オンラインコマースの王者 Amazon 。実は顧客の平均消費額はウォルマート以下
新たなレポートによると、ウォルマート(Walmart)のeコマース顧客はライバルであるAmazonの顧客を上回っており、eコマース大手でありオンラインショッピングの王者であるAmazonからその座を奪いつつある。
米国のAmazonプライム会員を過去10年にわたって追跡・分析してきた調査会社CIRP(Consumer Intelligence Research Partners)の5月下旬のレポートによると、ウォルマート顧客のウェブストアでの年間平均消費額はAmazon顧客の約2倍だという。
CIRPが米国の各小売業者のサブスクリプションサービス会員年間平均消費額を分析した結果、ウォルマート+(Walmart+)の会員は年間平均で2200ドル(約34万5000円)を消費しているのに対し、Amazonプライム会員は年間1100ドル(約17万3000円)だったことを見いだした。どちらのサービスも年間費と引き換えに、無料配送やスピード配送などの特典を顧客に提供している。
一方で、ウォルマートの会員ではない顧客は年間1000ドル(約15万7000円)、Amazonプライム会員ではない顧客は年間600ドル(約9万4200円)を消費している。なおこの分析には、ウォルマートの実店舗における消費は含まれていない。
アナリストのマイケル・レビン氏とジョシュ・ローウィッツ氏は次のように記した。「Amazonの企業総収益(アマゾン ウェブ サービス[Amazon Web Services]や広告、その他小売以外の収益源も含む)はウォルマートの企業総収益に迫りつつあるが、Walmart.comにおいて個別顧客の年間平均消費額が増えていることはAmazonにとって不満だろう。実際Amazonは、ウォルマートよりもはるかに広範な商品を販売し、よりターゲットを絞ったオンラインショッピングプロセスを提供している」。
この事実は、ウォルマートがAmazonに勝る競争力を有することを示唆している。
もちろんオンラインショッピングにおいて、依然としてAmazonが王者であるということには変わりない。Amazonプライムの会員数は推定1億8000万人で、ウォルマート+の推定会員数の5900万人を凌駕している。
ウォルマートの全世界におけるeコマース売上高は2023年に初めて1000億ドル(約15兆7000億円)を突破した。これはウォルマートがAmazonに迫っていることを示すものの、eコマース大手であるAmazonのオンラインビジネスの純売上は昨年の時点ですでに2310億ドル(約36兆3000億円)を超えている。
しかしウォルマートがAmazonのプレイブックから学べば学ぶほど、ウォルマートは最大の競合他社であるAmazonから市場シェアを奪いとっていく。ウォルマートの会員専用サブスクリプションサービスからストリーミングや広告参入に至るまで、このチェーンストアがAmazonに競合するために一致団結して努力してきたことは明白だ。同社がウォルマート+への投資を強化させ続け、その顧客が高い平均消費額を維持するならば、Amazonは厳しい状況に追い込まれるかもしれない。
最近のウォルマートとAmazonの成長戦略はよく似ている。両社とも新規会員獲得のためにサブスクリプションサービスを拡充させ、さまざまな特典を設けた。たとえばAmazonは、プライム会員には無料配送以外の特典もあることを消費者に伝えようとしている。Amazonプライムは買い物だけでなく、映画やテレビ番組、音楽などにもアクセスできるエンターテイメントハブでもあるのだ。
一方でウォルマートも同様に、小売以外の分野への展開をめざしている。ウォルマート+の会員はパラマウント+(Paramount+)のストリーミングサービスを追加料金なしで利用できる。また同社は最近テレビメーカーのビジオ(Vizio)を買収したが、これは急成長している広告ビジネス「ウォルマートコネクト(Walmart Connect)」の拡大に役立つだろう。
ウォルマートは2009年に自社のサードパーティーマーケットプレイスの運用を開始した。マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)の昨年9月のレポートによると、現在では約10万の売り手が存在し、18カ月でその規模は倍増したという。マーケットプレイスパルスの別のレポートでは、ウォルマートの売り手の50%以上はAmazonでも販売していることが明かされた。(とはいえこの数字は少なめに見積もられたもので、両社の重複率はさらに高い可能性があり、80%から90%に達するだろうとレポートには注記されている。売り手はAmazonで販売を開始してからウォルマートにも進出する傾向があるからだ。)
最近ウォルマートとAmazonは、超スピード配送サービスもアピールしている。Amazonは4月、2024年の最初の3カ月において全世界のプライム会員に20億点以上の商品を即日または翌日に配達したと発表した。同社は1月には、2023年は米国で40億点以上の商品を即日または翌日に配達したとも発表している。一方でウォルマートは最新の決算発表において、2023年に米国で44億点の商品を即日または翌日に配達し、Amazonを超えたことを発表した。
現在、両社は特にサブスクリプションサービスによって多くの顧客を引き込もうとしており、富裕層をターゲットにする傾向が強まっている。ウォルマートは低価格で知られているが、内装を改善したりハイエンド商品を提供したり、全米で800の小売店舗を改装または増設してきた。4月には「ベターグッズ(Bettergoods)」と呼ばれる、プレミアムで特選された食材を扱うプライベートラベルの食料品ブランドをローンチした。
一方でAmazonは、2020年にハイエンドファッションや美容ブランドを購入できる「ラグジュアリーストア(Luxury Stores)」を立ち上げ、米国のラグジュアリーファッション市場に参入した。その2年後にはこのベンチャーは欧州にも拡大された。
Walmart.comとAmazon.comの顧客消費額の差については、アーカンソー州ベントンビルを本拠とするウォルマートの食料品売上における優勢さが物語っている。これはAmazonが市場シェアを獲得するのに長年苦戦してきた分野だ。
「おそらくパンデミックによる購買行動の変化が少しの後押しとなり、Walmart.comは食料品における成功をオンラインでの食料品のショッピングに転換することに成功したのだろう。Amazonは対照的に、自社の巨大な顧客ベースに対してより多くの食料品の販売を促進できるような戦略を模索し続けている」とCIPRのレビン氏とローウィッツ氏は記す。このデータはまた、ウォルマートがその強固なサービスである「カーブサイドピックアップ(Curbside pickup、オンラインで注文した商品を店舗の駐車場で受け取るサービス)」によってオンライン販売を促進していることも反映されていると同アナリストらは分析している。これは米国の4600を超えるウォルマート店舗の近くに住む膨大な数の人々にとって、便利なショッピングの選択肢だ。
「これはAmazonとウォルマートの戦いではなく、むしろオンラインの食料品と日用品における購買消費額の比較である」とマーケットプレイスパルス創設者であるジョーザス・カジウケナス氏はeメールのなかで話した。「一般的な買い物はさまざまな小売業者に分散する傾向がある一方で、人々は食料品を定期的に買い求めることを考えると、ウォルマート+の会員が食料品のほとんどをウォルマートで購入するのは当然かもしれない」。
以前CIPRのレビン氏とローウィッツ氏は別のレポートで、Amazonプライム会員は非プライム会員顧客よりも2倍近い金額を消費していることを指摘した。
「ウォルマート+の会員と非会員のWalmart.comでのショッピングに関する数値から、これらのサブスクリプションサービスが富裕層を惹きつけるか育てているというさらなる確証が得られる」と同アナリストらは続ける。「会員になることでさらなる消費を促すのか、それとも富裕層が会員となりその特典を活用する傾向が強いのかは不明だ。おそらくその両要素があるのだろう」。
[原文:Amazon Briefing: Amazon still dominates online commerce, but Walmart shoppers are spending more on average]
Allison Smith(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:都築成果)
米国のAmazonプライム会員を過去10年にわたって追跡・分析してきた調査会社CIRP(Consumer Intelligence Research Partners)の5月下旬のレポートによると、ウォルマート顧客のウェブストアでの年間平均消費額はAmazon顧客の約2倍だという。
ウォルマートはAmazonに勝る?
CIRPが米国の各小売業者のサブスクリプションサービス会員年間平均消費額を分析した結果、ウォルマート+(Walmart+)の会員は年間平均で2200ドル(約34万5000円)を消費しているのに対し、Amazonプライム会員は年間1100ドル(約17万3000円)だったことを見いだした。どちらのサービスも年間費と引き換えに、無料配送やスピード配送などの特典を顧客に提供している。
一方で、ウォルマートの会員ではない顧客は年間1000ドル(約15万7000円)、Amazonプライム会員ではない顧客は年間600ドル(約9万4200円)を消費している。なおこの分析には、ウォルマートの実店舗における消費は含まれていない。
アナリストのマイケル・レビン氏とジョシュ・ローウィッツ氏は次のように記した。「Amazonの企業総収益(アマゾン ウェブ サービス[Amazon Web Services]や広告、その他小売以外の収益源も含む)はウォルマートの企業総収益に迫りつつあるが、Walmart.comにおいて個別顧客の年間平均消費額が増えていることはAmazonにとって不満だろう。実際Amazonは、ウォルマートよりもはるかに広範な商品を販売し、よりターゲットを絞ったオンラインショッピングプロセスを提供している」。
この事実は、ウォルマートがAmazonに勝る競争力を有することを示唆している。
王者Amazonにウォルマートは追いつけるのか?
もちろんオンラインショッピングにおいて、依然としてAmazonが王者であるということには変わりない。Amazonプライムの会員数は推定1億8000万人で、ウォルマート+の推定会員数の5900万人を凌駕している。
ウォルマートの全世界におけるeコマース売上高は2023年に初めて1000億ドル(約15兆7000億円)を突破した。これはウォルマートがAmazonに迫っていることを示すものの、eコマース大手であるAmazonのオンラインビジネスの純売上は昨年の時点ですでに2310億ドル(約36兆3000億円)を超えている。
しかしウォルマートがAmazonのプレイブックから学べば学ぶほど、ウォルマートは最大の競合他社であるAmazonから市場シェアを奪いとっていく。ウォルマートの会員専用サブスクリプションサービスからストリーミングや広告参入に至るまで、このチェーンストアがAmazonに競合するために一致団結して努力してきたことは明白だ。同社がウォルマート+への投資を強化させ続け、その顧客が高い平均消費額を維持するならば、Amazonは厳しい状況に追い込まれるかもしれない。
類似するウォルマートとAmazonの成長戦略
最近のウォルマートとAmazonの成長戦略はよく似ている。両社とも新規会員獲得のためにサブスクリプションサービスを拡充させ、さまざまな特典を設けた。たとえばAmazonは、プライム会員には無料配送以外の特典もあることを消費者に伝えようとしている。Amazonプライムは買い物だけでなく、映画やテレビ番組、音楽などにもアクセスできるエンターテイメントハブでもあるのだ。
一方でウォルマートも同様に、小売以外の分野への展開をめざしている。ウォルマート+の会員はパラマウント+(Paramount+)のストリーミングサービスを追加料金なしで利用できる。また同社は最近テレビメーカーのビジオ(Vizio)を買収したが、これは急成長している広告ビジネス「ウォルマートコネクト(Walmart Connect)」の拡大に役立つだろう。
ウォルマートは2009年に自社のサードパーティーマーケットプレイスの運用を開始した。マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)の昨年9月のレポートによると、現在では約10万の売り手が存在し、18カ月でその規模は倍増したという。マーケットプレイスパルスの別のレポートでは、ウォルマートの売り手の50%以上はAmazonでも販売していることが明かされた。(とはいえこの数字は少なめに見積もられたもので、両社の重複率はさらに高い可能性があり、80%から90%に達するだろうとレポートには注記されている。売り手はAmazonで販売を開始してからウォルマートにも進出する傾向があるからだ。)
最近ウォルマートとAmazonは、超スピード配送サービスもアピールしている。Amazonは4月、2024年の最初の3カ月において全世界のプライム会員に20億点以上の商品を即日または翌日に配達したと発表した。同社は1月には、2023年は米国で40億点以上の商品を即日または翌日に配達したとも発表している。一方でウォルマートは最新の決算発表において、2023年に米国で44億点の商品を即日または翌日に配達し、Amazonを超えたことを発表した。
ハイエンドブランドへの進出
現在、両社は特にサブスクリプションサービスによって多くの顧客を引き込もうとしており、富裕層をターゲットにする傾向が強まっている。ウォルマートは低価格で知られているが、内装を改善したりハイエンド商品を提供したり、全米で800の小売店舗を改装または増設してきた。4月には「ベターグッズ(Bettergoods)」と呼ばれる、プレミアムで特選された食材を扱うプライベートラベルの食料品ブランドをローンチした。
一方でAmazonは、2020年にハイエンドファッションや美容ブランドを購入できる「ラグジュアリーストア(Luxury Stores)」を立ち上げ、米国のラグジュアリーファッション市場に参入した。その2年後にはこのベンチャーは欧州にも拡大された。
Walmart.comとAmazon.comの顧客消費額の差については、アーカンソー州ベントンビルを本拠とするウォルマートの食料品売上における優勢さが物語っている。これはAmazonが市場シェアを獲得するのに長年苦戦してきた分野だ。
「おそらくパンデミックによる購買行動の変化が少しの後押しとなり、Walmart.comは食料品における成功をオンラインでの食料品のショッピングに転換することに成功したのだろう。Amazonは対照的に、自社の巨大な顧客ベースに対してより多くの食料品の販売を促進できるような戦略を模索し続けている」とCIPRのレビン氏とローウィッツ氏は記す。このデータはまた、ウォルマートがその強固なサービスである「カーブサイドピックアップ(Curbside pickup、オンラインで注文した商品を店舗の駐車場で受け取るサービス)」によってオンライン販売を促進していることも反映されていると同アナリストらは分析している。これは米国の4600を超えるウォルマート店舗の近くに住む膨大な数の人々にとって、便利なショッピングの選択肢だ。
食料品通販 vs 日用品通販?
「これはAmazonとウォルマートの戦いではなく、むしろオンラインの食料品と日用品における購買消費額の比較である」とマーケットプレイスパルス創設者であるジョーザス・カジウケナス氏はeメールのなかで話した。「一般的な買い物はさまざまな小売業者に分散する傾向がある一方で、人々は食料品を定期的に買い求めることを考えると、ウォルマート+の会員が食料品のほとんどをウォルマートで購入するのは当然かもしれない」。
以前CIPRのレビン氏とローウィッツ氏は別のレポートで、Amazonプライム会員は非プライム会員顧客よりも2倍近い金額を消費していることを指摘した。
「ウォルマート+の会員と非会員のWalmart.comでのショッピングに関する数値から、これらのサブスクリプションサービスが富裕層を惹きつけるか育てているというさらなる確証が得られる」と同アナリストらは続ける。「会員になることでさらなる消費を促すのか、それとも富裕層が会員となりその特典を活用する傾向が強いのかは不明だ。おそらくその両要素があるのだろう」。
[原文:Amazon Briefing: Amazon still dominates online commerce, but Walmart shoppers are spending more on average]
Allison Smith(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:都築成果)