【赤木智弘の眼光紙背】人間関係がある以上、イジメはなくならない - 赤木智弘
※この記事は2012年11月10日にBLOGOSで公開されたものです
赤木智弘の眼光紙背：第245回自民党が、いじめ問題に対する抜本的な対策として「いじめ対策基本法案」をまとめ、次期衆院選の公約に盛り込むという。(*1)
いつになるか分からない衆議院の解散を目前（分からないのに目前とは、変な話ではあるが）として、安倍晋三総裁の下で政権奪還を目指す自民党としては、次の選挙に向けた票集めの一環として、こうした一見「分かりやすい」政策を打ち出し、支持を訴えたいのだろう。
それにしても「教育再生実行本部」か。何かを思い出す。安倍晋三総裁の肝いりで設置された教育再生……ああ、教育再生会議だ……。
「塾はできない子のためのものだから、できる子は塾禁止」だの「30人31脚を見て感動したから、教育の現場にも取り入れろ」などの珍提言を繰り返した、お笑い集団教育再生会議。他にも、体罰の定義を変えて実質的な体罰教育の復活を目指す(*2)など、長引く不況のうさを子供や現場の教師たちに当てこすってやろうという意図しか見えない、素人同然のお笑い集団であった。あ、あと「家族の日」とかもあったな。
次の選挙で自民党が勝てば、やはり、あの地獄のお笑い集団が戻ってきて、また教育界を引っ掻き回そうとするのは間違い無いだろう。
それにしても、いったい自民党はイジメをなんだと思っているのだろうか。
もちろん、一時的な避難として、イジメを行ったと疑われる人間を出席させないことは必要かもしれない。しかしそのようにイジメの主犯というのが、ハッキリとわかるイジメは決して多くない。そして、出席停止にできるイジメの主犯が確定できた時点で、すべきことは単なる対処療法ではなく、根本的にイジメた人間がしたことを、当人にハッキリと自覚させることである。イジメというのは、ちょっとした悪ふざけでもないし、そこで培われた関係性は友人関係ではないということ。そして何よりイジメという行為が、イジメられた人間には一生の傷として埋め込まれ、相手の一生を台無しにしかねないこと。そして、これは出席停止のような一時的な対処療法で実現できることではない。
イジメはあくまでも、人間関係の延長である。小中高がクラス制度であり、その中で集団生活が余儀なくされ、学校行事などで何かとクラス単位での共同活動が強制される以上は、大なり小なりイジメが存在しないという状況事態がありえない。
さらに言えば、イジメは決して学校教育の問題だけではない。大人の労働環境であっても人間関係が濃密な空間になればなるほどイジメが発生する確率は高くなる。
そうしたことを考えるに、今回のような対策は学校の教師に与えられる権限としては正しくとも、決して国が法律で制定するような話ではない。むしろ重要なのは現場への権限譲渡であり、限定的に出席停止だけを許しても、それを活用するような状況は少ないのではないのだろうか。
それにしても、こうした法案が出てきて、それを支持する人たちがいる時点で、世間のイジメに対する認識が、極めて貧しいものだということが判断できてしまう。そうした人たちが支える政権が、どのような教育政策を推し進めるのか。すでにかつて彼らが行った「会議」で、結論は見えているのだけれど……。
*1：いじめ加害者は出席停止、自民 対策法案に明記（47NEWS）
*2：「体罰」基準見直し明記 教育再生会議報告（47NEWS）
