心理的安全性を保ちながら、部下との1on1ミーティングを豊かな時間にするためには?(写真:Graphs / PIXTA)

「1on1ミーティング(以下、1on1)が憂鬱です……。いつも上司が一方的に話してばかりで、気がつくと業務の進捗確認になっています」

こうした悩みを持つ部下は少なくありません。一方で、上司は上司で「1on1で何を話せばよいかわからない……」と悩んでいるものです。

では1on1を有意義な時間にするにはどうすればよいのでしょうか?『マネジメントに役立つ 心理的安全性がよくわかる本』を上梓した広江朋紀氏に聞きました。

1on1形骸化で部下の心理的安全性が低下

近年、多くの会社で導入されている1on1。しかし、運用が軌道に乗らず、形骸化している例は枚挙にいとまがありません。


【図1】1on1が形骸化している例(画像:『マネジメントに役立つ 心理的安全性がよくわかる本』)

時短勤務で働いている社員から、「上司の雑談や趣味の話に付き合わされて時間がもったいないので、仕事をさせて欲しい」という切実な声を聞いたこともあります。

本来、部下の成長支援や悩みを解消するはずの1on1が、新たな悩みの種になっては本末転倒です。こうした状況が放置されると、やがて上司と部下の間の心理的安全性は損なわれていきます。

1on1を豊かな時間にするためには、3つのポイントが有効です。それぞれ見ていきましょう。

1. メンバーの成長のために「経験学習サイクル」を回そう!

本来、1on1は、メンバーが経験から学習し、次のアクションへと変換する整理のための振り返り機会としても期待されています。

1on1の効果を高めるためのフレームとして、組織行動学者のデイビッド・コルブ氏が提唱した「経験学習サイクル」があります。これは、経験から学ぶ一連の流れを4つのステップでまとめたものです。


【図2】経験学習サイクル(画像:『マネジメントに役立つ 心理的安全性がよくわかる本』)

この「経験学習サイクル」を参考に考えると、1on1では、部下ひとりで客観的に振り返りにくい経験を棚卸しし、気づきを言語化したうえで、ネクストアクションの設定を支援することが、理想的な上司の関わり方といえるでしょう。

たとえば、あるメンバーが、1on1を通じて「クロージング業務の改善」を考え、一人で営業のクロージングに成功した話を取り上げたとしましょう。

こういった状況ではまず「なぜ今回うまくいったのか?」積極的に傾聴し、クロージングまでの流れの洗い出しに寄り添うことが重要です。これが、「経験学習サイクル」における「具体的な経験」にあたります。

そして「うまくいかなかったときとの違いは何だろう?」など、質問を投げかけながら、「内省的省察」を促すことでメンバーは、今回うまくいったケースから教訓を学びます。「教訓にする」ことで、顧客や状況が変わった際も、メンバーが自分で考え「積極的な実践」ができるようになるのです。

日ごろの部下との1on1において「具体的な経験を振り返り、新しい未来をつくれるよう導いているか?」をぜひ確認してみてください。

話すトピックや進め方は?

2. トピック選択と効果的な進め方で1on1を意味ある場にしよう!

1on1で何を話せばよいか分からず、困っている上司は少なくありません。そこで、参考となるトピック例と進め方をご紹介します。


【図3】1on1のトピック例(画像:『マネジメントに役立つ 心理的安全性がよくわかる本』)

「1on1で有効な上記4つのトピックのうち、いつもの1on1で、どの象限のトピックを扱うことが多いですか?」

このような質問をすると、7割程度の管理職の方が、図3の左上にある「業務課題の改善」と答えます。

しかし、せっかくの1on1の場も、そればかりが続いてしまうと、形骸化してしまいます。それ以外の選択肢も持って臨むことができれば、偏りなく、状況に応じた関わり方ができるようになるでしょう。

そして1on1は週に1回、少なくとも隔週で1回の実施を推奨しています。時間は30分程度と比較的短い時間で行うことが継続のコツです。あまり長い時間だと、運用に乗りにくくなってしまうためです。


【図4】1on1の進め方例(画像:『マネジメントに役立つ 心理的安全性がよくわかる本』)

「GROWモデル」を使ってみよう

3.「GROWモデル」活用でメンバーの目標実現を支援しよう!

最後に、目標実現に活用できるフレームワーク 「GROWモデル」 をご紹介します。


【図5】GROWモデル(画像:『マネジメントに役立つ 心理的安全性がよくわかる本』)

これは、Goal(目標)、Reality(現実)、Options(選択肢)、What/When/Who/Will(何を/いつ/誰が/実行の意思)の頭文字を並べたものです。

この順に質問を投げかけることで、部下の相談に的確に応えることが可能になります。参考としてチェックリストを紹介します。


【図6】GROWモデルチェックリスト(画像:『マネジメントに役立つ 心理的安全性がよくわかる本』)

最後に「GROWモデル」を活用した上司と部下の会話のやりとりをご紹介するので、具体的にイメージしてみましょう。

上司と部下の会話例は?

【上司】今日の1on1で解決したいことは何かな?(=Goal)

【部下】新人とのコミュニケーションです(=【図3】1on1のトピック例「組織ミッションへの貢献」)

【上司】君がメンターを務めてくれているAくんとのコミュニケーションだね(=Goal)。

【部下】はい。今年に入って初めて育成担当になったんですが、思うようにいかなくて……。

【上司】なるほど。後輩とのコミュニケーション改善がテーマだね。今の状態は10点満点中何点かな?(=Reality)

【部下】うーん……。6点くらいですかね。

【上司】逆に言うと6点は取れているんだね。その理由は何だろう?

【部下】一応、決めたルールである毎日振り返りの時間を2人で取るとかはできているので。

【上司】なるほど。すると残りの4点はどうすれば埋まるかな?(=Options)

【部下】毎日時間を取るだけで中身が薄い気がしています。お互い黙ってしまう時間も多くて……。

【上司】では、どうすれば、中身の濃い振り返りの時間に2人でできるのだろうね? (=Options)

【部下】う〜ん。あとから振り返れるように、日々目標を設定して、一緒に振り返るとか。

【上司】いいね!どんなことを目標として設定しておけばいいと思う?(=What)

【部下】その日に気づいたことや失敗したこと、分からなかったこととか……。

【上司】いいね!いつからやってみる?(=When)

【部下】明日から早速、やってみようと思います!なんだか、すっきりしました!ありがとうございます。


実際には、用意していた質問をそのまま投げかけるのではなく、部下の反応やその場の文脈などに合わせた質問をする方が自然です。

大事なのは、対話を楽しむこと。そして、話が散らかりそうになったら、今、「GROWモデルのどの話をしているのか?」を確認すると良いでしょう。

「Goal(目標)を問うているのか?それとも、実行に向けたOptions(選択肢)を問うているのか?」など、すり合わせをしながらコミュニケーションをとっていくと、より豊かな1on1の場になります。ぜひ、活用してみてください。

(広江 朋紀 : リンクイベントプロデュース ファシリテーター)