イラスト:かやぬま優

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2024年9月4日の『クローズアップ現代』は、「健康寿命を延ばせるか《老いにあらがう》研究最前線」がテーマ。健康なまま元気に過ごせる「健康寿命」を延ばすことはできるのか――。過熱する「抗老化」競争の最前線に迫ります。今回は番組に登場する新井康通先生が「ピンピン長生きの秘訣」について解説した、2023年06月29日公開の記事を再配信します。*****厚生労働省のデータによれば、2022年9月1日時点で100歳を超えた人は全国で9万526人(そのうち89%は女性)、52年連続で過去最多を更新中です。30年以上にわたる高齢者調査で見えてきた、人生の最後まで自立した生活を送るためのカギとは(構成=山田真理 イラスト=かやぬま優)

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健康寿命を延ばす3つのカギ

私が所属する慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターでは、超高齢者(85歳以上)、百寿者(100歳以上)、超百寿者(105歳以上)、スーパーセンチナリアン(110歳以上)の寿命と健康の関係について研究を続けてきました。人生の最後までイキイキと、心身ともに自立した生活を送ることは多くの人の理想。

そこで私たちは、長寿でありさえすればよいという観点ではなく、健康寿命をいかに延ばしていくかという視点で、医学、社会心理学、看護学、栄養学など、さまざまな側面から調査を実施しています。

そのなかで明らかになったのは、85歳以上の超高齢者のうち、移動、着替え、食事、入浴などの日常生活動作を「自立」「ほぼ自立」して行えている人は約半数であるということ。百寿者ともなれば、その割合は約2割になってしまう。ただし、100歳の時点で自立している人は、その後も長生きだということでした。

いつまでも自立した生活が送れている高齢者には、どんな特徴があるのか。調査結果から私たちが導き出したのは、以下の3つです。

(1)心臓や血管など循環器系の老化が遅い

加齢にともなう心機能や血管の弾力性の低下は避けられないものの、百寿者の多くは、ほかの高齢者より血管の状態がよく、心機能も良好に保たれていることがわかっています。

また、スーパーセンチナリアンは心不全の診断指標となる血液中のホルモン「NT‐proBNP」の血中濃度が、100歳時点でほかの百寿者よりも低く抑えられていました。

「NT‐proBNP」は心臓のポンプ機能が低下するほど多く分泌されるため、自立して長生きしている人ほど心臓の老化が緩やかだといえるでしょう。

(2)認知機能を保てている

認知機能の低下は、生活の自立度に大きく影響します。スーパーセンチナリアンは100歳時点で自立した日常生活を送れており、認知症を発症している人はいませんでした。

(3)フレイルになるのが遅い

フレイル(加齢により筋肉や骨量が減少し、心身の活力が低下した状態)が進行すると、介護が必要な状況になります。100歳以上で亡くなった高齢者を対象に100〜104歳時点のフレイル状況を調査した結果、110歳以上で亡くなった人がもっとも自立していたことがわかりました。

このことから、フレイルの発症を遅らせることが健康寿命を延ばすカギといえるでしょう。沖縄県の百寿者研究でも、同様の結果が報告されています。

これらの3つの特徴は、体内で起こる「慢性炎症」を抑制できていることと関係しています。慢性炎症が起きる原因の代表的なものは、「肥満」「動脈硬化」「腸内細菌叢の乱れ」「免疫老化」「細胞老化」の5つ。なかでも気をつけたいのが「肥満」です。

肥満の人の脂肪細胞からは炎症性物質のサイトカインが多量に分泌され、これに免疫細胞が過剰に反応することで炎症が慢性化。血糖値が下がりにくくなり、血管を傷つけるため、動脈硬化や心筋梗塞、糖尿病のリスクを高めます。

肥満や糖尿病とも関係している「動脈硬化」も、血管の壁にコレステロールがたまることで、その部分に免疫細胞が反応して慢性炎症が起こっている状態。「腸内細菌叢の乱れ」は、腸内の善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れることで免疫機能が低下し、炎症を招くとされています。

また、リンパ球などの免疫細胞は加齢とともに老化し、機能が低下。このように「免疫老化」が進んだ体では、あちこちで弱い炎症が起こるようになります。そして、近年の研究で注目されているのが「細胞老化」です。

老化した細胞はサイトカインなどの炎症性物質を分泌することで、周りの細胞まで老化させてしまうことがわかってきました。


食生活は1日3食、栄養バランスのとれた食事をすることが基本(写真提供:Photo AC)

健康習慣の積み重ねが一番の近道

では、慢性炎症を抑制するには何をすればよいのか。それには、健康な体の維持が欠かせません。特に、「食事」や「運動」に気をつけることが有効です。

まず、食生活は1日3食、栄養バランスのとれた食事をすることが基本。いろいろな食材を食べることは、咬合力(噛む力)の維持、嚥下機能の低下防止にも繋がります。

食べる量については、メタボ対策として「腹八分目」を心がけることが大切です。とはいえ、それも65歳頃まで。年を重ねると食が細くなる人が多いため、フレイル対策として痩せすぎないよう気をつけなければなりません。

魚や肉、乳製品、卵、大豆製品などから、筋肉を作り、免疫力を高めるタンパク質を。さらにビタミンやミネラルを多く含む野菜や果物もしっかりと摂って、骨や歯の新陳代謝と、細胞の活性化を促しましょう。

運動は、年齢や体力に合わせてできることを継続してください。世界保健機関(WHO)は、「65歳以上の高齢者は座位時間を身体活動(強度は問わない)に置き換えることで健康効果が得られる」と提言しています。実際、85歳以上の元気な長寿者の約7割が散歩をしており、ほかにもラジオ体操やストレッチなど軽い運動を習慣にしている人が多くいました。

また、近所づきあいや習い事をするなど、社会と繋がりを持ち続けることは、認知機能の維持に役立つと私たちは考えています。外出する機会が増えれば、フレイル対策にもなるでしょう。

神奈川県川崎市と共同で行った、85〜89歳の高齢者を対象とする健康、生活、地域との繋がりに関する調査によると、自立している人はサークルやボランティア活動などに参加する機会が多いことがわかりました。

<後編につづく>