(写真:show999 / PIXTA)

インフレ時代になると預金金利や賃金の上昇分だけで、物価上昇分を補えない可能性が出てくる。そのギャップを埋め、今の生活水準を守るには、「株式投資」が有効手段の1つだ。

『週刊東洋経済』6月15日号の第1特集は「株の道場 インフレ時代に勝てる株」。『会社四季報』3集夏号の業績予想を先取りしつつ、株式投資に役立つ情報を盛り込んだ。


日本の株式相場は3月に高値をつけて以降、冴えない展開が続いている。銘柄選びに四苦八苦している投資家は多いだろう。そういうときこそ『会社四季報』をじっくり読んで、上がる株を探していただきたい。

四季報の最大の効用は、気づきにある。株式市場は変化を求める。四季報をじっくり読めば、変化に気づくことができる。

ここでは四季報を見て、ライバル企業を出し抜いて株価が上昇する銘柄に気づく方法を解説しよう。

クイズをひとつ。コロナ禍が明けて人流が回復したときに、株価がより上がる私鉄大手は、東急と京成電鉄のどちらだろうか?

株式市場が評価したのは

下に東急と京成電鉄の四季報誌面を掲載した。社名の横の【連結事業】欄には、東急が「交通19」、京成電鉄が「運輸業58」とある。19と58という数字は、連結売上高全体に占めるその事業の割合だ。交通と運輸業、名称こそ違うがどちらも鉄道・バスなどの交通運輸事業と考えられる。つまり、東急は売上高の19%、京成は58%が交通運輸事業ということだ。


連結事業欄を見ると、東急は交通運輸以外に、不動産、生活サービス、ホテル・リゾートなど事業の多角化が進んでいることがわかる。一方、京成電鉄は交通運輸が主力のままで収益源の多角化が進んでいない。東急のほうがバランス型経営でリスク分散できており、経営者の手腕としては評価できる。

しかし、株式市場が評価したのは東急より京成電鉄だった。

2023年3月から4月にかけて、新型コロナの感染症法上の分類が5類へ移行することが見えてくると、東急も京成電鉄も株価が上昇に転じた。実際に5月に5類となり、多くの人が鉄道やバスに乗り交通運輸事業の収益が改善。そのときに株価の上げ幅を拡大したのは東急より京成電鉄のほうだった。


何せ京成電鉄は売上高の過半を交通運輸事業に依存している。収益回復のインパクトが大きい。東急はじめほかの関東私鉄大手は全社22年3月期に黒字化していたが、京成電鉄だけはなお赤字だった。株式市場は変化を好む。赤字のダメ会社が黒字に転換するなど、変化率が大きければ大きいほど株価上昇は大きくなる。東急と京成電鉄の違いはその典型だ。こうしたことに気づくヒントが四季報には満載されている。

株式分割を先取り

今後の株式市場の注目点は、「株の民主化」が総仕上げを迎えること。東証が上場企業に求めた「株価を意識した経営」に向けての改革が最終段階を迎える。新NISA(少額投資非課税制度)の後押しもある。個人投資家が売買しやすくなり、株式投資が民主化されれば株価の上昇要因となる。

その象徴が投資単位(最低購入額)の引き下げだ。東証は望ましい最低購入額を50万円未満とし、それを超える企業に、引き下げに関する考え方を開示するよう義務づけている。株式の売買単位は100株で統一されているので、事実上、株価が5000円未満になるような株式分割が必要だ。

年初から5月30日までに株式分割を発表した企業は120社超。前年同期のほぼ2倍に増えている。

下表は5月24日時点で最低購入額が100万円を超える主な企業。ライバル企業が株式分割を発表すると追随する傾向がある。JR西日本が23年11月に発表すると、JR東日本が24年1月に発表した。23年11月にセブン&アイが発表したのに、ローソンはなかなか追随せず「なぜだ?」と思っていたらKDDIがTOB(株式公開買い付け)し、株価が急騰した。電機メーカーではソニーグループが5月14日に投資家待望の株式分割を発表した。日立製作所やNECにも動きが出るかもしれない。


英文開示を先取り

もう1つの注目点は英文開示。東証は上場企業に対し、英文による情報開示を求め、開示状況を頻繁に調査している。20年12月に49.2%だった全上場企業の英文開示実施率は、23年12月に60.4%まで高まった。プライム上場企業に限れば、20年12月の79.7%が、23年12月には98.2%まで高まり、ほぼ全社となってきた。

今年3月までの株価急騰を演出したのは海外の投資家。最近会ったあるファンドマネジャーは「海外勢が買う日本企業は、決算情報・適時開示資料・株主総会招集通知など、何から何まで日本語と同じものを英文で発信している企業だ」と言っていた。英文開示が進んでいない企業は蚊帳の外だ。

裏を返せば、いま英文開示していなくても今後の開示次第では投資対象になりうるということ。それを見越して厳選したのが下表の10社だ。


ゼンショーは店舗の3分の2がすでに海外


東証による4月末時点の調査で決算短信以外の適時開示資料を英文開示していない、今期純利益の四季報予想が過去最高を更新する、

直近の外国人持ち株比率が20%未満で今後買いの余地がある、を条件に銘柄をピックアップした。

海外勢の投資対象は一日売買代金が2000万ドル(約30億円)以上ともいわれるため流動性や時価総額も考慮した。

一見すると内需企業が多いが、外食業界首位のゼンショーホールディングスは店舗の3分の2がすでに海外にあり、北米や英国で持ち帰りすしを展開している。

寿スピリッツは地域限定の観光土産菓子の最大手で、訪日外国人の間でも人気だ。半導体関連のローツェや野村マイクロ・サイエンスも、今後の英文開示次第では海外勢のお眼鏡にかなうかもしれない。

(山本 隆行 : 『会社四季報』元編集長)