日本でセブンイレブンが普及した理由。現セブン&アイ・ホールディングス会長・鈴木敏文が行った流通革新とは
日本経済は1960年代以降、安定成長期やバブル、「失われた10年」とも呼ばれる長期停滞など、消費者の生活に大きな影響を与えながら変化していきました。一方で、応援消費やカスハラなど消費を巡るニュースが増える中、北海道大学大学院経済学研究院准教授の満薗勇氏は、消費者が社会や経済に与える影響について指摘します。今回は、著書『消費者と日本経済の歴史』(中公新書)より、イトーヨーカ堂取締役となった鈴木敏文が、セブン−イレブンを日本に開店するにあたり行った流通革新について、一部抜粋してご紹介します。本家アメリカを大きく超えることになった改革内容とは――
【書影】変貌する消費者と社会を描き出す『消費者と日本経済の歴史 高度成長から社会運動、推し活ブームまで』(著:満薗 勇)
* * * * * * *
日本型コンビニの革新性
鈴木敏文が日本のセブン−イレブンで実現した流通革新の要点は、(1)多頻度小口配送、(2)魅力的な商品開発、(3)POSシステムによる単品管理、という3点に整理できる(矢作1994、川辺2003)。
まず、店舗への商品の納入では、多頻度小口配送の実現が不可欠であった。
コンビニエンス・ストアには、在庫スペースの小さい小型店舗という制約があり、そこに年中無休で欠品のない定時配送が求められる。セブン−イレブンでは、既存の問屋を活用しつつ対応したが、当初はメーカーごとの大ロット配送という商習慣が当然とされていた。
その結果、セブン−イレブン一号店は、開店から1ヵ月後、「お店の二階の居間が在庫の山であふれて大変です」と報告されるような状況に陥ってしまう(鈴木2014)。
以後、鈴木はメーカーや問屋を説得しながら、窓口問屋による集約化と、商品グループごとの共同配送を実現し、コンビニエンス・ストアの特性に応じた配送システムを確立していく。
加えて、魅力的な商品開発も重要な課題であった。
コンビニに欠かせない商品誕生
コンビニエンス・ストアは利便性を重視する業態のため、ファストフードの品揃えが重要となる。
当初は、アメリカのセブン−イレブンに学んでホットドッグなどの取り扱いを試みたが、うまくいかなかった。
そこで鈴木は、おにぎりや弁当の開発に乗り出す。
周囲からは「そういうのは家でつくるのが常識だから売れるわけがない」との反対が寄せられたが(鈴木2014)、米飯商品、調理パン、調理麺、惣菜などの商品開発は成功を収め、コンビニに欠かせない商品となった。
さらに、POSシステムを利用した単品管理は、在庫管理、商品納入、商品開発などを情報面から支える重要なポイントであった。
POSとはPoint of Sales の略で、POSシステムとは販売時点情報管理システムと訳される。買い物客の会計時にレジの端末から入力される情報を集め、いつ、どんな商品が、いくらで、どれくらい売れたのかを単品レベルで集計し、ネットワーク上で把握するシステムであった。
POSがもたらしたもの
セブン−イレブンは1982年にPOSシステムを導入し、小売業の情報システム化をリードしていく。
当時、アメリカではすでにPOSシステムが使われていたが、その目的は、省力化、正確性の向上、不正防止といったレジ係の店頭業務上の対応にあった(セブン−イレブン・ジャパン1991)。
それに対して、鈴木は、売れ筋商品の把握と死に筋商品の排除という情報を把握するためのツールとしてPOSを活用したのである。
セブン−イレブンでは、本部、加盟店、問屋、メーカー、共同配送センターとの間に高度な情報ネットワークを構築し、効率的な配送や魅力的な商品開発を情報面からも支えるしくみを整えた。
安売りではない方法で利益を追求
以上のように、日本のセブン- イレブンは、物流や商品開発に加え、情報通信技術の活用にまで及ぶイノベーションを達成した。
安売りではなく、利便性の提供というコンセプトに基づく高い利益を追求し、その利益を本部と加盟店で分け合う。
中小小売店との共存共栄という初発の問題意識は、このような日本型コンビニのかたちとなって結実したのである。
この間、セブン−イレブンの国内店舗数は、1974年に酒屋からの転換による一号店が開店してから、1980年に801店、1990年に3954店、2000年に8153店へと大きく増加し(セブン−イレブン・ジャパン2003)、以下に示す売上高ランキングの通り、最大手のコンビニエンス・ストアとして業界の発展をリードしたのであった。
表3-4 コンビニエンス・ストア売上高ランキング(2008年度)(出所)『流通統計資料集 2010年版』流通経済研究所、2010年、71頁により作成。 (注)エリア・フランチャイズを含む。ただし、ミニストップのみエリア・フラ ンチャイズの数字を得られず合算していない。
参考文献:
矢作敏行(1994)『コンビニエンス・ストア・システムの革新性』日本経済新聞社
川辺信雄(2003)『新版 セブン- イレブンの経営史――日本型情報企業への挑戦』有斐閣
鈴木敏文(2014)『挑戦 我がロマン――私の履歴書』日経ビジネス人文庫
※本稿は、『消費者と日本経済の歴史 高度成長から社会運動、推し活ブームまで』(中公新書)の一部を再編集したものです。