韓国情勢とスパイ事情なう -『国内海外 安全保障なう』 第2回- - BLOGOS編集部
※この記事は2012年09月06日にBLOGOSで公開されたものです
ブロガーのやまもといちろう氏が、初代内閣安全保障室長の佐々淳行氏、『ニューズウィーク日本版』元編集長の藤田正美氏と共に、国家論を軸に、外交、防衛、治安維持、食糧問題（TPP）・エネルギー問題などを考える新シリーズ「国内海外 安全保障なう」。第二回は「韓国情勢とスパイ事情なう」世界で飛躍的な成長を見せる韓国財閥企業、その裏側には技術的に先行している日本の科学技術を盗み出し、また日本人技術者を高給で釣り出すなどして積極的な産業スパイ活動を行っている現実が。
経済面だけではなく、特別在住許可を持つ在日韓国人のネットワークを使い、有力な政治家秘書や政党本部に入り込んでの政策情報のスパイ活動、さらには韓国人研究者や買収した大学教授などを使い日本政府の高度政策情報へのアクセスを狙う行為が後を絶ちません。
今回は韓国政府とスパイ活動にテーマを絞り、緊密だが混乱も絶えない複雑な日韓関係や、韓国政府の一連のスパイ活動も踏まえた日本の安全保障についてお送りしました。
日本はスパイ天国
やまもと： 以前では安全保障に限定されていたスパイ活動が、経済分野にまで広がっていき、更に手引きするのが、政府のしかるべき訓練を受けた人だというのが、最近のこの辺の話題なのかなと。このあたりのお話しから、まずさせて頂きたい。アメリカだと産業スパイに関する法律というのは、かなり出てきているんでしょうか？藤田：アメリカは1990年前後、冷戦の崩壊で、従来の国家安全保障問題に携わっていたCIAのスパイが仕事がなくなる。つまりソ連のスパイに今までほど力を入れなくていい、そうなった時にこれからは経済スパイ、産業スパイであるという言い方をして、CIAの人間がわっと出て行くわけですね。それと同時にアメリカの方は、産業スパイを防止しなきゃいかんと、1996年に経済スパイ防止法という法律ができて、その法律に引っかかった例、日本との関係でいうと、日本の理化学研究所にアメリカの研究所から戻った研究者がDNAを持ってきていた、それをFBIが捕まえてっていう事件がありましたね。
やまもと：日本人もCIAの人達も防諜に引っかかって、向こうで起訴されるという事例が90年代から00年にかけてかなりありました。それと入れ替わるような形で、韓国の人達がアメリカ社会に入っていって、大学であるとか研究施設、製造業やIT系などの法人に入られて、韓国に帰ってその技術を利用しちゃっう事例がとても増えました。AppleとSamsungの訴訟の一部にも垣間見える内容もありますが、非常にアメリカでも警戒が高まっておりました。
と思ったら、今度は中国のスパイがどーっと入ってきて、収拾がつかない状態になっているとい状況で。冷戦の終了というのが、スパイ技術の民間転用に、従来とは違った視点でスパイ活動が行われる起点になったというふうに思われるんですけど。
ヨーロッパの企業でも、ノキアやイギリスの通信など技術開発系の会社にロシアからのスパイが入っていって、訳分かんない状態になっている、というのがあるようですね。
藤田：ロシアのサイバーセキュリティの会社、あそこは元々軍じゃないですか。
やまもと：ロシアの方は伝統的に国防産業とロシア軍との一体化されていますからね。韓国もそうかなぁと思いますけど。
佐々：韓国のKCIAへの情報要求、韓国政府なり軍なりが発する情報要求が変わってきたんです。昔は北の話ばっかり、軍事・政治・外交ですよね。特に軍事でした。それが近年、次元の低い軍事紛争が少なくなってきた。そうするとKCIAが今まではあまり対象にしていなかった経済、技術。こういう問題に入ってきた。これは世界中、同じですね。
やまもと：日本だけはやらないような
佐々：日本はね、何もやらないんです。スパイなどあってはならないことで、平和愛好国で常識を尊び、悪い事をしないという国だから、スパイをしてはいけないという、何か呪縛、スペルバウンドがかかっちゃってる。また獲られる方も、比較的平気なんです。アラとられちゃったみたいな。
やまもと：戦前、諜報機関を重視していた時期もありましたよね。
佐々：日本が軍事国家であった時代は軍事情報というのは、凄かったですよね。死刑を伴うスパイ取締法があったし、思想的な背景があれば治安維持法だし、そういうのが今の日本には全くありませんから、諜報活動が悪であるという観念が戦後の日本にはありますね。韓国でも、その情報関心が経済・技術に移ってきた。その国の発展の証拠なんですかね。
藤田：経済が重みを増していることだと思います。佐々先生が言われたこと、日本はナイーブだという言い方が一番いいかと思いますが、産業スパイでいうとIBMの事件がありました。日立と三菱の社員がいきなりFBIに捕まって、後ろ手に手錠をかけられている映像が流れて、みんな仰天したという事件がありました。あれは1980年代でしたね。あの時に外国とのかかわりで産業スパイというのが、日本人の目にどーんと出てきましたね。
やまもと：あの時はココム違反が出てきたり、様々面倒くさい事案が立て続けに起きた時代だったかなと思いますね。最近では韓国企業の方が逆にスパイに入られて大変だという話も耳にする機会が多くって。産業分野も含め、カウンターインテリジェンスの重要性が各国増してきていると。日本も中国の一等書記官にスパイに入られて、それがまだ尾を引いているのかなと。
佐々：私の感じでは、昔の忍者を例にすると、上忍と下忍、上忍は政治謀略工作をやっていて、隣りの封建君主を味方にしていく、政治工作みたいなもので違法行為はなるべくしないようにしている。下忍というのは猿飛佐助なんかがそうなんですが、真田物語に出てくるような忍者、これは暗殺だとか忍び込んで情報をとってくる、いわゆるコート＆ダガーっていうんですけど、黒マントをつけて仮面をつけて短剣つけてやるという古典的なスパイ活動、これが少なくなってきている。みんな上忍になってきている。
この間の李春光という中国の一等書記官というのは完全に上忍ですね。役所に忍び込んで金庫の中のものを盗んでくるという、こういうのは下忍がやることで、上忍はその中身を全部知っている局長を獲得してしまえばいいわけで、明らかに中国はそういうやり方です。今度の李春光一等書記官は政治謀略工作員、しかも人民解放軍の特殊工作員で、現地の日本大使、外務省も口出せない、という存在だったんだろうと思います。という意味で、韓国も北朝鮮もそうなってくる、下忍は流行らなくなってきている。
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中国一等書記官スパイ事件
藤田：佐々先生にお伺いしたいんですけど、1990年に冷戦崩壊して以降、日本の防諜というのも、対ソ防諜というのから、少し方向が変わってきているようにも思います。つい最近、1年くらい前に県警の外事課の人に聞きましたら、彼らの目はロシアに向いていて、中国じゃなかったんです。今、ここでも問題になっている韓国・中国に対するカウンターインテリジェンスが問題になっていく時に、相変わらずロシアなのかなと。それもおかしいんじゃないかと。佐々：昔、警視庁の外事第一係長ってのをやったんです。ソ連欧米担当なんです。中国・韓国・東南アジア・東欧諸国ってのは第二群で、第一群はなんてったってソ連だったんです。その流れが途中変わってきたのが、中国が文化大革命を終えて成長し始めてきた頃からです。軍事的にも脅威だということで少し関心を持つようになったんですが、それでも外事課の現場で点数稼げるのは北朝鮮でした。おかしなことにあの国は、防衛白書なり外交白書なりを図書館にでも行って１冊見ればみんなそこに書いてあることを、わざわざスピードボート、ゴムボートで潜入して諜報無線を死にもの狂いで大阪のアジトから打ってて、それで潜入・脱出をすると、そんなことしなくても分かるじゃないか！って、なんでスパイごっこをやるんだろうね？って僕らは言ってたもんです。
一方で、ソ連が崩壊してしまってからは一係、ソ連欧米担当というのは、対象を失ったんです。どっちに行っていいのか分からなくなってしまった。政府は相変わらず法律関係ではスパイの取り締まりを外為法だとか出入国管理令だとかあるいは旅券法だとか、どうやったって懲役1年くらいにしかならないような事件としか扱わない。それで捕まえても国外追放ですよ。政府もなにもしないです。スパイ取締法というのは何か大きな事件があるたびに作ろう、作ろうと言われているんですが、今に至るも出来ていない。そういう意味で、外事警察そのものが必要とされなくなってきている。国家機密がないと、それを守る秘密保全の防諜活動というのは、ないんですよ。それで今、捕まえても捕まえても大概、退去強制ということで片付いてきてしまっている。今度の李春光一等書記官だって出頭させて、誰と何していたのか聞きたい。だけど外交特権で帰っちゃったでしょ。そのあとこの問題を誰か調べているかというと、誰もやってない、一件落着だということで日中関係もこれ以上悪くならない。事なかれ主義ですね。
やまもと：あのあと、農水省の内部調査は結局なにも情報は出てこずで、情報流出元も分からなければ、情報流出経由、何が漏れたのか、最終的な判断がつかないということで終わってしまいましたね。
佐々：平沢勝栄衆議院議員というのが、元外事警察だったのですが、彼が調査団作って中国に乗り込んでいきました、全部面会拒否だったそうですけれど、それなりに情報を持って帰ってきたところでは、李春光という人物は、政治情報というよりはむしろ金稼ぎだったと、しかも人民解放軍の裏金稼ぎであったというのです。そこで思い出されたのが、ラストボロフ事件です。1960年の私は当時警視庁外事一係長で、彼が政界・財界・官界で誰と会ったか、尾行して確認しました。その結果、シベリア抑留されていた日本兵捕虜を脅かしたりして協力者にしてスリーパーにするんです。寝てろってことでね、日本に帰ったら絶対にソ連の悪口言うな、批判するな、忠実なる日本国民としてそれそれの世界で出世しなさい、ある程度情報源として価値が出てきたら、肩叩くから起きて―と、こういうやり方なんです。財界・官界の人たちにずいぶんインタビューしました。その経験から、今回の李春光の事件は中国版ラストボロフだと思っているんです。
やまもと：影響力要員ですよね
佐々：松下政経塾なんか入れるもんじゃないです、普通。それで将来リーダーになる人達とずいぶん知り合ったといいますよね。今の政府にいる要人たちでも会ったこともない、顔も覚えてないっていう人達がいますけど。本当はきちんと腰を据えて彼は何をしていたのか、誰と会っていたのか調べなければいけません。
「もみ消し」に暗躍する韓国大使館
やまもと：韓国人の場合、顔が日本人と似ていることで、いろんな有力な経営者であるとか株主に韓国人の方がいらっしゃるんですね。そういう方たちが韓国人ネットワークを作って日本の状況ってのを報告をしているんじゃないかという話がよく出るんですけど。役人の中にも韓国系の方に入り込まれていると、なかなか排除するのは難しい。せめて今、何が起きているのかだけでも知っておきたい。ここにきて、具体的な被害が出ているので、そろそろ議論していく時期ではないのかなと。
佐々：日本の外事警察の立場から見ると韓国もしくは在日韓国人が日本に対して破壊工作をしたとか、そういう意味での脅威のあるグループというのは見たことがないです。
むしろ暴力団の方、刑事事件の方では韓国人の麻薬密輸であるとか、要警戒だなと思うわけです。でも、思想的な対日有害活動、これは対象外。だから韓国のことはほとんど分かりません。
やまもと：日韓の財団法人であるとか、そういったところが韓国の日本での有識者を守る動きがあるんです。この前経歴詐称で問題になったある私立大学の准教授がいるんですけど、すぐに韓国大使館から暴き立ては止めてほしいと要請があったり、非常にウォッチしているんだなというものを感じるんです。ある意味でのインテリジェンス活動の一端である、という認識になっている。実際そこここであるはずなんですよ。例えば韓国人の経営者がインサイダーやりそうになりました、それについて事件化するしないのといった時に、捜査しないでほしい、通報しないでほしいとハッキリ言ってくるケース。そういうのは、日本のどこに相談すればキチンとそういうことに対して対抗できるのか、悩ましいところなんです。警察にどう相談するんだ？ってことで。
木次：警察なんですか？
やまもと：証券監視委員会とかね、あぁいうところに韓国人のファンドがおかしい株式の動かし方をしていますよと通報するわけですよ。そうすると追加情報をよこしてくださいという話になるんですよ。当然こっちは調べるのに各社当たるじゃないですか、すると直接日韓の財団の人からそういう活動をやめてもらえませんかねとなるんですよ。
それで証券監視委員会に調査途上で韓国大使館筋から調査自粛の要請がありましたって言っても、そうですかで終わっちゃうの、ホントの話。そうすると公益通報制度以前の問題として、彼らのことを妨害するつもりはないけど、正しくルールを守ってもらうために報告することがリスクになってしまうの。いつまで経っても彼らは日本の市場を使って、あまりよろしくないお金の稼ぎ方が出来てしまいます。問題を認識しても、その問題の持って行き先が見当たらないので困りますよね。じゃぁその話をどこに持っていけばいいのかという、誰からも守られないので、通報はやめとこうか、という話になる。そういう話は韓国に限らず大使館を使ってやってくるというのが、多いんですよね。
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スパイを捕まえる法律がない
藤田：日本の企業も含めて、コンプライアンスって弱いので、持ちつ持たれつみたいになっちゃう。やまもと：実際、報道されてないんですけど、あるメーカーが九州に大きい工場を作りまして、韓国人の技術者が入られたんです。その後、韓国の会社が早いスピードでキャッチアップするんです。これは純粋な技術革新のスピードではないというのは、周辺から見てて明らかで、情報の漏えいが疑われるんですよ。それを防ぐために民間の企業が相談する窓口がないんです。コトが起きてから情報が盗まれましたと言って警察に駆け込むこともあるのかもしれませんけど、それは終わった後の話ですから。防げてないという話になる。
藤田：一般的に言って、企業の持っている情報が盗まれたといって、それに対して罰則規定はないでしょ。
やまもと：不正競争防止法とかですよね。
藤田：そうすると損害額は、昔だとフロッピーディスク50円分の損害だというようなバカな話で。
佐々：今ので思い出しましたけど、被害届を出すときに、被害額って書きますよね。誰かにマル秘の文章を持って来いといって流出したとして、それが重大な国家機密であっても被害額は出ないんですよ、コピー用紙1円かける300枚とか、微罪なの。500円以下だったりね。この国は困るんですよ、秘密保護法がないのは結構なんだけど、知的所有権に対する規定があいまいだから、日本は侵害されっぱなしだし、これに対する救済措置ってないし。国際的にもこれに対する何かの法規制をしないといけません。
やまもと：事故で取り締まるというのと、経過で防ぐっていうのと、ふたつ必要じゃないかなと思うんですけど。今の日本だとスパイ防止法がありませんので、産業だと不正競争防止法とか、その辺でやるしかないんですよ。何をもって機密であり、何をどう侵害した時に、どういう罪状で問われうるのか、というところがない限りは、どんどん漏れていってしまうというのは防ぎようもないし、どの法的効力を持ってすれば防げるのかっていう話になるし、難しいですよね。
藤田：産業のところで重要になってくるのは、特許という制度があるわけだけれども、特許の下にあるというか、コアにある情報は特許にも出せません。それを置いておくと、それが盗まれる。そういう場合、被害を算定する方法がない。そこが問題ではありますね。
やまもと：日本の技術の盗まれ方というのは、ハンパじゃない。ごっそり持っていかれるんですよ。工場の生産マニュアルにかかわることであるとか、議事録に対するものも全て、吸い出しの対象になってるんで、工場のラインで働いている人の足の動かし方だけでも充分生産性が変わってくるんですけど、そのフットプリントの中身まで持っていかれるんです。レイアウトがそのまま韓国の工場に再利用されてるのが、こちら側からの工場視察で分かるっていうのがね。
そういう事例になってくると被害といっても被害額の算定っていう所まではいかないし。海外に出られちゃったら、韓国の法律で裁くのか？って話になりますし、日本の出先機関がそれに協力した可能性が高いから日本の法人を訴えますって言ったって、日本の法人が知りませんって言っちゃえば終わりなんですよ。手の出しようがないっていうのが実情で。早い段階で日本の法整備を整えていかなアカンだろうなと思っています。
木次：たとえば、韓国では法整備されている？
やまもと：スパイ防止法に近いものが完備されています。というより、日本だけないような感じです。ほかの国だと何を持って機密するものかと、それを漏出させた場合には経路を確定させた段階で、訴えることができると。それに対して充分な嫌疑があるのであれば、捜査もできるという感じになっている。
木次：どんな罰則が？
やまもと：アメリカでは終身刑があったりして、国家機密に関しては極刑もありうるというような内容になってますね。
佐々：アメリカと日本の刑事政策で、決定的に違うのは日本では無期懲役。これは死刑に次ぐ極刑なんですけど、終身刑ではない。16年品行方正にやってるとパロール、保釈の対象になる。だけどアメリカの場合は加算していくんです。360年とか。例の東芝のスクリューがココム違反になった事件で、逮捕されたスパイのウォーカーファミリーってのがいましてね、ニミッツに乗っていたような海軍一家なんですが、判決が3回生まれ変わったって果たせないような三百何十年の刑ですよ。日本もそうしたらいいんじゃないか。無期懲役じゃなくて足していくってやり方で。
やまもと：かなり止まりますかね？
佐々：止まりますよ。そういう意味で、日本は人権尊重が徹底してしまって、被害者の侵害されたる人権が問題にされない。今度の場合も例えば北朝鮮で行われた公演でディズニーのキャラクターが使用された、これ、どうするんでしょうか。なりゆきを、アメリカの出方を興味持って見ているんです。日本だって民事の特許侵害なんてことでね、制裁金を科することはできないんだろうか、民事訴訟でね。そうじゃないと、止まりません。
サイバーテロに備えよ
それからね、当然話題のひとつなんでしょうけど、インターネットで不正に侵入してくるハッカーも重要な役割を果たしていると思います。これに対して日本が作った法律は、不正アクセス防止法っていうやまもと：微妙な法律…
佐々：アクセスって言葉が日本になくて、カタカタ英語が法律名になったのは、あれが初めてですよ。これで警察が採用したのが20名。これだけの人数で無間地獄みたいなインターネット犯罪をやれって。
それで私が提案したのがね、アメリカがやったことと同じ事をやろうと、ハッカーを捕まえて、警部にしようよと。それで毒を持って毒を制する。ハッカーハンターにして階級を与えてね、たった20名ですから、ユニークなヤツをとらないと。普通のヤツじゃ取り締まりできませんって。
やまもと：アメリカは800人近くいますからね。それでも足んないって。
佐々：そういう知的所有権、ソフト、国の秘密を守るために全く組織もないし、予算もないし、法律もない。
やまもと：スパイ防止法の意見もでましたけど、そろそろ法制を考えなきゃいけないでしょ。総務省も頑張ってますけど、キチンと機能していないというところで問題になってるんですよね。
藤田：スパイ防止法って何度も出ちゃ消えてってしてるけど、基本的な問題として反発を食らうところは？
佐々：知る権利。これはやはり戦後、今までの取り締まり法規が秘密保護法にしても、治安維持法にしてもあまりにきつすぎたという、猛烈な反動なんです。 最近では安倍内閣の時に大きな問題になったんです。それはどういうことかというと、日本は秘密保護法的な、軍事機密を守るという体制において、まだ占領下にあります。
なぜなら宮永事件、元陸上自衛隊陸将補だった宮永幸久がコズロフ大佐というKGBのスパイの部下になって情報を出しておりました。これで国会も大騒ぎになって久保田円次(防衛庁長官)なんていうのはこれでクビをとられたんですから。それで延々捜査した結果、国家公務員法の第100条、守秘義務違反で懲役1年以下ですから。
やまもと：当時でも、罰金3万円以下。
佐々：これで判決が下ってる。ところが日米安保条約に基づく刑事特別法、ケイトクホウと略してますけど、これがまだ生きてるんです。例えばF15って戦闘機がありますが、もし日本の自衛官がF15の情報をソ連のスパイに売っても懲役1年以下。ところが米軍の例えば嘉手納にあるF15部隊の情報を盗んで中国のスパイに売ったとしましょう、なんびとであれ懲役10年なんです。
なぜかというと、戦後の占領軍の名残でね、当時は日本に秘密なんてなかったんだし、元々自衛隊もなかったからなんです。それで自衛隊の秘密漏えいが懲役1年以下というのはどっちみち意味がなかった。こんにち、同じ戦闘機の話でも、アメリカに関する情報は懲役10年で、なんで日本は懲役1年？宮永のはおかしいよって議論になって、アメリカにはスパイ罪は死刑までありますから。日本の１年っていうのがおかしい。安倍内閣の時にこれを真剣に取り上げました。日本の刑事特別法はそのままに、公務員の守秘義務違反の刑を1年から10年にしようと。
実はこれ、塩崎官房長官は一生懸命やってたの。安倍さんが倒れたらあっという間に霧散して、未だに誰も言わないでしょう。なんで日本の秘密は１年なのか。これでは被占領国のままですよ。 だから、まだマッカーサー占領は終わってないって僕は言ってるの。今度の本にも書きましたが、10年にしなきゃだめだと言ってるんです。公務員だけは1年以下３万円なんてない、バカな話と思いませんか？
米軍の占領が続いている状態であるまいし、日本の方がおかしいから。スパイ罪っていう法律をわざわざ作らなくても、ちょっとした運用で公務員を懲役10年にしただけでもだいぶ情報流出は止まりますよ。
藤田：公務員の国家機密違反。
やまもと：国会議員経由で漏れるっていうことに関してですよね。
佐々：政治主導ということで、国会法ではご承知のように、国会議員というのは立法に専念しようと書いてあるんです。それで国会法で特に許されたものだけが行政に入れるんです。それが今までは大臣と政務次官の二人だったんです。これを今度副大臣だ政務官だと増やしちゃったでしょ。幻冬舎から出た私の本「救国の八策」でも言っているのですが、政務官になる国会議員の政治主導なら、上級職ほどの知識は要求しませんが、中級職程度のその省に関する法令の知識を持たないけません。政務官試験というのをやりましょうと提案しています。
やまもと：誰もなれなさそうな気がします
佐々：いきなりやったら不公平だから、2週間とか集中講義をしましょうと。防衛省に行く人は防衛関係の法律を、国家行政組織法とか、内閣法だとか、基本の法律を教える。それで試験をする。これに落っこったら政治主導なんて言う資格はない。
藤田：官僚主導の政治家ばっかりできませんか、そうなると。
佐々：いやぁ、昔、族議員っていうのは大変な弊害だと言われたんですけど、彼らはよく勉強していましたよ。ものすごく知っていた。だから族議員がいなくなったことで、却って財務省なんか役人の言うことを聞かざるをえない、分かんないから。今度の消費税の値上げだってひどい話ですよね。
皆さん、知らないみたいだけどね、消費税を導入するというのは、消費税法案を国会で議決しないとできないです。税率は省令ですから、財務省で出来るんです。今、政治主導って言ってますけど、もう財務大臣も財務政務官も何も知らない人ばっかり。それで結局役人が税率を決めるんですよ、８％って言ってるでしょ、ある日突然15％って言いだすかも。国会にかけなくていいんだから。消費税法は通ってますからね。
藤田：ということは、政治主導を目指したばっかりに、官僚主導になったと。
佐々：そうそう。よりヒドイ官僚主導。例えば、国家公安委員長、防衛大臣、本当にひとりで答弁できますか。絶対できません。
やまもと：みんな(後ろ向いて意見伺うように)キョロキョロしますよ
木次：国内海外 安全保障なう、次のテーマに移っていますけど、それは次の機会に。
やまもと：次回は日本の情報をどうやって守っていくのか、その辺を踏まえながらお話し伺っていきたいと思っています。今日はありがとうございました。
９月11日（火）20時より、シンポジウム「最前線から考える領土問題」を開催、読者を無料でご招待します。やまもといちろうさんにもご登壇いただきますので、ふるってご応募ください。
■これまでの放送
・第１回 尖閣諸島問題から日本のシーレーンをどう考えるか？
・第２回 韓国情勢とスパイ事情なう
出演者プロフィール
佐々淳行（さっさ あつゆき）初代内閣安全保障室長。
1930年生まれ。東大法学部卒業後、国家地方警察本部（現警察庁）入庁。在香港日本国総領事館領事、警察庁・警視庁の調査・外事・警備課長、 監察官などを歴任。1977年からは防衛庁に出向、防衛審議官、官房長、防衛施設庁長官などを歴任。1986年には内閣安全保障室長を務める。1989年、昭和天皇大喪の礼を最後に退官。
現在は、各省庁委員会の委員などを務めるかたわら、講演・執筆を通じて、「危機管理」思想の普及・啓蒙活動・政策提言を行なっている。
・佐々淳行ホームページ
藤田正美（ふじた まさよし）
ジャーナリスト。『ニューズウィーク日本版』元編集長。
1948年生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年、『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年～2000年、同誌編集長。2001年～2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。
著書に、「ドル帝国の崩壊」（監修）がある。
・@m_fujita2332 - Twitter
・藤田正美の世の中まるごと”Observer”
・藤田正美の時事日想 - Business Media 誠
やまもといちろう
ブロガー・投資家・イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。
1973年生まれ。1996年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2000年、イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。
著書に「ネットビジネスの終わり (Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」、「リーダーの値打ち 日本ではなぜバカだけが出世するのか？ (アスキー新書)」など。
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木次真紀（こつぎ まき）
フリーアナウンサー。
1974年生まれ。元山陰放送アナウンサー。
・マイペース！ マイリズム！ 楽しく幸せにイキマショ！
