転換期の今、国難に打克つ自分たちの憲法を！ - 磯崎仁彦議員インタビュー - BLOGOS編集部
※この記事は2012年10月18日にBLOGOSで公開されたものです
27年務めた全日本空輸株式会社（ANA）を辞め、その年に行われた自由民主党香川県連が行った次期参議院選挙の公募に手を挙げて政界入りを果たした磯崎仁彦議員。当選当初から取り組んでいるのが、自民党立党以来の党是である「自主憲法制定」です。震災後の復興など数々の課題を抱え、復興や周辺諸国からの武力行使が不安視される中、日本の根幹である憲法をどう考えるべきか？ お話をうかがいました。（編集部：濱田敦子・大谷広太）
今の日本国憲法は、占領下で作られた憲法
原田：さっそくですが、磯崎さんは自由民主党のインターネット放送CafeSta（カフェスタ）の担当番組の中で、ずっと「自主憲法制定」をテーマに取り上げていらっしゃるということで、今日は「自主憲法制定」についてうかがいます。自主憲法制定と聞いて最初に思ったのは、すでに現行の憲法があるじゃないですか？ これってそれを「改正」しようという話ですか？それとも、全く新しいものを「制定」しようという話しですか？
磯崎：もちろん現行の「日本国憲法」がありますので、改正手続きを踏まえて行わなければなりません。そういう意味では改正です。でも、実質的にと言いますか、気持ち的に、今の憲法って占領下で作られた憲法ですよね？
原田：GHQですね。
磯崎：そう。いわゆる玉音放送があったのが、昭和20年８月15日、そして、日本国憲法が公布されたのが昭和21年11月3日です。今の憲法と言うのは、この短い期間に連合国側の強い意思に基づいて作られた。だから、日本国民として、自分たちの手できちっとした憲法を作りたいという思想が公布された当初からあって、「自主憲法制定」が長い間叫ばれてきました。
原田：現行の憲法があるからシステム的には改正手続きとなるけれど、気持ちの上では、新しいものを作るぞと。
磯崎：そうですね。もちろん、今の憲法の中にも私たちに染み付いているものもありますから、変えなくていい部分もありますし、むしろ変えるべきでない部分もあるでしょう。だから、私は我々の考え方を、現行の規定のあるべきところを入れ込みつつ、新しいものを作るということだと思っています。
原田：自民党はもう立党当時から、自主憲法制定をずっと掲げていますよね。
磯崎：そうですね。昭和26年９月８日に第二次世界大戦以来の戦争状態を終結させる条約として、サンフランシスコ講和条約が調印され、翌年の４月28日に発効し、日本は独立を回復しました。ここから日本は占領体制から独立国家へと歩みだした。他国から与えられた憲法ではなく、自主的な憲法を作ろうと言う動きはこの頃から引き継がれた考えだと聞いています。だから、既に60年になりますね。自民党の結党である昭和30年からも60年近くが経過したことになります。
原田：長い間政権与党だったのに、今まで制定に至らなかったのは何故なんでしょうか？
磯崎：そうですねえ…… なかなか難しいですけれども、ひとつは憲法改正のためには、衆議院、参議院ともに３分の２以上の賛成が必要だという高いハードルがあげられると思います。議論が進んでも、両院3分の２以上が賛成というのは、現実的に難しい問題です。
それから、自主憲法制定と言いながらも、戦後においては現行憲法の「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義（戦争の放棄）」という考え方が根付いていたのだと思います。
原田：日本国憲法の３原則ですね。
磯崎：そうです。あえてそれを変えるというところまで、国民の皆さまの意識としても醸成出来ていなかった。そういった現実も踏まえて、「なんとか制定しよう！」という段階までの議論に至らなかったんでしょうね。
独立国家として自衛権を曖昧にしない
原田：お話にありました「平和主義（戦争の放棄）」については、憲法改正が議論されると必ず「９条をどうするか」という話がセットになりますよね。その部分について、磯崎さんはどう考えていますか？
磯崎：現実問題として、今の自衛隊が軍隊なのか軍隊でないのかということがありますね。人、あるいは装備の実情を踏まえると、軍隊と言ってもおかしくないようなものは備えているのに、今の憲法上は「軍隊を持てない」ということになっていますから軍隊ではない。
他方で、「自衛隊」の文言も憲法のどこを探してもありません。現行憲法の第９条では、戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認が規定されています。具体的には、「陸海空軍その他の戦力は､これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」とあります。現行の憲法解釈においても、国家に自衛権はあるが、武力の公使は必要最小限とされています。だから、今自衛隊が海外貢献活動として国外に出ていくときは、曖昧なまま、出て行かざるをえないというのが現実です。
ただ、憲法制定当時とは異なり、朝鮮戦争以来、アメリカの日本に対する政策は変わってきていますよね。今の憲法の下では自衛隊を軍隊であると言えないけれど、独立国家として考えるならば、憲法に正面から「自衛権を持つ」とし、この国を守るために、当然のこととして軍隊を持つと規定すべきです。
原田：確かに、今の自衛隊の装備や人を見ると、軍隊を持っているのと変わらないというのが現実ですよね。
磯崎：今の自衛隊については、「自衛権を行使するための軍」ということできちんと位置づけるべきだと思います。今回、我々自民党の日本国憲法改正草案では、自衛隊を、国防軍という言い方にしました。自衛隊の位置づけを、そのままスライドしたカタチですね。
原田：PKO（国連平和維持活動）はどうですか？
磯崎：PKOについても、今の憲法では一線を越えられないというのが事実ですが、日本が国際的にどんな役割を果たしていくべきか、求められているものが戦後から状況が大きく変わってきていると思います。国際化して今これだけ成長を遂げた日本という国が、国際社会から求められる役割を果たす、あるいは国際貢献していくということをやるべきだと思うわけですよ。それをきちっと憲法上で出来る仕組みを作っていくことが、憲法のあるべき姿だろうと思います。
原田：国際関係の中でニーズがあれば、曖昧なまま行くのではなく、正々堂々と行けるようにしようと言うことですね。
磯崎：自衛隊の活動については、現実問題として小手先でやりくりしていることから制約が多すぎ、現実的ではないと思います。PKO活動は「国際平和協力法」に基づき派遣が認められていますが、いわゆるPKO参加５原則により、大きな制約が課せられています。たとえば、今は自衛隊が海外に出ていっても、現地に駐在している邦人、あるいは、同じPKOにおいて活動をしている他国からの派遣隊員の命は、守ることができません。いわゆる「駆けつけ警護」、つまり国連平和維持活動中の国連職員やNGOなど非政府組織の民間人が宿営地外で襲われた場合助けることは、先の「国際平和協定法」では、「自己の管理下にあるものの防護のため」にしか武器の使用を認めていないことから守れないことになります。
やはり日本国の自衛隊なら、在外の日本国民を守ってしかるべきだと思いませんか？ ひとつのチームとしてPKOを組織しているのに、自分たちの身すら他国の軍から守ってもらうということでは本来の役割を果たせないでしょう。
原田：国を守るのであれば、海外にいる日本人に関しても危険が迫れば守れるようにしたいと。
磯崎：それは当たり前の話だと思うんです。どう考えてもおかしいことを、普通に出来るようにするためには、今の憲法の枠組みでは難しいかと思います。
世界は今も平和を希求しているか？
原田：話を自主憲法制定に戻したいと思います。自民党は戦後ずっと自主憲法を制定したいと訴えてきました。GHQによって作られたものではなく、日本国民の手で作りたいという考えだと思うのですが、それにプラスして時代にそぐわない部分が出てきていると思うのですが、どのあたりがそれに該当すると思いますか？
磯崎：憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」とありますが、第二次世界大戦後は世界中が「もう２度とこのような戦争をしてはいけない」と、どの国の国民も確かに平和を「希求」していたのだろうと思います。もちろん今も「希求」していないとは言いません。でも、日本を取り巻く環境を見ると、軍備を強化している国もありますし、敵対的というか、平和的な行動を取っていない国も現実として出てきていますよね。
原田：例え日本が平和を希求していても、周りはそうじゃなかったということもありますよね。
磯崎：そうですね。日本国憲法の精神では周りの国もそうであることが前提ですが、世界情勢がそういう状況ではなくなっている今は、どうしても国防軍の話をせざるを得ないと思います。
もうちょっと違う観点から捉えると、世の中が進むにつれ、それぞれ人の考え方も多様化してきています。例えば、昔の人からしたら考えられなかったような「新しい人権」が主張されている。プライバシーであったり、犯罪の被害者の権利だったり、従来であれば考えられなかった、あるいは希薄であった主張や権利ですが、今はこういったものもきちんと認めなければなりません。それであれば、法律で謳うということではなく、基本的なものとして憲法の中で謳うべきなんです。新しい権利・人権が、時代の変遷と共に出てきているのが事実です。
さらには、昨年起こった3.11の東日本大震災などの大自然災害や、もう11年経ちますが9.11アメリカの同時多発テロ事件に代表されるような国際テロなど、国全体に関わる緊急事態の際に、内閣総理大臣はどういう権限を持って、そういう時に国民の人権はどこまで守られるのか、逆にいえばどこまで制約を受けるのか、ということについて今の憲法には記述がありません。
原田：去年の菅さんの対応も、色々問題になりましたね。
磯崎：けれど、世界を見れば、緊急事態条項など、緊急事態にどういう対応を取るか、国家の枠組みとして憲法の中にしっかり組み込まれています。緊急事態のあり方については、もっともっと議論して憲法の中に組み込む必要がある。そういう声が上がって来たことも、戦後と変わってきている点だと思います。
原田：確かに緊急事態の際には、一個人のプライバシー重視ではなく、国家に権力を委ねるというようなことも必要かもしれない。
磯崎：そうですね。国家無くして国民はあり得ないし、逆もしかりなんですが、国家が脅かされるような時に、国民の権利は最大限認められるのか？ それともある程度の制約はやむを得ないのか？ そういうことは、大きな問題になってくると思います。
原田：確かにそこは各法律で細かく規定するというよりも、憲法でどこまでどうなのかという線を引いておかないと、一気に越えてしまう可能性もありますよね。
磯崎：憲法13条に「生命､自由及び幸福追求に対する国民の権利については､公共の福祉に反しない限り､立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とあって、今も「公共の福祉」という名の下に、例えば道路を作る時には立ち退き強制収用のように、個人の権利があっても国益が優先されることがあります。でも、国家自体の存亡の危機となれば、それとはちょっと次元の違う話です。
国家を守ることが国民の生命と財産を守ることにも繋がりますので、大きなもののためにある程度、個々人の権利が制約されることはやむを得ないことだと思いますね。
「ねじれを解消するために一院制」では短絡的過ぎる
原田：なるほど。他にそぐわないと議論されている点はありますか？
磯崎：私は参議院議員ですが、今回の憲法を議論している時に、自民党の中で１番大きな争点になったのは、二院制のままで良いのかどうか。これに関しては、実は自民党の衆議院議員代議士にも、一院制を施行するという考えが過半数を占めているのが事実です。
原田：一院制にしようと言う人の方が多いんですか？
磯崎：そうなんですよ。国会は国権の最高機関・唯一の立法機関ですから、その決め方を一院制とするのか、二院制とするのかは非常に大きな問題です。これに対して私自身の考え方を述べますと、よく「ねじれ現象が起こっている」と言われますよね。
原田：「ねじれている」から、与党の法案が参議院で通りにくくて政権運営がうまくいかないと言いますね。
磯崎：そう。今の国会でいうと、衆議院は民主党が多数で、参議院は野党が多数。そうすると、「ねじれが起こって、そのねじれのせいで物事が進んで行かないのだと。だから、ねじれを解消するために一院制だ！」と。このような考え方も一部にはあると思うんですが、私はこのねじれは今に始まったことではないと思うんですよ。だったら、「ねじれ前提で国家運営をどうしていくか」を、議論して考えていくことが必要なんじゃないかと。
原田：ねじれがあるから一院制だと短絡的に結びつく話じゃないと。
磯崎：我々野党の自民党の立場からすれば、今このような二院制だからこそ、民主党のマニフェストが全てが実現に至らないと言う見方もできます。だとすれば、二院制でバランスを取ることによって、物事が大きく急に変化することを緩和していると捉える事もできますよね。二院制でチェックをしっかりしていく、バランスをとっていくことも必要じゃないかと。そういう意味で、二院制を簡単に壊すべきではないと思います。
二院制の下でも「衆議院の優越」が定められています。例えば法律を制定する際に、参議院で否決となっても衆議院で３分の２以上の再議決があれば衆議院の意見が通るとか、予算については、参議院で衆議院と異なる議決をした場合、両院協議会を開いても意見が一致しない場合は、衆議院の議決が通るとか、内閣不信任の決議は衆議院のみの権能だとか。ねじれている中でも二院制は維持して、衆議院の優越を今よりも、もう一歩進めるという方策も考えられます。そういう道も選択肢としてあると思いませんか？
原田：ありですね。
磯崎：それともう１つ言いたいのは、衆議院参議院と２つあるけれど、国民からしたら同じようなことをやっているのでは？と見られることがありますね。同じことをやるなら１つでいいじゃないかと。これについては、二院制として行くならば、それぞれの役割をしっかりわかりやすく、参議院の独自性を出していくという考え方もあります。
原田：例えばどんなことですか？
磯崎：よく言われるのが、予算については衆議院に重きを残し、参議院は決算に力を入れるという考え方。国のお金って、決算については２年遅れでやっとその審議がされているんですよ。衆議院で手続きしてから参議院にもってきて決算が承認されるけれど、時間がかかり過ぎて翌年の予算にも、翌々年の予算にも反映出来ない。私は民間企業にいたので、これは民間では考えられません。今年がダメだったら、翌年には反映しようと努力します。これをスピーディにやっていくためにも、決算は参議院に重きを置いてやっていく。
原田：無駄にお金を使いたくないから、改善していくのが普通ですよね。
磯崎：そうするためにも、例えば「予算の衆議院、決算の参議院」と、役割分担を明確化させることによって、なくしてしまうのではなく、参議院の存在意義を高めていくという考え方もあると思います。
原田：表裏一体で、お互い役割分担をしていく。
磯崎：役割や重きを違うものにして、参議院の独自性をもたせることによって、二院制は必要だとすることもあってしかるべきだと思います。もちろん世界の国においても一院制がとられている国はたくさんありますので、選択肢の１つとして否定はしません。でも、重ねて言いますが、ねじれているから一院制というのは、あまりに短絡的だと思うので、もっと議論するべき点だろうと思います。
党議拘束のかける度合いを参議院と衆議院で変えてみる！？
原田：ねじれは、どうしたってこの先も起こることだと思うんです。例えば、ねじれを憲法でどうするべきか定めるとか、何か解決策はないんでしょうか？
磯崎：今は、政党政治ですよね。だから、「党としてこれでいきましょう」ということになれば、衆議院参議院関係なく党議拘束がかかり、「個々の考えは別として、当然党の判断に従う」とうことがあります。議院内閣制を採用している以上、通常は最大多数の政党から内閣総理大臣を出しますから、衆議院においては、解散もあり、より民意をストレートに反映するため、政党に重きをおいて物事を決めていかないといけないというのは仕方ないと思うんです。でも、参議院はこの部分を緩めてもいいんじゃないかと、私は思っています。
原田：衆議院と参議院で党議拘束のかける度合いを変えると言うことですか？
磯崎：もともと日本国憲法の下で生まれた参議院は、その初期の段階において、衆議院のように立場にとらわれず、議員一人ひとりの両親や信念に基づく自由な議論を行おうと、「良識の府」という考え方がありました。だから、参議院の場合はもう少し党議拘束を緩めて、一人ひとりの判断で物事を決するようにしてもいいんじゃないかと。
今は党の人数＝投票の数ということになっていますが、参議院では党議拘束をもう少し緩めて個々人の判断で動いて良いとすれば、ねじれを解消する意味でも、参議院としての役割としても良いんじゃないかと思うわけです。
原田：その考え方は磯崎さんから初めて聞きました。おもしろいですね。
磯崎：ただ、そうした場合に考えなければならないのは選挙制度です。私も参議院選挙においては、「自民党の磯崎」として出馬しています。中には「磯崎仁彦」として投票してくれている人もいると思いますが、一方で、「自民党の政策がこれで、自民党の磯崎だから」という理由で投票行動をしている人もいます。党議拘束が無くなって、党よりも個人の考えを優先となると、政党で人を選んで投票行動をした有権者との乖離がどうしても出てきますね。そうなると今のままの選挙制度でよいのか？という話になり、参議院の場合はもっと政党色を薄くするとか、そういったことも一緒にやらないといけません。参議院も党として選挙をしているのに、党議拘束だけを外すというのはなかなか難しいという現実があるんですね。
原田：個人となれば、有権者に対する責任がもっともっと強くなりますね。党議拘束があったために、今まで政治家個人が持っていた政策について、あまり注目されてこなかったかもしれません。個人的に、政党政治だと自分の政党が希望する状況じゃなくなった時に、プイっと政治から離れてしまう危惧があるんですよね。政治って有権者が政治家を育てるという側面もあると思っていて、党議拘束がなくなって、政治家ひとりひとりをしっかり見るように繋がっていけば、非常に面白いことだと思います。
磯崎：参議院は衆議院より任期が２年長い、６年という任期期間があります。しかも途中で解散がありません。選挙にとらわれずに、じっくりと構えて政策重視の長期的視野で、審議や調査などに臨めるのが衆議院と違う利点です。議員立法を中心に考えるとか、参議院の独自性というのは仕組み上もそういったところを期待して作られているんだと思うんですよ。
原田：他党案で首相公選制をすべきだという案もありましたよね。その辺りについてのご意見はどうでしょう？
磯崎：う～ん、どうでしょう？それも選択肢の１つだと思います。ただ、首相公選制となると、国民の人気を得られそうな政策やを打ち出した人に、票が集まることを避けられないと思います。必ずしもそうじゃないかも知れませんが、今の現実からしても少なからずそういう傾向にあると思います。
今は議院内閣制の下で国会議員から首位が選ばれています。この場合、国民受けする政策を取る政党が多数党となりここから首相が選ばれることも確かにありますが、やはり政党は、国家にとってどうなのかを考えますので、国民の多数の支持を得た政党の代表者を首相にということでいいのではないでしょうか？ 国民の皆様を信頼していないということではなく、直接投票権をとなると、例えば安易に「減税します」と言った人に票が集まるなど、短絡的になる要素を含んでいるため、もう少し慎重に考える必要がありますね。
それと、先ほどの緊急時の話と同じで、首相公選制をしたとしても、首相にどれだけの権限を与えて、議会にどれだけの権限を認めるか、権限の大きさも問題になってくると思います。大きな権限を首相に与えるのであれば、暴走したり歯止めが効かなかった場合、ファシズム的なものになりかねない可能性がある。権限との見合いということも考えないといけませんね。
原田：確かに、アメリカの大統領って実はそんなに権限を持っていなかったりしますね。
磯崎：アメリカの場合は直接と言いながらも、「選挙人」を選ぶことで、ワンクッション置いていますからね。
国民投票法案はできたが、宿題が未解決
原田：なるほど。憲法改正については、少し前に国民投票法案が制定されて盛り上がったのに、そこから暫くその話を聞かないなあという印象なのですが、今どうなっていますか？
磯崎：国民投票法案（日本国憲法の改正手続きに関する法律）が公布されたのが、平成19年５月、施行は３年後の平成22年５月ですね。まさに、今回、自民党の新総裁に就任した安倍内閣のもとで、この国民投票法は制定されました。私はこれで、憲法改正を行う土壌がやっと出来てきたという段階だと考えています。ただ、この法律制定にあたり、３つの宿題が課されています。
１つは憲法改正に関しては、18歳以上が投票出来るとなっていますが、日本の一般的な選挙での投票権は、成人、つまり20歳以上となっていますよね。18歳と20歳の整合性をどう取るか。３年以内に解決すると言っていたんですが、これがまだ実現していません。
もう１つは、公務員の政治的な行動をどうするかですね。公務員は中立の立場を要求されているので、一般の国政選挙の場合、例えば磯崎が立候補した時に「磯崎を応援します」という政治活動は出来ないことになっています。しかし、これが憲法改正となった場合は、国の基本法の話です。「私はこの憲法改正に賛成します」とか「反対します」とか、公務員だとしてもそういった活動や主張をしてもよいのではないか？という議論があります。これも３年以内に結論を出すことになっていましたが、立法の不作為ということで未だに実現しておりませんね。
そして３つ目は、国民投票制度を憲法改正以外にも拡大することについて検討しましょうということです。ただ、この宿題は、他の２つと違い、３年以内ということではなく、中長期的な課題ということになっています。
原田：じゃあ、それらの宿題が解決されないと、次の段階に行けないと。
磯崎：今すぐに憲法を発議し、国民投票ができるかといえば、そうした課題解決がなされないと難しい。これは、国会として早く解決しないといけません。まだ環境が完全にはクリアになっていないということです。
原田：正直なところ、進んでいきそうですか？
磯崎：去年８月、衆議院と参議院に憲法審査会が置かれ、その３つの宿題についても議論が始まっています。そういう意味で、憲法議論が深まってきているのは事実です。
原田：憲法改正に関わる投票権を18歳に下げたのはとても大きな判断だと思うのですが、どういった過程で18歳に引き下げたんでしょうか？
磯崎：これは私が国会議員になる前の話なので、資料を読む限りの話ですが、外国を見てみると成人は18歳からと定めている国が多いということと、人口が減少している状況において、憲法という基本的なものを決める選挙に参加できる人の範囲を増やしたいという数的な問題がある。それに、世代間格差が言われていますが、若い人に自分たちの将来を考えてほしいという思いもあります。高校を卒業する18歳になれば、きちんとした自分なりのものの考え方も出来るだろうということで、自分たちの将来を左右する基本法の憲法について、考える、決定する、機会を増やしていく。それも理由だったと聞いています。
原田：話が憲法改正から少し脱線しますが、そういう発想の下の引き下げであれば、実際の投票も20歳ではなく、18歳に下げようという話は出ていないのでしょうか？
磯崎：先ほどの宿題にもあったように選挙権も18歳に引き下げるかどうかは議論されています。また、民法上の成人は20歳だけれど、酒・たばこについても引き下げるのか。こうした問題も全てリンクする話だという意見もあれば、「立法の趣旨が違うので、違ってしかるべき」という意見もあります。そういう議論に対して、何らかの形を見出さないといけないと思います。
ただ私個人の意見としては、確かに今も学校に憲法の授業があって習いますが、いきなり18歳になったからと「この憲法に賛成しますか？反対しますか？」と聞いても、実際問題マスコミの報道に流されてしまうと思うんですね。ですので、教育でも憲法について考えましょうとか、自分たちの国の将来について考える姿勢を持つなど変えていく必要があると思うのですよ。
原田：前提を作っておかないと、いきなりは決められないですね。
磯崎：それぞれ元となる考え方がしっかりないと、いきなり18歳だから投票という風にはいかないと思いますね。国の基本法である憲法。これに対して国会が発議し、国民の国民投票に付するという土台ができたのであれば、もっと国民が憲法について十分に考える機会が必要です。土壌が出来た上で投票する環境を作らなければ、意味がない。CafeStaの番組は、もっと誰かが発信をしなければという思いで続けています。難しい話をするのではなくて、今どうなっていて、それをどうしていくかという話をわかりやすい言葉でお話しすることを心掛けています。
原田：陪審員制度が出来た時は、制度がいきなりできちゃったので、あわてて各小学校や中学校で司法教育を始めたということもありました。今の学校教育の中では、憲法や政治に距離感があると思うので、僕はもう思い切ってまずは18歳に引き下げてしまって、そうすることで新しい教育が生まれるんじゃないかと思ったりするのですが、如何でしょうか？
磯崎：憲法審査会で18歳の議論をする時にも、当然教育をどうするという話がセットで出てきます。どちらを先にやるにしても、双方きちんとリンクさせるように体制を整えていかないと機能しないと思いますね。
原田：僕は大学が法学部だったのですが、民法などに比べて、憲法を勉強する時間ってすごい短いですよね。あまり深い議論を聞いた記憶もありません。
磯崎：私も法学部でしたが、条文自体が103条と、少ないということもあるんでしょうね。憲法というのはいろんな法律のベースになるものだから、各法律を学ぶことが、憲法を学ぶことに繋がるという性質もあるんだと思うんです。だから、まずは大きく憲法を学んだ後に、それぞれの法律を学ぶ過程で憲法に立ち戻りながら学習するというのが良いのだろうと思います。
根幹である憲法の中に日本のあるべき姿を盛り込む
原田：自主憲法制定については、民間でも議論されるようになってきました。最近で言えば思想家でゲンロンの代表を務めている東浩紀さんが「現行の日本国憲法をベースに、みなさんと新たな憲法を考えよう」と提案されて、サイトなどを中心に憲法草案を作る試みをされています。そんな風にもっと民間から憲法改正の話が出るなど活発化したりしたほうがよいと思いますか？
磯崎：民間から出てくるのは歓迎ですが、実際問題としてなかなか難しいでしょう。冒頭おっしゃっていただいた通り、私がCafeStaでずっと憲法をテーマにお話を続けているのも、もっと憲法を身近に考えてほしいという思いがあります。日頃、憲法の内容について考える機会ってなかなかないですよね？ でも、日本という国家の基本原則を述べた根本的なものですから、もう少し自分たちのこととして何が書いてあるのか、意識していく必要があると思います。
原田：憲法って、壮大で法律よりもっと遠いイメージですね。
磯崎：世の中は民法や商法や刑法といった個々の法律の中で動いています。これらの法律と違い、憲法そのもので何か動くということではないけれど、まさに思想の根幹なんですよね。逆に言うと根幹だからこそ、それを知らなくても生活出来るんですけど（笑）。
国会で議論する際にも、自民党は「今はこういう時代だからこそ、憲法が真にどうあるべきかを考えるべき」という考え方に立っているのですが、そうすると必ず他の党から、昨年の311の大震災があって、今は憲法の議論より復興の話が第一だろうという話が出ます。そうおっしゃるのも無理はありません。けれど、大震災があったこの転換期だからこそ、憲法が本来どうあるべきかという議論をやるべきだと思うんですよ。
日本が大きく揺らいでどっちの方向に向かうべきかという今、家族の絆や、社会そのものの位置づけ、歴史文化伝統をどうするのか問われている。そういうことを考える際、どの軸をもって日本という国が進んで行くんだというときに、その軸を憲法の中、本文中なり前文に取り入れていくという意味でも、今だからこそやるべき議論だと私は考えます。
原田：磯崎議員が強く訴えているのは、今このタイミングだからこそということなんですね。
磯崎：もちろん今年はサンフランシスコ講和条約発効60周年という区切りの年で、このタイミングに党是としての憲法を国民の皆さまにきちんと示すという意味もあります。区切りと大震災を踏まえて、日本の国の方向性を今こそ考えるというときに、憲法をどうするかという議論があってしかるべきだと私は思いますけどね。
公募のきっかけは2009年の政権交代
原田：18歳から投票出来るということであれば、尚更もっと考えていく必要がありますね。憲法の話から外れますが、磯崎議員は公募で国会議員を目指されたと聞きました。どういう思いがあって公募に参加されたのでしょうか？
磯崎：平成22年の２月、３月の頃でしたから、２年半ぐらい前ですかね？ 私は政権交代が無ければ政治を志そうと思わなかったと思います。自民党も政権交代が起こらなかったら、透明性を持って候補者を選ぼうという動きにはならなかったんじゃないでしょうか。そのまま政権が続いていたら、おそらく従来と同じように透明性を持たない、どうやって決まったのかわからない、そういった形で候補者が決まっていたと思います。
政権交代が起こって私が「この国が進んでいく方向は本当にこのままで良いのだろうか？」という問題意識をもったタイミングと、自民党が公募という方式をとって広く候補者を募っていこうと思ったタイミングが重なったというのは、恵まれていると思っています。
原田：だけど27年間ANAに勤めていて、そこからいきなり公募に応募したんですよね。すごい決断だと思います。
磯崎：私が選挙の時に揚げたスローガンは、「次世代への責任」でした。自分は50を越えましたが、我々の世代までは滑り込みセーフの世代なんです。このままだらだらと進んでも、ギリギリ資源もあって、年金もかろうじてもらえる。ですが、私にも子どもがいるので、ときどき考えるんですよ。次の世代、子供世代、孫の世代を考えた時に、どういう世の中を残していけるのか。このまま行って大丈夫なのか。それをきっちり示すことが、我々の世代の責任だと思うのです、ところが、今の政権を見た時に、次の世代に我々が自信を持って残せるような日本を残してくれるか。そこに疑問を持ったのが、政治を自分でやってみようと思った大きなきっかけです。
原田：自分の周りの友人を見ても、政権交代が起こったあの選挙のちょっと前から、次の参議院選挙くらいまでで、政治への意識が変わった人が多かった。日本の転換期だなと、感じましたね。
磯崎：ただ残念ながら今のこの時点に目を向けると、いわゆる無党派層が多い。無党派層の人は、政治に関心が無いのか、それとも既成政党が信じられないのかというと、既成政党を信じられないという人も多い。だけど、若い人が自分たちの将来を真剣に考えるとすれば、政治に参加して自ら決定に加わってもらいたいという思いがあります。
原田：若者の政治参加をどうするかというのが、この議員インタビューシリーズのテーマのひとつなのですが、政治家・国会議員の方から見て、どうすれば若い人が政治にもっと興味を持ってくれると思いますか？逆に若い人にこういうふうに政治に関わってほしいなど希望はありますか？
磯崎：なかなか難しい問題ですね。でもひとつ言えるのは、政権交代は国民の皆さまの投票行動によって起こりました。つまり、自分たち一人ひとりの行動が、政治を変える力を、可能性を持っているということは間違いのない事実だと思います。「誰がやっても同じ」と投票に行かないのではなく、自分たちが投票行動をすることで変えていけるということをきちんと認識して頂くことが一番大きいですね。
あとは、それぞれの党自体が政策と言っても、なんとなくモヤっとというと語弊があるかな……
原田：美芯がしっかりせずに、揺らいでいるように見える？
磯崎：そうですね。政策自体の揺らぎ。たとえば議員定数の話にしても、公約には書いたけれど、いざ実行しようと言う時になって「本当にこれで良いのか？」という原点に立ち戻るのは必要だと思います。中には、そうした立ち戻りの流れの中で、変わってしかるべきものあるでしょう。
原田：国民に向けてマニフェストでやると決めたのであれば、しっかりそれをやってくれるものと国民は期待します。マニフェストはあくまで公約であり、宣言であるから、４年、６年という期間に起こる状況や変化に応じて一部変わっていくというのは致し方ないのかもしれません。でも、そのことが国民の方をきちんと向いているのかというと、マニフェストに対する国と国民の考え方に差があるのかなと思います。
磯崎：あとは我々も政権公約を立ててこれをやりますとあれをやりますと言って選挙を戦いますよね。民主党も政権交代の時にはマニフェストに色々並べましたが、数字の裏付けが十分ではなくて、多くが実現しなかった。もちろん「ここを削減して財源を確保する」と言っていたことが実際に実現できず足りなくなった部分もあります。ですが、もっと精緻な数値の裏付けをやれば、本当にそれが実現可能かもう少しみえてくる部分もあったのではないか。政権をとるという勢いだけで話すのではなく、しっかりした裏付けを政党として合わせてきちんと押し出さないといけないですね。それが、国民の判断の基準にもなるわけですから。
「国民の常識と永田町の常識は距離がある」は本当だった
原田：2年前に公募で手を挙げるまで、政治にまったく関係ない仕事をされていたわけですよね？国会議員になって驚いたことってありますか？
磯崎：これは民間企業で27年の間働いて、民間から政界に来た私個人の感覚ですが、入ってみて思ったのは、国民の常識と、永田町の常識はかなり距離があるとうことです。かけ離れていると聞くので、そういう認識で国政の場に来てみたら、「あ、本当だ」と。
いろんな意味で無駄が多い。歳費や議員定数などいろいろ指摘されますが、もっと基本的なシステムで変えたらいいのにと思うことがいっぱいある。資料だなんだと、無駄に紙が配られたり。
原田：そう言われ続けて、ようやく変わろうとしているというイメージはあるのですが。
磯崎：ただ、中にずっといれば、それが当たり前のように感じてしまうというのは人として仕方ない部分もある。だからこそ、外から来た新しい目でそれをどう指摘して、どう変えていくということが必要なのだと思っています。
原田：入ったばかりの外の目として指摘しても、なかなか通らないものですか？
磯崎：そうですね、前例主義も結構強くて、「何も知らない奴が何を言っているか」という風潮もあります。ただ、それを言っていては変わらないと思いませんか？自分としても、そこは同化することなく、外からの視点を忘れずに言い続けるぞと思っています。
今年、私はテーマを２つ掲げています。１つは憲法で、１つは教育です。教育って、人を育てることで、これは真剣に取り組んでいきたい大切なテーマです。教育のあり方を再生したい。公共心や道徳心。そういう気持ちを、もっと皆さんに持って頂けるよう教育をしないといけない。それであれば、学校の先生のあり方も問わなければならない。
先生って、教職課程を取って卒業して、そのまま学校に配属されるでしょう。ですが私は、少しでも社会に出て、社会経験を積むべきだと思うんです。
原田：磯崎さんも、一般社会での経験が、今の活動に影響していますか？
磯崎：非常に影響は大きいと思います。たとえば弁護士とか裁判官にも司法試験を通って、そのままストレートに法曹界に入る方もいますが、社会経験があるのとないのとでは雲泥の差です。学校の先生になるのに、大学を卒業した後に更に大学院で勉強しようというのがありましたが、そういうことよりも民間の中に一度出て、社会経験を踏まえて幅広くなって、学校の先生になるほうが意義があると思うのです。社会生活の送り方を教える時間もある中で、教育現場でのみの経験では教えられないこともありますから。
そうした教育再生も含め、自主憲法制定に向けてがんばっていきたいと思います。今回、新総裁に就任した安倍さんは、自主憲法制定を強く主張され、また、先程お話ししたように、憲法改正国民投票法を制定した政権ですので、これから、新総裁の下、自主憲法制定を大きな動きにしていきたいと思います。また、安倍新総裁、そして石破新幹事長ともに、総裁選中、集団的自衛権の必要性を強く主張されていた方です。アメリカの艦船と日本の艦船が一緒に航行している時、アメリカの艦船が第三国から攻撃を受けた際、日本は何もせず手をこまねいていていいのか？あるいは、アメリカが第三国からミサイル攻撃を受けた場合、日本がそのことを捕捉し、迎撃する能力をもちながら、手をこまねいていていいのか？といった問題です。この集団的自衛権についての論議も深まっていくことを大いに期待するとともに、私もその実現に全力を尽くしていきたいと思っています。
原田：今日はありがとうございました。
「憲法」という重厚なテーマの１つに関するインタビューでしたが、とても楽しく話をすることができました。法学部時代の知識を絞り出し、憲法に関する質問をさせていただきましたが、各質問に対する磯崎議員の返答が明快でわかりやすく、話が弾みました。磯崎議員は毎週自民党のインターネット番組「cafeSta」で憲法に関する番組を行なっていることが、洗練された返答の要員の一つだと思いました。自らの問題意識を発信し続けることはやはい本当に大事なことだし、発信し続けることによって、伝わりやすくなるんだなと実感しました。
また、憲法改正となると「９条」のみが意識されがちですが、その他の部分でも色々と論点はあり、それらを全面的に話ができたことも面白かったです。
（プロフィール）
磯崎仁彦（いそざきよしひこ）
1957年９月８日、香川県丸亀市生まれ。1983年３月に東京大学法学部を卒業した後、全日本空輸株式会社（ANA）に入社しリスクマネジメント部長などを歴任する。2010年４月、自由民主党香川県連が行った次期参議院選挙の公募に応募。同年７月の選挙で初当選を果たす。自由民主党本部の特設スタジオより配信のインターネット生放送「CafeSta」では、毎週木曜日を担当。自主憲法制定や教育問題などを扱う。
公式HP ／ 磯崎仁彦twitter
自民党CafeSta（毎週木曜日担当）
原田謙介（はらだけんすけ）
1986年岡山県出身。東京大学卒。ネット選挙運動の解禁を求める「One Voice Campaign」発起人。2008年4月同世代の政治への関心の薄さ、未来をみない政治に問題意識をもち、20代の投票率向上を目指す学生団体ivoteを結成した。（2011年6月引退）2012年3月に大学卒業後、「政治と若者をつなぐ」をコンセプト活動をしている。
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原田謙介twitter
