アングル:イスラエル軍の秘密情報部隊が関与か、ヒズボラ通信機器爆発

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Jonathan Saul Steven Scheer Ari Rabinovitch

[ロンドン/エルサレム 18日 ロイター] - レバノン全土で親イラン民兵組織ヒズボラの戦闘員が所持していた通信機器が爆発し多くの死傷者が出た事件には、イスラエル軍の秘密情報部隊「8200部隊」が関与していた。西側の安全保障関係者が明らかにした。

レバノンでは17日に首都ベイルート郊外など各地でヒズボラ戦闘員らが使うポケットベル(ポケベル)型通信機器が一斉に爆発し、12人が死亡、数千人が負傷。18日にも各地でヒズボラが使用していた通信機器が爆発し、レバノン保健省は、20人が死亡し450人以上が負傷したと発表した。

レバノン高官と別の情報筋によると、ヒズボラが発注した5000台のポケベルに少量の爆発物を仕掛けるという高度な作戦を実行したのはイスラエルの対外特務機関「モサド」だとされる。

しかし西側の安全保障筋によると、今回の作戦はモサドに属さない、軍の情報部隊である8200部隊が立案段階で関わり、準備に1年余りもかけた。8200部隊が関わったのは爆発物をどのように機器に仕込むかを技術的にテストする段階だという。

イスラエル軍はコメントを避けた。モサドの監督機関である首相府もすぐにはコメント要請に応じなかった。

元軍情報機関高官で、現在はイスラエル防衛安全保障フォーラムの研究部長を務めるヨッシ・クーパーウォッサー氏は、今回の攻撃に8200部隊が関与したという確証はないと述べた。一方で8200部隊について、イスラエル軍のエリート兵士で構成され、防衛能力の中核を担っていると説明。「8200部隊が直面している課題は非常に大きく、要求水準が高いため、最高の人材をそろえる必要がある」と解説した。

8200部隊は情報収集ツールを開発・運用している。入隊するのは若い選りすぐりの兵士で、しばしば米国防総省の情報機関、国家安全保障局(NSA)に例えられる。

その活動が公になることはめったにないが、イスラエル軍は2018年に、同部隊が過激派組織「イスラム国」(IS)による西側諸国への空爆を阻止するのに貢献したと発表した。軍の当時の説明によると、8200部隊は情報収集や、ハイテク攻撃に対するサイバー防衛に関わった。

8200部隊はイランの原子力施設の制御システムを無力化したことで知られるサイバー兵器「Stuxnet(スタックスネット)」など、イスラエル国外での大規模な作戦にも関与したと報じられているが、イスラエルが同部隊の関与を公式に認めたことはない。

<ハマスの奇襲察知できず>

8200部隊は実質的にイスラエルの早期警戒システムの役割を果たしており、防衛・安全保障関連の他の機関と同様に、昨年10月7日のハマスによるイスラエル奇襲攻撃を事前に察知できなかった責任の一端を負っている。

先週辞任の意向を表明した同部隊の指揮官は、任務を果たせなかったと振り返った。

8200部隊は、従来の枠を超えた発想を重視する文化を持つことで知られ、除隊後にイスラエルのハイテク産業や大企業を興した元隊員もいる。

クラウドセキュリティーのユニコーン企業オルカ・セキュリティーの共同創設者で8200部隊の元隊員であるアヴィ・シュア氏は「ソフトウエアの弱点、数学、暗号化、ハッキングの問題など、どんなことでも自力で解決できる能力が必要だ」と述懐した。

やはり元8200部隊隊員で、サイバーセキュリティーと人工知能(AI)に投資するファンドのマネージングパートナーであるコビ・サンボウルスキー氏は、熟練隊員が除隊して若手が採用されるペースが速いとした上で「8200部隊で最も重要なのは、何事も可能で『やればできる』という風土だ」と語った。