全国展開するビジネスホテル「ドーミーイン」の魅力にとりつかれた人たちがいる。ニュースサイト「ワニブックスNewsCrunch」のスタッフらは、非公認ガイドブック『Have a nice ドーミーイン 「一泊すると住みたくなる」最高のビジネスホテル』(ワニブックスPLUS新書)を出した。異色の書籍に詰め込まれた偏愛ぶりを紹介する――。(第2回)
写真=PR TIMES/共立メンテナンス
ドーミーイン宿泊者に夜食として無料で振る舞われる軽めのラーメン、『夜鳴きそば』。 - 写真=PR TIMES/共立メンテナンス

ホテル事業としては来年で30周年

『Have a nice ドーミーイン 「一泊すると住みたくなる」最高のビジネスホテル』(ワニブックスPLUS新書)の出版にあたって、どうしても欠かせなかったのは現場の声、すなわち、ドーミーインの経営側の声である。

「あれはどうなっているのか」という疑問や、みんなを虜にする数々のサービスの裏話などについて、ドーミーインを運営する共立メンテナンスの本社スタッフさんに直接聞いてみた。

ドーミーインの1号店は埼玉県にあった『ドーミーインEXPRESS草加(そうか)City』だ。

「まさにここがドーミーインの出発点。2023年で、ホテル事業がスタートしてから30年ということになりますね」(本社スタッフ、以下同)

■「寮を運営する会社」がつくったホテル

そう、ドーミーインを運営する『株式会社共立メンテナンス』は、もともとホテルをメインとした会社ではなかった。

「主幹事業は寮でした。ドーミーインは『社員寮を出張で使いたい』という声から始まった事業です。ドーミーインというホテル名も、弊社が運営する寮のブランド名『ドーミー』に、ホテルチェーンでよく使われている“イン”をプラスした造語です」

当時から「寮を運営する会社がホテル業界に進出」ということで話題になっていたが、筆者は学生寮にも社員寮にも住んだことがないので、あまりピンと来ていなかった。それがホテル運営にどう影響するのだろうか、と。

だが、ドーミーインによく泊まるようになり、ほかのホテルチェーンとのサービスの違いなどを感じていくうちに、寮生活について調べてみて、あぁ、なるほど、とドーミーインの「泊まり心地の良さ」の秘密を垣間見たような気がした。

■一人暮らしの手間や不安を解消

先ほど、「社員寮を出張で使いたい」というフレーズがあった。それこそドーミーイン誕生の原点なわけだが、現在でも共立メンテナンスが運営する学生寮・社員寮である『ドーミー』のニーズも高まり続けている。

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『ドーミー』学生寮の共用キッチン及びダイニングルームのイメージ。 - 写真=PR TIMES/共立メンテナンス

寮『ドーミー』では寮長・寮母が常駐し、自社の管理栄養士が監修する朝食と夕食を、寮の厨房で手作りして提供。部屋には家具が備え付けられ、Wi-Fiも完備。大浴場や無料で使える洗濯機もあり、中にはサウナが付いている寮もあるとのこと……これは羨ましい。

しかも一人暮らしで面倒なのは自炊・掃除・宅配の再配達、不安なのは病気・治安・修理などだが、それらが解消されることで心身ともに健康的でモチベーションの高い毎日を過ごせる──あれ? これってまさにドーミーインのサービスがギュッと詰まっているではないか!

■500棟以上の寮の運営で蓄積されたノウハウ

現在、『ドーミー』は全国に約500棟以上を展開。学生寮としても使用されており、実際に「住んでいる」人がこれだけの数いるわけで、ホテルを運営しているだけでは構築できないノウハウが蓄積されていくことがわかる。

「ドーミーインが始まった当初は、寮として使用しようと考えていた物件の転用がベースになっていたようです。それがほかのホテルとはちょっと違った部屋の間取りにつながっているんですね」

『ドーミー』を利用しているのは学生たち、また建築業界、IT業界、金融業界、サービス業界に勤務する社会人など多岐にわたるが、多くの人が「まるで実家に住んでいるような安心感をおぼえる」という感想を残している。これもまたドーミーインに宿泊している時に感じる「このまま連泊したい」とか「いっそのこと住んでしまいたい」という想いに相通ずるものがある。

寮がルーツ、という異色のバックボーンは、新しいホテルの価値観を生み出す大きな理由のひとつになっていた。

■名物の夜鳴きそばは「触れ合いの場の提供」だった

ドーミーインならではのサービスとして定着している夜鳴きそば。夜遅めの時間帯に宿泊者に無料で振舞われる温かいラーメンは、心と体に染みる味わいである。

ワニブックスNewsCrunch編集部『Have a nice ドーミーイン 「一泊すると住みたくなる」最高のビジネスホテル』(ワニブックスPLUS新書)

「これは創業者のこだわりから生まれたサービスです。今やさまざまなお客さまにご利用いただくようになったドーミーインですが、もともとは出張するビジネスマンのためのホテルでした。仕事を終えてホテルに戻っても、部屋にこもったままおひとりで過ごすのが以前のパターンでした。そこで簡単なお夜食を提供することで、“部屋を出て、スタッフやそこに居合わせた人々と、ほんのひと時でも会話を楽しむきっかけになるのでは?” と私たちは考えたのです」

「つまり、食事そのものというより、人と人とのふれあいの“場”の提供です。その夜食という提供シーンに合うメニューとして考えられたのが、万人に受け入れられるラーメン、すなわち“夜鳴きそば”でした。ドーミーインの夜鳴きそばの提供の裏には、そんな想いがあったのです」

■量や具材のひとつひとつに細かな配慮が

「味にもこだわりがありまして、ずっと変わらないと思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、日々、よりよいものになるよう考えています。極端な話をすれば“本当にしょうゆ味でいいのか”という論議もよくしています。昔からご利用している方ならおわかりになると思うんですが、過去にはチャーシューが乗っていたこともありますし、夜鳴きそばと一緒にまぜごはんを提供していたこともあったんですよ」

「ただ、本来は夜遅い時間に召し上がっていただくもので、あくまでも小腹が空いてしまった方のためのサービスです。これにも理由があって、当社ではリゾートホテルも運営しており、レストランで夕食を提供するのですが、早めに夕食を済ませてしまった方はどうしても深夜に小腹が空きますし、街中にあるホテルと違って、近くに飲食店があるわけでもないので、じゃあ、レストランの厨房を使って夜鳴きそばを提供しましょう、ということになったんです」

「つまり、夜食ですから、翌日に響かないように、麺は半玉、スープはあっさり、具材のほうもメンマ、のり、ネギといったものに変えていきました。ただ、ひとつひとつの具材、それこそ麺からこだわって開発していますし、全体のバランスもしっかりと考えた上で提供させていただいているのが現在の夜鳴きそばです。そして現在、夜鳴きそばは、ビジネスマンだけではなく、小さなお子様連れのご家族から海外のお客さままで、文字どおり万人に愛されるドーミーインの名物へと進化しました」

■次の展開もすでに準備

なにげなく食している夜鳴きそばにここまでのこだわりがあったとは! ただ、ひとつ気になったのは、第2章でも書いたように「大盛りでお願いします」と注文するお客さんがいて、スタッフも即座に対応していたこと。どこにも「大盛りOK」という文言はないのだが、これは裏技なのだろうか?

「もちろん、そういった注文にも対応させていただいていますが、そうした表記がないのは、私共としましては大盛りを推奨していないから、という理由になります。先ほど、お話ししましたように全体のバランスを考えた上での盛り付けとなっているので、大盛りにするとそのバランスが崩れてしまうんですね。だから推奨できません、ということで、どうしてもお腹が空いて、もっと食べたいという方は、大盛りではなく、ぜひ“おかわり”をしていただければ、と思います」

「実はリゾートホテルでは別の味の夜鳴きそばも提供しています。いずれ、それがドーミーインに登場することもあるかもしれません。フロントで配っていたカップラーメンの『ご麺なさい』は現在、提供をストップしていますが、代わりにお部屋へのテイクアウト対応をさせていただいております。もっともサービス自体を廃止したわけではなく、すでに次の準備をしています! どうぞお楽しみに」

コロナ禍で利用者が増えたという夜鳴きそばのサービス。全国どこに行っても変わらぬ味の裏では、これだけのこだわりとさらなる進化のための研鑽(けんさん)が続けられていた。これがあったかさの秘密、である。

■大浴場にも想像を超えた「こだわり」が

「ドーミーインといえば大浴場」と誰もが思い浮かべるぐらいの代名詞になっているサービスではあるが、大浴場を目当てに宿泊してくれた方が「ちょっとがっかり」と思ってしまったら、次は泊まってくれなくなる。代名詞だからこそ、これまで以上にこだわっていく必要がある。

「ひとことで言えば“ほかにはない大浴場”ですよね。そこは本当に徹底的にこだわっています。新規オープンする施設であれば、ほかのホテルとの差別化を図るために大浴場全体のデザインから検討します。もちろん、最優先するのは“使い勝手”のよさ、ですよね。いかに快適に利用していただけるかを念頭に置いて、ひとつひとつこだわっています」

■シャワーの水圧を細かく調整

本当になにげないことではあるが、ドーミーインの大浴場を利用していて、ありがたいな、と思うのは洗髪中にシャワーが勝手に止まらないこと。ホテルに限らず、温浴施設などでも「一定時間が経過するとシャワーが止まってしまう問題」は避けられない宿命のようになっているが、たとえば洗髪中にストップしてしまうと、こちらも目を開けることができないので、とても不便なのだ。止まらないうちに急いでシャンプーして……となると、本末転倒である。

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2022年2月にオープンした『天然温泉 富士桜の湯 ドーミーインEXPRESS富士山御殿場』の大浴場 - 写真=PR TIMES/共立メンテナンス

「そういう部分に気づいていただけるのはありがたいですね。せっかくお客さまにくつろいでいただくための大浴場ですから、そういうストレスを感じさせてしまうような要素は極力、なくすように努力しています」

「シャワーでいえば水圧にもこだわっています。あまりにも弱いとやはりストレスになりますし、あまり強すぎても使いにくいですよね? ちょうどいい強さになるように細かく調整しています」

■入浴のあとの「ちょっと得をした感覚」

「最近では(美容ブランド)『リファ』のファインバブルのシャワーヘッドの導入を進めていまして、こちらは女性のお客さまに大変、ご好評をいただいています。シャワーだけでなく、ドライヤーも、新しい施設ではダイソン製のものをご用意させていただいています」

もはや使い勝手の良さを飛び越えて、ちょっと贅沢なリフレッシュ空間になっているのが最近のドーミーインの大浴場である。

たしかにリファ製のシャワーヘッドは女性にとってのときめき案件だし、ダイソンのイヤーは筆者も思わず使ってしまった。そんなに美容に気をつかっていないので、これらのアイテムは自発的に購入しようとは思わないけれど(なにげにお高いものなので……)、一度は使ってみたいと誰もが思っているものではある。大型家電量販店に行けば、その場でお試しすることもできるかもしれないが、実際に入浴したり、洗髪したあとに乾かしたりする行為は、大浴場でなければ試すことはできない。そういった体験も「ちょっと得をした」感覚につながる。

■温泉地から直送したお湯を1℃単位で細かく調整

「大浴場のお湯に関しては温泉地から直接、運んでいます。そうですね、コストを考えると大変ではありますが……やはり“天然温泉”のほうが利用される方たちも絶対に快適じゃないですか?

そのお湯の温度に関しても1℃単位で細かく調整しています。基本的には季節によって変えるようにしています。その季節でもっとも快適に感じる温度を常に追求しています。露天風呂にしてもそうですね」

夏限定のサービスとして嬉しかったのは「冷やしシャンプー」だ。いわゆるスースーするタイプのシャンプーが大浴場の片隅に用意されている。別の温浴施設でも見たことはあるが、そこでは夏の期間、各シャワーの下に冷やしシャンプーを用意していた。筆者はこのシャンプーが好きだからいいけれど、スースーするのが苦手な人は大変だろうな、と思っていたので、使いたい人だけが大浴場の入口でピックアップしていくスタイルも、なにげない気配りとして素晴らしいな、と感じていた。

そして、なによりもチェックイン後はいつでも大浴場を楽しめる「夜通し営業」である。これにプラスして、最近では朝9時で終わっていた営業時間を朝10時まで拡大した。この1時間は利用客にとっては非常にありがたいが、運営する側としては清掃時間などを1時間削られることになるわけで……。

「そうですね。社内でも『本当に1時間、延ばすのか』という論議になりましたけれども(苦笑)、そこはもうお客さまに喜んでいただければ、と。実際に『9時で終わるのは早い』という声もいただいていましたので」

やっぱりドーミーインの大浴場は「こだわり」で満ちていたのだ!

(ワニブックスNewsCrunch編集部)