今季の佐々木朗希は「ここまで45点」 清水直行が厳しい点数をつけた理由を語った
8月30日のソフトバンク戦で7回無失点と好投し、7勝目(4敗)を挙げたロッテの佐々木朗希。しかし、今季は好不調の波が大きい印象があり、コンディション不良で戦線から離脱していた期間は約2カ月に及んだ。長らくロッテのエースとして活躍した清水直行氏に、佐々木の状態やピッチングに対しての見解を聞いた。
8月1日に復帰以降、2勝2敗の佐々木 photo by Sankei Visual
――8月30日のソフトバンク戦では7回無失点と好投しましたが、それまでの試合では打ち込まれるシーンも見られました。ここ最近のピッチングをどう見ていますか?
清水直行(以下、清水) 離脱する前と復帰後を比べても、投球フォームなどメカニックの部分は特に変わっていないと思います。ただ、ストライクが入らなくなり、フォアボールが多くなる時がありますよね。ボールをコントロールする技術をもっと磨いていかないといけないかなと。
160km以上の真っすぐと140km台後半のフォークがあっても、それをピッチングとしてまとめていく技術はまだまだだなと思いますが、(8月30日の)ソフトバンク戦では縦に曲げたり、横に曲げるスライダーをうまく織り交ぜていたので真っすぐとフォークが生きました。小さくまとまってもらいたくはないのですが、バッターの裏をかくピッチングを意識することも必要です。
――8月8日のソフトバンク戦では5回9安打3失点ながら9奪三振、8月22日の日本ハム戦では6回6安打4失点で8奪三振。打ち込まれる試合でも三振は多いです。
清水 佐々木を評価する時、何を基準にすればいいのかわからなくなっている部分があると思うんです。たとえば球速が出ている・出ていない。ローテーションを守っている・離脱した。毎試合100球を投げられている・100球に達しなかった、とか......。最近では、「無事に投げられていればいい」とハードルが下がってきている感じもあります。
ただ球団としては、ずっと大切に育ててきて、そろそろローテーションで平均7イニング、年間24試合は投げてくれないと、という段階。どれぐらい球速が出たかとか、三振を多くとれたといったことも評価の基準のひとつかもしれませんが、先発ピッチャーであればローテーションを守ることが最重要の課題だと思うんです。
【体が"黄信号"の状態での判断に迷い?】――昨季終了後に話を伺った際には、先発としての働きは「50点」とおっしゃっていました。今季はいかがですか?
清水 やはり先発投手の柱のひとりとして年間24試合に投げられないのであれば、期待を裏切ってしまっているわけで、ここまでは45点ぐらいかな......厳しい採点になりますけどね。ただ、まだシーズンは終わっていませんし、ここからの挽回に期待しています。
――期待された今季、右上肢のコンディション不良で6月8日広島戦での登板を最後に登録抹消され、復帰まで2カ月近くかかりました。
清水 要は、コンディションの回復が追いつかないのではないでしょうか。160kmの球を投げるための出力は本人でないとわからないところですが、肩や肘の張りがなかなか取れないんじゃないかと思うんです。
ただ、プロである以上はみんなどこかしらに痛みを抱えていますし、張りも残っていますが、多少の怖さを抱えながらも任された試合に出ています。これは先発ピッチャーに限らず、ブルペンのピッチャーも野手も同じ。シーズンが進んでいく過程で「どこも痛くない。バリバリ元気です」という選手はいません。決して精神論を語るつもりではないのですが......。
――佐々木投手の場合は、出力がほかのピッチャーよりも高いから、コンディションの調整が難しい?
清水 「コンディションは悪くはないけど、万全とは言えない」といった"黄信号"の状態をどう判断しているのか、というところですね。その判断を佐々木が下しているのか、トレーナーがしているのか、話し合って決めているのかはわかりません。どちらにせよ、「黄信号でも大丈夫」なのか、無理をして赤信号になるリスクを避けるために「黄信号で止めておいて、青信号になるまで調整しよう」なのか......そういった黄信号の幅というか、投球させる許容範囲がわからず探っている状態だと思うんです。
でも、それは経験を重ねていかないとわからないことですし、佐々木だけではなくほかの先発ピッチャーも同じです。プロ野球選手になって、日々の練習や試合で朝から晩まで野球をしていれば体のあちこちに痛みが出てきますが、「どれぐらいの状態ならいけるのか」というのが把握しきれていないんじゃないかと。それがすべてだと思います。
【CS出場のために佐々木に期待すること】――9月4日時点(以下同)で3位のロッテは、2位の日本ハムと4ゲーム差。一方、4位の楽天とのゲーム差は2.5。CS出場をかけた争いが激しくなっています。そんななかで佐々木投手に期待することは?
清水 残りのシーズンを完走することですね。先発ローテーションのピッチャーはみんな頑張っていますし、佐々木もその一員として投げ切ってほしい。特に、ローテーションの一角である種市篤暉が右足内転筋の故障で離脱してしまいましたし、ここからチームを引っ張っていってもらいたいです。
――8月1日の西武戦で復帰登板を果たした以降は、アクシデント(8月15日の日本ハム戦で打球が当たって1回1/3で降板)がありながらもローテーションを守っています。
清水 アクシデントや打ち込まれる場面があるにせよ、しっかり投げることはできています。直近のソフトバンク戦では初球をスライダーから入ったりと、スライダーを多めにして的を絞らせませんでしたが、そういったピッチングでも結果を出しました。本人も手ごたえをつかんだんじゃないでしょうか。
160kmの真っすぐと140km後半のフォークで三振をとるのもひとつのスタイルですが、変化球を織り交ぜてかわしていくのもピッチングです。周囲は160kmの真っすぐを連発したり、完全試合を期待したりしますけど、彼には理想のピッチングスタイルがあると思うので、周りに振り回されずにそれを突き詰めていってもらいたいですね。
――その上で、シーズンを通してローテーションを守ってもらいたい?
清水 そうですね。どうすればシーズンを通して離脱せずに投げられるのか。コンディションの調整しかり、ピッチングスタイルしかり、そこに向かってじっくり取り組んでいってもらいたいですね。繰り返しになりますが、先発ピッチャーとして一番果たさなければいけない役割はそこだと思っているので。
【プロフィール】
清水直行(しみず・なおゆき)
1975年11月24日に京都府京都市に生まれ、兵庫県西宮市で育つ。社会人・東芝府中から、1999年のドラフトで逆指名によりロッテに入団。長く先発ローテーションの核として活躍した。日本代表としては2004年のアテネ五輪で銅メダルを獲得し、2006年の第1回WBC(ワールド・ベースボールクラシック)の優勝に貢献。2009年にトレードでDeNAに移籍し、2014年に現役を引退。通算成績は294試合登板105勝100敗。引退後はニュージーランドで野球連盟のGM補佐、ジュニア代表チームの監督を務めたほか、2019年には沖縄初のプロ球団「琉球ブルーオーシャンズ」の初代監督に就任した。