掲載:THE FIRST TIMES

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イタリア出身のバンドとしては史上最大の世界的成功を収め、失速していたロック界に新風を吹き込んでいるマネスキン。昨年末には初の日本ツアーを成功させた彼らが辿った軌跡、そしてメンバーの横顔や代表曲を通して、老若のロックファンを熱狂させるその魅力を探る。

【Måneskin - I WANNA BE YOUR SLAVE / THE FIRST TAKEを元記事で視聴する】

■世界を席巻するイタリア発の4人組ロックバンド

・結成:2015年
・デビュー:2017年
・デビュー作品:EP『Chosen』
・メンバー:ダミアーノ・デイヴィッド(Vo) / ヴィクトリア・デ・アンジェリス(Ba) / トーマス・ラッジ(Gu) / イーサン・トルキオ(Dr)

メンバーはまだ20代前半ながら、小学生の頃からの友人だったトーマス・ラッジとヴィクトリア・デ・アンジェリスの出会いから数えると、マネスキンはすでに10年以上の歴史を誇る。ふたりが中学時代に結成したバンドに、高校で知り合ったダミアーノ・デイヴィッドが加わり、さらにイーサン・トルキオをドラマーに迎えたのが2015年のこと。

ヴィクトリアの母の母国語であるデンマーク語で“月光”を意味するバンド名を選ぶと、4人は故郷ローマで路上ライブを繰り返して演奏力を磨き、2017年にオーディション番組『The X Factor』のイタリア版に出演。晴れて準優勝し、同年末に大手レーベルからデビューに至っている。

翌年には1stアルバム『Il Ballo della Vita』が地元でナンバーワンを獲得。早速ブレイクしたマネスキンにさらなる飛躍のきっかけを与えたのは、毎年欧州全域の国の参加を得て開かれ、世界で約2億人が視聴している歌の祭典、『Eurovision Song Contest(ユーロビジョン・ソング・コンテスト)』だった。2021年大会に出場した彼らは、イタリア代表としては31年ぶりに優勝を果たし、活動の場をグローバルに拡大。2ndアルバム『Teatro D’ira Vol.1』収録のユーロビジョン・エントリー曲「Zitti E Buoni」や、TikTokへの動画投稿をきっかけにキャリア最大の成功をもたらした「Beggin’」といったヒット曲が続々生まれ、ついには第65回グラミー賞の新人賞にノミネートされる。

2023年もスケールアップの1年となり、年初に発表した3rd アルバム『RUSH!』は15カ国のチャートの頂点を極め、また楽曲総再生回数は92億回(2023年10月現在)を超える。英国のグラストンベリー・フェスティバルなどの大舞台を踏み、2020年代のロックを牽引する存在になったと言って過言ではない。日本でも『SUMMER SONIC 2022』出演を契機に人気に火が点き、昨年12月の東京と兵庫での4度のアリーナ公演をソールドアウトにしている。

■メンバープロフィール
Damiano David(読み:ダミアーノ・デイヴィッド)

・生年月日:1999年1月8日
・ポジション:ボーカル

6歳の時に歌い始めたというダミアーノは、個性的な美声の魅力をラップと歌で見せ付け、母国語のイタリア語だけでなく英語も駆使して歌詞を綴り、ボーカリストとしてもリリシストとしても多様な表現力に恵まれたカリスマティックなフロントマンだ。ステージでのワイルドな佇まいで知られるが、インタビューを受ける時は冷静沈着に言葉を選んで語り、歌詞の中ではパーソナルな葛藤も躊躇うことなく吐露する。大のアニメ好きでもあり、昨年12月に来日した際には『チェンソーマン』のポチタのかぶりもので空港に降り立ち、ファンの間で大きな話題を呼んだ。

Victoria De Angelis(読み:ヴィクトリア・デ・アンジェリス)

・生年月日:2000年4月28日
・ポジション:ベース

彼女と共演したデュラン・デュランのジョン・テイラーをして“恐らく現在最も重要なエレクトリック・ベーシスト”と言わしめるヴィクトリアは、トーキング・ヘッズのティナ・ウェイマウスやソニック・ユースのキム・ゴードンのような女性アーティストに憧れてベーシストを志し、マネスキンではイーサンと共に強力なリズム隊を構成。4人の中で最も饒舌な事実上のスポークスパーソンでもあり、バイセクシュアルであることを公言している。トップレスに近い姿でステージに立つこともあるが、「男なら許されるのにつべこべ言われるのはダブル・スタンダード」と批判の声を黙らせた。

Thomas Raggi(読み:トーマス・ラッジ)

・生年月日:2001年1月18日
・ポジション:ギター

Z世代を代表するギター・ヒーローとしてめきめきと頭角を現したトーマスは、ガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュ、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのジョン・フルシャンテといった偉大な先輩ギタリストたちから受けた影響を、独自に消化。キャッチー極まりないリフと、ドラマティックで自由奔放なソロをこれでもかと繰り出してスタジオでもステージでもバンドをリードし、時に思いもよらない方向に曲を導く。派手なスーツを好み、濃いアイライナーを欠かさず引いて、実はファッションへのこだわりはバンド随一。

Ethan Torchio(読み:イーサン・トルキオ)

・生年月日:2000年10月8日
・ポジション:ドラム

2016年にヴィクトリアがSNSに掲示したメンバー募集告知に応じ、最後にバンドに加わってラインナップを完成させたイーサン。ドラム歴は長く、身近なものを叩いていた彼のリズム感の良さに気付いた父親から、ドラムセットをプレゼントされたのが5歳の時。10代になって本格的にプレイし始めると、スチュワート・コープランド(ザ・ポリス)やニール・パート(ラッシュ)からアート・ブレイキーまで様々なジャンルの名ドラマーをお手本に腕を磨いてきた。ロングヘアをたなびかせてハードにファンキーに精緻なビートを叩き出す、マネスキンの“背骨”だ。

■マネスキンが注目される理由
◎ジャンルレスな音楽

Z世代にとって“ジャンルレス”はデフォルトとも言えるが、マネスキンは基本編成のロックバンドだという立脚点から、ジャンルレスな音楽作りにアプローチ。その雑食ぶりは、2017年発表のデビューEP『Chosen』でカバーーしたアーティストの顔ぶれ(エド・シーラン、ブラック・アイド・ピーズほか)にも表れていたし、ヘヴィメタルからレゲエやヒップホップに至るまで、作品に取り入れてきたジャンルは実に幅広い。また、トラップやレゲトンや地中海地方の音楽様式にもインスピレーションを見出した『Il Ballo Della Vita』に対し、『Teatro d'ira - Vol. I』ではミクスチュア・ロックや70年代のハード・ロックに軸足がシフト。『RUSH!』ではダンスパンクの影響が強まったが、常にメロディックでキャッチー、そして往々にしてファンキーであることは一貫して変わっていない。

◎一度見たら虜!圧巻のパフォーマンス

前述した通り、ローマのストリートで、道行く人々の関心を引こうと四苦八苦しながら修行したバンドとあって、人前でプレイし音楽を分かち合うことをこよなく愛する彼らは、卓越した演奏力を備えた生粋のパフォーマー集団だ。今では1~2万人収容のアリーナ、地元であればスタジアムのステージにも立つが、大掛かりなセットを用意したりサポート・メンバーを迎えるといった演出はせず、曲に大胆に手を加えて鳴らすナマのラウドな音と、ダミアーノの全くブレないディープでソウルフルな声だけで勝負。何ら不足を感じさせない。それどころか揃って旺盛なショーマンシップを備えた彼らは、その派手なアクションで、スリリングな演奏で、観客を意のままに熱狂させる。

◎話題を呼ぶヴィジュアル

ユーロビジョンで彼らが人々の視線を釘付けにした要因のひとつは、エトロが提供した、まるでグラムロック時代のバンドが蘇ったかのようなパープルのメタリック・レザーのジャンプスーツを身にまとう4人の、見た目の強烈なインパクトだった。以来マネスキンは音楽界で最もスタイリッシュなバンドと評されるようになり、グラマラスなジェンダー・ニュートラル・ファッションで耳だけでなく目も楽しませ、グッチのキャンペーン・モデルを務めたりもしたものだ。MVでもしばしば、ファッション畑の映像作家とコラボ。パフォーマンス主体のシンプルな作品であろうと、ドレスアップした4人がそこにいるだけで、エンターテイメントとして成立するのである。

■『THE FIRST TAKE』での「I WANNA BE YOUR SLAVE」

ライブではいつも一夜に2度演奏するほどの人気を誇る『I Wanna Be Your Slave』は、2021年7月に『Teatro d'ira - Vol. I』からカットされた3rdシングル。ミニマルなガレージ・サウンドに乗せて時に不条理な人間の欲望を掘り下げ、それが何だろうと相手が欲する役割を演じたい――と歌う歌詞は、ファンに対するバンドの姿勢を重ねているかのよう。そこにも、この曲が愛される理由があるのだろう。

『THE FIRST TAKE』でそんな1曲をプレイした4人は、クールなモノトーンの出で立ちで登場。並んでスツールに(イーサンはカホンに)腰掛けると、「みんなの用意ができればいつでも」とダミアーノが優しく呼び掛け、イーサンが自分の足を叩いてカウントを取り始める。次いでボーカル、ベース、ギターと、原曲と同様にひとりずつ順番に自分の音を加えて1本のグルーヴを紡いでいく。アコースティックに切り替えたことでブルージーな趣が醸されているのが非常に新鮮だが、何よりも引き立っているのはダミアーノの歌だ。歌詞の内容に合わせて様々なジェスチャーを交え、表情豊かにパーフェクトなボーカル・パフォーマンスを披露する彼。やはり原曲と同じ囁き声で曲を締め括ると、「Bellissimo!(美しい)」と満足気に微笑み、今や慣れた口調で「アリガトウゴザイマス」と添えるのも忘れなかった。

■これがマネスキン!代表曲&おすすめ曲5選
「Beggin’」
フォー・シーズンズが1967年に発表したヒット曲のカバーで、2017年12月発表のデビューEP『Chosen』に収録。2021年夏にSpotifyグローバルTOP50チャートの1位を獲得した。当時はさほど深く考えずに録音した音源なのだと思われるが、まさにその肩の力が抜けたプレイに、バンド・ケミストリーを固めつつあった4人のフレッシュなエネルギーが感じられ、マイナー・コードのメロディに良く似合うダミアーノの声の魅力も、余すところなく見せつけている。

「ZITTI E BUONI」
2021年3月に発売されたユーロビジョンのエントリー・ソングは、優勝を受けて、Spotifyで1日に400万回近い再生回数を記録。新旧のロックのスタイルにインスパイアされた『Teatro d'ira - Vol. I』の路線を象徴する、ヘヴィ&ファンキーな1曲だ。彼らはそれぞれの持ち味をショーケースすると共に、“黙ってイイ子にしてな”を意味するタイトル通りに、“社会が押し付けるルールを拒絶しよう”というメッセージを明確に打ち出し、精神面でもロックを体現。

「THE LONELIEST」
2022年10月にお目見えして地元で1位を獲得、遺書の形を取ったラブソングというドラマティックな設定の「THE LONELIEST」は、それまでのマネスキンに足りなかった、英語で誰もが歌って盛り上がれる王道バラードだ。ネットフリックス配信のアニメシリーズ『鬼武者』の主題歌に起用され、12月の来日公演では、アウトロとイントロにトーマスが圧巻のギタープレイを添えてスケールアップさせたバージョンを披露。ライブ映えする曲のひとつでもある。

「MAMMAMIA」
軽快に跳ねるヴィクトリアのベースがリードする、2021年10月リリースのシングル。ブレイクはしたもののしばしば自分たちの意図が曲解されることに業を煮やした4人は、このダンスパンク・スタイルの破天荒な1曲に、フラストレーションを吐き出した。ユーロビジョンで浮上したドラッグ摂取疑惑を笑い飛ばしたり、イタリア人のステレオタイプを逆手にとったり、少々過激なミュージック・ビデオも相俟って遊び心とユーモアを迸らせている。

「HONEY (ARE U COMING?) 」
全編トーマスのシャープなギター・リフに彩られ、ニューウェーブの独自解釈で新境地を拓いたこの1曲は、2023年9月に登場。サウンドに漲るテンションとセンチメンタルなメロディが絶妙なコントラストを成し、ダミアーノはファルセットやスポークンワードも織り交ぜながら、マネスキンの音楽を愛する全ての人に宛てて“僕らについておいでよ”と冒険に誘う。そして“寛容さと希望に溢れる場所で会おう”と訴える、ラブと団結のアンセムが誕生した。

■マネスキン最新情報をチェック!

2024年のマネスキンはツアーをひと段落させ、活動をスローダウンするようだ。昨年の体験を今後にどう反映させるのか、バンドの次の一歩を待ちたい。