2023年12月2日 J1昇格プレーオフ 決勝 東京V1 (0-0) 1 清水
14:06キックオフ 国立競技場 入場者数53,264人
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清水の1点リードで迎えた後半アディショナルタイム、こんな結末が待っていたとは秋葉忠宏監督も予想できなかっただろう。試合後の会見では「見ての通り。何も勝ち得なかった。ただただ、それだけです。プロとして何も残せない。僕も含めて下を向いて泣いているべきではない」と悲痛な表情で言葉を絞り出した。

引き分けでもJ1に昇格できる東京Vが3列のコンパクトな守備ブロックを敷いて守りを固めたのは当然の策だ。組織的な守備だけでなく、FWチアゴ・サンタナのダイビングヘッドやFW乾貴士のシュートにも個々の選手が身体を投げ出してCKに逃れた。ところが清水が後半15分にDF北爪健吾を右サイドに投入し、180センチのMF中山克広をトップ下にコンバートすると1分後にビッグチャンスが訪れた。右サイドからのクロスに中山と東京Vのキャプテン森田晃樹が競り合ったところ、森田のハンドで清水にPKが与えられた。これをチアゴ・サンタナがきっちりと決めて清水がリード。この試合で両チームを通じて初めて訪れた決定機だった。

その後は選手交代でフレッシュになった東京Vが攻勢に転じたものの、清水陣内で試合を進めながらペナルティーエリアになかなか侵入できない。そして試合は8分のアディショナルタイムに突入すると、45+4分、FW染野唯月のドリブル突破がCB高橋祐治の反則を誘発し、今度は東京VにPKが与えられる。これを染野は豪快に右上に決めて、16年ぶりのJ1復帰を土壇場で奪還した。城福浩監督の「16年ぶりというのは、自分にとって途方もない長さ」という会見での第一声にも実感がこもっていた。

この試合で良かったと思ったことが一つある。普段のJ2リーグでは採用されていないVARが決勝戦では採用されたことだ。森田の左手に当たったハンドは競り合いでのアクシデントだったし、高橋のタックルはペナルティーエリアの中か外か微妙な位置だった。結果として両チームに公平にPKが与えられたが、その前提としてVARで検証されているだけに、両チームの選手、監督はもちろんのこと、ファン・サポーターも納得したことだろう。J1だけでなく、将来的にはJ2にも採用して欲しいVARシステムである。

六川亨(ろくかわ・とおる)

東京都板橋区出身。月刊、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任し、W杯、EURO、南米選手権、五輪を取材。2010年にフリーとなり超ワールドサッカーでコラムを長年執筆中。「ストライカー特別講座」(東邦出版)など著書多数。