カインズ(写真:編集部)

コロナ禍は、さまざまな事業活動を制約して、経済活動を縮小させ、数年にわたって災害のごとき甚大な悪影響を及ぼした。一方、巣ごもり需要という一時的な需要拡大が起こっていた業界もあった。

巣ごもりから自宅まわりの見直しへと目が向いたことで、ホームセンターは、これまでにはないほどの活況を呈していた。そんなホームセンターはいま、どんな状況にあるのだろうか。

コロナ前は横ばいが続いていたホームセンター市場

ホームセンターの市場規模(日本DIY協会調べ)は、1990年代くらいまでは拡大を続けていたが、2000年代に入ると4兆円あたりで横ばいとなり、以降はほぼ同水準という状況が続いてきた。


もともと、その名のとおり、家の外構、庭回り、園芸といった外回りや、家そのものの改良、生活に関わる消耗品など内外の家まわり需要に応える業態であるホームセンターは、基本的には戸建て住宅が多い、郊外や地方を中心に需要を取り込んで成長してきた。

しかし、郊外や地方で戸建て住宅が増えなくなると、市場規模も横ばいとなる。それどころか、地方や郊外から人口減少が進んでいる今、ホームセンター市場は基本的には縮小に向かっていくことが避けられないのである。

そんな環境下で起こったコロナ禍。巣ごもり需要が発生したこと、および、生活必需品を扱う小売業として大型小売店への営業規制から除外されたことが追い風となり、ホームセンター市場は2020年度に大幅な拡大となっていた。

しかし、感染の落ち着きと共にその追い風は消え、コロナが事実上収束した2023年度は、市場規模が4兆円を割り込むところまで戻ってしまった。コロナが感染症法上の5類扱いとなった今、ホームセンター業界は再び市場縮小の下での椅子取りゲームに向き合わざるをえなくなっている。

大手企業を軸とした再編が進行

横ばいの市場の下でもホームセンターの店舗数は増加し続けており、2000年代以降のホームセンターの店舗あたり売り上げは減少し続けている。ホームセンター業界では同じ時期には、店舗を大型化することによって集客力を競う方向にあったため、このデータ以上に店舗の効率は低下している。


こうした環境の下、ホームセンター業界では徐々に大手企業を軸とした再編が進行し、上位集約が進んできた。この表は2000年時点と2023年時点のホームセンター業界上位10社の顔触れと、その上位集約度をざっくり表したものである。2000年時点で3割ちょっとだった上位10社シェアは今では、7割を超える状態となっており、伸びない市場で上位寡占化が急速に進行してきたことを示している。

なかでも象徴的な存在が、2000年当時の上位のうち4社が合流している現在の業界2位DCMホールディングスであろう。まずは、ホーマック、カーマ、ダイキが経営統合して誕生したこの企業は、統合により縮小市場での生き残りを図り、これまでにも多くの大手、中堅ホームセンターをグループに迎えて大きくなった。


こうした動きは他社にも波及している。アークランズは大手企業同士の統合、アレンザホールディングスは中堅中小ホームセンターの複数統合によって生まれた企業であり、こうした同業同士の合従連衡によって、かなり寡占化が進んできた。

ただ、このような同業間の再編も上位集約度が7割を超え、選択肢が乏しくなってきており、近時は異業種、隣接業種とのアライアンスも散見されるようになってきている。

カインズは東急ハンズを子会社化

2022年にDCMがグループ化したエクスプライスは、家電を中心とするECサイトの企業である。家電という隣接ジャンルであり、ECとリアル店舗の相互送客を企図したアライアンスだという。コーナン商事は中堅中小の同業(ホームインプルーブメントひろせ、ドイト、ビーバートザン)のグループ化も進めながら、プロ向け建材ショップ、建デポの買収を行い、コーナンPROで取り組んでいたプロ向け部門の拡大を加速した。

また、同業のM&Aはしてこなかったカインズも、都市型DIY、雑貨ショップの老舗、東急ハンズ(現ハンズ)を子会社化している。こうしたM&Aの相手方の業種はさまざまだが、ホームセンターの本業に隣接する、少しズラした分野の強化ということになる。今後、縮小が避けられない、地方、郊外の住生活関連需要から幅を広げていこうとする布石なのだろう。

人口減少に伴う市場縮小の影響を軽減するためには、大都市部への進出も選択肢としてあるが、ホームセンター業界では広い売り場と駐車場、その割に低い売り上げという業態特性から、そのハードルは高い。

また、ホームセンターには都市型が、ほとんどいないため、他の同業を統合していったとしても、市場縮小スピードを緩和する効果がない。都市部マーケットへの進出を目指すなら、基本は新業態を開発しなければならず、それは言うほど簡単ではないため、いまだ実現したホームセンターはない。

かつてDCMは都市型に近い立地に展開する島忠(埼玉県)とのアライアンスを目指したが、家具インテリア雑貨の雄、ニトリにさらわれてしまった。そうした中で、カインズが、ホームセンターではないが都市型DIY、雑貨ショップのハンズをグループ化したのも、都市部業態開発への足掛かりと解釈すべきであろう。

カインズに対抗するために大手企業3社が経営統合

カインズは、大型店舗に充実した品揃えで消費者の支持を集め、北関東から東日本広域へと店舗網を拡大、2000年時点ですでに売り上げトップ企業になっていた。カインズは業界最大にして最強とされ、個人的には人気漫画『キングダム』になぞらえて説明することが多い。この話、古代中国の戦国時代末期、最強の秦に対して、秦以外の列国が同盟して「合従軍」を興して対抗するという史実が舞台となっている。

業界でも、カインズに対抗するために、大手企業3社が経営統合してトップシェアを奪取したのがDCMであり、まさにホームセンターにおける「合従軍」といえば、わかりやすいだろう。そしてDCMは3社から始まって、次々に大手や中堅中小同業をグループ化しているのだが、カインズは着実な成長を続けながら、同業M&Aをすることもなく、2021年度にはトップシェアを奪還してしまった(ハンズのグループ入りは2022年3月)。カインズとはそんな存在である。

カインズは売り上げトップを奪還しただけでなく、2010年代には急速にプライベートブランド(PB)商品強化を進めて、現在ではPBを軸に売場を構成しうる域にまで達している。この点でも競合他社の追随を許さぬ商品力を実現したと言っていいだろう。

他社がM&Aによる基盤拡大と統合にエネルギーを割かれている間に、カインズは製造小売業としての基盤を確立し、キングダムにおける秦のごとき存在となった。現時点で、カインズは単独でシェア拡大可能な競争力を備えたため、同業M&Aによる事業基盤拡大を必要としない存在となった、とも見える。

大都市圏における存在感が薄いカインズの未来

業界トップの競争力を確立したカインズではあるが、大都市圏における存在感はほとんどない。大都市部への出店フォーマットを持たないホームセンターは、トップ企業カインズといえども、大都市の住生活に対応する業態を持っていない(「Style Factory」という生活雑貨業態はあるが、いまだ5店舗で実験中)。

ハンズのグループ化により、都市部でまとまった店舗網は得たが、あくまでもハンズとして、であり、カインズ化する予定もない。カインズの考える、大都市への展開とはどんな形なのかは、まだ明確にはなっていないのだが、その他の小売業への商品供給戦略を見ていると、その方向性をうかがい知ることができる。

カインズは近時、イトーヨーカ堂へのPB商品供給、近鉄百貨店とのフランチャイズ契約といったアライアンスを進めている。この目的は都市型小売業との連携により、大都市住民の住生活を把握する、ということにある。

今はまだ大都市圏に出店できるフォーマットを持っていないが、都市型小売業とのアライアンスにより、マーケティングを進め、いずれは自前出店で進出するために情報収集を行っているのだという。郊外の戸建て住民とは異なる大都市住民のニーズを蓄積したうえで、大都市の攻略に臨むという用意周到な戦略の成功確率はかなり高いものとなるだろう。

着々と準備を進めるカインズ

地方、郊外の戸建て生活者の家まわり需要を取り込むことで、4兆円市場を創出したホームセンター業界も、地方、郊外から進む人口減少によって飽和から縮小へと向かうことは避けられない。

直近の上場ホームセンター各社の動向をみると、大手企業のほとんどが直近期減収、減益という状況となり、既存店売上動向もマイナス月が多くなっている。


寡占化と淘汰によって生き残りを図る企業がほとんどである中、最大手カインズは既存市場における圧倒的競争力を磨きつつ、加えて、ホームセンターにとっては未開拓の大都市市場に進出しようと着々と準備を進めている。数年後の業界で、カインズがどのくらいの存在感になっているか、大いに注目している。

(中井 彰人 : 流通アナリスト)