の信頼つなぎ止めショー」の行方
立憲民主党も、自由民主党が昨年暮れからの裏金問題で揺れ、岸田文雄政権の支持率だけでなく自由民主党への党支持率も失う中で、その受け皿として大きく支持を伸ばして飛躍ができたのかと言われれば期待には程遠いところでとどまってしまった、というのは痛手であったろうと思います。というのも、自民支持が剥げたのでそのまま立憲支持に鞍替えしてくれるような単純な構造ではなく、自民支持者はまず自民党に失望して無党派になり、その無党派から有権者は選択としてまだマシな政党として立憲民主党を認識して支持をするようになる、という流れになると思われるからです。
今年7月の都知事選においても、立憲民主党からすれば切り札として見られていた蓮舫さんが、日本共産党からも熱い支持と運動を背に受けたもののパッとせず、2位でもダメで3位でした、みたいな状況になったのは象徴的です。これは、自民党に対する不信感もありながらも、立憲にも共産にも、いわゆる既存政党への失望感とあわせて、年老いた左翼くさい活動家的なムーブが、蓮舫さんといえど都民から大きな失望を呼んだのは間違いないところです。
いわば、時期的に自民党総裁選と被った立憲代表選は、お互いを映し鏡として国民が既存政党に対する信頼をいかにつなぎ止め、新しい顔や政策がどのように国民の希望やニーズにフィットするのかが問われる、ある種の「政治業界・界隈の信頼つなぎ止めショー」になっているのでしょう。
むしろ、自民党が低迷して大変なことになっても、日本国民には「あ、立憲民主党が政権を取れば世の中が良くなるのではないか」と思えるような代表選に仕上げていただければと心より願っています。
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山本 一郎(やまもと・いちろう)
情報法制研究所 事務局次長・上席研究員
1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。
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(情報法制研究所 事務局次長・上席研究員 山本 一郎)