みどりの窓口の「みどり」の由来とは?(写真:tarousite / PIXTA)

150年という長い鉄道の歴史のなかで鉄道員は、業務上の用途に合わせて、さまざまな用語や略称を使っている。

その中には私たち一般人が聞いてもわからないような言葉が多くある。そんな鉄道用語のいくつかをご紹介したい。

まず「閉塞」または「閉塞区間」である。列車同士の衝突は、同一時刻に2つの列車が、同一の場所に存在することで発生する。「閉塞」とは、列車同士が衝突しないように、線路上に区間を設定して、その区間を常に1列車のみ存在できるという方法を取る考えである。

区間が閉ざされた場所に、1つの列車を走行させるだけであれば、物理的に列車同士の衝突は起こり得ない。この最も合理的な考えは列車運行上の基本と考えられており、「閉鎖された区間」、つまり「閉塞」と呼ばれている。

全線上に区分けされた区間ごとに列車が存在し、前の列車が通過すると、次の列車がその閉塞区間に入ることができる。この基本的な考えを守ることで、列車の安全な運行が保たれているのだ。

犬釘とは何か

続いて「犬釘」。レールとその下の枕木をしっかりと固定させ、軌間の狂い(広がり)を防ぐ。レールの外側と内側に設置することで、その効力を発揮することができる。


犬釘。釘の頭の部分が犬の顔のように見える(写真:2002/PIXTA)

先端は釘状のように細くなっているが、回転防止のため、断面は丸形ではなく四角になっており、通常は枕木1本に対して、内外に2本ずつ、計4本打たれている。

なぜ、「犬釘」と呼ばれるようになったのか。その理由は釘の頭の部分が、ちょうど犬の顔を正面から見たように、左右の耳があり、中央が鼻のように見えるからだ。

犬釘は長年にわたって、レールと枕木の締結装置として使用されてきたが、鉄道の高速化や高頻度運転などによる耐久性を考えて、最近ではコンクリート(PC)枕木に変更されつつある。犬釘も、ボルトとバネを用いた「レール締結装置」に取って代わられつつある。

「ラーメン橋」。ラーメンとは、中華料理に出てくる麺のことではなく、ドイツ語の「Rahmen」 で、日本語の意味で「フレーム(枠)」のことである。桁と橋脚が一体構造になった「フレーム一体型構造」の橋を意味し、頑丈で外圧に強い特徴がある。川などを越える鉄橋のほかに、他の交通との立体交差や、市街地での高架化事業に多く使用されている。地震大国と言われる我が国において、不可欠な工法の1つである。


山陰本線の惣郷川橋梁(ぺいさま / PIXTA)

1932年に完成したJR西日本・山陰本線の惣郷川橋梁は、須佐駅―宇田郷駅間の白須川にかかる単線2柱式の3径間2層ラーメン橋で、全長が約189mもある。橋の位置がちょうど、川と日本海の河口で、車内からは漁港をはじめ、夕暮れ時には日本海に沈む夕陽を望むことができる。

川幅が大きいことから、通常ならばトラス鉄橋でもおかしくないが、トラスがない橋のため、走行する列車の姿をよく眺められるので、鉄道写真の有名撮影スポットとなっている。山陰本線の列車が通る時間になると、カメラを構えるファンで賑わう。

土木業界においても、歴史的に価値のある構造物に認められ、2001年に土木学会推奨土木遺産を受賞している。

みどりの窓口の「みどり」とは?

「みどりの窓口」の「みどり」とは何だろうか。みどりの窓口は1965年に誕生した。それまで駅では、乗車券類の発行について、管理センターを通じて台帳の管理を行っていた。駅係員が空席部分を管理センターに電話で確認して、発行するという方式だった。人間同士が電話などによる送話で確認するために、ダブルブッキングなどをしてしまうミスもあったという。

その後、「マルスシステム」というオンライン方式の電子計算機を採用したことで、正確で、スピーディーな発行ができるようになった。そのマルスシステムが発券する乗車券等が緑色だったため、「みどりの窓口」と名付けられたと一説には言われている。

「ラッチ」。ラッチとは、駅の改札口にある風呂桶のような枠のことである。駅員がその枠内に入りこみ、乗客は駅構内に入る際に、そこの脇を通る仕組みで、駅員が乗車券などの検札や、入鋏を行う場所である。20年くらい前までは、どこの駅でも見られたが、自動改札機の導入が進み、今では地方鉄道の駅などでしか見かけられなくなっている。

ラッチの語源は扉や門の止め金に由来する。英訳すると「Latch」だ。よく駅内のコンコースなどを「ラッチ内」、駅外のコンコースを「ラッチ外」という。まさにラッチとは、駅構内と外を仕切る「門番」の意味のようである。

続いて、「併合」と「併結」である。東北新幹線の福島駅や盛岡駅などで、列車の増結と切り離しが行われている。この場合、「併結」と言われるのだが、「併合」という言い方もある。どのような違いがあるのか。東京交通短期大学の運転の専門家に話を聞くと、鉄道事業者によって「併結」と「併合」をそれぞれに用いているため、明確な定義や違いは定かではないという。しかし厳密に言うと、併結とは「列車の運用上、行先など種別の異なる列車同士を連結して1つの編成を組成し、一列車として運用している状態。」ということで、併合とは、「出発地の異なる列車を連結する駅で、1つの編成として組成する作業」とのことであった。

要するに「併結」は、2つの列車がすでに連結された状態で、「併合」は、駅で列車同士を連結させる作業のことである。そういえば「併合作業」と聞いたことがある。

ほかにも、「サボ」と「行先表示」について。サボとは、列車の行先を示す板(ボード)のことで、由来は「サイドボード」または「サービスボード」の電報略号(電略)だという。 

運転の専門家によると、「行先表示札『サボ』の表示変更や手配、故障(不良)などは、電報で各駅や乗務区で周知共有されていたため、『サボ』というものが、『行先表示』という認識につながった」という。

現在では、板(ボード)を用いた行先表示は少なくなり、LEDや電照式の行先表示器が主流なため、『サボ』という表現は少なくなったそうである。

「車両」と「列車」の違い

最後に、「車両と列車の違い」に関しても紹介したい。まず車両とは、機関車・旅客車・貨物車、および特殊車・事業用車のことを言う。また、車両は一方において、停車場外の線路(つまり本線上)で運転させる目的で組成された状態を「列車」と言われている。車両基地などに停車している状態では「車両」だが、本線上で編成が組まれ、営業として運転される車両を「列車」と言う。


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「列車」を運転するためには、動力車操縦者運転免許が必要になるが、前述の専門家によると「列車の運転には必要な条件として、列車番号の付与、運転する線路や運転時刻の指定、列車標識の掲出などが必要だが、車両基地内などへの単なる車両状態での移動は、免許がなくても、社内研修や試験などを経て車両を運転できる会社も存在する」という。

ここまで鉄道用語の由来などを紹介してきたが、これ以外にもさまざまなものがある。日本に鉄道が誕生して150年、鉄道はよりよいサービスができるよう進化している。業務がよりスムーズに行えるように、いつの間にか使われるようになった略語も、聞いていて楽しい。しかし、正式名称の由来を調べてみると、それ以上に面白いものであった。 

(渡部 史絵 : 鉄道ジャーナリスト)