Wi-Fi規格「IEEE 802.11ah」とは? 伝送距離1km超を実現することで何が変わるのか
IDC Japanが2021年4月に発表した調査「国内IoT市場 産業分野別予測、2021年〜2025年」によれば、国内IoT市場は2020年以降増加傾向にあり、2025年には10兆1902億円に達すると予測される。
そうした状況であるからこそ、数多くの企業がIoT市場へ参入しており、ここにきて新たな展開が期待されている。
無線LAN(Wi-Fi)の新規格「IEEE 802.11ah」(以下、802.11ah)の実用化だ。
802.11ahはIoT向けのWi-Fi規格で、従来のWi-Fiが苦手とした広範囲の通信をカバーする。
「第31回 Japan IT Week 春」のサイレックス・テクノロジー株式会社のブースにて、802.11ahについて話を聞いた。
同社は、米国市場向けにIEEE 802.11ah製品を販売している。
■IEEE 802.11ahとは?
802.11ahは、920MHz帯の周波数帯を利用する通信規格のひとつだ。
主にIoT機器の通信システムとして活用が期待されており「Wi-Fi HaLow(ヘイロー)」とも呼ばれる。
2018年11月に発足した802.11ah推進協議会(AHPC)は、この802.11ahの実用化と将来の普及促進に向けて活動している団体であり、802.11ahに関する様々な情報を提供している。
802.11ahの特徴は、
・Wi-Fiの伝送距離が拡大
・利用者がネットワークを構築できる
・フルオープン IPベースのWi-Fiファミリー
・数Mbps程度のスループット
この4点だ。
とくに伝送距離は特徴的で、我々に馴染み深いWi-Fi規格と比較すると、
・802.11a 見通し約30m
・802.11b 見通し約50m
・802.11g 見通し約50m
・802.11ah 見通し1km超
このように一目瞭然だ。もちろん伝送距離は機器の設置状態や周囲の建物の形状により異なるが、数百mも飛ばないほかの規格に比べれば圧倒的だ。
またWi-Fi以外の通信網では、それぞれデメリットがあった。
・LoRaWAN 独自プロトコルや専用システムが必要
・Sigfox 伝送できるデータ量に制限がある
・WiSUN ほかの規格に比べて、伝送距離が短い
802.11ahであれば、既存IP資産を有効活用できるうえ、画像や映像も伝送ができ、広範囲での利用ができるわけだ。

サイレックス・テクノロジー株式会社が提供する、IEEE 802.11ah無線LANモジュール。
■何に使えるか?実証実験は?
802.11ah推進協議会では、802.11ahを紹介している。
〇ロボットや端末のファームウェアアップデート
ロボットをはじめとする高機能端末の普及に伴い、セキュリティ対策や機能拡充などを目的とした、定期的なファームウェアアップデートが求められている。
802.11ahであれば、ファイルサイズの大きいファームウェアでも、短時間で対応できる。
〇ホームセキュリティの効率的活用や導入
⼩電⼒セキュリティ(426MHz)はIPベースではないため、重畳が困難だ。
802.11ahはIPベースであるため、既存Wi-Fiアクセスポイントや通信インフラを、そのまま利用できる。
〇工場などにおける現場作業員の見回り効率化
工場では、センサー上は正常と判断されても、目視でしか確認できない異常が存在する。
802.11ahは伝搬距離が広いため、広い工場の敷地内やパイプ等により見通しのきかない場所でも、カメラを通して事務所で確認ができる。
〇農業分野等における鳥獣害対策の効率化
802.11ahは伝搬距離が広いため、山に仕掛けた罠の状況を確認できる。
〇広大な敷地内での業務効率化の実現
公共交通や大型の工場などでは、広い敷地内での作業が求められるが、携帯網などパブリックな通信網を活用した通信ではセキュリティの懸念を伴う。
802.11ahは伝搬距離が広く、見通しのある環境では広い範囲をカバーすることができ、ランニングコストを抑えたネットワークを実現できる。
802.11ahのユースケースは、このように多岐に渡る。
そんな802.11ahの実用化に向け、実証実験が実施されている。
総務省北陸総合通信局が北陸先端科学技術大学院大学、加賀市、西日本電信電話株式会社、802.11ah推進協議会、北陸情報通信協議会イノベーション部会とともに、令和2年7月27日(月)から31日(金)まで石川県加賀市の奥谷梨園において実施したフィールドトライアルでは、従来のIEEE802.11nは140m程度で動画伝送が切断されが、802.11ahは500mを超えて動画伝送ができた。
また「第31回 Japan IT Week 春」のサイレックス・テクノロジー株式会社のブースでは、802.11ahの映像伝送実験を実施。
解像度を低く抑え、フレームレートは6枚/秒程度だが、遅延の少ない映像伝送を実現していた。
パフォーマンス的には、現在の状況でも河川の監視、建設現場、ビルメンテナンス、鳥獣被害対策などの分野で十分に活躍できるだろう。

サイレックス・テクノロジー株式会社のブースでは、802.11ah映像伝送実験を実施していた。

802.11ah映像伝送実験による映像。
■日本導入の壁
日本導入の壁は、法律の問題だ。
802.11ah推進協議会は2021年12月10日、第4回総会を開催。同協議会の活動報告と合わせて、今後の見通しとして、2022年夏には制度化が期待されるとの見解を示した。
同協議会が2022年1月31日に発表した情報によると、802.11ahの920MHz帯での利用を可能とする電波法令改正の技術的条件案に対する意見募集が2022年2月21日に締め切られたばかりであることから、実用化にはまだ時間がかかるものと推察される。

IEEE 802.11ah無線LANモジュール評価キット(北米モデル)。
802.11ah推進協議会によれば、802.11ahはより多様なユースケースへの適用を実現し、IoTを活用した社会課題の解決手段の選択肢拡大、および利便性を向上すると考えている。近い将来、802.11ahが承認されたIoT機器により、我々の暮らしはより便利なものになるだろう。
・802.11ah推進協議会
・サイレックス・テクノロジー株式会社
ITライフハック 関口哲司
