『ネムルバカ』©石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会

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 『ベイビーわるきゅーれ』シリーズを筆頭に、ゆるい会話劇と一級品のアクションがクセになる独自の作風を確立してきた阪元裕吾監督。そんな阪元監督が、石黒正数の人気漫画『ネムルバカ』を、久保史緒里(乃木坂46)&平祐奈のW主演で映画化することが決定した。

参考:乃木坂46 久保史緒里と平祐奈がW主演に 阪元裕吾監督で『ネムルバカ』実写映画化決定

 原作ファンの間でもすでに期待値が高まっている阪元&石黒のタッグについて、ライターの加藤よしき氏に聞いた。

映画『ネムルバカ』超ティザー映像阪元裕吾が得意とする“会話劇”と“ドラマ性”の融合 殺し屋稼業を営む女子2人の日常を描いた『ベイビーわるきゅーれ』が大ヒットし、現在はテレビ東京系にてドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』が放送中、第3弾となる映画『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』も控える阪元監督の作風について、加藤氏は以下のように分析する。

「阪元監督の強みは、“会話劇”と“ストーリー”、そして“クライマックスの盛り上げ方”にあります。『ベイビーわるきゅーれ』を例に挙げると、主人公のちさと(郄石あかり)とまひろ(伊澤彩織)の会話がすごくリアルなんです。ちゃんと笑わせつつ、かつ芝居っぽくない。本当に普通の若い子同士が会話しているような温度感を出すのが上手いんです。以前、阪元監督に取材した際におっしゃっていたのは、映画を作る前にTikTokやYouTubeに上がっている、中高生が自作したお笑い系の動画をたくさん見て研究されたそうです。また、現場で生まれたアイデアも積極的に取り入れたと聞いています」

 20歳前後の若者を描くにあたり、徹底的に“素”の会話を研究したという阪元監督。彼らの日常に潜む悩みや喜び、そして成長の過程を描くことに、阪元監督は長けている。

「『ベイビーわるきゅーれ』も20代前半くらいの設定なので、いわゆるモラトリアム期間ですよね。まだ未来が決まっていない、ふわっとした時期の空気感みたいなものを描くのが上手い方だと思います。『ネムルバカ』も大学の寮で同居している女の子2人が主人公なので、阪元監督にとってこれ以上ない適材適所だと感じました。そして、阪元監督は元々アクションを撮るのが上手い方なだけあって、感情が爆発するシーンの撮り方が上手い。『ベイビーわるきゅーれ』でも、日常パートのゆるい会話の中に後々に盛り上がる要素を散りばめて、最後に爆発させる構成がとても綺麗でした」

原作者・石黒正数と阪元裕吾監督の相性 『ネムルバカ』の原作者である石黒正数は、ほかにも『それでも町は廻っている』や『天国大魔境』で知られ、日常パートとストーリー展開の両面で高い評価を受けている漫画家だ。その作品世界と阪元監督の演出スタイルの相性について、加藤氏はこう語る。

「石黒さんの漫画は、ストーリーテリングがすごく上手いんです。伏線を張ったり、物語を盛り上げたりする構成力が素晴らしい。『ネムルバカ』もただのゆるい日常ものではなく、原作の1ページ目から読者の心を掴む謎めいた一文で始まり、最後にはその意味が分かるようになっています」

 実写映画では平が演じる、“先輩”こと鯨井ルカは、音楽に打ち込むロックなキャラクター。音楽への情熱とは裏腹に、超えられない才能の壁といったシビアな要素も原作では描かれる。加藤氏は、だからこそ阪元監督が起用されたのではと考える。

「阪元監督は、『ベイビーわるきゅーれ』から一貫して、切ない話を書くのが得意なんです。コミカルな場面がある一方で、普通に人も死ぬし、ハードボイルドな要素もあります。そういった意味でも、今回の『ネムルバカ』は観終わった後に少し切ない気持ちにさせてくれるような青春映画になるんじゃないでしょうか」

阪元裕吾監督の作風の変遷と一貫性 『ベイビーわるきゅーれ』のフランチャイズ化を経て、阪元監督の作風にも少なからず変化が見られる。しかし、その本質は変わっていないと加藤氏は指摘する。

「『ベイビーわるきゅーれ』以降、会話劇により重きを置くようになったのは確かですね。ただ、昔からコメディ要素を大事にしている人なんです。2019年に公開された『最強殺し屋伝説国岡』でもアクション映画としての完成度を追求しつつ、会話の中にクスッと笑わせるユーモアがちりばめられていました。その上で、ストーリーとしての面白さがどんどん洗練されていっている印象なので、『ネムルバカ』でもさらに進化した阪元監督が観られることに期待しています」

 出会うべくして出会ったと言える、石黒正数と阪元裕吾。初共演となる久保と平の化学反応にも注目しながら、彼らの紡ぐ愛おしいモラトリアムに浸りたい。(文=花沢香里奈)