知って納得、ケータイ業界の″なぜ″ 第140回 新たなプラチナバンド「狭帯域700MHz帯」、楽天モバイル以外の関心が高くない理由
新たなプラチナバンドとされる「狭帯域700MHz帯」の割り当て実現に向け、総務省での議論が大きく前進したようだ。順調に進めば2023年中に割り当てがなされると見られているが、総務省の公開資料を見るに楽天モバイルと他社とではその関心に温度差があるように見える。なぜだろうか。
○課題はあるが割り当てに大きく前進
2023年4月18日、記者会見を実施した総務大臣の松本剛明氏は、記者の質問に答える形で携帯電話向けの新たなプラチナバンドの免許割り当てに言及。情報審議会で割り当て可能との判断がなされたのち、2023年秋頃の割り当てを目指すことを明らかにしている。
この新たなプラチナバンドとは「狭帯域700MHz帯」のことを指している。これは携帯大手3社が免許を持つ700MHz帯と、隣接した周波数帯を使用している地上テレビ放送や、コンサートやテレビ中継などに用いられる特定ラジオマイクなどとの干渉を防ぐために設けられた空き周波数のうち、3MHzほどを新たに携帯電話の4Gネットワーク向けに割り当てるというもので、NTTドコモが2022年11月、総務省に提案したものだ。
総務省「700MHz帯等移動通信システムアドホックグループ」第1回会合資料より。狭帯域700MHz帯は、700MHz帯と他のシステムとの干渉を防ぐ空き帯域のうち、3MHz幅を4G向けに確保するというものだ
3MHzという帯域幅は携帯電話向けとして見るとかなり狭いのだが、米国やインド、ベトナムなどで既に使われている事例があるものだ。ただこの帯域はあくまで電波干渉を防ぐために空けられていたものなので、空き幅を減らすとなれば隣接するシステムと混信しやすくなるなど、大きな影響が出る可能性がある。
とりわけ特定ラジオマイクとの間には1MHzしか空きがなくなるだけに、共用した場合の影響が懸念された。そうしたことから総務省の情報通信審議会 情報通信技術分科会 新世代モバイル通信システム委員会 技術検討作業班の下に「700MHz帯等移動通信システムアドホックグループ」が設けられ、狭帯域700MHz帯と既存システムとの共用に関する検討が進められていたのだ。
同グループでの検証によると、条件によって地上テレビ放送や特定ラジオマイクと混信するなど一定の影響が出ることが確認されたという。ただ条件を満たさなければ混信は起きないことから、狭帯域700MHz帯の事業者が基地局設置方法や運用に配慮することで混信は回避できると判断されたようだ。
それゆえ、総務大臣会見が実施されたのと同じ日に実施された同グループの第5回会合で公開された報告案では、一定の条件を満たすことで共用できるとの取りまとめがなされている。公開されたのはあくまで報告の案であることからまだ確定に至った訳ではないが、これにより狭帯域700MHz帯の免許割り当てに向け大きく前進したことは間違いない。
総務省「700MHz帯等移動通信システムアドホックグループ」第5回会合資料より。狭帯域700MHz帯のアップロード帯域と隣接する地上テレビ放送や特定ラジオマイクには一定の影響があるものの、運用などで回避できるとの判断が下されている
○現在のところ3MHz幅は5Gで使えない
そもそもなぜこれだけ狭い幅の周波数帯を、他のシステムに影響が出る可能性があるにもかかわらず使う必要があったのかといえば、楽天モバイルの存在が大きい。同社はかねてプラチナバンドの割り当てがないことが競争上不公平だと訴えており、それを受けて総務省は2022年に、他の大手3社のプラチナバンドを再割り当てする議論が進められてきた。
その結果は楽天モバイルに非常に有利なものだったが、他の3社に与えるマイナスの影響も非常に大きい内容だった。そうしたことからNTTドコモが狭帯域700MHz帯の割り当て検討を提案したのには、プラチナバンドの再割り当てにより自社、ひいては業界全体に大きな混乱を避ける狙いが大きかったものと見られている。
ではその楽天モバイルは、狭帯域700MHz帯に対しどのような評価をしているのだろうか。2023年4月19日に総務省は、狭帯域700MHz帯を含め今後の割り当てが検討されている周波数帯に関する事業者への調査「移動通信システムの周波数利用に関する調査」の結果を公表しており、それに合わせる形で楽天モバイルもコメントを出している。
その内容を見ると、「当社としては、『移動通信システムの周波数利用に関する調査』において、プラチナバンドの新たな選択肢になりうる700MHz帯の3MHzシステムに対する早期の割当てを希望させていただきました。」と記されている。実際同調査の内容を見ても、楽天モバイルは明確に「割当てを希望」としており、その時期も「2023年9月まで」と具体的に記すなど、割り当てにとても意欲的な様子がうかがえる。
総務省「移動通信システムの周波数利用に関する調査」より。狭帯域700MHz帯の割り当てに対しては、楽天モバイルと他社とでは獲得意欲にかなりの違いが見られる
一方で他の3社の内容を見るとそこまで熱心ではない様子がうかがえ、中でもKDDIとソフトバンクは、割り当て時の条件を見て判断・検討する必要があるとして慎重な姿勢を見せている印象だ。内容を確認するに、その理由としては狭帯域700MHz帯に一定の制約が存在することが影響しているものと考えられる。
とりわけ大きいのが、現状の3GPPの仕様で3MHz幅は4Gでこそ利用できるものの、5Gで利用できないことだ。狭帯域700MHz帯の利用用途として、KDDIは「今回の対象帯域はNR(5Gの通信方式)エリアのカバレッジを充実させるために有効」、ソフトバンクは「NR化を前提として利用できる場合は、既に割当てを受けている700MHz帯と一体的にカバレッジ用途として活用することを想定」と回答しており、割り当てられた周波数帯を5Gで使いたい意向を示していることから、5Gで使えないとなれば魅力は低いと見ているのではないだろうか。
総務省「700MHz帯等移動通信システムアドホックグループ」第4回会合の楽天モバイル提出資料より。3MHzという狭い幅では現状5Gが利用できず、2024年策定予定の「Release 18」での導入に向けた検討が進められている最中だ
それゆえ現実的な割り当ての意向を示しているのは楽天モバイルと、4G向け周波数を5G向けに移行することで、ひっ迫する4Gを補うための割り当てを要望しているNTTドコモの2社ということになる。だが先の経緯に加え、総務省が新規事業者への周波数割り当てを重視する傾向にあること、そして両社の割り当てに対する意欲の違いなどを考慮するならば、免許割り当てがなされたとなればやはり楽天モバイルが優位となる可能性が高い。
無論、狭帯域700MHz帯の割り当てはまだ決定したものではないのだが、その可能性が非常に高くなったことは間違いない。この割り当てによって楽天モバイルの参入以降続いていた、プラチナバンドを巡る業界の混乱が収まるかどうかが注目される。
○課題はあるが割り当てに大きく前進
2023年4月18日、記者会見を実施した総務大臣の松本剛明氏は、記者の質問に答える形で携帯電話向けの新たなプラチナバンドの免許割り当てに言及。情報審議会で割り当て可能との判断がなされたのち、2023年秋頃の割り当てを目指すことを明らかにしている。
総務省「700MHz帯等移動通信システムアドホックグループ」第1回会合資料より。狭帯域700MHz帯は、700MHz帯と他のシステムとの干渉を防ぐ空き帯域のうち、3MHz幅を4G向けに確保するというものだ
3MHzという帯域幅は携帯電話向けとして見るとかなり狭いのだが、米国やインド、ベトナムなどで既に使われている事例があるものだ。ただこの帯域はあくまで電波干渉を防ぐために空けられていたものなので、空き幅を減らすとなれば隣接するシステムと混信しやすくなるなど、大きな影響が出る可能性がある。
とりわけ特定ラジオマイクとの間には1MHzしか空きがなくなるだけに、共用した場合の影響が懸念された。そうしたことから総務省の情報通信審議会 情報通信技術分科会 新世代モバイル通信システム委員会 技術検討作業班の下に「700MHz帯等移動通信システムアドホックグループ」が設けられ、狭帯域700MHz帯と既存システムとの共用に関する検討が進められていたのだ。
同グループでの検証によると、条件によって地上テレビ放送や特定ラジオマイクと混信するなど一定の影響が出ることが確認されたという。ただ条件を満たさなければ混信は起きないことから、狭帯域700MHz帯の事業者が基地局設置方法や運用に配慮することで混信は回避できると判断されたようだ。
それゆえ、総務大臣会見が実施されたのと同じ日に実施された同グループの第5回会合で公開された報告案では、一定の条件を満たすことで共用できるとの取りまとめがなされている。公開されたのはあくまで報告の案であることからまだ確定に至った訳ではないが、これにより狭帯域700MHz帯の免許割り当てに向け大きく前進したことは間違いない。
総務省「700MHz帯等移動通信システムアドホックグループ」第5回会合資料より。狭帯域700MHz帯のアップロード帯域と隣接する地上テレビ放送や特定ラジオマイクには一定の影響があるものの、運用などで回避できるとの判断が下されている
○現在のところ3MHz幅は5Gで使えない
そもそもなぜこれだけ狭い幅の周波数帯を、他のシステムに影響が出る可能性があるにもかかわらず使う必要があったのかといえば、楽天モバイルの存在が大きい。同社はかねてプラチナバンドの割り当てがないことが競争上不公平だと訴えており、それを受けて総務省は2022年に、他の大手3社のプラチナバンドを再割り当てする議論が進められてきた。
その結果は楽天モバイルに非常に有利なものだったが、他の3社に与えるマイナスの影響も非常に大きい内容だった。そうしたことからNTTドコモが狭帯域700MHz帯の割り当て検討を提案したのには、プラチナバンドの再割り当てにより自社、ひいては業界全体に大きな混乱を避ける狙いが大きかったものと見られている。
ではその楽天モバイルは、狭帯域700MHz帯に対しどのような評価をしているのだろうか。2023年4月19日に総務省は、狭帯域700MHz帯を含め今後の割り当てが検討されている周波数帯に関する事業者への調査「移動通信システムの周波数利用に関する調査」の結果を公表しており、それに合わせる形で楽天モバイルもコメントを出している。
その内容を見ると、「当社としては、『移動通信システムの周波数利用に関する調査』において、プラチナバンドの新たな選択肢になりうる700MHz帯の3MHzシステムに対する早期の割当てを希望させていただきました。」と記されている。実際同調査の内容を見ても、楽天モバイルは明確に「割当てを希望」としており、その時期も「2023年9月まで」と具体的に記すなど、割り当てにとても意欲的な様子がうかがえる。
総務省「移動通信システムの周波数利用に関する調査」より。狭帯域700MHz帯の割り当てに対しては、楽天モバイルと他社とでは獲得意欲にかなりの違いが見られる
一方で他の3社の内容を見るとそこまで熱心ではない様子がうかがえ、中でもKDDIとソフトバンクは、割り当て時の条件を見て判断・検討する必要があるとして慎重な姿勢を見せている印象だ。内容を確認するに、その理由としては狭帯域700MHz帯に一定の制約が存在することが影響しているものと考えられる。
とりわけ大きいのが、現状の3GPPの仕様で3MHz幅は4Gでこそ利用できるものの、5Gで利用できないことだ。狭帯域700MHz帯の利用用途として、KDDIは「今回の対象帯域はNR(5Gの通信方式)エリアのカバレッジを充実させるために有効」、ソフトバンクは「NR化を前提として利用できる場合は、既に割当てを受けている700MHz帯と一体的にカバレッジ用途として活用することを想定」と回答しており、割り当てられた周波数帯を5Gで使いたい意向を示していることから、5Gで使えないとなれば魅力は低いと見ているのではないだろうか。
総務省「700MHz帯等移動通信システムアドホックグループ」第4回会合の楽天モバイル提出資料より。3MHzという狭い幅では現状5Gが利用できず、2024年策定予定の「Release 18」での導入に向けた検討が進められている最中だ
それゆえ現実的な割り当ての意向を示しているのは楽天モバイルと、4G向け周波数を5G向けに移行することで、ひっ迫する4Gを補うための割り当てを要望しているNTTドコモの2社ということになる。だが先の経緯に加え、総務省が新規事業者への周波数割り当てを重視する傾向にあること、そして両社の割り当てに対する意欲の違いなどを考慮するならば、免許割り当てがなされたとなればやはり楽天モバイルが優位となる可能性が高い。
無論、狭帯域700MHz帯の割り当てはまだ決定したものではないのだが、その可能性が非常に高くなったことは間違いない。この割り当てによって楽天モバイルの参入以降続いていた、プラチナバンドを巡る業界の混乱が収まるかどうかが注目される。