親のかかわりはどっちみち重要ですが条件によって変わってきます(写真:kikuo/PIXTA)

共働き家庭と専業主婦(主夫)家庭、親が家にいる時間で子どもの学力に差は出るのでしょうか? ブラウン大学経済学部教授エミリー・オスター氏は、経済学者として膨大なデータにあたり分析、そこから得た知見と、自身の子育て経験をミックスし、ベストな選択を提示する『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』を著しています。親の同居・非同居が子どもの学力に与える影響について一部抜粋してお届けします。

片方の親が家にいることは、子どもの成長・発達にとっていい(あるいは悪い)のだろうか?これは極めて難しい問いだ。なぜなら、まず片方の親が家にいることを選ぶ家庭は、そうでない家庭と違う。この違いは、親が家にいる・いないとはまったく関係なく子どもに影響を与える可能性がある。

第2に、親が仕事に出ている間に子どもがどう過ごすかが、きわめて大きな意味を持つ。子どもは大きくなれば全員学校に通うようになるが、もっと小さな子どもなら、きちんとした保育環境にいるかどうかがあらゆる面での成長発達に影響する。

最後に、仕事をするということは一般にお金を稼ぐことを意味する。お金があるからこそ親子が経験できる機会もある。すると、収入への影響と、子育ての時間への影響を切り離すのは難しくなる。

こうした注意事項はあるが、データを掘り下げることはできる。

長く「育児休業」してもとくに影響はなし

最初の数年間を1人の親が家で過ごした場合の影響を調べた、因果関係を示すエビデンスのある調査を見てみよう。親が家にいた場合の子どもへの影響について、1年間と6カ月間、15カ月間と1年間ではどう違うかを評価したヨーロッパとカナダの論文だ。これらの国では、国の政策で出産・育児休業が何度か延長され、上のような期間の変更があった。

この文献では、親の選択ではなく、政策の変更が研究に利用されているので結果の信頼度は高い。出産・育児休業期間が6カ月から1年に延長になったことで、一部の女性は6カ月ではなく1年間家で過ごすことになった。6カ月間の休業制度下で生まれた子と、1年間の制度下で生まれた子を比較することで、両親の間の根本的な違いを気にせず、育児休業の効果を知ることができる。

結論としては、育児休業の延長による子どもへの影響は何もなかった。子どもの学校の成績、成人してからの収入、そのほかにも影響はなかったのだ。

先のエビデンスは、乳幼児期の親の就労に焦点が絞られている。子どもがもっと大きくなったときの親の就労の影響を調べた研究は、因果関係ではなく、相関関係を評価したものに限られる。それでも何件かの研究はあり、学業に関するエビデンス(学力テストの得点、卒業の有無)を考慮すると、相関関係はおよそゼロになる傾向があった。そして、両親がフルタイムで共働きでも、片親が働き片親が働いていない場合でも、結果は同じで子どもへの影響は見られなかった。

ただし、結果には解釈が微妙なものも含まれている。1人の親がパートタイム、もう1人がフルタイムで働く家庭の子どもは、学校の成績がいちばんいい傾向があった。両親がフルタイムで働く家庭や、1人の親はまったく働かない家庭よりもよかったのだ。これは就労形態によるものかもしれないが、私はおそらく家庭間の違いが原因だろうと考えている。

「子どもの将来」を左右する話ではない 

また、両親が働いていると、より貧困な家庭の子どもにとってはプラスの影響があり(つまり働いているほうがいい)、より裕福な家庭の子どもにとってはそれほどプラスではない(あるいはわずかにマイナス)傾向が見られる。ここで比較されたのは、学力テストの得点、学校の成績、肥満といった結果だ。

研究者が解釈しがちなのは、貧困家庭では両親が働くことで得られる収入が子どもの発達成長に影響し、一方の裕福な家庭では、親と一緒に「より充実した経験」をする時間が失われたことが影響したということだ。ありうることだが、こうした評価は相関関係だけなので、データから多くを読み取ろうとしても難しい。たとえこうした解釈を受け入れても、比較されているのは子どもの活動であり、育児休業制度ではない。親の同居以外の要素が影響したことは否定できない。

まとめると、エビデンスの重さから、親の就労が子どもの成長発達全体に及ぼす影響は小さいかゼロであることが示唆される、と私は考える。

家庭の状況により、この影響は多少プラスかマイナスになりうる。だが、働くことを決めたからといって、その決定が子どもの将来の成功を約束するわけでも、壊すわけでもない。

産休と育休にはメリットがあるようで、母親が産休・育休を取得すると赤ちゃんにいい影響があるというエビデンスが増えている。たとえばアメリカでは家族・医療休業法が施行されてから早産児が減り、乳児の死亡率は下がった。母親が仕事に出ず、小さな赤ちゃんと過ごせば、赤ちゃんが病気のときに面倒を見やすいというメカニズムなのかもしれない。

また、妊娠中に問題があった女性が育児休暇をとりやすくなったことが、早産予防につながっているのかもしれない。これに関しては他にも同様の結果が出ていて、研究者は、産前休暇にメリットがあると広く結論づけている。

また、ノルウェーの子どもを対象とした研究では、母親が4カ月間の産休・育休をとった場合のほうが、子どもの学歴が上がり、成人後の収入まで上がった結果が示された。このような長期に及ぶ影響は、経済的に恵まれていない母親の子どもの場合に最大となった。

つまり、もし職場で産休・育休が認められているなら、取得したほうがいいということだ。

保育園の本より「家の本」が発達に重要 

家庭内の大人が全員、外で働くかどうかは、誰にとっても容易に選択できることではない。家計への影響もあり、誰にでも通じるアドバイスをするのはほぼ不可能だ。データからいえるのは(有意なメリットがある産前産後の休暇を除き)、専業主婦・主夫が子どもの成長発達にプラスかマイナスの影響を与えるというエビデンスはあまりないということだ。

つまり、結局は自分の家族にとって何がいちばんうまくいく方法なのかを考えるしかない。それには家計について考えることも必要だが、同時に自分がやりたいことを考えるのも必要だ。


どちらかの親が子どもと一緒にいたいと思っているのか。ある意味で、それこそがいちばん考えるべきことだろう。

とはいえ、ここで1つお伝えしたいのは、保育園に預けていてもいなくても、親の関わりが重要だということには変わりないという点だ。研究では、親の関わりと子どもの成長発達の結果との強い関連性が何より一貫して指摘されている。

家に本があり、子どもに読み聞かせることのほうが、保育園にどのような本が揃っているかよりも重要なのだ。これは、子どもが起きている間に両親と過ごす時間と保育者と過ごす時間が同じであっても変わらない。子どもに最も一貫した影響を及ぼすのは親であることは確かと言える。

(エミリー・オスター : ブラウン大学経済学部教授)